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修行編

021 修行編21 融合そして顛末

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「電脳、被害状況の報告を」

『はい。本艦は敵による岩盤爆破分離パージによる岩塊が直撃しダメージを受けました。
外殻装甲板破損。推進装置破損。各種センサー破損。
外部カメラ一部破損。レーダー通信アンテナ一部破損。
被害状況は航行不能。中破と判断します』

 被害は思った以上に大きかった。敵艦が航行不能だと断定して侮った結果がこれだった。
もう慢心は捨てた。今回の不始末全ての原因は大金獲得を目の前にして結果を焦ったこと。
根拠の無い自信で調子に乗って敵を侮ったことだ。
慎重に事を運んでいれば回避出来たことも、それにより台無しにしてしまった。
また敵艦を発見したにも関わらず、動けないと思い込んで周囲への注意喚起を怠ってしまった。
それにより回収屋さんの艦にも被害を出してしまった。
今後、その修理費用の賠償も必要になるだろう。
元々航行不能でダメージ大、それに加えて岩塊爆破分離パージの衝撃で装甲板がボコボコの敵艦。
丸ごと鹵獲出来ても回収屋さんへの賠償で儲けは飛んでしまう可能性が高い。

『融合フィールド形成完了』

 ん? そうだった。それに加えて何故か敵艦よりかけられた融合シーケンスが止まらない。

『融合シーケンス順調に推移中。主電源が落ち非常電源に切り替わります。
外部との通信途絶します。電脳待機モードに入ります。
融合期間は3日です。それでは融合終了後にまたお会いしましょう』

「ちょっと待っ」

 言い終わる前にCICの電源が切れ非常電源に切り替わった。
CICは明かりが落ち、非常灯だけになってしまった。

「3日も音信不通って……。被害を受けた回収屋さんに怒られるぞ!
へたすると僕が撃墜されたって話になってしまいかねない。
それに食料とトイレはどうすればいいんだ?」

 その言葉に反応したのか、パイロットシートの後部からゴトリと音がした。
覗くとパイロットシートの裏には格納場所があり、そこからサバイバルキットが飛び出していた。
サバイバルキットの中には一週間分の食料と水、簡単な医薬品、それと紙の遭難マニュアルが入っていた。

 とりあえず非常灯の下に行って遭難マニュアルを読む。
最初のページにはサバイバルの心得のようなものが書いてあった。
CICは頑丈であり滅多に破壊されることはないとかなんとか。
破壊されていたら、このマニュアルを読んでないだろうと物騒なことも。
トイレもCICに設置されているようで、人工重力も正常に働いているので普通に使えるらしい。
人工重力が切れていた場合のトイレマニュアルもあったが……。
そんなことにならないことを祈るしかなかった。
ベッドはパイロットシートをリクライニングさせれば良いようだ。
一応空調は快適に機能している。
僕は何もすることがなくなったので毛布をかけて寝ることにした。


◇◇◇◇◆


 3日が経った。時間は腕輪で把握できた。
急にCICに明かりが灯る。
僕は床から立ち上がると慌ててパイロットシートに座る。
すると僕の脳がナノマシンを介して専用艦の電脳に直結する感覚がする。
一瞬で艦を把握するが、いつもとだいぶ違うことに気づく。

「なんか大きくなってないか?」

 僕の専用艦は敵艦と融合して230m級の戦闘艦になっていた。
エネルギースロットが格段に増えたため専用艦にあった各種兵装も使用可能だった。
目の前に現れた仮想スクリーンには新しいアバターが映っていた。
その姿は胸部甲冑腰鎧手甲足甲をつけ、右腕に長砲身のレールガン、左腕に巨大な盾、両腰にビーム砲、両脚太ももにミサイルポッド、背中のランドセルに高出力スラスターを装備していた。
僕はこれにより宇宙戦艦をという意味がようやく理解できた。

「ああ! しまった! 鹵獲艦を専用艦に融合させてしまったら賠償の元がないじゃないか!」

 僕は今後の後始末を思い頭を抱えてしまった。

 専用艦に敵艦を融合して成長させてしまった。
最早鉱石採取仕様の作業艇はそこには存在しなかった。
当然なことだが、今までの専用艦格納庫に入る大きさじゃない。
あそこは最大200m級までの格納庫だ。
今現在の専用艦の全長は230m。
今までの格納庫には入りきらない。

 3日も放置してしまったと思っていた回収屋さんには、融合前に専用艦の電脳が情報を送っていたことがわかった。
そのため、僕が融合に巻き込まれて動けなくなったことと、敵艦に勝って敵艦を拿捕したことは回収屋さんに伝わっていた。
親切なことに回収屋さんがステーションに説明してくれたおかげで、敵艦発見拿捕の事実と3日間の宙域滞在はステーションにも把握されていた。
敵艦の融合割合が多いので心配したが、識別信号も僕の専用艦のものなので、ステーションに接近しても攻撃されることはないだろう。
あとはステーションに着いてから相談しよう。
僕は専用艦にステーションへの帰還を指示した。

 ステーションに近付くと、高出力レーダーを浴びせられて、各種兵装でロックオンされた。
ロックオン警報がCIC内に鳴り響く。
僕はステーションの手前200kmで艦を止めて管制室に通信を送る。

『こちら作業艇AKIRAの八重樫やえがしです。敵艦と融合してこんなんなった。どうしよう?』
『こちらプリンスです。検疫をしますのでエネルギー炉を止め、しばらくその場に停止していてください』

 管制官ではなくプリンスが応答した。
行政官が出てくるとは、大事おおごとになっているようだ。
しばらくするとステーションから1km級の宇宙戦艦が発進して来た。
僕の専用艦と逆行する形で横に並ぶと戦艦の砲塔が全て此方に向いた。
ロックオン警報が煩いので切る。

 ステーションのプリンスから通信が入る。

『まず、艦がに掌握されているのかを確認させていただきます』

 ネットワークに何者かが侵入してきた感覚があり、直ぐに消えた。

『確認したとのことです。驚きました。本当に作業艇が上位の融合なんですね?
小艦艇が200m級巡洋艦を融合したなんて前代未聞ですよ?』


 しばらく待たされた後、僕達の処遇が決まったようだ。

『疑いは晴れました。航行の自由が認められましたので、帰港してください。
仮格納庫は管制室より指示しますので、誘導に従ってください』

 僕らはやっとステーションに帰ることが出来た。
艦を降りたら即刻呼び出しだったけれども……。


◇◇◇◆◇


 行政塔に呼び出され赴くと白い軟禁部屋に入れられた。
一応応接セットがあるだけ前回よりマシかもしれない。
パイロットスーツのままだったので着替え(下着とバスローブ)と風呂が用意されていた。
名誉のために言うがオムツは使ってない。

「これは風呂に入れってことだよな?」

 風呂からあがり、下着とバスローブを着けると、タイミングよくドアが開きプリンスとミーナが部屋に入ってきた。
ミーナは専用艦格納庫に残してきた僕の私服を持ってきてくれた。
プリンスはニコニコしているが、作り笑顔な気がする。ちょっと怖い。

「単刀直入に申しまして、前代未聞ばかりで対応に苦慮いたしました。
まず登録11日目の新人が敵艦と交戦するのが前代未聞です。
しかもその敵艦を拿捕するとは重ねて前代未聞です。
それにも増して小艦艇が200m級を融合するなど前代未聞過ぎます!」

 プリンスは頭を抱える寸前で留まっていた。
プリンスはミーナが配膳した紅茶を口にして一呼吸置く。

「今後の処遇ですが、大戦果に対してお咎めなどあろうはずがありません。
現在問題になっているのは敵艦との交戦時に周囲の作業艇へ被害が出たことです。
元々の責任の所在は敵艦にありますが、敵艦発見の注意喚起や交戦時に退避勧告がなされなかったことは八重樫やえがし様の瑕疵となります。
その責任割合ですが、6:4という判断がなされました。
6割は敵艦による偶発的被害として行政府で持ちますが、4割は八重樫やえがし様個人に負担をお願いします」

「まあ、そうなるだろうなぁ……」

「はい、そこで3つの賠償案が出ました。
1つ目は専用艦から電脳を外し艦体を売りその代金で弁償するという案。
2つ目は敵艦を分離してもらい、それを売りその代金で弁償するという案。
3つ目は八重樫やえがし様が借金をして弁償するという案です」

「僕としては借金をしたいところだけど。ぼっちな僕に誰か貸してくれる人はいるんだろうか?」

「民間で借金をしようとすれば、そこは担保次第ということですが、借金返済をしくじれば担保として専用艦を持って行かれますよ。
それなら1つ目の案を選んだほうが残るお金は多いでしょう。
また2つ目の案も分離した装備の売却代金だけで回収屋さんへの弁償額が賄えるのかという問題があります」

「そんな……専用艦を取られたら収入の宛が無くなるじゃないか……」

「はい、それは我々も重々承知していますので、行政府が苦渋の決断をいたしました。
回収屋さんへの賠償金3艇分9千万Gは行政府が立て替えます。
さらに格納庫の拡張費用と利子を加えて1億Gを借金として背負っていただきます。
その代わりとして、この借金を返済するまで、八重樫やえがし様にはSFOでずーーーっと働いてもらいます!
3年間の任期満了も任務の拒否権もなしです。」

 僕は借金1億Gを背負ってしまった。

「出来れば多少の生活費を残して返済させてください。お願いします……」

 僕は項垂れた。

「災難だったにゃ。でも大譲歩にゃ」

 ミーナがポンポンと肩を叩く。

「どうしてこうなった!」

 僕は叫ばずにはいられなかった。


◇◇◇◆◆


 借金は多ければ多いほど開き直るというのは本当みたいだ。
僕は行政府に1億Gの借金が出来た。
白い軟禁部屋で返済計画や細かい条件を決めて契約書を交わした。
最低限の衣食住が保証されるとはいえ多少の生活費を確保した上での借金返済も認められ、元本に利子を含むことでその後は利子が増えないという好条件を付けてくれたのはありがたかった。
また、今後は230mという規格外の専用艦を収納できる格納庫が必要となる。
巡洋艦のサイズは最大200mの軽巡と最大500mの重巡に分かれているため、230mもある僕の専用感は装備が軽巡でありながら標準格納庫に収まり切らなかった。
200m級格納庫は最大299mまでの拡張を想定しているそうで、重巡用の格納庫は選択させてもらえなかった。
そのため格納庫の拡張工事が必要となりその費用も借金となってしまった。
行政府からの条件は1億Gを完済するまで或は3年間はSFOを退会は出来ないということと、行政府から依頼されるクエストの無条件受諾だった。
そこには太陽系外へ遠征してのとの戦闘も含まれる。
僕にはVPよりもRPクエスト優先が命令された。RPが無い時はVPに出てもいいことは確認したけどね。
これはSFOでは専用艦を育成強化することを推奨しているため、あくまでも専用艦の育成を中心にして欲しいということだった。

 ビギニ星系外に出るには次元跳躍ワープ機関が必要になるが、それを装備している艦は、近隣にはステーションそのものしかない。
だが、ステーションは基本的にビギニ星系から動かないことになっている。
そのためワープ機関を装備していない大多数の艦のために次元跳躍門ゲートが用意されている。
簡単に言うとステーションに設置してある転送ポートの巨大版だ。
それが最寄り(と言っても次元回廊的に最寄り)の星系のゲートに繋がっていて、恒星間距離を短時間で移動できるようになっているんだそうだ。
そのゲートのシステムに敵が介入して敵の勢力圏と繋がることがあり、ビギニ星系も敵の侵攻を受けているのだそうだ。
プリンスやシイナ様といった行政府スタッフとの会話にさらっと敵の存在が出ていたが、それを軽く流したのも、初心者講習を終わってから順を追っておいおい説明する予定だったらしい。
その敵勢力圏への逆侵攻も僕にやれということだ。
生活費を稼ぐだけのつもりが命がけの戦いを強いられることになってしまった。
ん? そういえば姉貴もゲートの先に行ってると言われたな。
そういや、まだ返信がないな。姉貴に縋り付いたら1億G払ってもらえるだろうか?

「そういえば、姉貴とは連絡取れたの?」

 疲れきった表情のプリンスに聞く。

「残念ながらまだです。次元跳躍門ゲートの先へは直接通信が出来ないので、連絡艦を送らなければなりません。
お姉様は次元跳躍門ゲートをいくつも渡っているようですので、連絡するにも連絡艦のリレーが必要になっているのです。もうしばらくかかりそうですよ」

 うん。困った。
となれば僕の専用艦でお金を稼ぐしかない。
幸い敵艦と融合した僕の専用艦は巡洋艦型艦体と強力な反応炉を得た。
当初予定していた強化ポイントを、この融合でクリアした形だ。
僕の専用艦の諸元は以下。


『AKIRA』
艦種 艦隊旗艦
艦体 全長230m 巡洋艦型 2腕 次元格納庫
主機 対消滅反応炉G型(15) 高速推進機D型
補機 熱核反応炉G型(6)
兵装 主砲 長砲身5cmレールガン単装1基1門 通常弾 100残弾100最大 特殊弾*バレット 20残弾20最大
      ***粒子ビーム砲単装1基1門 (ロック)
   副砲 15cm粒子ビーム砲単装1基1門
   対宙砲 10cmレーザー単装4基4門
   対艦刀 30m対艦刀【**】
   ミサイル発射管 D型標準2基2門 最大弾数4×2
防御 耐ビームコーティング特殊鋼装甲板(盾D型相当)
   耐実体弾耐ビーム盾E型 1
   停滞フィールド(バリヤー)D型
電子兵装 電脳S型 対艦レーダーS型 広域通信機S型 戦術兵器統合制御システムS型
空きエネルギースロット 3
状態 ***粒子ビーム砲使用不能


 **格納庫のロックが解除され次元格納庫だと判明した。
エネルギースロット数は4も使用している。
旧主機の熱核反応炉が補機に回って新主機に対消滅反応炉を得たことでエネルギースロットが有り余っているので問題ない。
そのおかげで使用不能だった兵器関連が使用可能になっている。
謎粒子を手に入れられない***粒子ビーム砲は相変わらず使用不能だけど……。
ん? だけど待機中からロックに表示が変わってる。
これは行政府が使用禁止をかけたせいかな?
高速推進器もG型からD型に変わっている。
これは敵艦由来の推進器が修理された結果だろう。
敵艦由来の性能向上点は他にも耐ビームコーティング特殊鋼装甲板が盾D型相当に。
停滞フィールド(バリヤー)もD型に性能向上している。
元々艦体が敵艦由来なのでそうなるのは当然か。
そのためミサイル発射管もD型標準2基2門になっている。

 これでやっと多少は戦える艦になったんじゃないだろうか。
借金返済で武器は買えそうもないけど、戦う艦として体裁は整った気がする。
専用艦が作業艇だった時は焦ったけど、やっと戦える艦を手に入れた。

「僕の戦いはこれからだ!」

 え? 打ち切りエンドフラグ?

「まだまだ終わらんよ!」
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