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遠征編

158 遠征編23 ニアヒュームの正体

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 皇帝不在の帝国の運営を立て直すために、皇子会議を開きカイル第1皇子を皇帝代理に任命したのだが、彼ら皇子たちと話す機会を得たことで思わぬ収穫を得ることが出来た。
それは行方不明の地球人に関する奪還協力の確約だった。
カイル第1皇子が音頭を取ってくれて、皇子ならびに配下の貴族にまで協力を要請することが出来るようになったのだ。
地球人には誘拐され酷い扱いを受けている者もあれば、普通に貴族と婚姻関係を結び帝国人として一生を終える覚悟の者もいた。
中には騎士として戦いに赴き、戦死している者もいたが、彼らは調べれば所在が判るのでまだ良い方だった。
だが、姉貴華蓮はSFOランカーたちのように非合法な扱いを受けているらしく帝国には居ないものとされていた。
皇子たちの協力を得られるようになったことで、姉貴華蓮の捜索も少しは進展するかもしれない。
当事者と思われる連中も含まれているんだから、他の皇子たちの目を気にして何らかの行動をとる可能性がある。
そうなれば尻尾を掴むことが出来るかもしれない。


◇  ◇  ◇  ◇  ◆


 エリュシオン3の衛星軌道上にステーション型要塞艦を二つ重ねたような要塞艦が浮かんでいる。
これはエリュシオン星系の貿易窓口兼防衛拠点となる要塞艦である。
このような帝国には無い要塞艦を新造出来たのは、ダロン4工業惑星や工場惑星が僕のDNAを取り込んで進化したからだ。
次元跳躍門ゲートや要塞艦、次元跳躍ワープ機関、ジェネシスシステムを製造出来るのは帝都のみだったらしいが、その製造施設は年々衰退していく一方で失われた技術も多数あった。
つまり事実上僕の支配下の施設が帝国一の生産能力を持つことになっっている。
まあダロン4はともかく、工場惑星の生産能力は秘匿している。
もし帝国と敵対することになった時には自由に動ける工場惑星だけが頼りだからね。

 その新型要塞艦には星系領主である僕の邸宅があった。
一応領主邸なので、以前のマンションのよう部屋よりは大きく立派なお屋敷となっている。

「お兄ちゃん、これー」

 その邸宅内執務室の扉を乱暴に開けてかえでが突然飛び込んで来た。
身内だからまあいいけど、この邸宅のセキュリティはどうなっているのだろうか?
ラーテルにより完璧な警備がされている?
つまりかえでだからスルーされたということか。
そのかえでの手には情報キューブが握られていて、いきなり僕にそれを放り投げて来た。

「わっとと。何だこれ?」

 僕は慌てて情報キューブをキャッチすると疑問を投げかけた。

「何ってニアヒュームの情報だと思うよ?」

「ずいぶん早いじゃないか」

「お兄ちゃんから送って来た物を科学者に渡したら、中を見て直ぐにデータをコピーしてたよ?」

「え? まさかニアヒュームの情報は調べるまでもなかったってことか?」

 僕は頭を抱えた。灯台下暗しだったとは。
そういや旧帝国ではニアヒュームの侵略を防げていたからこそ銀河の彼方まで進出出来たのだろう。
それが現帝国となり対策も失われたからこそ隣の銀河腕は侵略されてしまった。
真・帝国が持つ旧帝国の技術が残っていたならニアヒュームなど怖くなかっただろう。

「ボクはよく知らないよ?
でも、情報キューブを見ればわかるって科学者が言ってた」

「そうか……」

 僕は素直に情報キューブを開くことにした。
現帝国の機器は旧帝国の遺産であり、技術的に互換性があるので普通に情報キューブを開けてしまう。
以前僕が不審に思った敵とのインターフェースの互換性の理由でもある。



~~侵略性機械生命体に関する報告書~~

 機械生命体の目的は増殖である。
資源を喰らい仲間を増やし新たな地を求めて旅立つ。
その習性は自らコピーを増やし勢力の拡大を図るのが至上命題である。
機械生命体は女王とその配下という階級構造を持ち、個にして群、群にして個であり、群毎に集合意識を形成する。
蟻や蜂が女王を中心にした1つの集団を形成するのと似ている。
集団はある一定数を越えると女王候補を作り出し一定数の配下を連れて集団を分かち旅立つ。
これも蟻や蜂に似た習性である。

 機械生命体の本体はコアと呼ばれるシリコン生命体であり、その制御下に置いた機械で身体を形成する。
その姿は基本的に宇宙艦型であるが、野良宇宙艦や我らが製造した艦に寄生することで、我らに似た宇宙艦の形で侵攻して来るため、敵味方の識別が困難となり侵略を容易せしめている。
その宇宙艦から触手を伸ばし分割したコアを植え付けられると我らの宇宙艦が機械生命体に乗っ取られてしまう。

 機械生命体が我ら帝国――旧帝国のこと――の有機生命体とファーストコンタクトをした時は危険な生命体ではなかった。
当初は平和的な接触が試みられていたが、ある群体を襲った悲劇により有機生命体を敵と認識し戦いとなった。
機械生命体は我らの行動の不条理、非論理性や曖昧さに戸惑ったようだ。
それを自らの弱点と認識した機械生命体は、我ら人類を部品として取り込む進化を遂げた。
戦いは一時的に機械生命体有利となったが、我らがコアの識別技術を確立したため駆除が進むこととなった。
我らの勝利は揺るぎないと思われた時、奴らは人と機械を融合した端末を作り街の中に入り込み人への寄生を始めた。
機械生命体にとっては人に化けることで増える事ができれば、形態など何ら問題がないようであった。
人に寄生したコアは外観だけではみつかりにくかったが、機械の身体という言い逃れの出来ない特徴を持っていたため、裸にして個別に調べていけば簡単にみつける事ができた。
これで人類は救われるそう思った時、我らの有機アンドロイドが敵の手に落ちてしまった。

 機械生命体は人と外観も同じ有機体の身体を持ち、頭蓋の中にコアを持つという擬似人間となった。
有機体の身体を持つことで他人への寄生の難易度が上がった彼らは新たな人類として接触して来た。
彼らはヒューマンに近いニア存在ということで、ニアヒュームと呼ばれるようになった。
我々と拡大寄生を止めたニアヒュームの戦いはここに終結した。

「終わり? ほとんど僕達が知ってることだったぞ?
でも有機体の身体を持って寄生が止まったというのは新しい情報かな。
そして対話によって戦いが終結したという部分は知らなかった情報だな」

 僕は思案する。真・帝国に伝わるニアヒュームの存在は人類の天敵と呼ばれるものではなくなっている。
それが何故、天敵、相容れない存在とまで言われるようになったのか?
そして寄生をやめ対話による平和を得たニアヒュームが、何故また侵略的寄生を始めたのか?
しかも皇帝を殺そうとしたり、帝国の皇子を乗っ取るような行動を取っている意味がわからない。
真・帝国の知るニアヒュームは有機体の身体を得て大人しくなった。
現在侵攻中のニアヒュームは有機生命体に敵対的で容赦がない。いったい何が違っているのだろうか?
群1つが集合意識1つということは群の個性ということだろうか?
人類と共存した群と人類と敵対した群が存在する?
とりあえず、有機体の身体を得たニアヒュームでも識別できるノウハウは真・帝国から手に入れられた。
あとは今現在侵攻中のニアヒュームの解析をゲールの研究室に委ねるしかない。
ゲールはニアヒュームの集合意識を解析し何を考えているのかを調べるという。

「対話が可能なら話してみたいけど……。人に対して容赦が無いところが気になる。
ニアヒュームが隣の銀河腕の人々を平気で部品にして侵攻して来ているのは紛れもない事実なんだよね……」
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