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ガチャ屋開業編

064 カナタ、示威行動をする

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 グリューン子爵の領主邸に近い一等地にその屋敷と大岩はあった。
解体工事であるため、さすがに現場を間違えて違う建物を壊すことがないようにと、ギルド職員の案内が現場まで付いた。

「この大岩と屋敷を解体破壊して撤去し、更地にして依頼完了となります。
それでは、よろしくお願いします」

 ギルド職員はそう言うとさっさと現場からギルドへと帰って行った。

「マスター、この大岩を破壊する出力となると、荷電粒子砲が大岩の反対側まで貫通してしまいます。
水平発射では他の建造物への被害が100%と推定されます」

 ニクが大岩を観察するとそう告げて来た。
貫通した先には隣の屋敷や敷地の境界となる塀がある。
別角度だと丁度領主の館に当たってしまう。
それはそれでいいかも知れないが、さすがに魔法の誤爆となると賠償責任は免れないだろう。
岩の欠片が飛ぶ程度とは訳が違うのだ。

「マスター、飛行ユニットの実装を進言します」

 ニクがカナタにはわからないはずの単語を口にするが、なぜか知らないはずのその単語をカナタはすんなりと理解してしまった。
飛行ユニット=空を飛ぶための装置だと。
つまりニクは荷電粒子砲を上空から真下に撃ち下ろさないと、何処かしかに被害が出ると言いたいのだ。

「ここにはそんなもの飛行ユニットは無いからなぁ。
アイテムガチャで飛行ユニットが出るまで粘るのは現実的じゃないし……」

 カナタは悩んだ末、魔法のスペル限定ガチャを引くことにした。
魔法を使うために必要なガチャはスペルガチャとスキルガチャに分かれる。
スペルガチャは、そのスペルを覚えることの出来る――所謂スペルスクロールと同じ――効果がある。
しかし、そのスペルを使うにはスペルが持つ属性の魔法スキルを持っていないと魔法の発動が出来なかった。
丁度良い例となるが、カナタは【ウォーターボール】のスペルを覚えているが、水魔法スキルを持っていないので使えない。
まさにこのような状況が発生する。

「とりあえず、土魔法スキルを手にいれて【土壁】の魔法を使えるようになれば、塀を壊さなくて済むはず。
【土壁】ならレアリティも低いはずだから簡単に出るはず。
それより時空魔法の【防壁】が出ればもっと楽が出来る」

 カナタはレアリティの高い土魔法スペルが出れば、またそれを代償にして基本魔法スキルと初級魔法を手に入れられるかもと期待していた。
基本魔法スキルはスキルガチャで手に入れても良いのだが、スキルガチャは魔法限定ではないため、出る確率が低いと判断していた。
魔法のスペル限定ガチャなら3000DGだが、スキル限定ガチャだと5000DG必要だからだ。
魔法もスキルも出るノーマルガチャなら500DGで引けるが、これはほとんどアイテムが出るので、更に魔法スキルを得る確率は低かった。

「よし、魔法のスペル限定10連ガチャだ!」

 カナタは潔く3万DGを課金すると、携帯ガチャ機で魔法のスペル限定10連ガチャを引いた。
これは10連ガチャによってレアリティ1UPの効果があり、代償に出来る高レアリティのスペルが出やすいとの判断だった。
1億DGが解禁されたおかげで、3万DG程度では躊躇しなくなったカナタだった。

ガチャガチャ ガキンガガガキンキンガガキン

 光のエフェクトと効果音が鳴ってガチャオーブが排出された。
そして、自動開放によって中身が空中にAR表示される。

HN魔法 水壁ウォーターウォール
     水の壁を作り防御する魔法

R魔法  土槍アースランス
     土の槍で対象を串刺しにする

HN魔法 土壁アースウォール
     土の壁を作り防御する魔法
 
HN魔法 風壁エアーウォール
     風の壁を作り防御する魔法

HN魔法 防壁バリヤー
     空間壁を作り防御する魔法

UR魔法 水竜斬滅アクアドラグーン
     水の竜を具現化し対象をその顎で切り刻む

R魔法  風槍エアーランス
     風の槍で対象を串刺しにする

HN魔法 水刃ウォーターカッター
     水の刃を飛ばし対象を切断する

HN魔法 風刃エアーカッター
     風の刃を飛ばし対象を切断する

SR魔法 次元防壁バリヤー
     異次元の位相空間を利用して空間を遮断して防御する魔法


『HN魔法 水壁ウォーターウォールを覚えました。
UR魔法 水竜斬滅アクアドラグーンを覚えました。
HN魔法 水刃ウォーターカッターを覚えました。
ただし、これらは水魔法のスキルを持っていないため使用不能です』

 システム音声が水魔法を使えない旨を伝えて来るが、これはカナタも想定済みだった。

『UR魔法 水竜斬滅アクアドラグーンを代償として、水魔法のスキルを手に入れますか? YES/NO』

 カナタは空中のNOに触れる。
今現在、水魔法が使えなくても何もデメリットがなかったからだ。
火魔法の時は、魔法が使えるか使えないかが死活問題だったが、今は水魔法が使えなくても構わなかった。
むしろ後に水魔法スキルを手に入れるだけで、UR魔法が使えることの方が有難かった。
尤も、例えUR魔法を覚えていても、一般の魔術師では魔力が足りなくて使えないのだが……。

『R魔法 土槍アースランスを覚えました。
HN魔法 土壁アースウォールを覚えました。
ただし、これらは土魔法のスキルを持っていないため使用不能です』

 土魔法の方は代償として差し出す高レアリティスペルが無かったので土魔法スキルは得られなかった。
カナタは後でスキルガチャも引いて水魔法と土魔法のスキルを手に入れようと思った。

『HN魔法 風壁エアーウォールを覚えました。
R魔法 風槍エアーランスを覚えました。
HN魔法 風刃エアーカッターを覚えました。
これらは風魔法のスキルを持っているため使用可能です』

『HN魔法 防壁バリヤーを覚えました。
SR魔法 次元防壁バリヤーを覚えました。
これらは時空魔法のスキルを持っているため使用可能です』

 カナタの望みは次元防壁という最高の形で叶うことになった。
さすがにカナタも望んでいた防壁系スペルが出過ぎて怖くなったが、これも幸運値65と女神様の加護のおかげなので有難く受け取っておくことにした。

「【次元防壁】!」

 カナタは次元バリヤーを大岩の裏側に張った。
これでニクに光魔法――荷電粒子砲だが――を撃たせれば、大岩の破壊が可能だ。
だが、この破壊力をグリューン子爵に見せつけなければ意味がない。
カナタは成大な花火を上げることにした。

「【ファイアボール】【ファイアボール】【ファイアボール】【ファイアボール】【ファイアボール】!」

 解体予定の屋敷にカナタのファイアボールが直撃すると、屋敷は成大に燃え始めた。
その火の勢いでご近所のグリューン子爵邸の人の動きも慌ただしくなって来た。
これならグリューン子爵も見てくれているだろう。

「ニク、武器使用許可。目標大岩、撃て!」

「はい。マスター」

 ニクの右腕が光り変形すると、眩い光が発射され大岩に直撃した。
荷電粒子砲の光はそのまま大岩を貫通すると、カナタの張った次元防壁に当たり上空へと弾かれた。
ニクは大岩が無くなるまで荷電粒子砲を撃ち続け大岩の処理を完了した。
その間、カナタが張った次元防壁は壊れることもなく存在し続けた。
このことが異常であることは、カナタ自身も気付いていなかった。
おそらくカナタ以外の使い手だったら、魔力が枯渇してこのような長時間は防壁を維持し続けられなかっただろう。

 屋敷も燃え、大岩も溶解霧散し、これで依頼は完了した。かに見えた。

「ご主人さま、そろそろ消火しないと、他家に延焼しますが?」

「しまった。やりすぎた!」

 ヨーコの指摘に青くなったカナタは、この後水魔法のスキルを手に入れるまでスキルガチャを回すのだった。
カナタのファイアボールは初級のN魔法にも関わらず、有り余る魔力と規格外の魔力操作能力で大火炎魔法かと見紛う威力があった。
カナタもニク同様手加減を覚える必要があった。

 グリューン子爵は、ニクの光魔法よりも、カナタの大火炎魔法に恐怖した。
護衛さえ居なければただのガキかと思っていたら、カナタ自身が危険人物だったのだ。
グリューン子爵は、二度とカナタに手を出さないと誓った。
ここにカナタの示威行動は最大の効果を発揮したのだった。
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