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南部辺境遠征編
084 カナタ、値段付けに失敗する
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翌日、カナタが泊る宿屋の前にオレンジ男爵からの迎えの馬車が到着した。
業務用冷蔵庫の完成後すぐ、カナタはオレンジ男爵に面会の打診をした。
その結果、今日お呼ばれして迎えが来たということだった。
「どうぞこちらに」
馬車の扉を開けて降車すると、迎えの家令がカナタたちを馬車へと誘った。
本来の貴族的な慣習ならば、貴族のカナタと護衛のニクだけが馬車に乗り、奴隷身分のサキは走って付いて来なければならなかった。
ましてや、サキは虎の獣人だ。獣人に対して差別的な扱いをする貴族も少なくはない。
しかし、オレンジ男爵が差し向けた家令は、サキも一緒に乗るようにと促してきた。
これもオレンジ男爵の教育の賜物で貴族らしからぬ所だが、カナタはその姿勢に好感を持った。
「屋敷に向かってくれ」
馬車にカナタたちと家令が乗り込むと、家令は御者に馬車の発車を命じた。
馬車は大通りを通過し、このオレンジタウンの中央にある領主の館へとやって来た。
馬車が止まることなく門が開かれ、馬車は屋敷の玄関前のエントランスに横付けした。
「お待たせしました。どうぞこちらに」
家令が先に降りて、カナタたちの降車を促す。
サキとニクが先に降り立ちカナタがその後に続いた。
これは護衛の警戒態勢のフォーメーションとしてサキがニクに教え込んだものだった。
カナタは大げさだと思ったのだが、カナタの能力は権力者が誘拐してまで欲するものだとサキが主張し、このようなかたちをとる事になった。
取り越し苦労だったのだが、後に役立つかもしれないので、やって損はなかった。
カナタたちは家令に案内されるまま玄関ホールへと入り、その奥にある応接室へと通された。
「どうぞお座りになってお待ちください」
カナタは促されるまま応接室のソファーに座った。
ニクとサキは護衛としてカナタの後ろに立った。
「どうぞ」
メイドが入室し、カナタの前のテーブルに紅茶とスイーツが並べられた。
季節の果物――これはオレンジだろうか?――と生クリームのショートケーキだ。3人分ある。
カナタが後ろを見ると、サキが涎をたらさんばかりにデレていた。
カナタは苦笑いすると、一応【魔法探知】と【図鑑】で紅茶とスイーツを鑑定した。
無いとは思っているが、またサキに爆睡されても困るからだ。
その鑑定は結果的に取り越し苦労だったが、この悪意に満ちた世の中では出来ることはやっておいた方が良いとカナタは割り切っていた。
「ほら、食べていいよ」
カナタは苦笑しながらサキにスイーツの皿を渡した。
このまま涎を垂らした護衛を侍らすというのも恥ずかしかったこともあるが、純粋にお預け状態は可愛そうだと思ったのだ。
「いいんですか~」
サキはいつ食べたのかという早業でスイーツを口に入れていた。
そして、ニクの分にも視線を向ける。
それに気づいたニクは小さく頷いた。
それを目にしたと思った瞬間にスイーツは消えていた。
何のスキルかは知らないけど、この素早さで剣を振るわれたら死んだと気付かないうちに斬られているんだろうとカナタは思った。
カナタもスイーツを食し紅茶を飲み終わった頃、お代わりと共にオレンジ男爵が応接室にやって来た。
お代わりにロックオンするサキ。今度のスイーツは桃とカスタードのタルトだ。
暫くお預けだがサキは大丈夫だろうか?
「待たせたね。こちらから打診した件なのに呼び立てて申し訳ないな」
開口一番、オレンジ男爵は前置きを端折って本題に入った。
カナタも男爵も忙しく時間がないのだろうと思い、単刀直入に話題を切り出した。
「ザイードの冷蔵の魔導具を商業ギルドから引き取りました。
しかし、これは男爵に売れるような代物ではありませんね」
カナタの申し出にオレンジ男爵は表情を強張らせる。
「いや、それでもかまわないから引き取らせてもらうよ」
オレンジ男爵は、ゴミと知りつつ引き取る気満々だった。
しかし、それはカナタが言わんとしていることとは意味が違った。
「僕としては、この魔導具の値段は魔宝石と燃料石の値段が主だと思いました。
なので、昨日その魔宝石と燃料石で新しい魔導具を作っちゃいました」
「え?」
オレンジ男爵の表情が一瞬固まる。
何を言ってるのかわからない。まさに目が点になっていた。
カナタは首を傾げ、どうやら話が通じていないようだと気付き話を進めた。
「僕の冷蔵庫の技術を使えば、魔宝石と燃料石を使った魔導具なら、今までの10倍以上の性能のものが作れます。
なので、大型の冷蔵庫を作っちゃいました」
「ええーーーーー!」
オレンジ男爵がやっと理解してくれたようだ。
カナタは【ロッカー】に仕舞っておいた業務用冷蔵庫を応接室の脇に出した。
その大きさに圧倒されるオレンジ男爵。
「この大きさが、あの値段で出来るのか……」
「はい。外殻の金属分は高くなりますけどね」
カナタが提示した金額は、この世界で小型とされる冷蔵の魔導具の金額の2割増し――金貨12枚――だった。
だが、性能や容積では10倍以上の差があった。
その安さにオレンジ男爵は愕然とした。
しかし、オレンジ男爵は、それを良しとしなかった。
「カナタ君、君も商売人なら、この魔導具はその5倍の値段で売るべきだ。
それだけの価値がある。
なに、この領ではこの冷蔵庫に50%の貸付補助を出す。
貸付はある時払いの催促なしとする。
元々大型の冷蔵庫を買うなら、その十数倍の金額になっていただろう。
金貨60枚、貸付補助を使って金貨30枚となれば、この領のスイーツ店でも購入可能になる」
つまり、オレンジ男爵は1台につき金貨30枚を自腹で出すつもりだったのだ。
そこまでして自領の発展を目指そうという人が、なぜ安く買えるというのに値上げを要求するのか?
そこにはオレンジ男爵の強い思いがあった。
もし、カナタから魔導具を安く仕入れてしまったら、転売で儲けようと思う輩が必ず出て来る。
それを防ぐためには転売の魅力を下げる必要がある。
貸付補助により魔導具の所有権の半分は男爵が持つ。
それにより転売禁止の制限を設けるつもりだが、本業より儲かる商売だと見なされれば、スイーツ店などやめて、魔導具を持ち逃げして売ろうとする輩も出て来るかもしれない。
領地の発展のためには、スイーツの供給量を上げる必要があり、そのために冷蔵の魔導具を必要とする。
なのにスイーツ店をやめて冷蔵の魔導具を転売した方が儲かるなどと思われたら本末転倒なのだ。
「彼らには本業で儲かって欲しいのだ」
それがこの領地の果樹生産者や、スイーツ目当てでやってくる観光客相手の職業従事者をも潤すことになる。
カナタは思いもよらない値上げ要求に納得するしかなかった。
商品の値段は製造原価ではなく、その商品の価値によって決まる。
カナタの冷蔵庫にはそれだけの価値があったのだ。
「ならば属性石の小型冷蔵庫も金貨8枚にしましょうか」
カナタは早速小型冷蔵庫を値上げすることにした。
それを購入することになるオレンジ男爵は笑顔で頷いた。
業務用冷蔵庫の完成後すぐ、カナタはオレンジ男爵に面会の打診をした。
その結果、今日お呼ばれして迎えが来たということだった。
「どうぞこちらに」
馬車の扉を開けて降車すると、迎えの家令がカナタたちを馬車へと誘った。
本来の貴族的な慣習ならば、貴族のカナタと護衛のニクだけが馬車に乗り、奴隷身分のサキは走って付いて来なければならなかった。
ましてや、サキは虎の獣人だ。獣人に対して差別的な扱いをする貴族も少なくはない。
しかし、オレンジ男爵が差し向けた家令は、サキも一緒に乗るようにと促してきた。
これもオレンジ男爵の教育の賜物で貴族らしからぬ所だが、カナタはその姿勢に好感を持った。
「屋敷に向かってくれ」
馬車にカナタたちと家令が乗り込むと、家令は御者に馬車の発車を命じた。
馬車は大通りを通過し、このオレンジタウンの中央にある領主の館へとやって来た。
馬車が止まることなく門が開かれ、馬車は屋敷の玄関前のエントランスに横付けした。
「お待たせしました。どうぞこちらに」
家令が先に降りて、カナタたちの降車を促す。
サキとニクが先に降り立ちカナタがその後に続いた。
これは護衛の警戒態勢のフォーメーションとしてサキがニクに教え込んだものだった。
カナタは大げさだと思ったのだが、カナタの能力は権力者が誘拐してまで欲するものだとサキが主張し、このようなかたちをとる事になった。
取り越し苦労だったのだが、後に役立つかもしれないので、やって損はなかった。
カナタたちは家令に案内されるまま玄関ホールへと入り、その奥にある応接室へと通された。
「どうぞお座りになってお待ちください」
カナタは促されるまま応接室のソファーに座った。
ニクとサキは護衛としてカナタの後ろに立った。
「どうぞ」
メイドが入室し、カナタの前のテーブルに紅茶とスイーツが並べられた。
季節の果物――これはオレンジだろうか?――と生クリームのショートケーキだ。3人分ある。
カナタが後ろを見ると、サキが涎をたらさんばかりにデレていた。
カナタは苦笑いすると、一応【魔法探知】と【図鑑】で紅茶とスイーツを鑑定した。
無いとは思っているが、またサキに爆睡されても困るからだ。
その鑑定は結果的に取り越し苦労だったが、この悪意に満ちた世の中では出来ることはやっておいた方が良いとカナタは割り切っていた。
「ほら、食べていいよ」
カナタは苦笑しながらサキにスイーツの皿を渡した。
このまま涎を垂らした護衛を侍らすというのも恥ずかしかったこともあるが、純粋にお預け状態は可愛そうだと思ったのだ。
「いいんですか~」
サキはいつ食べたのかという早業でスイーツを口に入れていた。
そして、ニクの分にも視線を向ける。
それに気づいたニクは小さく頷いた。
それを目にしたと思った瞬間にスイーツは消えていた。
何のスキルかは知らないけど、この素早さで剣を振るわれたら死んだと気付かないうちに斬られているんだろうとカナタは思った。
カナタもスイーツを食し紅茶を飲み終わった頃、お代わりと共にオレンジ男爵が応接室にやって来た。
お代わりにロックオンするサキ。今度のスイーツは桃とカスタードのタルトだ。
暫くお預けだがサキは大丈夫だろうか?
「待たせたね。こちらから打診した件なのに呼び立てて申し訳ないな」
開口一番、オレンジ男爵は前置きを端折って本題に入った。
カナタも男爵も忙しく時間がないのだろうと思い、単刀直入に話題を切り出した。
「ザイードの冷蔵の魔導具を商業ギルドから引き取りました。
しかし、これは男爵に売れるような代物ではありませんね」
カナタの申し出にオレンジ男爵は表情を強張らせる。
「いや、それでもかまわないから引き取らせてもらうよ」
オレンジ男爵は、ゴミと知りつつ引き取る気満々だった。
しかし、それはカナタが言わんとしていることとは意味が違った。
「僕としては、この魔導具の値段は魔宝石と燃料石の値段が主だと思いました。
なので、昨日その魔宝石と燃料石で新しい魔導具を作っちゃいました」
「え?」
オレンジ男爵の表情が一瞬固まる。
何を言ってるのかわからない。まさに目が点になっていた。
カナタは首を傾げ、どうやら話が通じていないようだと気付き話を進めた。
「僕の冷蔵庫の技術を使えば、魔宝石と燃料石を使った魔導具なら、今までの10倍以上の性能のものが作れます。
なので、大型の冷蔵庫を作っちゃいました」
「ええーーーーー!」
オレンジ男爵がやっと理解してくれたようだ。
カナタは【ロッカー】に仕舞っておいた業務用冷蔵庫を応接室の脇に出した。
その大きさに圧倒されるオレンジ男爵。
「この大きさが、あの値段で出来るのか……」
「はい。外殻の金属分は高くなりますけどね」
カナタが提示した金額は、この世界で小型とされる冷蔵の魔導具の金額の2割増し――金貨12枚――だった。
だが、性能や容積では10倍以上の差があった。
その安さにオレンジ男爵は愕然とした。
しかし、オレンジ男爵は、それを良しとしなかった。
「カナタ君、君も商売人なら、この魔導具はその5倍の値段で売るべきだ。
それだけの価値がある。
なに、この領ではこの冷蔵庫に50%の貸付補助を出す。
貸付はある時払いの催促なしとする。
元々大型の冷蔵庫を買うなら、その十数倍の金額になっていただろう。
金貨60枚、貸付補助を使って金貨30枚となれば、この領のスイーツ店でも購入可能になる」
つまり、オレンジ男爵は1台につき金貨30枚を自腹で出すつもりだったのだ。
そこまでして自領の発展を目指そうという人が、なぜ安く買えるというのに値上げを要求するのか?
そこにはオレンジ男爵の強い思いがあった。
もし、カナタから魔導具を安く仕入れてしまったら、転売で儲けようと思う輩が必ず出て来る。
それを防ぐためには転売の魅力を下げる必要がある。
貸付補助により魔導具の所有権の半分は男爵が持つ。
それにより転売禁止の制限を設けるつもりだが、本業より儲かる商売だと見なされれば、スイーツ店などやめて、魔導具を持ち逃げして売ろうとする輩も出て来るかもしれない。
領地の発展のためには、スイーツの供給量を上げる必要があり、そのために冷蔵の魔導具を必要とする。
なのにスイーツ店をやめて冷蔵の魔導具を転売した方が儲かるなどと思われたら本末転倒なのだ。
「彼らには本業で儲かって欲しいのだ」
それがこの領地の果樹生産者や、スイーツ目当てでやってくる観光客相手の職業従事者をも潤すことになる。
カナタは思いもよらない値上げ要求に納得するしかなかった。
商品の値段は製造原価ではなく、その商品の価値によって決まる。
カナタの冷蔵庫にはそれだけの価値があったのだ。
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