父親が呪われているので家出してガチャ屋をすることにしました

北京犬(英)

文字の大きさ
85 / 204
南部辺境遠征編

085 カナタ、知らない懐かしの味を思い出す

しおりを挟む
 オレンジ男爵と冷蔵庫の売買契約を結んだカナタ一行は、当所の目的である転移起点の更新のため先に進むことにした。
冷蔵庫の納入は、暇を見てカナタが冷蔵庫を製作し、その都度納品することとした。
元々あった魔宝石を流用できたからこそ、簡単に制作出来た業務用冷蔵庫だったが、その魔宝石の在庫をカナタは持ち合わせていなかった。
カナタたちが先に進むのも、そういった素材を手に入れられる街を探すという目的も加わってのことだった。
その土地土地には固有の魔物がおり、ドロップするガチャオーブには地域毎の特色があった。
魔宝石を手に入れられるガチャオーブが存在しているかもしれない。

「これをお持ちください」

 カナタたちの出立にあたって、オレンジ男爵は特産のスイーツをお土産に持って来てくれていた。
カナタはそれを有難く受け取り【ロッカー】に仕舞った。
よくよく使い込めば、最低スキルと言われていた【ロッカー】も、アイテムボックスに匹敵する便利さを発揮していた。
このスキルを初めから最低スキルと蔑み、レベルアップをさせて来なかった先人たちの見識の無さをカナタは改めて認識することになった。

「そういえば、冷蔵庫があれば、遠い街にもスイーツを出荷できるようになるのではないですか?」

 カナタは自分の【ロッカー】でグラスヒルの屋敷にスイーツを届けたことを思い出し、輸送さえすれば需要は確かにあると思い、オレンジ男爵に訪ねた。
冷蔵庫は冷凍庫としても使えるので、長期の輸送でも鮮度は問題ないはずだった。

「あるとき、冷蔵の魔導具にスイーツを入れて馬車で運ぼうとしたご婦人がいたんだが、帰ったら馬車の振動で中身がぐちゃぐちゃになっていたそうだ。
まあ運ぼうと思えば、アイテムボックスのスキル持ちを使えば振動の問題はなくなるんだが、そんなのは高貴な方達の間で僅かに行われているだけだ。
それは好事家だからこそ支払える代価であって、一般販売のための輸送としては費用的に現実的ではないんだ」

 つまり、冷蔵馬車のようなものは実現できていないということだった。
振動問題は馬車を使う貴族や商人にとって悩みの種だった。
カナタも長期移動で馬車に乗った経験はまだなかった。

「なるほどそうだったのですか……」

「何か思い当たることが?」

 カナタが考え込む様子にオレンジ男爵は何か新しいアイデアでもあるのかと期待した。

「いえ……それにしても、ここのスイーツは果物の種類が豊富ですね」

 オレンジ男爵に期待させてしまったと察して、カナタは誤魔化すように話題を変えた。
この時、カナタの脳裏には冷蔵トラックとサスペンションという知らないはずの知識が浮かんでいたのだが、カナタ自身にも何のことかが理解できていなかった。
おそらくカナタの知識の元である多田野信の知識が中途半端だったからだろう。
概念は知っていても、仕組みや構造に関しては無知ということは多々あるのだ。

「ここでは魔法栽培で季節に関係なく果物が収穫できるからな。
そこはこの領の自慢だよ」

 オレンジ男爵も自分の領のことなので、嬉しそうに話してくれた。
それでオレンジと桃という季節違いの果物もスイーツに使われていたんだなとカナタは納得した。

「それと牛乳と鶏卵を確保するために、酪農と養鶏も行っている。
全ては生クリームとカスタードクリームを作るためだ」

 この領地はオレンジ男爵の明確なビジョンによって発展しているのだった。

「男爵、鶏卵に余裕は?」

 カナタはある調味料を思い浮かべ、居てもたってもいられなかった。

「欲しいのか? 今なら余裕があるぞ。
スイーツ増産のために準備をしていたからな。
ただ、冷蔵庫が普及すれば足らなくなるかもしれんな」

「是非、買わせてください」

 カナタは余裕のあるうちにと鶏卵を購入した。
カナタ出立の見送りに来ていたオレンジ男爵も苦笑いするほどの食いつきぶりだった。
カナタが知らないはずの知識に囁かれたのは、マヨネーズだった。
その味をカナタは知らないはずなのに、なぜか涎を垂らさんばかりの強い疑似体験があったのだ。
マヨネーズの製法は既に頭に浮かんでいた。

「それでは、また冷蔵庫の納品で」

 カナタ一行はやっとオレンジタウンを後にした。



 オレンジタウンの南門が見えなくなるぐらいまで獣車を進めると、カナタは【魔力探知】で南方へ向けて魔力を流した。
カナタの【魔力探知】は魔物や人間といった詳細な情報を探知するのではなければ、薄く広く魔力を流すことで広範囲を探知することが出来た。
特に方位を特定して違和感の強い場所を探すのであれば、数十km先までも探知が可能だった。
カナタが探そうとしていた赤い点は、まさに違和感の強い場所といえた。

「みつけた。
ニク、サキ、【転移】するよ。
今回は獣車を使うから転移門だ」

 カナタが赤い点へと繋げるイメージで【転移】を使うと、門の先は広大な牧草地帯だった。
サキが獣車を操り、全員で門を抜ける。
牧草地帯の先には街道が見えた。

 カナタは【魔力探知】で周辺を詳細探知する。
幸い300mの円周内には目撃者も魔物も居なかった。
獣車をそのまま街道へと進めると、一路南へと向かう。
その間もカナタは【魔力探知】で薄く魔力を南方に流す。

「みつけた。街だ」

 カナタが辿り着いたのは、オレンジ領の隣にある畜産業で有名なカンザス領だった。
みつけた街は領都カンザス。
食肉を近隣の領地に売っているのだが、ここもまた鮮度問題に悩まされている領地だった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。

渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。 しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。 「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」 ※※※ 虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。 ※重複投稿作品※ 表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。

おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう

お餅ミトコンドリア
ファンタジー
 パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。  だが、全くの無名。  彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。  若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。  弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。  独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。  が、ある日。 「お久しぶりです、師匠!」  絶世の美少女が家を訪れた。  彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。 「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」  精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。 「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」  これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。 (※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。 もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです! 何卒宜しくお願いいたします!)

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

嵌められたオッサン冒険者、Sランクモンスター(幼体)に懐かれたので、その力で復讐しようと思います

ゆさま
ファンタジー
ベテランオッサン冒険者が、美少女パーティーにオヤジ狩りの標的にされてしまった。生死の境をさまよっていたら、Sランクモンスターに懐かれて……。 懐いたモンスターが成長し、美女に擬態できるようになって迫ってきます。どうするオッサン!?

悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる

竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。 評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。 身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。

九尾と契約した日。霊力ゼロの陰陽師見習いが大成するまで。

三科異邦
ファンタジー
「霊力も使えない。術式も出せない。 ……西園寺玄弥、お前は本当に陰陽師か?」 その言葉は、もう何度聞いたか分からない。 霊術学院の訓練場で、俺はただ立ち尽くしていた。 周囲では炎が舞い、水がうねり、風が刃のように走る。 同年代の陰陽師たちが、当たり前のように霊を操っている。 ――俺だけが、何もできない。 反論したい気持ちはある。 でも、できない事実は変わらない。 そんな俺が、 世界最強クラスの妖怪と契約することになるなんて―― この時は、まだ知る由もなかった。 これは―― 妖怪の王を倒すべく、九尾の葛葉や他の仲間達と力を合わせて成長していく陰陽師見習いの物語。

『冒険者をやめて田舎で隠居します 〜気づいたら最強の村になってました〜』

チャチャ
ファンタジー
> 世界には4つの大陸がある。東に魔神族、西に人族、北に獣人とドワーフ、南にエルフと妖精族——種族ごとの国が、それぞれの文化と価値観で生きていた。 その世界で唯一のSSランク冒険者・ジーク。英雄と呼ばれ続けることに疲れた彼は、突如冒険者を引退し、田舎へと姿を消した。 「もう戦いたくない、静かに暮らしたいんだ」 そう願ったはずなのに、彼の周りにはドラゴンやフェンリル、魔神族にエルフ、ドワーフ……あらゆる種族が集まり、最強の村が出来上がっていく!? のんびりしたいだけの元英雄の周囲が、どんどんカオスになっていく異世界ほのぼの(?)ファンタジー。

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

処理中です...