父親が呪われているので家出してガチャ屋をすることにしました

北京犬(英)

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南部辺境遠征編

115 カナタ、発注量に悩む

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 カナタは悩んでいた。
悩みの1つは音声通信機の名前を魔導電話にしようとしたのだが、断念せざるを得なかったことだ。
この世界には電話という道具のイメージが全く存在していなかった。
カナタも説明しようとして、自分が何を説明しようとしているのか理解出来ていなかった。
それは多田野信由来の知らないはずの知識であり、カナタ自身も説明しようがなかったのだ。

「電話って何だ? なんで魔導電話という名前にしうようとしたんだろう?」

 そのためカナタの作った通信魔導具の正式名称は音声通信機に決まった。
この世界の一部特権階級には魔導通信機という魔導具の存在が知られていた。
通信機という遠隔地と話すことが出来る道具があるという認識が彼らにはあったのだ。
魔導通信機は映像と音声を遠隔地に届ける魔導具になる。
ではカナタの作った魔導具はというと、音声のみを遠隔地に届けるのだから音声通信機だろうとなったのだ。

 だが、カナタの脳裏には「電話」という単語がずっと澱のように引っ掛かり続けたのだ。
それが悩ましいカナタであった。

 もう一つの悩みは辺境伯の無茶ぶりだった。
カナタは辺境伯から1000台もの音声通信機の発注を受けた。
だが、そこには問題があった。
必須の材料が無いのだ。
資金は音声通信機2台を売ったお金の白金貨6枚で何の問題もないのだが、魔宝石という制御装置に必要な高価な石が手元に無かった。
材料の調達には、辺境伯も支援を約束してくれたが、音声通信機は1台で魔宝石(大)が1、魔宝石(小)が2と最低でも3つも使うのだ。
合計3000個の魔宝石を入手するのは不可能に見えた。

「うーん。どこか鉱山で掘ってくるしかないか……」

 カナタの脳裏に浮かんだのはグリーンバレーの鉱山だった。

「そういやハズレオーブから魔宝石(小)が出たことがあったな。
たしかヨーコがグリーンバレーで回収して来たハズレオーブが2UPしてRが出た時だったかな?」

 以前、ハズレオーブからも魔宝石が出たという記憶がカナタにはあった。
それは1000連ガチャによるR、SR、UR確率アップの恩恵の結果だった。

「鉱山もハズレオーブもグリーンバレーか」

 カナタはグリーンバレー遠征が必要だとの結論に至った。
Nオーブから2UPさせてRオーブとするのは確率が低いが、HNオーブを1UPさせてRオーブとするのは携帯ガチャ機の恩恵でほぼ100%――呪いの影響があると下がるが現状ではほぼ無い――で間違いない。
Rオーブから魔宝石が出る確率は良くわからないが、ある程度集めれば問題ないはずだった。
ただし、今回必要な魔宝石は魔宝石(大)1000個に魔宝石(小)2000個だ。
魔宝石(大)が出る確率はかなり低いと思われた。

「魔宝石(大)はSR以上かもしれないな……。
となると直接鉱山で掘るのと、現地で購入するしかないか」

 だが大量購入は悪手だった。
需要が増えれば価格が上がる。
そこの匙加減を上手くやらないと商売にならないのだ。
尤も金貨数枚の材料費で白金貨3枚になってしまうのだ。
材料費にもっと費用がかかっても構わないだけの儲けがそこにはあった。

「おーい、カナタ、いるか?」

 ライジン辺境伯がカナタの部屋にノックもせずに乱入して来た。
まあ、この部屋は辺境伯が城塞の中に用意してくれたものなので、向こうの方がこの部屋の持ち主なのだが……。

「いますよ。ノックぐらいしてください」

「俺とお前の間柄で冷たいことを言うな」

 ライジン辺境伯はまだ親子設定を続けたいようだ。
カナタは「違います」と毎度のように否定してから小言を言う。

「この部屋には女性もいるんです。
着替え中だったらどうするんですか!」

 サキからジト目で見られていることに気付いた辺境伯が「拙い」という顔になる。

「それはうっかりしていた。すまなかった。
で、早急な話があるんだが、良いか?」

「もう仕方ありませんね」

 カナタはとりあえず辺境伯の話を聞くことにした。

「音声通信機の特別仕様を王家に献上することにした」

 辺境伯のその言葉にカナタは嫌な顔をした。

「僕にはそんな特別仕様の魔導具を作る技術はありませんよ?」

 早速断るカナタ。

「大丈夫だ。カナタには中身だけ作ってもらう。
外側を豪華に装飾するのは専門の家具職人にやらせる」

 その言葉にカナタは胸を撫で下した。
1000台も作らなければならないのに、そんな特別仕様に関わっている時間は無かったからだ。
そしてあることを思いついた。

「(あ、筐体は家具職人に発注すれば楽が出来るんだな)」

 カナタは量産化へ向けて分業化することを決めた。
カナタにしか出来ないのは魔宝石への時空魔法や魔法陣付与と制御式の書き込みだ。
他の組み立てなどの作業は魔導具職人に発注できるはずだった。
良いことを思いついた。気を良くしたカナタは辺境伯に残る疑問点を訊ねた。

「では、僕がやる特別なことは何もないんじゃ?」

 カナタが疑問を投げかけると、ライジン辺境伯はとある提案をして来た。

「音声通信機の番号000001番を王家に譲ってくれ。
1番は特別感があるだろ?」

 カナタは「いいよ」と言おうとして口ごもった。
カナタには特に000001番に拘りがあったわけではないのだが、既に屋敷とのやりとりで000001番が定着してしまっていた。
それは屋敷の奴隷たちとの絆でもあり、譲っても構わないと口に出すことを躊躇する要因となっていた。
その事実にカナタ自身が驚いた。
そしてある解決策を提示することにした。

「王家の番号は000000番でどう?
ゾロ目というのはお金を出してでも欲しくなる番号らしいよ?」

 カナタはまた知らないはずの知識でものを言っていた。
そんなこの世界では通用しないはずの話に辺境伯が乗っかった。

「それは良いな。
俺の番号も111111番にしてくれ」

 この世界にゾロ目がプレミアムになるという文化が芽生えた瞬間だった。

「わかった。111111番は新しいのを渡すから使って」

 カナタは辺境伯に渡した音声通信機を改造するのが面倒だった。
なので新しく作った音声通信機の番号を111111番にして渡すことにしたのだ。

「それと魔宝石が足りないからグリーンバレーまで仕入れに出かけるからね?」

 カナタはちょっと出かけて来るという感覚で言った。
だが、その移動距離は馬車で2か月弱かかるほど離れていた。
カナタは【転移】であっと言う間に移動出来るが、それは普通ではないのだ。
そのカナタの言動にライジン辺境伯は頭を抱えるしかなかった。

「カナタよ、おまえが【転移】を使えるのだろうことは判っているが、もう少し隠すようにしろ。
俺の前だから良いが、悪意ある奴に知られたら誘拐されるぞ?」

「あっ!」

 カナタは今更【転移】がバレていたことに気付いて慌てるのだった。
今まで宿屋で必死に偽装工作をして転移していたのに水の泡である。
だが、バレたのが辺境伯で良かったと胸を撫で下すのだった。
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