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はじめに覚える仕事
しおりを挟む「やること結構多いので、1つ1つ覚えてもらうかたちになります」
「あ、はい」
俺は鞘師さんに続いて部屋を出た。
床がカーペットの廊下を進むと、右側にはホテルのビュッフェ。
突き当りに多目的トイレが。
左側にはロックがかかったガラスの自動ドアがあった。
「ここはカードキーが無いと開かないので注意してください。出るときは必要ありませんが」
言いながら鞘師さんは首にかかったカードキーをピッとかざして自動ドアを開けた。
開けた先はエレベーターホール。ここから床がタイルになっている。
広さはマンションのワンルームより少し広いくらいか。エレベーターは合計4つ。並んだ2つのエレベーターが向かい合うように設置してある。
エレベーターの上と下のボタンの横にもカードキーをかざす場所がある。
「この階のエレベーターもロックされていて、ホテルに滞在してる人か、このカードキーを持ってる人しか動かせませんので注意してくださいね」
ここで鞘師さんはピッとカードキーをかざしたあと、上のボタンを押した。
「カードキーが無くて下の階や上の階に行きたい場合は、さっきの部屋の裏から外に出て、非常階段から3階に上って下さい。そこの階のエレベーターはボタンを押すだけで動かせますので」
「分かりました」
「……そうですね、最初はエレベーター清掃から覚えてもらいます。実はワケありで、リネンの仕事になってるんです。エレベーターの清掃は」
そうなんですね、とだけ俺は返しておいた。
その『ワケ』は聞かない方がいい。
そんな気がしてならなかった。
そしてエレベーターが着いた。
「丁度、ゲストが居ないので乗りましょう」
俺は鞘師さんと一緒にエレベーターに乗った。
「ゲストが居る時は絶対に乗らないでください。乗っているときにゲストが乗ってきた場合は乗り続けても良いですが」
「はい」
「気を付けて下さいね。ちょっと一悶着があったので」
「へ、へえ……」
このワケも聞かない方がいいだろう。
「28階まで誰も乗らなければ良いんですけど」鞘師さんは28階のボタンを押した。「エレベーター清掃は、ゲストが乗っていない間にします」
ゲストが居ない間、ということは、
「……あ、なるほど、掃除だからか……」
掃除してる人と鉢合わせるの嫌がる人だっているしな。
清掃道具は必然として汚れるから、見たくないって人の気持ちは俺も分からなくはないし。
「つまりゲストが乗ってきたらなるべく清掃道具は隠して、掃除は絶対中断しなきゃいけないって感じですか?」
「そうです。良かった……」
はぁ……と鞘師さんは笑いながらため息。
「えっ。鞘師さん、どうしたんですか?」
「いやあの、和泉さんが理解力高いかたで安心して……。そう言われても気づかない人が居ますし、言ってもゲストが乗ってる間に掃除する人が居るんですよ……」
そんなに理解力を要することじゃないし、乗ってたら掃除しちゃダメって分かると思うけど……。
「へ、へえ……。そうなんですね……」
余計なことは言わずにしておいた。
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