鍵垢

すごろく

文字の大きさ
1 / 1

鍵垢

しおりを挟む
 私は鍵垢を持っている。珍しい話ではない。SNSを嗜む大半の人類が鍵垢を持っているのではないか。それで鍵垢に何を書き込むのかというと、自分が生活する上で抱くネガティブなことすべて。やれクラスメイトの誰々は見た目と外面だけは良い性格ブスだとか、やれあの芸能人はどう考えても整形だとか、やれ無神経な親なんて早く死んでしまえばいいのにとか。そういう表に出せないことを吐き出す掃き溜め。それが鍵垢。何も変なことではない。誰でもそうだろう。誰でもそうだろうと思うから、私はたまに怖くなる。
 鍵垢にぐちぐちと負の感情を吐露しているとき、それをしているのが自分だけではないのだろうと頭の片隅で考えたとき、私は何か入り込んではいけないほの暗いところに、頭からつっこんでしまっているような気分になる。この世界にはたくさんの鍵垢があって、世界中の人間たちがそこに自分と同じくマイナスの何かを吐き出し続けている。何百、何千、何万、何億、いや何兆というおどろおどろしい人間の暗黒が、鍵垢という閉鎖的なものに仕切られて、それでもなおネットという宇宙空間のようなだだっ広い概念の中に放り出されている。そう思うたび、私は得体の知れない恐怖で身が縮こまるような感覚になるのだ。
 それでも私は鍵垢を消さない。鍵垢に今日も誰かの悪口や自虐めいた愚痴を書きなぐり続ける。どこまで続くのかわからないそれに恐怖しながら、どうしようもなくどこまでも続けてしまう。どこまでも、いつまでも、私はパソコンに向かってキーボードをただ叩く。
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

【完結短編】ある公爵令嬢の結婚前日

のま
ファンタジー
クラリスはもうすぐ結婚式を控えた公爵令嬢。 ある日から人生が変わっていったことを思い出しながら自宅での最後のお茶会を楽しむ。

盗み聞き

凛子
恋愛
あ、そういうこと。

残業で疲れたあなたのために

にのみや朱乃
大衆娯楽
(性的描写あり) 残業で会社に残っていた佐藤に、同じように残っていた田中が声をかける。 それは二人の秘密の合図だった。 誰にも話せない夜が始まる。

勝手にしろと言われたので、勝手にさせていただきます

結城芙由奈@コミカライズ3巻7/30発売
恋愛
子爵家の私は自分よりも身分の高い婚約者に、いつもいいように顎でこき使われていた。ある日、突然婚約者に呼び出されて一方的に婚約破棄を告げられてしまう。二人の婚約は家同士が決めたこと。当然受け入れられるはずもないので拒絶すると「婚約破棄は絶対する。後のことなどしるものか。お前の方で勝手にしろ」と言い切られてしまう。 いいでしょう……そこまで言うのなら、勝手にさせていただきます。 ただし、後のことはどうなっても知りませんよ? * 他サイトでも投稿 * ショートショートです。あっさり終わります

いちばん好きな人…

麻実
恋愛
夫の裏切りを知った妻は 自分もまた・・・。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

奪った代償は大きい

みりぐらむ
恋愛
サーシャは、生まれつき魔力を吸収する能力が低かった。 そんなサーシャに王宮魔法使いの婚約者ができて……? 小説家になろうに投稿していたものです

婚約破棄?一体何のお話ですか?

リヴァルナ
ファンタジー
なんだかざまぁ(?)系が書きたかったので書いてみました。 エルバルド学園卒業記念パーティー。 それも終わりに近付いた頃、ある事件が起こる… ※エブリスタさんでも投稿しています

処理中です...