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4章【初任務、チャリで爆走100万円】
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すべての始まりは、「ただ運ぶだけ」という一言だった。
あの頃のポテトは、まだ“自由”だった。金はなかったが、スマホも、タバコも、空気を吸う自由もあった。
その自由を、最も愚かに使っていた男は、雨の中、古びたママチャリにまたがっていた。
「ガチでくだらねぇ……なんで俺がチャリ?」
ポテトの脳内では、“荷物を運ぶ代わりに100万円”というフレーズが、リピートされていた。
LINEでトミーから送られてきた地図。そこには、「A地点で荷物を受け取り、B地点に配達する」と書かれていた。
時間制限は一時間。都内の裏道を通る必要があるという。手渡しはせず、B地点のロッカーに投函。それだけで“即日振込”。
「しらね。こんなのチョロすぎだろ」
自分が“犯罪に加担している”など、ポテトにとっては“どっちでもいい話”だった。
重要なのは、金がもらえるかどうか。それ以外は、風景の一部だった。
—
ポテスピを吸いながら、A地点の公園に到着。
そこには、黒いリュックがぽつんと置かれていた。誰もいない。張り込みもなし。ポテトはリュックを手に取り、すぐさまチャリにまたがる。
「100万、100万、100万……」
独り言を繰り返すように、彼は走った。雨が降り出し、シャツがじっとりと濡れていく。
道路の隅にある水たまりがはね上がり、靴はびしょびしょ。だが、ポテトは笑っていた。
「俺、今、映画の主人公かもな」
なにか大きな物語の中に自分がいるという錯覚。それがポテトの全てだった。
30分後、B地点のロッカー前に到着。周囲には誰もいない。
濡れた手で暗証番号を入力し、リュックを中に押し込んだ。
「ガチで余裕だったじゃん」
直後、スマホが震えた。トミーからの通知——
「確認しました。お疲れ様でした。振込は今夜中に」
それだけ。ポテトは、勝ったと思った。
—
その夜、彼の口座に振り込まれた金額は“3万円”だった。
「は?」
LINEを開くと、トミーは既読スルー。
何度もメッセージを送っても返事はこない。
「話が違うんだが?」
「おい、ガチで舐めてんの?」
「お前、俺が誰かわかってる?」
そう送りながらも、ポテトは思い始めていた。
——“これ、やばいやつかも”
でも、その恐怖心よりも、苛立ちのほうが勝った。
「しらね……次で取り返す。次で、全部チャラにする」
そう自分に言い聞かせ、再び“トミー”に連絡する。
「次もやる。条件は上げろ」
返事は数時間後、ポツリと届いた。
「次は“直接受け渡し”。報酬、50万。やるか?」
ポテトは、迷わなかった。
—
だが、この選択こそが、バッドエンドへ向かう直通の扉だった。
そして、彼はその扉を、自分の手で、何の迷いもなく開けたのだった。
数日後の夜、ポテトは再び“現場”にいた。
今度の受け渡しは、場所も時間も不気味なくらい曖昧だった。
「◯◯区の空きビル前。21:30~21:35の間に“黄色い傘”を持った人物に荷物を手渡せ」
——それがトミーから送られた指示だった。
リュックの中身は、もう確認していない。というより、見ないようにしていた。
重みはあった。前よりもずっしりしている。けれど、ポテトは“中身を見る=罪の自覚”だと直感していた。だから、見なかった。
「これで50万。しらね。俺、ただ渡すだけ」
誰に言い聞かせるでもなく、呟きながら、ポテスピに火をつける。
空は曇り、遠くで雷が鳴っていた。夜の空気は重く、どこか焦げ臭い。
不気味な静けさに囲まれながら、ポテトは予定通り、黄色い傘を持った人物の前に立った。
フードを深くかぶったその人物は、一言も発せず、ただリュックを受け取ると、ビルの影へと消えていった。
——それだけ。あっけないほど、あっさりしていた。
ポテトは勝利を確信した。
「俺、これで50万。ガチで人生逆転」
家に戻る道中、すでに“使い道”を考えていた。パチンコで10万。焼肉で5万。りょうに自慢して2万貸してやるふりしてバックれる。
残りはタバコとウーバー代。
部屋に着いた瞬間、スマホを確認した。
——振り込み通知:0円。
LINEを見る。トミーは既読もつかない。アカウント自体が削除されていた。
「……あ?」
部屋の中の空気が急に冷たくなった気がした。ポテスピに手を伸ばすも、指先が震えてうまく火がつかない。
「いや……マジで……待って、これは……」
その瞬間、ドアがノックされた。
「ガチでやばい」——直感が叫んだ。
インターホン越しの声は冷たく、短く。
「警察です。大湯さん、開けてください」
ポテトは、その場に崩れ落ちた。
笑っていた日々が、ピースしていた動画が、金に酔っていた自分が、すべて幻のように薄れていく。
——“俺は悪くねぇ”
いつものその言葉が、今日は口から出なかった。
代わりに漏れたのは、震えた声と一言だけ。
「……しらね……なんで、俺だけ……」
だがもう遅かった。ドアは開き、手錠がかけられた。
取り調べ室の空気は、前回よりもさらに重たかった。
警官の顔つきも、口調も変わっていた。ただの「確認」ではなかった。今度は、はっきりと“加担者”としての扱いだった。
ポテトは、すでに“笑えなかった”。
「大湯さん、あなたが運んだ荷物の中身について、ご存じないと?」
「……いや、マジで……俺、見てないし……ただ言われた通り運んだだけで……」
「その“荷物”の中には、違法薬物と、詐欺に使う複数のスマホ、さらに未成年者の個人情報が入っていました」
一瞬、時間が止まった気がした。喉がひくつく。汗が背中をつたう。
「……いや、マジで俺、知らなかったって……だから……」
「知らなかった、で済まされる段階は終わってます。LINEの履歴、動画、口座の振込データ。あなたが“知っていた可能性”は極めて高いと判断されます」
「……は?しらね……いや、ガチで、マジで、ほんとに……!」
かすれた声で繰り返す言葉には、もう“自信”はなかった。
顔を両手で覆いながら、ポテトはその場に座り込んだ。
——“知らなかった”では、何も守れない。
弁護士の羽賀が入ってきたのは、取り調べが一段落したあとだった。冷静な口調で、状況を説明する。
「大湯さん。現在、あなたは“組織的詐欺及び薬物運搬の疑い”で起訴される可能性があります。量刑は非常に重いです」
「……でも、俺、働いてないし。金もないし。そもそも、トミーに騙されたんだし」
「“働いてないから罪が軽い”というのは通用しません。逆に“犯罪で生活していた”と判断されれば、さらに悪くなります」
ポテトは目を逸らした。自分が“バカにしていた世の中”の仕組みが、今になって牙を剥いてくる。
「……ガチで詰んだ?」
羽賀は沈黙した。
言葉を濁すことさえなくなったその態度が、答えだった。
—
数週間後。
起訴状が届き、裁判の日程が決まる。
ネットニュースには、“SNSで人気だった“ポテト”の正体、闇バイトで逮捕”という見出しが踊る。
あの動画は再び拡散され、今度は“笑い”ではなく“恐怖”と“警鐘”として。
りゅうは肩を落としていた。「あいつ、もう……戻れないな」と呟いた。
りょうは「マジで草」と笑ったが、その目はどこか引きつっていた。
かもめだけが、動画を見ながらこう呟いた。
「お前の知らないやつ、ホントに超えたな、ポテト……」
その言葉に、どんな意味が込められていたかは、誰にもわからない。
ただひとつ、確かなことがある。
——ポテトは、自分の人生を、自分で崩壊させた。
刑務所の門を出たのは、半年ほど前のことだった。
模範囚という評価を受けたポテトは、仮釈放という形で自由を手にした。
自由。
ポテトにとってそれは、また“ポテスピを吸える”という意味であり、“ネットに戻れる”という意味であり、何より“自分の世界”に帰れるという錯覚だった。
だが、社会は変わっていた。
かつてバズった動画は、“犯罪者の見本”として教材にされ、名前こそ伏せられていたが、誰もが「ポテト」で検索すれば出てくる時代になっていた。
コンビニのバイトは面接で落とされた。タバコ屋では白い目で見られ、誰に会っても、「あ、アイツだ」という視線が突き刺さった。
りゅうは連絡を絶っていた。
りょうは「お前、まだ生きてたの?」とだけ返信して、それきり既読もつかなかった。
かもめも、「今忙しいから」と電話を切った。
ポテトは、ひとりになった。
一人で、古いアパートの一室にうずくまり、カップ焼きそばをすする夜が続いた。
そして——そのタイミングで、“新しいトミー”が現れた。
正確には違う名前だった。だが、やり口は同じだった。
ポテトはLINEのプロフィール画像を見るだけで分かった。
——“これ、あの世界のやつだ”
最初は無視した。でも、数日後、電気が止まり、スマホも止まり、冷蔵庫の中が空になった。
その瞬間、手が勝手に動いた。
「次の仕事、受けます」
自分でも分かっていた。**今度こそ、本当に終わるかもしれない。**でも、止められなかった。
そして——前回の“チャリ爆走”で捕まり、今に至る。
裁判の日。
ポテトは法廷の中で、弁護士の横に座っていた。
傍聴席には誰もいなかった。家族も、友人も、かもめも。
検察官が冷たく事実を並べる中、ポテトは目を閉じていた。もう、反論も、自己弁護もしなかった。
「被告人、大湯。最後に何か言いたいことはありますか?」
静寂の中、ポテトが口を開いた。
「……正直言っていい? 俺、ただ、間違えただけだと思ってた。でも、俺って多分……間違えてるって気づいてからも、ずっと間違えてたわ」
裁判官の顔は動かない。記録者のペンの音だけが、カリカリと鳴っていた。
「ガチレスすると……俺、たぶんもう、誰にも必要とされてないっしょ?」
そう言って、彼は口を閉じた。
判決は——実刑。
5年の懲役。
法廷から連れ出されるとき、ポテトは一度だけ、振り返った。
誰もいない傍聴席を見つめ、ひとこと呟いた。
「……お前の知らないやつ、もう終わってたんだな」
そうして彼は、再び“知らないやつ”に戻るための、閉ざされた塀の中へと消えていった。
あの頃のポテトは、まだ“自由”だった。金はなかったが、スマホも、タバコも、空気を吸う自由もあった。
その自由を、最も愚かに使っていた男は、雨の中、古びたママチャリにまたがっていた。
「ガチでくだらねぇ……なんで俺がチャリ?」
ポテトの脳内では、“荷物を運ぶ代わりに100万円”というフレーズが、リピートされていた。
LINEでトミーから送られてきた地図。そこには、「A地点で荷物を受け取り、B地点に配達する」と書かれていた。
時間制限は一時間。都内の裏道を通る必要があるという。手渡しはせず、B地点のロッカーに投函。それだけで“即日振込”。
「しらね。こんなのチョロすぎだろ」
自分が“犯罪に加担している”など、ポテトにとっては“どっちでもいい話”だった。
重要なのは、金がもらえるかどうか。それ以外は、風景の一部だった。
—
ポテスピを吸いながら、A地点の公園に到着。
そこには、黒いリュックがぽつんと置かれていた。誰もいない。張り込みもなし。ポテトはリュックを手に取り、すぐさまチャリにまたがる。
「100万、100万、100万……」
独り言を繰り返すように、彼は走った。雨が降り出し、シャツがじっとりと濡れていく。
道路の隅にある水たまりがはね上がり、靴はびしょびしょ。だが、ポテトは笑っていた。
「俺、今、映画の主人公かもな」
なにか大きな物語の中に自分がいるという錯覚。それがポテトの全てだった。
30分後、B地点のロッカー前に到着。周囲には誰もいない。
濡れた手で暗証番号を入力し、リュックを中に押し込んだ。
「ガチで余裕だったじゃん」
直後、スマホが震えた。トミーからの通知——
「確認しました。お疲れ様でした。振込は今夜中に」
それだけ。ポテトは、勝ったと思った。
—
その夜、彼の口座に振り込まれた金額は“3万円”だった。
「は?」
LINEを開くと、トミーは既読スルー。
何度もメッセージを送っても返事はこない。
「話が違うんだが?」
「おい、ガチで舐めてんの?」
「お前、俺が誰かわかってる?」
そう送りながらも、ポテトは思い始めていた。
——“これ、やばいやつかも”
でも、その恐怖心よりも、苛立ちのほうが勝った。
「しらね……次で取り返す。次で、全部チャラにする」
そう自分に言い聞かせ、再び“トミー”に連絡する。
「次もやる。条件は上げろ」
返事は数時間後、ポツリと届いた。
「次は“直接受け渡し”。報酬、50万。やるか?」
ポテトは、迷わなかった。
—
だが、この選択こそが、バッドエンドへ向かう直通の扉だった。
そして、彼はその扉を、自分の手で、何の迷いもなく開けたのだった。
数日後の夜、ポテトは再び“現場”にいた。
今度の受け渡しは、場所も時間も不気味なくらい曖昧だった。
「◯◯区の空きビル前。21:30~21:35の間に“黄色い傘”を持った人物に荷物を手渡せ」
——それがトミーから送られた指示だった。
リュックの中身は、もう確認していない。というより、見ないようにしていた。
重みはあった。前よりもずっしりしている。けれど、ポテトは“中身を見る=罪の自覚”だと直感していた。だから、見なかった。
「これで50万。しらね。俺、ただ渡すだけ」
誰に言い聞かせるでもなく、呟きながら、ポテスピに火をつける。
空は曇り、遠くで雷が鳴っていた。夜の空気は重く、どこか焦げ臭い。
不気味な静けさに囲まれながら、ポテトは予定通り、黄色い傘を持った人物の前に立った。
フードを深くかぶったその人物は、一言も発せず、ただリュックを受け取ると、ビルの影へと消えていった。
——それだけ。あっけないほど、あっさりしていた。
ポテトは勝利を確信した。
「俺、これで50万。ガチで人生逆転」
家に戻る道中、すでに“使い道”を考えていた。パチンコで10万。焼肉で5万。りょうに自慢して2万貸してやるふりしてバックれる。
残りはタバコとウーバー代。
部屋に着いた瞬間、スマホを確認した。
——振り込み通知:0円。
LINEを見る。トミーは既読もつかない。アカウント自体が削除されていた。
「……あ?」
部屋の中の空気が急に冷たくなった気がした。ポテスピに手を伸ばすも、指先が震えてうまく火がつかない。
「いや……マジで……待って、これは……」
その瞬間、ドアがノックされた。
「ガチでやばい」——直感が叫んだ。
インターホン越しの声は冷たく、短く。
「警察です。大湯さん、開けてください」
ポテトは、その場に崩れ落ちた。
笑っていた日々が、ピースしていた動画が、金に酔っていた自分が、すべて幻のように薄れていく。
——“俺は悪くねぇ”
いつものその言葉が、今日は口から出なかった。
代わりに漏れたのは、震えた声と一言だけ。
「……しらね……なんで、俺だけ……」
だがもう遅かった。ドアは開き、手錠がかけられた。
取り調べ室の空気は、前回よりもさらに重たかった。
警官の顔つきも、口調も変わっていた。ただの「確認」ではなかった。今度は、はっきりと“加担者”としての扱いだった。
ポテトは、すでに“笑えなかった”。
「大湯さん、あなたが運んだ荷物の中身について、ご存じないと?」
「……いや、マジで……俺、見てないし……ただ言われた通り運んだだけで……」
「その“荷物”の中には、違法薬物と、詐欺に使う複数のスマホ、さらに未成年者の個人情報が入っていました」
一瞬、時間が止まった気がした。喉がひくつく。汗が背中をつたう。
「……いや、マジで俺、知らなかったって……だから……」
「知らなかった、で済まされる段階は終わってます。LINEの履歴、動画、口座の振込データ。あなたが“知っていた可能性”は極めて高いと判断されます」
「……は?しらね……いや、ガチで、マジで、ほんとに……!」
かすれた声で繰り返す言葉には、もう“自信”はなかった。
顔を両手で覆いながら、ポテトはその場に座り込んだ。
——“知らなかった”では、何も守れない。
弁護士の羽賀が入ってきたのは、取り調べが一段落したあとだった。冷静な口調で、状況を説明する。
「大湯さん。現在、あなたは“組織的詐欺及び薬物運搬の疑い”で起訴される可能性があります。量刑は非常に重いです」
「……でも、俺、働いてないし。金もないし。そもそも、トミーに騙されたんだし」
「“働いてないから罪が軽い”というのは通用しません。逆に“犯罪で生活していた”と判断されれば、さらに悪くなります」
ポテトは目を逸らした。自分が“バカにしていた世の中”の仕組みが、今になって牙を剥いてくる。
「……ガチで詰んだ?」
羽賀は沈黙した。
言葉を濁すことさえなくなったその態度が、答えだった。
—
数週間後。
起訴状が届き、裁判の日程が決まる。
ネットニュースには、“SNSで人気だった“ポテト”の正体、闇バイトで逮捕”という見出しが踊る。
あの動画は再び拡散され、今度は“笑い”ではなく“恐怖”と“警鐘”として。
りゅうは肩を落としていた。「あいつ、もう……戻れないな」と呟いた。
りょうは「マジで草」と笑ったが、その目はどこか引きつっていた。
かもめだけが、動画を見ながらこう呟いた。
「お前の知らないやつ、ホントに超えたな、ポテト……」
その言葉に、どんな意味が込められていたかは、誰にもわからない。
ただひとつ、確かなことがある。
——ポテトは、自分の人生を、自分で崩壊させた。
刑務所の門を出たのは、半年ほど前のことだった。
模範囚という評価を受けたポテトは、仮釈放という形で自由を手にした。
自由。
ポテトにとってそれは、また“ポテスピを吸える”という意味であり、“ネットに戻れる”という意味であり、何より“自分の世界”に帰れるという錯覚だった。
だが、社会は変わっていた。
かつてバズった動画は、“犯罪者の見本”として教材にされ、名前こそ伏せられていたが、誰もが「ポテト」で検索すれば出てくる時代になっていた。
コンビニのバイトは面接で落とされた。タバコ屋では白い目で見られ、誰に会っても、「あ、アイツだ」という視線が突き刺さった。
りゅうは連絡を絶っていた。
りょうは「お前、まだ生きてたの?」とだけ返信して、それきり既読もつかなかった。
かもめも、「今忙しいから」と電話を切った。
ポテトは、ひとりになった。
一人で、古いアパートの一室にうずくまり、カップ焼きそばをすする夜が続いた。
そして——そのタイミングで、“新しいトミー”が現れた。
正確には違う名前だった。だが、やり口は同じだった。
ポテトはLINEのプロフィール画像を見るだけで分かった。
——“これ、あの世界のやつだ”
最初は無視した。でも、数日後、電気が止まり、スマホも止まり、冷蔵庫の中が空になった。
その瞬間、手が勝手に動いた。
「次の仕事、受けます」
自分でも分かっていた。**今度こそ、本当に終わるかもしれない。**でも、止められなかった。
そして——前回の“チャリ爆走”で捕まり、今に至る。
裁判の日。
ポテトは法廷の中で、弁護士の横に座っていた。
傍聴席には誰もいなかった。家族も、友人も、かもめも。
検察官が冷たく事実を並べる中、ポテトは目を閉じていた。もう、反論も、自己弁護もしなかった。
「被告人、大湯。最後に何か言いたいことはありますか?」
静寂の中、ポテトが口を開いた。
「……正直言っていい? 俺、ただ、間違えただけだと思ってた。でも、俺って多分……間違えてるって気づいてからも、ずっと間違えてたわ」
裁判官の顔は動かない。記録者のペンの音だけが、カリカリと鳴っていた。
「ガチレスすると……俺、たぶんもう、誰にも必要とされてないっしょ?」
そう言って、彼は口を閉じた。
判決は——実刑。
5年の懲役。
法廷から連れ出されるとき、ポテトは一度だけ、振り返った。
誰もいない傍聴席を見つめ、ひとこと呟いた。
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