劣化の最強魔術師 ~学園最弱の魔術師がゴミスキル『劣化コピー』で人知を超えた魔術をコピーした結果~

山外大河

文字の大きさ
1 / 30
一章 覚醒の日

1 無能スキルの発現

しおりを挟む
 レイザーク家と言えば世間一般的には魔術師の名家として知られている訳だが、その名家の三男である俺が輝かしい人生を送れているかというと、残念ながらそうではない。

「腐ってもあのレイザーク家の三男だ。少しはまともな固有魔術を発現すると思ったが……無能なお前と同じようにゴミのような固有魔術だな。珍しいだけでなんの価値もない」

「……ッ」

 初夏。16歳の誕生日であるこの日の放課後、俺、ユーリ・レイザークは担任教師で初老のハゲに罵られていた。

 正直少しくらいは反論したいものの、ハゲにぶつけられているのはどうしようもない程の正論で、何一つ反論の余地が無いから黙って聞いているしかない。

 聞きながら、悔しさを噛み締めるしかない。
 ハゲの言う通り、俺は魔術師として無能もいいところだった。

 新しいことを覚えるのにも時間が掛かり、ようやく身に着けた術式はいつまでたっても脆く拙く。当然、俺にだけできる秀でた事というものも何もない。

 この魔術の名門校、ベルドット魔術学園に入学できたのも、補欠合格で辛うじて滑り込めたといったもので、お世辞にも周りの生徒に付いていけているとは思わない。

 無能。
 寸分違いなく出来損ない。
 実家でもこの場所でも、俺はそこから抜け出せない。

 そして今日はそんな出来損ないの俺にとって最後の希望と言ってもいい一日だったのだ。

 人間は16歳の誕生日を迎えた日に、魂に術式が刻まれる。
 一人一つの固有術式スキルと呼ばれる力を手にできる。

 俺はそこに賭けていた。俺自身の希望となってくれるような術式が刻まれる事に。
 八方塞がりな人生に光を差し込ます事ができるような術式が刻まれる事に。
 だけど結果手にしたのはハゲの言う通りゴミのような術式だった。

「術式の劣化コピー。他人の術式のコピーなど聞いたことが無いが、使い物にならなければその希少価値もあってない物だな」

 触れた術式。及び触れた人間が使う事のできる固有魔術以外の術式を大幅に弱体化させてコピーする。
 人の努力の成果を、役に立たないガラクタとしてこの身に宿すハズレ術式。
 そして俺という人間の性質がろくでもないという事を証明する写し鏡。

「ああ、一つ役立つ事が有ったか。その固有魔術はお前の無能さと汚い人間性を証明する事には役立つな」

「……ッ」

 何しろ固有魔術は、その人間の価値観や人間性から導き出される代物なのだから。
 こんなゴミのような固有魔術が発現したのも、身から出た錆という奴なのだ。
 そしてこんな固有魔術を発現したが故に、俺はもう終わりみたいなものなんだ。

「残念だったな。お前は固有魔術でなんとか追試を突破しようと目論んでいたようだが……それではどうにもなるまい。となると前と顔を合わせるのも明日で最後になる訳だ」

「で、でもまだ合格しないって決まった訳じゃ……ッ」

「落ちるさ。断言しよう……全く、清々するよ。私の教え子に無能はいらんのだ」

「……ッ」

 何も。何一つ言い返せない。言い返せないまま踵を返し、ハゲの研究室を後にした。
 背に腹立たしい笑い声を浴びながら。
 自分の不甲斐なさから沸いてくる苛立ちを拳に込めながら。
     




 俺の固有魔術の詳細がもし他人から。
 例えばハゲから告げられたものだったとすれば、まだ希望を見出す事はできただろう。

 その判断が虚偽の可能性もあるから。見当違いの可能性もあるから。
 本当はもっと凄い力なのかもしれないから。

 か細く脆い糸なのかもしれないが、それでも辛うじて光が見えてくる。

 だけど固有魔術は魂に刻まれると同時に知識として記憶に詳細が植え付けられる。
 つまり自分の固有魔術がゴミである事の第一人者は他ならぬ俺だ。

 ハゲは俺から聞いて、それを実際に見て判断しただけ。
 校則に従って、術式の申請とその証明を行った俺を見て、第三者の意見を述べただけ。
 だから俺の術式がゴミであるという事は正当な評価であり、つまり逆転の目が無いことはハゲ以上に俺が分かっているんだ。

「……クソッ」

 それでも諦められないから。こんな所で立ち止まる訳にはいかないから。
 廊下を歩きながら、拳を握って思わずそう呟く。

 そしてそんな俺の視界に、壁を背に立つ上級生の男子生徒の姿が映った。
 ロイド・レイザーク。俺の一つ上の兄貴だ。

 ……正直、あまり兄貴の事は得意ではない。
 少なくともこんなメンタルの時に顔なんて合わせてられない。

 そう考えて無視して通り過ぎようとした俺に、兄貴は軽く舌打ちして言う。

「おいユーリ。今日はお前の誕生日だろ。何か言う事あるんじゃねえのか?」

「……固有魔術の事か?」

「それ以外に何があんだよ。どうだった? 言ってみろよ」

 ……態々それを聞くために待ってたのか。
 しかしあまり言いたくは無い。
 ただでさえ普段から顔を合わせる度に俺が無能である事を煽り散らしてくるんだ。
 刻まれた固有魔術がどういう物かを知れば、どんな反応が返ってくるかは分かっている。
 それでもいずれ知られるだろうから、正直に話しておく事にした。

「触れた魔術と……それから触れた魔術師が使える固有魔術以外の魔術。そういうのを劣化させてコピーする力だった」

「劣化ってどの位だ」

「……大体十分の一位だよ」

「十分の一……か。そうか」

 一瞬何かを考えるような意味深な間を空けた後、ロイドは嫌な笑みを浮かべた。

「じゃあお前の固有魔術は全く役に立たなそうだな。本当にお前は魔術師向いてねえよ」

 そう言って俺の事を鼻で笑った兄貴は一拍空けてから言う。

「だからまあ良かったんじゃねえの? 中途半端な術式が刻まれるより今みたいに使い道のねえゴミが刻まれた方が」

「何が言いたいんだよ兄貴」

「これでもう変に希望持たねえで諦めが付くだろ。お前に才能は無い。そんで頼みの綱の固有魔術もゴミと来たんだ。どうやったって魔術師としては碌な道が残ってねえよ。だからこれ以上意味の無い無駄な時間を過ごす事はねえだろ。さっさと荷物纏めとけよ無能」

 言いたいことを言うだけ言って。兄貴は笑い声をあげて、俺を横切って去っていく。
 そんな背中を睨みながら心中で吐き捨てる。

 ……分かってる。全部俺が無能だから悪い。それは分かっている。

 だけど兄貴の事は嫌いだ。大嫌いだ。
 親父達と違って昔は優しかったのに。
 出来損ないの俺の手を引いてくれていた筈なのに。

 そんな綺麗な記憶にある面影は微塵にも残っていない。
 兄貴の事は……今は嫌いだ。本気でいなくなって欲しいと考える位に。

「……帰るか」

 寮に帰ってやれる事はやろう。
 絶対に荷物は纏めない。
 纏めてたまるか。

 そう思いながら視線を正面に戻すと、廊下の曲がり角に隠れて僅かに顔をぴょこんと出してこちらに向けられている視線に気づいた。

 俺はまだ残っていたであろう険悪な表情を無理矢理掻き消して、作り笑いを浮かべる。

「そんな所でなにしてんだアイリス」

「あ、いや、どうなったかなって……ちょっと心配でさ。そしたらなんか怖い人と話してるし……流石にそこに割り込む勇気はボクには無いよ。そんな訳で、此処に隠れて待機していた訳さ」

 そう言うのは俺のクラスメイト。
 ボクなんて一人称をしてるけど、ショートカットが良く似合う整った顔とか、高い声とか小さめの背丈とか……その、なんというか……胸元とか。そういう所を見れば確実に分かる通り女子。

 そして……この学園唯一の俺の友達である。

「それでどうだったんだい? あのハゲはキミの固有魔術にどんな反応してた?」

「事前に想像してた通りだよ。罵り罵り&罵り。そんでそれが正論で反論の余地が無いのが死ぬ程腹立つ」

 あのハゲにも。そして言い返せない自分にも。

「……そっか」


 アイリスは複雑な表情を浮かべた後そう言って、それでもやがて前向きな表情を浮かべて俺の目を見て言う。
「でもキミはまだ諦めていないんだろう?」

「当然。こんな所でドロップアウトする訳にはいかねえんだよ俺は」

「知ってた」


 そう言って笑みを浮かべたアイリスは、一拍空けてから言う。

「ところでユーリ君。この後空いてるかい?」

「ん? ああ、一応空いてるけど」

 嘘だ。空いている時間なんてあるわけがない。
 もう時間がないんだ。

 追試までにやれる事をやって。
 やれる事をやって。
 とにかくやれるだけの事をやって。

 1パーセントでも良い。
 追試に合格できる可能性を高めておく必要がある……だけど。

 自分が崖っぷちの立場であるからこそ、今まで自分を支えてくれた友達の誘いだけは無下にはできない。
 認めたくは無いけれど……アイリスと顔を合わせる機会なんて、もうあまりないかもしれないんだから。
 そしてアイリスは言う。

「だったらちょっとボクの部屋に来てくれないか? 時間がないキミに頼むのは少しきが引けるけど……少し手伝って欲しい事があるんだ」

「手伝ってほしい事? 何するんだ?」

「それは着いてから話すよ。で、どうだい? 手伝ってくれるかい?」

「分かった。なんか知らねえけど手伝うよ。任せとけ」

 アイリスに時間を割くのは構わないし、何か頼みがあるなら尚更だ。
 一体何を手伝わされるのかは分からないが、時期的に大体の予想は付くし……だとすれば手伝わないという選択肢は無い。

 手伝う事でアイリスの未来を変えられるなら、やれるだけの事を全部やってやりたい。
 やらなければならない。変えなければならない。だってそうだ。

「やった。流石ユーリ君だ。じゃあ行こうか」

 そう言って笑う俺の友達は、正当な評価の元で退学の危機に瀕している俺とは違う。

 頑張って。
 努力して。
 評価されなければおかしいような事を山程やっていて。

 それでも不当な評価を下されて退学の危機に瀕しているのだから。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

どうも、命中率0%の最弱村人です 〜隠しダンジョンを周回してたらレベル∞になったので、種族進化して『半神』目指そうと思います〜

サイダーボウイ
ファンタジー
この世界では15歳になって成人を迎えると『天恵の儀式』でジョブを授かる。 〈村人〉のジョブを授かったティムは、勇者一行が訪れるのを待つ村で妹とともに仲良く暮らしていた。 だがちょっとした出来事をきっかけにティムは村から追放を言い渡され、モンスターが棲息する森へと放り出されてしまう。 〈村人〉の固有スキルは【命中率0%】というデメリットしかない最弱スキルのため、ティムはスライムすらまともに倒せない。 危うく死にかけたティムは森の中をさまよっているうちにある隠しダンジョンを発見する。 『【煌世主の意志】を感知しました。EXスキル【オートスキップ】が覚醒します』 いきなり現れたウィンドウに驚きつつもティムは試しに【オートスキップ】を使ってみることに。 すると、いつの間にか自分のレベルが∞になって……。 これは、やがて【種族の支配者(キング・オブ・オーバーロード)】と呼ばれる男が、最弱の村人から最強種族の『半神』へと至り、世界を救ってしまうお話である。

身寄りのない少女を引き取ったら有能すぎて困る(困らない)

長根 志遥
ファンタジー
命令を受けて自らを暗殺に来た、身寄りのない不思議な少女エミリスを引き取ることにした伯爵家四男のアティアス。 彼女は彼と旅に出るため魔法の練習を始めると、才能を一気に開花させる。 他人と違う容姿と、底なしの胃袋、そして絶大な魔力。メイドだった彼女は家事も万能。 超有能物件に見えて、実は時々へっぽこな彼女は、様々な事件に巻き込まれつつも彼の役に立とうと奮闘する。 そして、伯爵家領地を巡る争いの果てに、彼女は自分が何者なのかを知る――。 ◆ 「……って、そんなに堅苦しく書いても誰も読んでくれませんよ? アティアス様ー」 「あらすじってそういうもんだろ?」 「ダメです! ここはもっとシンプルに書かないと本編を読んでくれません!」 「じゃあ、エミーならどんな感じで書くんだ?」 「……そうですねぇ。これはアティアス様が私とイチャイチャしながら、事件を強引に力で解決していくってお話ですよ、みなさん」 「ストレートすぎだろ、それ……」 「分かりやすくていいじゃないですかー。不幸な生い立ちの私が幸せになるところを、是非是非読んでみてくださいね(はーと)」 ◆HOTランキング最高2位、お気に入り1400↑ ありがとうございます!

悪役顔のモブに転生しました。特に影響が無いようなので好きに生きます

竹桜
ファンタジー
 ある部屋の中で男が画面に向かいながら、ゲームをしていた。  そのゲームは主人公の勇者が魔王を倒し、ヒロインと結ばれるというものだ。  そして、ヒロインは4人いる。  ヒロイン達は聖女、剣士、武闘家、魔法使いだ。  エンドのルートしては六種類ある。  バットエンドを抜かすと、ハッピーエンドが五種類あり、ハッピーエンドの四種類、ヒロインの中の誰か1人と結ばれる。  残りのハッピーエンドはハーレムエンドである。  大好きなゲームの十回目のエンディングを迎えた主人公はお腹が空いたので、ご飯を食べようと思い、台所に行こうとして、足を滑らせ、頭を強く打ってしまった。  そして、主人公は不幸にも死んでしまった。    次に、主人公が目覚めると大好きなゲームの中に転生していた。  だが、主人公はゲームの中で名前しか出てこない悪役顔のモブに転生してしまった。  主人公は大好きなゲームの中に転生したことを心の底から喜んだ。  そして、折角転生したから、この世界を好きに生きようと考えた。  

【完結】実はチートの転生者、無能と言われるのに飽きて実力を解放する

エース皇命
ファンタジー
【HOTランキング1位獲得作品!!】  最強スキル『適応』を与えられた転生者ジャック・ストロングは16歳。  戦士になり、王国に潜む悪を倒すためのユピテル英才学園に入学して3ヶ月がたっていた。  目立たないために実力を隠していたジャックだが、学園長から次のテストで成績がよくないと退学だと脅され、ついに実力を解放していく。  ジャックのライバルとなる個性豊かな生徒たち、実力ある先生たちにも注目!!  彼らのハチャメチャ学園生活から目が離せない!! ※小説家になろう、カクヨム、エブリスタでも投稿中

最強無敗の少年は影を従え全てを制す

ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。 産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。 カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。 しかし彼の力は生まれながらにして最強。 そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。

異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします

Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。 相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。 現在、第四章フェレスト王国ドワーフ編

国外追放ですか? 承りました。では、すぐに国外にテレポートします。

樋口紗夕
恋愛
公爵令嬢ヘレーネは王立魔法学園の卒業パーティーで第三王子ジークベルトから婚約破棄を宣言される。 ジークベルトの真実の愛の相手、男爵令嬢ルーシアへの嫌がらせが原因だ。 国外追放を言い渡したジークベルトに、ヘレーネは眉一つ動かさずに答えた。 「国外追放ですか? 承りました。では、すぐに国外にテレポートします」

処理中です...