劣化の最強魔術師 ~学園最弱の魔術師がゴミスキル『劣化コピー』で人知を超えた魔術をコピーした結果~

山外大河

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一章 覚醒の日

4 醜悪な空間

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 本日は祝日。この日のベルドット魔術学園は一部生徒を除き授業が無く、故に追試会場である第二魔術競技場には当事者を除けば、用も無いのに足を運ぶような暇人でもない限り足を運ぶ学生はいない筈だけどこの日、競技場には嫌な顔が勢揃いだった。

「お、待ってたぞお二人さん」

「態々休みに皆で応援に来たんだ。かっこいい所見せてくれよ」

 38人。クラスメイト全員が、態々休みの日に出向いて気持ち悪い笑みを浮かべて俺達を待ち構えていた。

「そういやユーリ。お前の固有魔術、なんの努力も無しに人様の努力を劣化させてパクる力らしいじゃねえか。どうだ? 薄味にはなってると思うが甘い汁は啜れたか?」

「……」

「アイリスさんもそろそろ夢から覚めた? 意味の分からない妄想ばかり書いてないで現実見ないと駄目だよー」

「……」

 当然、応援なんてするつもりなんて全く無いのだろう。
 そんな気持ちがある訳が無い。

 お前らがそういう奴らなら、俺達はまだ学生寮に居る。
 お前らと切磋琢磨前へと進もうとしている。

 でもそうはならなかった。

「あれ? 返事がありませんね」

「緊張しているのかしら」

「まあ気軽に行こうぜ。気の持ちようがどうであれ結果は変わらねえんだから」

 そんな風に、ケタケタと笑う声が響き渡る。

 寒気がする。
 頭が痛い。
 気持ち悪い。
 不快で不快で仕方がない。

 とにかく、できる事ならアイリスの目と耳を塞いでやりたい。

 ……ああ、そうだ。

 俺みたいな無能が罵られるのは。
 馬鹿にされるのはこの際もういい。

 良くないけど……いいんだよ。

 これまで浴びてきた暴言の半分以上はただ言葉の圧の強い正論なんだから。
 今言われた固有魔術の事だって事実そういう力なんだから、何も間違っていない。

 だけどアイリスは駄目だ。

 お前らよりずっと才能があって。
 お前らよりずっと努力していて。
 お前らなんかよりずっと立派な奴で。

 そんな奴が馬鹿にされるのだけは、絶対に駄目だ。

 見返してやりたい。
 見返してやりたい。
 見返してやりたい。

 こいつらにアイリスは凄いんだって所を見せつけてやりたい。

 でも……どうすればいい。

「……くそ、シカトかよ。つまんねえ」

 俺達がただ精一杯沈黙を貫いていると、クラスメイトの一人がそう言って大きなため息を吐いて、不機嫌そうに拳を鳴らす。
 その音を聞いて、自然と肩が震えた。

「お、やっとまともな反応見せたなユーリ。でもまあ安心しろよ。ただ指を鳴らしただけだ。寮に居た頃みたいに魔術の特訓に付き合って貰おうって訳じゃねえ。怪我して追試に落ちた理由にされても困るからな」

 そう言って笑い出し、伝播し、全員が笑い出して。
 そんな吐き気がするような笑い声が一通り病んだ後、クラスメイトの一人が言う。

「さあそろそろ時間だろ。さっさと行けよ。ハゲが待ってるぜ」

 ……言われなくても。

「「……」」

 結局、その場は一切言葉を発さず。
 頑張って沈黙を貫き通して、俺達はハゲの元へと向かう。

「……大丈夫かい?」

「大丈夫」

 アイリスが居てくれなければ危なかった。

「お前こそ大丈夫か?」

「うん、平気」

「……そっか」

 全然平気な顔はしていなかったけど。どう見たって取り繕った表情をしているけれども。

 きっと、お互いに。





 競技場内の事務室に居るハゲの元で、事務的に今日取り行う追試内容の確認が行われた。

 やる事はただ一つ。
 制限時間内にハゲの魔術により作り出された試験用のゴーレムの破壊。

 使用魔術の制限などはなく、ただゴーレムを破壊し行動を停止させれば良いというだけのシンプルな試験内容。
 それ故に実力がダイレクトに結果に反映される。
 それ故に俺達の前に、抜け道の無い大きな壁となって立ち塞がる。

「まさかとは思うが質問は無いだろうな。いくら無能なお前らでもこんな簡単な試験内容位は理解できるだろう」

「「……はい」」

 ハゲの言葉に苛立ちを募らせながらも俺達は頷く。

「よろしい。なら早い所始めよう。本来私の時間に前達に割けるリソースなど無いのだ。一分一秒の価値がお前らとは違うのだよ」

 そう言ってハゲはアイリスの方に視線を向ける。

「にもかかわらずお前は何度も何度も何度も。意味の分からない落書きを何度も見せに来てくれたな。あれほど無駄な時間はない。今後はそれが無くなると思うとせいせいするよ」

「……落書きなんかじゃ」

 ボソりと溜め込んでいた水が溢れ出るように、アイリスの口からそんな言葉が零れ出る。
 ずっと溜め込んできたような、そんな言葉。
 それに対してハゲは言う。

「文句があるなら証明してみればいい。それが出来れば私もお前を認めよう」

 やれるもんならやってみろと、そう挑発するように。

「さ、アイリス・エルマータ。まずはお前からだ。着いて来なさい」

 そして先導するようにハゲが競技場に向けて歩き出す。

「……じゃあ、行ってくるよ。やれるだけの事はやってくる」

「ああ……頑張れ」

「……うん」

 そしてきっと無理して作ったであろう笑みを浮かべて、アイリスは戦いに赴いた。


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