最強聖女は追放されたので冒険者になります。なおパーティーメンバーは全員同じような境遇の各国の元最強聖女となった模様。

山外大河

文字の大きさ
62 / 280
一章 聖女さん、追放されたので冒険者を始めます。

53 聖女さん達、踏み止まる

しおりを挟む
「世界的な何か……それってつまり何かを企んでいる誰かがいて、その為に私達を同時期に追放させたって事?」

「俺はその可能性もあるんじゃねえかって思ってる。過去の歴史を遡って考えても愚かな権力者って奴は山のように出てくるが、今回のパターンみたいな酷いケースはそうあるもんじゃねえと思っている。だから実際の所は王のご乱心ってよりは誰かが無理矢理そうなるように暗躍してたって感じで」

「む、無理矢理そうなるように暗躍って……そんな事できるんですかね?」

「まあ無理では無いでしょ」

 シルヴィの言葉に私は答える。

「極端な話を言えば、強力な魔術で主要な人間全員を洗脳して回ればそれで終わるよ」

「そういう事だ。それにしたって無茶苦茶な話だとは思うが、ガチで私情全開で追放されまくってるってのよりはよっぽど現実味があるとは思わねえか」

「確かに、そっちの方が現実味がありそうだね」

 ……とはいえ。

「あくまで比較的にだけど」

 結局アホの色恋沙汰に巻き込まれて追放された説よりも現実味があるってだけ。

「まあ確かに仮にそうだとしても、それはそれで現実味はねえしな……」

「魔術でどうにかするってのにも限度があるっすからね……」

「というか流石にそういう異常は私達なら気付きそうだし」

 思い返してみるけど、あのアホを含めた周囲の人間はいつも通りだった。
 アホがいつも通りアホな事を言ってこの結果になっている。
 流石に度が過ぎたとは思ってるけど、あのアホならやりかねない。

「……まああくまで第三者がそう思ったってだけの話だ。実際マジでただのご乱心が重なっただけの可能性もある」

「なんか良く分かんないけど……そうであってほしいよね」

「いやそれはそれで嫌じゃないっすか?」

「いや、嫌だけど……まあ逆にアホのご乱心じゃなきゃ洒落にならない事に発展しちゃってる可能性もある訳だし」

「まあそうだな。洒落にならねえ世界の危機って奴だよ」

「ぐ、具体的にどう危ないのかは分かんないですけどね」

 ……本当にそう。
 誰かが暗躍みたいな事をしていたとして、そうする事で何をしようとしているのかは分からない。
 そして調べるのも難しいと思う。
 私達は各々国を追放されていて。
 それが本気でただのアホのご乱心だった場合、調べても何も見つからない可能性だって大きくて。
 正直不当に追放されているし、何なら未だに国内に持ち家で済んでいる私が言うのもなんだけど、あの国に戻るのは普通に犯罪だ。
 何かあっても力でねじ伏せる自信があっても……リスクが大きい。

 だからもう私達は新しい人生を歩みだしてる状態な訳だから……綺麗にあのアホ絡みの事を忘れられるように、普通にご乱心であってほしいと思う。

 思うけど。

「でももし本当に誰かが暗躍した結果が今だったら……あの黒装束の二人もそれこそ同じような立場なのかも」

 女の子の方がおそらく聖女。
 そして男の方は、確かに殺意は向けて来たけど、明らかに悪人とはかけ離れた倫理観を持っていた。

「例えばだけど……暗躍している何かに対抗する為の何かをしていた、とか」

「な、なんだか徐々にピースが嵌って行ってる感じがしますね」

 シルヴィがそう言うけど……綺麗に嵌れば=洒落にならない事態かもしれないって事だから、正直嵌んないで欲しいんだけど。

「それに……」

 そして同じくピースを埋めるようにクライドさんが何かを言おうとしたけど。

「……いや、何でもねえ」

 どこか思いとどまるように、そこから先の事は言おうとはしなかった。

「え、なんか分かったんじゃないんすか部長」

「いーや。何も分からねえよ。つーか何話しても憶測に憶測を重ねていくだけだ。結局答えなんて見えてこねえ」

 そしてこの話を一旦締めるようにクライドさんは言う。

「まあこれは助言程度に思ってくれればいいが……下手に動くなよ。あくまで今の話は全部憶測にすぎねえんだ。下手に動いて空振りだったらそれこそ洒落で済まねえぞ」

 さっき私が少し危惧した事をクライドさんは言ってくれる。
 だけど……まあ、言われなくても動かない。

「その辺は大丈夫。流石に目に見えて何かが起きたんだとしたら動くかもしれないけど……まあ、ここまで不確定な事が多くてリスクばかりなんだったら何もしない。別に私、世の為人の為に自分犠牲に出来るような立派な人間じゃないからさ」

 私が正義の味方でもやっていたら話は別かもしれないけど……うん、結局の所私はそういう人間じゃないから。
 まず自分が居て。
 その周りに関係性を持った人間が居て。
 その延長線上に世界がある。

 だから……私が動くにはまだ早い。

 そして幸いと言って良いのかは分からないけどシルヴィとステラも大体そういう考えみたいだった。

「わ、私もそうですね……その、もし本当にそうだってなったら何かをするとは思いますけど……今はまだ動かないかなって」

「俺も同感だな。何より……俺、今の生活気に入ってるからさ。それ壊すような真似はしたくねえんだ」

 二人も私に続いてそう言ってくれた。
 ……良かった。一回様子見てくるとか言い出したらどう止めようって頭悩ませる所だったよ。
 そしてシズクも同じみたいだった。

「ボクもそうすね。今の生活というか……その、この職場気に入ってるっすから。もう此処を今飛び出す気にはなれねえっすね」

「今弾き出されそうだけどな」

「あの……ほんと、マジで頼むっすよ部長」

 と、まあ私達のそんな反応を見て、クライドさんはどこか安心したように言う。

「まあとにかく、あまり変な事に首突っ込まねえで、この国での新しい生活をエンジョイしてってくれよ、冒険者さん」

 ……そう、もう私達の新しい生活は始まっているんだ。
 今回の事について全く何も考えなくていい訳じゃないと思うけど……それでも。

 今はこれからの新しい生活を楽しんでいこうと思うよ。
しおりを挟む
感想 17

あなたにおすすめの小説

タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。

渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。 しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。 「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」 ※※※ 虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。 ※重複投稿作品※ 表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。

召喚失敗!?いや、私聖女みたいなんですけど・・・まぁいっか。

SaToo
ファンタジー
聖女を召喚しておいてお前は聖女じゃないって、それはなくない? その魔道具、私の力量りきれてないよ?まぁ聖女じゃないっていうならそれでもいいけど。 ってなんで地下牢に閉じ込められてるんだろ…。 せっかく異世界に来たんだから、世界中を旅したいよ。 こんなところさっさと抜け出して、旅に出ますか。

金貨増殖バグが止まらないので、そのまま快適なスローライフを送ります

桜井正宗
ファンタジー
 無能の落ちこぼれと認定された『ギルド職員』兼『ぷちドラゴン』使いの『ぷちテイマー』のヘンリーは、職員をクビとなり、国さえも追放されてしまう。  突然、空から女の子が降ってくると、キャッチしきれず女の子を地面へ激突させてしまう。それが聖女との出会いだった。  銀髪の自称聖女から『ギフト』を貰い、ヘンリーは、両手に持てない程の金貨を大量に手に入れた。これで一生遊んで暮らせると思いきや、金貨はどんどん増えていく。増殖が止まらない金貨。どんどん増えていってしまった。  聖女によれば“金貨増殖バグ”だという。幸い、元ギルド職員の権限でアイテムボックス量は無駄に多く持っていたので、そこへ保管しまくった。  大金持ちになったヘンリーは、とりあえず念願だった屋敷を買い……スローライフを始めていく!?

存在感のない聖女が姿を消した後 [完]

風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは 永く仕えた国を捨てた。 何故って? それは新たに現れた聖女が ヒロインだったから。 ディアターナは いつの日からか新聖女と比べられ 人々の心が離れていった事を悟った。 もう私の役目は終わったわ… 神託を受けたディアターナは 手紙を残して消えた。 残された国は天災に見舞われ てしまった。 しかし聖女は戻る事はなかった。 ディアターナは西帝国にて 初代聖女のコリーアンナに出会い 運命を切り開いて 自分自身の幸せをみつけるのだった。

「魔道具の燃料でしかない」と言われた聖女が追い出されたので、結界は消えます

七辻ゆゆ
ファンタジー
聖女ミュゼの仕事は魔道具に力を注ぐだけだ。そうして国を覆う大結界が発動している。 「ルーチェは魔道具に力を注げる上、癒やしの力まで持っている、まさに聖女だ。燃料でしかない平民のおまえとは比べようもない」 そう言われて、ミュゼは城を追い出された。 しかし城から出たことのなかったミュゼが外の世界に恐怖した結果、自力で結界を張れるようになっていた。 そしてミュゼが力を注がなくなった大結界は力を失い……

防御力を下げる魔法しか使えなかった俺は勇者パーティから追放されたけど俺の魔法に強制脱衣の追加効果が発現したので世界中で畏怖の対象になりました

かにくくり
ファンタジー
 魔法使いクサナギは国王の命により勇者パーティの一員として魔獣討伐の任務を続けていた。  しかし相手の防御力を下げる魔法しか使う事ができないクサナギは仲間達からお荷物扱いをされてパーティから追放されてしまう。  しかし勇者達は今までクサナギの魔法で魔物の防御力が下がっていたおかげで楽に戦えていたという事実に全く気付いていなかった。  勇者パーティが没落していく中、クサナギは追放された地で彼の本当の力を知る新たな仲間を加えて一大勢力を築いていく。  そして防御力を下げるだけだったクサナギの魔法はいつしか次のステップに進化していた。  相手の身に着けている物を強制的に剥ぎ取るという究極の魔法を習得したクサナギの前に立ち向かえる者は誰ひとりいなかった。 ※小説家になろうにも掲載しています。

追放された私の代わりに入った女、三日で国を滅ぼしたらしいですよ?

タマ マコト
ファンタジー
王国直属の宮廷魔導師・セレス・アルトレイン。 白銀の髪に琥珀の瞳を持つ、稀代の天才。 しかし、その才能はあまりに“美しすぎた”。 王妃リディアの嫉妬。 王太子レオンの盲信。 そして、セレスを庇うはずだった上官の沈黙。 「あなたの魔法は冷たい。心がこもっていないわ」 そう言われ、セレスは**『無能』の烙印**を押され、王国から追放される。 彼女はただ一言だけ残した。 「――この国の炎は、三日で尽きるでしょう。」 誰もそれを脅しとは受け取らなかった。 だがそれは、彼女が未来を見通す“預言魔法”の言葉だったのだ。

聖女が降臨した日が、運命の分かれ目でした

猫乃真鶴
ファンタジー
女神に供物と祈りを捧げ、豊穣を願う祭事の最中、聖女が降臨した。 聖女とは女神の力が顕現した存在。居るだけで豊穣が約束されるのだとそう言われている。 思ってもみない奇跡に一同が驚愕する中、第一王子のロイドだけはただ一人、皆とは違った視線を聖女に向けていた。 彼の婚約者であるレイアだけがそれに気付いた。 それが良いことなのかどうなのか、レイアには分からない。 けれども、なにかが胸の内に燻っている。 聖女が降臨したその日、それが大きくなったのだった。 ※このお話は、小説家になろう様にも掲載しています

処理中です...