最強聖女は追放されたので冒険者になります。なおパーティーメンバーは全員同じような境遇の各国の元最強聖女となった模様。

山外大河

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二章 聖女さん、新しい日常を謳歌します。

14 黒装束の男、自らの目的の片鱗を語る

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「いや、ちょっと待って。国民全員を洗脳ってそんな事できなくない? あまりにもスケールが大きいというか……もう今更身バレ気にしないんだったら教えて欲しいんだけど、人口何万人位いるの?」

「1000万人弱といった所か。ああ、さっき全員とは言ったがあれは実質の話だ。一定以上の耐性がある魔術師や一部の国民は影響を受けなかったようだ。だから1000万人の内の九割九分といった所か」

「いや数字上殆ど変わってないじゃん。とにかく、それがほぼ全員ってなると尚更無茶苦茶だね」

 私はそういう魔術は使えないけど、仮にできてもそんな規模で使えるとは思えないし。
 それに対して男は言う。

「俺もそう思う。無茶苦茶だよ。だが実際にそういう事態が起きた。そして一応術式の仮説は立てられる」

「どんな?」

「効力よりも効果範囲重視。対象を意のままに操るのではなく精々暗示を掛けるような。そういう術式を薄く広く国中に張り巡らせる。兵士達は簡易的ではあるが魔術体制のある兵装を身に付けてはいるが、一般国民は基本的にはそういった耐性は持っていないからな。そして耐性を持っていない人間はダイレクトにその影響を受ける。効力はその程度で良い。そういう事を考えると、ある一つの目的へ向けて感情を動かすというのは案外可能なのではないかと思う」

「……まあそれならやろうと思えば……いや、やっぱり難しくないかな?」

「それでも無理と断言できないだろう? だとすればその分野で自分達より一歩先へ進んだ者なら成し遂げられる可能性がある訳だ」

「まあ……確かに。じゃあとりあえずそういう術式が使われたってっ事で」

 それに関しては深く頷ける。
 自分の頭の中にある事だけが全てじゃない。
 文献として残され広まっている知識だけが全てじゃない。
 私が私の研究で作り出して公にしていない術式がいくつかあるように、私にはまだ先の領域に思える術式も、きっと誰かの頭の中には存在する。
 それこそ……もう何年も顔もみていないあのクズの頭の中にもあると思うし。
 だから、無理だって断言はしない。

 色々と引っ掛かりはしても、あるかもしれないという考えで落ち着く。

 ……で、そういう術式が使われたとして。

「それで……なんか傷抉るような事聞いてる気がするんだけど、最終的にどうなったの?」

「クーデターは大成功。勿論やれるだけの抵抗はしたが、最終的にはこちらの大敗だ。最終的にあの動ける人員でやれるだけの事をやって、あの方を国外に連れ出すので精一杯だった」

「……」

 まあ、さっきからの話を聞いてて予想していた通りの答えだ。
 何かうまく手を打って解決したなんてご都合主義みたいな回答は返ってこない。

 ……そしてなんとなく読めてくる。

「つまりアンタ達がやってる何かは、そんな風にどうしようもない事になった国を救う為なんだ」

「そういう事になるな……っと、流れで言いそうになったがやっている事の詳細までは話せんぞ」

「別に良い……ただ、一つだけいい?」

 此処まで聞くと、どうしてもこういう事を聞かないといけなくなる。

「あの時も今も、アンタはやってる事を隠そうとしている訳だけど、正直隠す必要ある? やってる事が真っ当ならもっとオープンにしても良いんじゃないかな?」

「そんな簡単な事ではないんだ」

 男は言う。

「今俺が語った話を全ての人間が二つ返事で信じる訳ではない。そもそも俺達は端からみれば多くの国民の支持を失い反乱された旧体制側の人間だ。正攻法で事を進めても中々うまくはいかんだろうし、仮に行っても時間が掛かる。現状一千万人の国民を人質に取られて何かが行われている状況だからな。悠長にしていられない。そもそも最早どこの誰が敵と繋がっているのかも分からないしな」

「なるほど……でも此処まで長々と色々話した私にも説明しない理由は? まさかアンタの言う敵と繋がってるかもって思ってる?」

「いや、お前がそうだった場合、俺はあの山で俺を殺す戦い方をしてきた筈だ。ああいう温い戦い方をしてきた時点でそうでは無い事位は分かるさ…………一応確認しておくが違うよな?」

「何不安になってるの? 違う違う。今聞いてる情報全部初耳だから私」

「そうか」

 そう言って男は少し安堵する様子を見せる。

 というかマジで敵だったとして、敵ですとは言わないでしょ。アホなのかな?
 ……まあとにかく。

「で、これで話せない理由は?」

「そうだな……まあ単純な話だよ。これはお前だけでなく他の全ての人間に言える事だ」

 そして男は一拍空けてから言う。

「俺達が取ろうとしている手段は99パーセントうまく行く。だがもし失敗すれば周囲……主にこの国にとても大きな厄災を齎す事になる。此処まで言えば俺の言いたい事は理解できるか?」

「ああ、なるほど……理解できたよ。それは確かに難しいね」

 もし私がそっちの立場なら、多分同じ選択をしていると思う。

「1パーセントは不特定多数の人間の命をベッドするにはあまりにも大きい。そう言いたいんだよね?」

「ああ。その通りだ。俺がそっちの立場なら止めるさ。止めて他の策を模索するよう説得する。お前もそうだろう?」

「……うん」

 素直に頷いた。
 実際止める。流石に止める。
 被害に合うのが、正直愛着も何もない元々私が居た国でも止めるし……そしてこの国はまだ来て大した時間は経っていないけど……この国には皆が居て。今の私の居場所みたいなもので。
 それが壊れるかもしれない事態は、より一層看過できない。

 止めて、別の案を模索するように言う。
 ……だけど。

 まず間違いなく目の前の男は、そういう別の案を模索して模索して模索して、それでも見つからないからそういう手段を取っている。

 無関係な人間に1パーセントの確率で危害が加わる選択を選んでいる。

「正直で良い。そしてその選択は正しい。どちらが間違っているかと言われれば圧倒的に俺達の選択が間違っているんだ」

「いや、でも、間違い……って事も無いんじゃないかな?」

「間違いだよ。俺達は人の行いとして間違った事をやっている」

 だから、と男は言う。
 本当に、真剣な表情で。

「お前達はこういう選択肢の前に立つ前に、やれるだけの事はやっておけ。こう言っては何だが、お前達の場合まだ聖女が追放されている程度には穏便に事が進んでいるんだ。ならばきっと俺達のような選択を取らなくとも盤面を引っくり返せる筈だ」
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