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二章 聖女さん、新しい日常を謳歌します。

38 聖女さん達、血の気が引く

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 さっきの部屋で大勢相手に戦った後、しばらく走っていたけど敵とは遭遇しなかった。

「全然向かってくる奴いないけど、これさっきので倒しつくした感じかな?」

「結構な数が集められていたんだ。それも考えられるが……油断するな」

「分かってる」

 流石に油断はできない。
 できる訳が無い。

「アレ操ってた奴は大した事ない相手だと思うけど、この空間作り出している魔術師は絶対強い」

「ああ。だから俺達が安心できるのは無事今回の一件を解決した後か、もしくはその魔術師を撃退した時という事になるな」

 と、そんなやり取りを交わしながら、私達は再び開けた部屋へと足を踏み入れる。

 何も無い。
 誰も居ない。
 そんな場所。

 そういう所をこれまでも何度か素通りしてきた。
 だから此処も同じように進んでいく……つもりだった。

「「……ッ」」

 私達はほぼ同時に立ち止まり、臨戦態勢を取る。

「……なに?」

 正面、部屋の中心付近に突然円形の黒い影の様な物が発生した。
 既視感……これから私達がぶん殴りに行く相手が使っていた物と同じように思える。
 そしてその影からせりあがってくるように男がその場に出現する。

 二十代半ば程の落ち着いた男。
 少なくとも、さっきまで戦ってたクズみたいに、存在自体がうるさいみたいな感じはしない。
 だとしたら操ってるにしても本体だとしても……全く別の相手?

 そんな推測は……次の瞬間には当たっていると察する事が出来た。

「……」

 感じ取れた。
 あまりにも重い威圧感。

「……ッ!?」

 相対しただけでコイツは本当の意味でヤバいと……血の気が引いた。
 こんな感覚は初めてだ。

 手足が震える。
 脳が全身に向けて逃げた方が良いと訴えている。

「……どうするベルナール」

 ルカが重い声音で言う。

「お前一人が逃げる時間位なら、なんとか稼げると思うが」

「はぁ!? アンタ何言って――」

 そう言うルカの手にはいつの間にか刀が握られている。
 もう綺麗事なんて言っていられない。

 そういう相手だと言いたいように。
 信条を捨ててでもそういう相手からなんとか逃がそうとしてくれているように。

 だけど、そういう相手だからこそ。

「……気持ちだけ受け取っとくよ。気持ちだけね……アンタには私より優先しないと駄目な子がいるんだから。命張るならその子の為に張ってよ」

 言いながら風属性の魔術を発動する。

「此処は私達二人で突破する。私は死なないし、アンタも死なせない」

「……そうか。ほんと、もう二度と敵に回したくはないよお前は」

 そう言ってルカは刀を構える。

「いいか! 此処から俺がアイツを殺してもそれは俺が一人で勝手にやった事だからな!」

「いや、それは共犯でしょ! 勝手に一人で背負うな!」

 マジで勘弁してほしいけど、そうなったらつまりそういう事だ。
 いやほんとマジで勘弁してほしいけど……うん、そういう事だよ。

 今私達は共闘してるんだからさ。
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