最強聖女は追放されたので冒険者になります。なおパーティーメンバーは全員同じような境遇の各国の元最強聖女となった模様。

山外大河

文字の大きさ
180 / 280
二章 聖女さん、新しい日常を謳歌します。

50 聖女さん達VS聖女の父親

しおりを挟む
 まず最初に動いたのは目の前の男か女かも分からない人間だった。
 男の周囲に魔方陣が展開される。
 大きくて、明らかにヤバそうな奴。

 さあ、どう動く。

 さっきの男を目の前の人間が操っていたのだと仮定すれば、多分この男は同じことができる。
 それも自分だけで完結して魔術を行使できるのだから、あの男よりもより高い精度で。

 そう考えると当然舐めては掛かれない。
 馬鹿正直にいきなり距離は詰められない。
 一旦色々魔術をスタンバりながら待機だ。

「……?」

 だけど何も起きない。
 ただ魔方陣が出現しているだけ。
 ……発動までに時間がかかる術式?
 いや、でもこの状況で誰のサポートも無しに無防備に一からそんな物を組み上げられるとは思えない。
 そんな馬鹿な行動をしてくるとは思えない。
 じゃあ一体……まさか。

「「……」」

 そして同じ事を考えていたらしいステラとアイコンタクトを取った次の瞬間に、私達二人は最高速で敵との距離を詰める。
 すると敵は先の男よりも更に一段早い反応と速度で横に飛び躱す。
 魔方陣は消滅。
 移動しながら組めるような類の術じゃないみたいだね。
 ……そして私達が悠長に強力な魔術を組めるような時間をくれるような相手じゃないって事は、先の男を操っていたなら分る筈。

 だからさっきの明らかにヤバい魔方陣はブラフだ。
 態々目立つ事をして一瞬の時間を稼いで、そして実際には魔方陣みたいな視覚情報を与えずに全く別の魔術を構築しているんだと思う。

 だとしたら、取るべき手段は一つ。
 その何かが発動する前に殴り倒す。
 それがベストだ。

 そしてステラが最速で反応して、私達の攻撃を回避した敵の前へと再び躍り出る。
 確かにこの敵は早いけど、スピードも反応速度もステラは負けていない。
 追いつける。
 寧ろ上回れる。

「っらあッ!」

 ステラの鋭い拳を敵は辛うじてという風に回避する。
 ……その光景はさっきの影を操る男と戦っていた時とあまり変わらない。
 ここから敵の反撃も飛んできて、それにカウンターを合わせるステラの姿が目に浮かぶ。
 ……だけど、違和感があった。

 目の前の敵は攻撃を躱す。なんとか防ぐ。
 だけどそこから一切攻撃へと切り返さない。
 防戦一方。
 先の男よりも動きにキレがあるのにだ。

 そうなればステラの攻撃はより苛烈な物となるし……そして。

「当たれ!」

 そこに私が加われば尚更。
 さっきの戦いよりも一発一発を放ちやすい。

 そして加わるのは私だけじゃない。
 敵がバックステップで私とステラの攻撃を辛うじて躱したその後ろに、何も無い空間から現れたミカが居る。

 つまり……何故か反撃してこない敵を相手に、先程と同様三人の数の暴力をぶつける形になる。

 そうなれば、いとも簡単に攻撃は当たる。

 ステラが放った側頭部への蹴りを防ぐように、敵は腕と結界を構える。
 その結界を軽々と砕き、そして直後敵の腕を圧し折った。

 直後後方に回り込んだミカが追撃するように殴り飛ばして……次は私だ。

 敵の顔面に、拳を叩き込む。

 そして床に叩きつけられながら地面敵を追撃するように、天井から発生した落雷が敵の体を貫いた。
 だけどそれでも相手の意識は奪いきれず、床を転がりながらも体勢を立て直した敵は空間転移の魔術で後方へと後退する。
 そして手をこちらに向け、激しく発光。

 手元に出現した魔方陣から無数の魔術で精製された弾が射出される。

 回避……いや、違う。
 動かないのが正解。

 放たれた全ての攻撃は私達に全く当たらない軌道で跳んできている。
 そしてホーミングしてくる様子も無し。
 それぞれ誰にも当たらず床へと着弾する。

 そこからの追加効果も無し。

 ……ただ一瞬私達を足止めする程度の意味しかない一撃だった。

 ……外した?
 こんなに器用に?

 いや、あえて外した?

 そう考えると浮かんでくるのは、さっきの戦いで私にだけ明らかに手を抜かれていた事実。
 今度はそれをこの場全員にしているのかな?

 ……いや、マジでなんの為に?

 まあ、知らないけどさ。

 とにかく近接ではまともな反撃をせず、中遠距離の攻撃も当てる気がない。
 ……そんなのさ、サンドバッグにしてくれ
って言ってるようなもので、私達からすれば大助かりだよ。

 コイツもさっきの奴と同じで怪我が急速に治癒していってる。
 だから絶え間なく攻撃し続けて動きを止めて、ミカに意識を奪ってもらわないといけないわけだからさ。

 だから……一発も喰らってないけど、今度はこっちの番。

 お返しとばかりに射出された、多分シズクが撃った水の弾丸が敵に叩き付けられた所で……私とステラとミカの三人で一斉に距離を詰めようとした次の瞬間だった。

 突如、私達と敵の間の何もない空間に魔方陣が展開される。

「これは……ッ!」

 この感じは多分召還魔術……ッ!
 コイツ何かを呼び出そうと……!

「あ、馬鹿! 勝手に出てくるな!」

 これまで無言を貫いていた敵が、男か女か認識できないような声でそう叫ぶ。
 え、ちょっと待って。勝手に? コイツが呼んだんじゃなくて!?

 そして何がなんだか分からない内に、魔方陣からそれは出現する。

 数人程度を乗せられる小型の黒い飛竜。
 丁度リュウ君より若干大きい位の……ってちょっと待って。

 なんかコイツ……リュウ君に似てない?
しおりを挟む
感想 17

あなたにおすすめの小説

タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。

渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。 しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。 「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」 ※※※ 虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。 ※重複投稿作品※ 表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。

召喚失敗!?いや、私聖女みたいなんですけど・・・まぁいっか。

SaToo
ファンタジー
聖女を召喚しておいてお前は聖女じゃないって、それはなくない? その魔道具、私の力量りきれてないよ?まぁ聖女じゃないっていうならそれでもいいけど。 ってなんで地下牢に閉じ込められてるんだろ…。 せっかく異世界に来たんだから、世界中を旅したいよ。 こんなところさっさと抜け出して、旅に出ますか。

金貨増殖バグが止まらないので、そのまま快適なスローライフを送ります

桜井正宗
ファンタジー
 無能の落ちこぼれと認定された『ギルド職員』兼『ぷちドラゴン』使いの『ぷちテイマー』のヘンリーは、職員をクビとなり、国さえも追放されてしまう。  突然、空から女の子が降ってくると、キャッチしきれず女の子を地面へ激突させてしまう。それが聖女との出会いだった。  銀髪の自称聖女から『ギフト』を貰い、ヘンリーは、両手に持てない程の金貨を大量に手に入れた。これで一生遊んで暮らせると思いきや、金貨はどんどん増えていく。増殖が止まらない金貨。どんどん増えていってしまった。  聖女によれば“金貨増殖バグ”だという。幸い、元ギルド職員の権限でアイテムボックス量は無駄に多く持っていたので、そこへ保管しまくった。  大金持ちになったヘンリーは、とりあえず念願だった屋敷を買い……スローライフを始めていく!?

存在感のない聖女が姿を消した後 [完]

風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは 永く仕えた国を捨てた。 何故って? それは新たに現れた聖女が ヒロインだったから。 ディアターナは いつの日からか新聖女と比べられ 人々の心が離れていった事を悟った。 もう私の役目は終わったわ… 神託を受けたディアターナは 手紙を残して消えた。 残された国は天災に見舞われ てしまった。 しかし聖女は戻る事はなかった。 ディアターナは西帝国にて 初代聖女のコリーアンナに出会い 運命を切り開いて 自分自身の幸せをみつけるのだった。

「魔道具の燃料でしかない」と言われた聖女が追い出されたので、結界は消えます

七辻ゆゆ
ファンタジー
聖女ミュゼの仕事は魔道具に力を注ぐだけだ。そうして国を覆う大結界が発動している。 「ルーチェは魔道具に力を注げる上、癒やしの力まで持っている、まさに聖女だ。燃料でしかない平民のおまえとは比べようもない」 そう言われて、ミュゼは城を追い出された。 しかし城から出たことのなかったミュゼが外の世界に恐怖した結果、自力で結界を張れるようになっていた。 そしてミュゼが力を注がなくなった大結界は力を失い……

防御力を下げる魔法しか使えなかった俺は勇者パーティから追放されたけど俺の魔法に強制脱衣の追加効果が発現したので世界中で畏怖の対象になりました

かにくくり
ファンタジー
 魔法使いクサナギは国王の命により勇者パーティの一員として魔獣討伐の任務を続けていた。  しかし相手の防御力を下げる魔法しか使う事ができないクサナギは仲間達からお荷物扱いをされてパーティから追放されてしまう。  しかし勇者達は今までクサナギの魔法で魔物の防御力が下がっていたおかげで楽に戦えていたという事実に全く気付いていなかった。  勇者パーティが没落していく中、クサナギは追放された地で彼の本当の力を知る新たな仲間を加えて一大勢力を築いていく。  そして防御力を下げるだけだったクサナギの魔法はいつしか次のステップに進化していた。  相手の身に着けている物を強制的に剥ぎ取るという究極の魔法を習得したクサナギの前に立ち向かえる者は誰ひとりいなかった。 ※小説家になろうにも掲載しています。

追放された私の代わりに入った女、三日で国を滅ぼしたらしいですよ?

タマ マコト
ファンタジー
王国直属の宮廷魔導師・セレス・アルトレイン。 白銀の髪に琥珀の瞳を持つ、稀代の天才。 しかし、その才能はあまりに“美しすぎた”。 王妃リディアの嫉妬。 王太子レオンの盲信。 そして、セレスを庇うはずだった上官の沈黙。 「あなたの魔法は冷たい。心がこもっていないわ」 そう言われ、セレスは**『無能』の烙印**を押され、王国から追放される。 彼女はただ一言だけ残した。 「――この国の炎は、三日で尽きるでしょう。」 誰もそれを脅しとは受け取らなかった。 だがそれは、彼女が未来を見通す“預言魔法”の言葉だったのだ。

聖女が降臨した日が、運命の分かれ目でした

猫乃真鶴
ファンタジー
女神に供物と祈りを捧げ、豊穣を願う祭事の最中、聖女が降臨した。 聖女とは女神の力が顕現した存在。居るだけで豊穣が約束されるのだとそう言われている。 思ってもみない奇跡に一同が驚愕する中、第一王子のロイドだけはただ一人、皆とは違った視線を聖女に向けていた。 彼の婚約者であるレイアだけがそれに気付いた。 それが良いことなのかどうなのか、レイアには分からない。 けれども、なにかが胸の内に燻っている。 聖女が降臨したその日、それが大きくなったのだった。 ※このお話は、小説家になろう様にも掲載しています

処理中です...