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二章 聖女さん、新しい日常を謳歌します。

50 聖女さん達VS聖女の父親

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 まず最初に動いたのは目の前の男か女かも分からない人間だった。
 男の周囲に魔方陣が展開される。
 大きくて、明らかにヤバそうな奴。

 さあ、どう動く。

 さっきの男を目の前の人間が操っていたのだと仮定すれば、多分この男は同じことができる。
 それも自分だけで完結して魔術を行使できるのだから、あの男よりもより高い精度で。

 そう考えると当然舐めては掛かれない。
 馬鹿正直にいきなり距離は詰められない。
 一旦色々魔術をスタンバりながら待機だ。

「……?」

 だけど何も起きない。
 ただ魔方陣が出現しているだけ。
 ……発動までに時間がかかる術式?
 いや、でもこの状況で誰のサポートも無しに無防備に一からそんな物を組み上げられるとは思えない。
 そんな馬鹿な行動をしてくるとは思えない。
 じゃあ一体……まさか。

「「……」」

 そして同じ事を考えていたらしいステラとアイコンタクトを取った次の瞬間に、私達二人は最高速で敵との距離を詰める。
 すると敵は先の男よりも更に一段早い反応と速度で横に飛び躱す。
 魔方陣は消滅。
 移動しながら組めるような類の術じゃないみたいだね。
 ……そして私達が悠長に強力な魔術を組めるような時間をくれるような相手じゃないって事は、先の男を操っていたなら分る筈。

 だからさっきの明らかにヤバい魔方陣はブラフだ。
 態々目立つ事をして一瞬の時間を稼いで、そして実際には魔方陣みたいな視覚情報を与えずに全く別の魔術を構築しているんだと思う。

 だとしたら、取るべき手段は一つ。
 その何かが発動する前に殴り倒す。
 それがベストだ。

 そしてステラが最速で反応して、私達の攻撃を回避した敵の前へと再び躍り出る。
 確かにこの敵は早いけど、スピードも反応速度もステラは負けていない。
 追いつける。
 寧ろ上回れる。

「っらあッ!」

 ステラの鋭い拳を敵は辛うじてという風に回避する。
 ……その光景はさっきの影を操る男と戦っていた時とあまり変わらない。
 ここから敵の反撃も飛んできて、それにカウンターを合わせるステラの姿が目に浮かぶ。
 ……だけど、違和感があった。

 目の前の敵は攻撃を躱す。なんとか防ぐ。
 だけどそこから一切攻撃へと切り返さない。
 防戦一方。
 先の男よりも動きにキレがあるのにだ。

 そうなればステラの攻撃はより苛烈な物となるし……そして。

「当たれ!」

 そこに私が加われば尚更。
 さっきの戦いよりも一発一発を放ちやすい。

 そして加わるのは私だけじゃない。
 敵がバックステップで私とステラの攻撃を辛うじて躱したその後ろに、何も無い空間から現れたミカが居る。

 つまり……何故か反撃してこない敵を相手に、先程と同様三人の数の暴力をぶつける形になる。

 そうなれば、いとも簡単に攻撃は当たる。

 ステラが放った側頭部への蹴りを防ぐように、敵は腕と結界を構える。
 その結界を軽々と砕き、そして直後敵の腕を圧し折った。

 直後後方に回り込んだミカが追撃するように殴り飛ばして……次は私だ。

 敵の顔面に、拳を叩き込む。

 そして床に叩きつけられながら地面敵を追撃するように、天井から発生した落雷が敵の体を貫いた。
 だけどそれでも相手の意識は奪いきれず、床を転がりながらも体勢を立て直した敵は空間転移の魔術で後方へと後退する。
 そして手をこちらに向け、激しく発光。

 手元に出現した魔方陣から無数の魔術で精製された弾が射出される。

 回避……いや、違う。
 動かないのが正解。

 放たれた全ての攻撃は私達に全く当たらない軌道で跳んできている。
 そしてホーミングしてくる様子も無し。
 それぞれ誰にも当たらず床へと着弾する。

 そこからの追加効果も無し。

 ……ただ一瞬私達を足止めする程度の意味しかない一撃だった。

 ……外した?
 こんなに器用に?

 いや、あえて外した?

 そう考えると浮かんでくるのは、さっきの戦いで私にだけ明らかに手を抜かれていた事実。
 今度はそれをこの場全員にしているのかな?

 ……いや、マジでなんの為に?

 まあ、知らないけどさ。

 とにかく近接ではまともな反撃をせず、中遠距離の攻撃も当てる気がない。
 ……そんなのさ、サンドバッグにしてくれ
って言ってるようなもので、私達からすれば大助かりだよ。

 コイツもさっきの奴と同じで怪我が急速に治癒していってる。
 だから絶え間なく攻撃し続けて動きを止めて、ミカに意識を奪ってもらわないといけないわけだからさ。

 だから……一発も喰らってないけど、今度はこっちの番。

 お返しとばかりに射出された、多分シズクが撃った水の弾丸が敵に叩き付けられた所で……私とステラとミカの三人で一斉に距離を詰めようとした次の瞬間だった。

 突如、私達と敵の間の何もない空間に魔方陣が展開される。

「これは……ッ!」

 この感じは多分召還魔術……ッ!
 コイツ何かを呼び出そうと……!

「あ、馬鹿! 勝手に出てくるな!」

 これまで無言を貫いていた敵が、男か女か認識できないような声でそう叫ぶ。
 え、ちょっと待って。勝手に? コイツが呼んだんじゃなくて!?

 そして何がなんだか分からない内に、魔方陣からそれは出現する。

 数人程度を乗せられる小型の黒い飛竜。
 丁度リュウ君より若干大きい位の……ってちょっと待って。

 なんかコイツ……リュウ君に似てない?
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