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二章 聖女さん、新しい日常を謳歌します。

51 聖女さん、核心に迫る

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 多分余程近しい人でないと気付けないかもしれないけれど、犬や猫なんかと同じように飛竜も顔や雰囲気は個体ごとに違っていて。
 それこそそこに血縁関係みたいなものがなければ、分かる人が見れば全然違うって分かるんだ。
 ……多分私は、その辺りはちゃんと分かる自信がある。
 飛竜百匹の中にリュウ君が紛れ込んでも、多分すぐに見つけられるし。

 だからこそ、驚くんだ。
 そんな私が似ていると思う位、目の前の飛竜はリュウ君に似ているんだから。

 そう認識したからだろうか。

 今までバラバラだという事にも気付かなかったようなピースが埋まる様な感覚がしたのは。

「……まさか」

 私達が戦っているのは誰なのか、その核心に一気に迫ったような気がした。

 相手が使う明らかに私達とは格どころか様式そのものが全く違う魔術。
 そんな物を使ってもおかしくないようなクズの存在を私は知っている。
 そしてもし目の前にいるのがアイツならば、リュウ君と同じ血を引く飛竜を使役している可能性も高くて。

 そしてアイツなら私に妙に手を抜いていたのも……。

「……いや、関係無いか」

 考えている途中で、組み上げていたパズルを崩す事にした。
 はめ込む前からそのピースが合わない事は分かり切っていたから。

 もし目の前の敵がさっきまで私が思い浮かべていた男だったとすれば……きっと、手を抜いたりはしないと思う。

 記憶にある限り直接的な暴力を振るわれたような記憶は無いけれど、それでもアイツはこういう状況できっと私だから手を緩めたりなんてしないだろうから。

 あの時攻撃がルカに集中したのは、きっとルカの方が厄介だと判断されたからで、その後も私への攻撃が緩かったのも、今こうして私達全員にまともな攻撃を打ってこないのも、きっと何か合理的な理由があるからに違いない。

 とにかくアイツが私達に取った行動が、その正体が絶対にあのクズではないという事を立証している。

 ……私に手を抜いた事を根拠の一つにしようとしていたのは、もしかすると私は自分の父親がそういう場で手を抜いてくれるような人であって欲しいとでも思っていたという事だろうか?
 まあそりゃそうだよ。

 できる事ならまともな父親の方が良いに決まっているからさ。
 そうだったら良かったのにとは思うからさ。

 ……まあとにかく、敵は私とは全く関係の無い知らない誰かだ。
 その事には結構真剣に安堵するよ。

 あんなクズでも私の家族だからさ。
 そんな中から洒落にならないレベルの犯罪者なんて出せないでしょ。

 あのクズの事は心底どうでもいいけど、それは本当に良かったって思うよ。

 ……うん、だからこの話はこれで終わり。

 目の前の敵を倒す事を考えよう。

 ……倒す、ね。

「多分コイツ滅茶苦茶強いから、皆気ぃ抜かないでよ!」

 分かっているとは思うけどそう声を掛ける。
 リュウ君と同じ種族の飛竜なら、その力は絶大だ。
 リュウ君を今まで戦わせた事は無いし、今後も絶対に無いんだけど、飛行スピードとかでそのポテンシャルは良く分かってるし、だとしたらリュウ君よりも大きいこの個体はかなりの強さを秘めていると考える方が妥当。

 そして此処には多分相手を強化している意味不明な魔術が張り巡らされている。
 その効力がもしこの飛竜にも適用されるのだとしたら……冗談抜きでとんでもない化物になっている可能性もある訳だ。

 実際コイツはマジでヤバいって感じが伝わってきてるしね……さっきから敵も味方もインフレし過ぎだよほんと。

 そして次の瞬間、飛竜が口が口を大きく開けると、その口元に魔法陣が展開される。

 ……どうしよ、発動前に攻撃打ち込んで止める?
 いや、それで止まらない可能性がある以上、一旦防ぐことに専念した方が良い。

 皆も同じ考えだったのか飛び出したり攻撃魔術を放ったりは誰もせず、やや後退気味に身構える。

 ……攻撃は、防いだ後。
 ……防げるかな?

 色々と不安が過る中で飛竜の魔術は……発動しなかった。

「「「「「……!?」」」」」

 不発!?
 いや、違う! 意図的に術の発動を取り止めた感じだ!

 何の為に……いやほんと意味が分からない。
 私達を倒す為じゃないなら何の為に出てきたの!?

 ……いや、一貫してる。
 私達に攻撃をしないってのは、あの敵と同じだ。

 ……そうだ。
 攻撃してこない理由は分からないけど、もしかしてこれ何か時間稼ぎでもされているんじゃないかな!?

 実際飛竜が出てきて驚いて、攻撃に対処する為に身構えて、僅かながらに時間を稼がれている。
 そして……向うは何かの魔術を使おうとしている訳で。

 だとしたら……これ以上時間稼がれたりしたらマズいじゃん!

 次の瞬間、ステラと瞬時にアイコンタクトを取って全速力で距離を詰める。
 だけど動きがあったのはこちらだけじゃない。

「そうだそれでいい助かった! いつもありがとう!」

 飛竜の後に控えている敵がそう叫ぶと同時に、部屋の奥。その先から強い光が漏れているのが見えた。

「間に合った!」

「……ッ!?」

 何かの術式が発動した!?
 ま、間に合わなかった!?

 そう焦る私達に対し、どこか肩の荷が下りたように、少しテンション高めに敵が言う。

「撤退するぞ! もう戦う必要は無くなった!」

 て、撤退?
 え、何!? ヤバい術式が発動したんじゃないの!?

 そして理解が追い付かない私達に敵は言う。

「僕達が誘拐した子供達はこの先の右の部屋だ! こんな事を言える立場じゃないが後の事はよろしく頼む!」

「はぁ!? いや、アンタマジで一体……ッ!」

 マジでどんな立場で言ってんだみたいな事を口にした敵は、私達にそれ以上言葉を向ける事無く、敵と飛竜を中心に魔法陣が展開される。

 流れ的に……転移魔術!?

「待って!」

 だけど待てと言って待ちそうな敵なんて、敵だった時のルカ位な訳で、普通は待たない。

 次の瞬間、敵と飛竜の姿が消滅する。

 なんか色々と良く分からないままに。
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