181 / 280
二章 聖女さん、新しい日常を謳歌します。
51 聖女さん、核心に迫る
しおりを挟む
多分余程近しい人でないと気付けないかもしれないけれど、犬や猫なんかと同じように飛竜も顔や雰囲気は個体ごとに違っていて。
それこそそこに血縁関係みたいなものがなければ、分かる人が見れば全然違うって分かるんだ。
……多分私は、その辺りはちゃんと分かる自信がある。
飛竜百匹の中にリュウ君が紛れ込んでも、多分すぐに見つけられるし。
だからこそ、驚くんだ。
そんな私が似ていると思う位、目の前の飛竜はリュウ君に似ているんだから。
そう認識したからだろうか。
今までバラバラだという事にも気付かなかったようなピースが埋まる様な感覚がしたのは。
「……まさか」
私達が戦っているのは誰なのか、その核心に一気に迫ったような気がした。
相手が使う明らかに私達とは格どころか様式そのものが全く違う魔術。
そんな物を使ってもおかしくないようなクズの存在を私は知っている。
そしてもし目の前にいるのがアイツならば、リュウ君と同じ血を引く飛竜を使役している可能性も高くて。
そしてアイツなら私に妙に手を抜いていたのも……。
「……いや、関係無いか」
考えている途中で、組み上げていたパズルを崩す事にした。
はめ込む前からそのピースが合わない事は分かり切っていたから。
もし目の前の敵がさっきまで私が思い浮かべていた男だったとすれば……きっと、手を抜いたりはしないと思う。
記憶にある限り直接的な暴力を振るわれたような記憶は無いけれど、それでもアイツはこういう状況できっと私だから手を緩めたりなんてしないだろうから。
あの時攻撃がルカに集中したのは、きっとルカの方が厄介だと判断されたからで、その後も私への攻撃が緩かったのも、今こうして私達全員にまともな攻撃を打ってこないのも、きっと何か合理的な理由があるからに違いない。
とにかくアイツが私達に取った行動が、その正体が絶対にあのクズではないという事を立証している。
……私に手を抜いた事を根拠の一つにしようとしていたのは、もしかすると私は自分の父親がそういう場で手を抜いてくれるような人であって欲しいとでも思っていたという事だろうか?
まあそりゃそうだよ。
できる事ならまともな父親の方が良いに決まっているからさ。
そうだったら良かったのにとは思うからさ。
……まあとにかく、敵は私とは全く関係の無い知らない誰かだ。
その事には結構真剣に安堵するよ。
あんなクズでも私の家族だからさ。
そんな中から洒落にならないレベルの犯罪者なんて出せないでしょ。
あのクズの事は心底どうでもいいけど、それは本当に良かったって思うよ。
……うん、だからこの話はこれで終わり。
目の前の敵を倒す事を考えよう。
……倒す、ね。
「多分コイツ滅茶苦茶強いから、皆気ぃ抜かないでよ!」
分かっているとは思うけどそう声を掛ける。
リュウ君と同じ種族の飛竜なら、その力は絶大だ。
リュウ君を今まで戦わせた事は無いし、今後も絶対に無いんだけど、飛行スピードとかでそのポテンシャルは良く分かってるし、だとしたらリュウ君よりも大きいこの個体はかなりの強さを秘めていると考える方が妥当。
そして此処には多分相手を強化している意味不明な魔術が張り巡らされている。
その効力がもしこの飛竜にも適用されるのだとしたら……冗談抜きでとんでもない化物になっている可能性もある訳だ。
実際コイツはマジでヤバいって感じが伝わってきてるしね……さっきから敵も味方もインフレし過ぎだよほんと。
そして次の瞬間、飛竜が口が口を大きく開けると、その口元に魔法陣が展開される。
……どうしよ、発動前に攻撃打ち込んで止める?
いや、それで止まらない可能性がある以上、一旦防ぐことに専念した方が良い。
皆も同じ考えだったのか飛び出したり攻撃魔術を放ったりは誰もせず、やや後退気味に身構える。
……攻撃は、防いだ後。
……防げるかな?
色々と不安が過る中で飛竜の魔術は……発動しなかった。
「「「「「……!?」」」」」
不発!?
いや、違う! 意図的に術の発動を取り止めた感じだ!
何の為に……いやほんと意味が分からない。
私達を倒す為じゃないなら何の為に出てきたの!?
……いや、一貫してる。
私達に攻撃をしないってのは、あの敵と同じだ。
……そうだ。
攻撃してこない理由は分からないけど、もしかしてこれ何か時間稼ぎでもされているんじゃないかな!?
実際飛竜が出てきて驚いて、攻撃に対処する為に身構えて、僅かながらに時間を稼がれている。
そして……向うは何かの魔術を使おうとしている訳で。
だとしたら……これ以上時間稼がれたりしたらマズいじゃん!
次の瞬間、ステラと瞬時にアイコンタクトを取って全速力で距離を詰める。
だけど動きがあったのはこちらだけじゃない。
「そうだそれでいい助かった! いつもありがとう!」
飛竜の後に控えている敵がそう叫ぶと同時に、部屋の奥。その先から強い光が漏れているのが見えた。
「間に合った!」
「……ッ!?」
何かの術式が発動した!?
ま、間に合わなかった!?
そう焦る私達に対し、どこか肩の荷が下りたように、少しテンション高めに敵が言う。
「撤退するぞ! もう戦う必要は無くなった!」
て、撤退?
え、何!? ヤバい術式が発動したんじゃないの!?
そして理解が追い付かない私達に敵は言う。
「僕達が誘拐した子供達はこの先の右の部屋だ! こんな事を言える立場じゃないが後の事はよろしく頼む!」
「はぁ!? いや、アンタマジで一体……ッ!」
マジでどんな立場で言ってんだみたいな事を口にした敵は、私達にそれ以上言葉を向ける事無く、敵と飛竜を中心に魔法陣が展開される。
流れ的に……転移魔術!?
「待って!」
だけど待てと言って待ちそうな敵なんて、敵だった時のルカ位な訳で、普通は待たない。
次の瞬間、敵と飛竜の姿が消滅する。
なんか色々と良く分からないままに。
それこそそこに血縁関係みたいなものがなければ、分かる人が見れば全然違うって分かるんだ。
……多分私は、その辺りはちゃんと分かる自信がある。
飛竜百匹の中にリュウ君が紛れ込んでも、多分すぐに見つけられるし。
だからこそ、驚くんだ。
そんな私が似ていると思う位、目の前の飛竜はリュウ君に似ているんだから。
そう認識したからだろうか。
今までバラバラだという事にも気付かなかったようなピースが埋まる様な感覚がしたのは。
「……まさか」
私達が戦っているのは誰なのか、その核心に一気に迫ったような気がした。
相手が使う明らかに私達とは格どころか様式そのものが全く違う魔術。
そんな物を使ってもおかしくないようなクズの存在を私は知っている。
そしてもし目の前にいるのがアイツならば、リュウ君と同じ血を引く飛竜を使役している可能性も高くて。
そしてアイツなら私に妙に手を抜いていたのも……。
「……いや、関係無いか」
考えている途中で、組み上げていたパズルを崩す事にした。
はめ込む前からそのピースが合わない事は分かり切っていたから。
もし目の前の敵がさっきまで私が思い浮かべていた男だったとすれば……きっと、手を抜いたりはしないと思う。
記憶にある限り直接的な暴力を振るわれたような記憶は無いけれど、それでもアイツはこういう状況できっと私だから手を緩めたりなんてしないだろうから。
あの時攻撃がルカに集中したのは、きっとルカの方が厄介だと判断されたからで、その後も私への攻撃が緩かったのも、今こうして私達全員にまともな攻撃を打ってこないのも、きっと何か合理的な理由があるからに違いない。
とにかくアイツが私達に取った行動が、その正体が絶対にあのクズではないという事を立証している。
……私に手を抜いた事を根拠の一つにしようとしていたのは、もしかすると私は自分の父親がそういう場で手を抜いてくれるような人であって欲しいとでも思っていたという事だろうか?
まあそりゃそうだよ。
できる事ならまともな父親の方が良いに決まっているからさ。
そうだったら良かったのにとは思うからさ。
……まあとにかく、敵は私とは全く関係の無い知らない誰かだ。
その事には結構真剣に安堵するよ。
あんなクズでも私の家族だからさ。
そんな中から洒落にならないレベルの犯罪者なんて出せないでしょ。
あのクズの事は心底どうでもいいけど、それは本当に良かったって思うよ。
……うん、だからこの話はこれで終わり。
目の前の敵を倒す事を考えよう。
……倒す、ね。
「多分コイツ滅茶苦茶強いから、皆気ぃ抜かないでよ!」
分かっているとは思うけどそう声を掛ける。
リュウ君と同じ種族の飛竜なら、その力は絶大だ。
リュウ君を今まで戦わせた事は無いし、今後も絶対に無いんだけど、飛行スピードとかでそのポテンシャルは良く分かってるし、だとしたらリュウ君よりも大きいこの個体はかなりの強さを秘めていると考える方が妥当。
そして此処には多分相手を強化している意味不明な魔術が張り巡らされている。
その効力がもしこの飛竜にも適用されるのだとしたら……冗談抜きでとんでもない化物になっている可能性もある訳だ。
実際コイツはマジでヤバいって感じが伝わってきてるしね……さっきから敵も味方もインフレし過ぎだよほんと。
そして次の瞬間、飛竜が口が口を大きく開けると、その口元に魔法陣が展開される。
……どうしよ、発動前に攻撃打ち込んで止める?
いや、それで止まらない可能性がある以上、一旦防ぐことに専念した方が良い。
皆も同じ考えだったのか飛び出したり攻撃魔術を放ったりは誰もせず、やや後退気味に身構える。
……攻撃は、防いだ後。
……防げるかな?
色々と不安が過る中で飛竜の魔術は……発動しなかった。
「「「「「……!?」」」」」
不発!?
いや、違う! 意図的に術の発動を取り止めた感じだ!
何の為に……いやほんと意味が分からない。
私達を倒す為じゃないなら何の為に出てきたの!?
……いや、一貫してる。
私達に攻撃をしないってのは、あの敵と同じだ。
……そうだ。
攻撃してこない理由は分からないけど、もしかしてこれ何か時間稼ぎでもされているんじゃないかな!?
実際飛竜が出てきて驚いて、攻撃に対処する為に身構えて、僅かながらに時間を稼がれている。
そして……向うは何かの魔術を使おうとしている訳で。
だとしたら……これ以上時間稼がれたりしたらマズいじゃん!
次の瞬間、ステラと瞬時にアイコンタクトを取って全速力で距離を詰める。
だけど動きがあったのはこちらだけじゃない。
「そうだそれでいい助かった! いつもありがとう!」
飛竜の後に控えている敵がそう叫ぶと同時に、部屋の奥。その先から強い光が漏れているのが見えた。
「間に合った!」
「……ッ!?」
何かの術式が発動した!?
ま、間に合わなかった!?
そう焦る私達に対し、どこか肩の荷が下りたように、少しテンション高めに敵が言う。
「撤退するぞ! もう戦う必要は無くなった!」
て、撤退?
え、何!? ヤバい術式が発動したんじゃないの!?
そして理解が追い付かない私達に敵は言う。
「僕達が誘拐した子供達はこの先の右の部屋だ! こんな事を言える立場じゃないが後の事はよろしく頼む!」
「はぁ!? いや、アンタマジで一体……ッ!」
マジでどんな立場で言ってんだみたいな事を口にした敵は、私達にそれ以上言葉を向ける事無く、敵と飛竜を中心に魔法陣が展開される。
流れ的に……転移魔術!?
「待って!」
だけど待てと言って待ちそうな敵なんて、敵だった時のルカ位な訳で、普通は待たない。
次の瞬間、敵と飛竜の姿が消滅する。
なんか色々と良く分からないままに。
0
あなたにおすすめの小説
タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。
渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。
しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。
「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」
※※※
虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。
※重複投稿作品※
表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。
召喚失敗!?いや、私聖女みたいなんですけど・・・まぁいっか。
SaToo
ファンタジー
聖女を召喚しておいてお前は聖女じゃないって、それはなくない?
その魔道具、私の力量りきれてないよ?まぁ聖女じゃないっていうならそれでもいいけど。
ってなんで地下牢に閉じ込められてるんだろ…。
せっかく異世界に来たんだから、世界中を旅したいよ。
こんなところさっさと抜け出して、旅に出ますか。
金貨増殖バグが止まらないので、そのまま快適なスローライフを送ります
桜井正宗
ファンタジー
無能の落ちこぼれと認定された『ギルド職員』兼『ぷちドラゴン』使いの『ぷちテイマー』のヘンリーは、職員をクビとなり、国さえも追放されてしまう。
突然、空から女の子が降ってくると、キャッチしきれず女の子を地面へ激突させてしまう。それが聖女との出会いだった。
銀髪の自称聖女から『ギフト』を貰い、ヘンリーは、両手に持てない程の金貨を大量に手に入れた。これで一生遊んで暮らせると思いきや、金貨はどんどん増えていく。増殖が止まらない金貨。どんどん増えていってしまった。
聖女によれば“金貨増殖バグ”だという。幸い、元ギルド職員の権限でアイテムボックス量は無駄に多く持っていたので、そこへ保管しまくった。
大金持ちになったヘンリーは、とりあえず念願だった屋敷を買い……スローライフを始めていく!?
存在感のない聖女が姿を消した後 [完]
風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは
永く仕えた国を捨てた。
何故って?
それは新たに現れた聖女が
ヒロインだったから。
ディアターナは
いつの日からか新聖女と比べられ
人々の心が離れていった事を悟った。
もう私の役目は終わったわ…
神託を受けたディアターナは
手紙を残して消えた。
残された国は天災に見舞われ
てしまった。
しかし聖女は戻る事はなかった。
ディアターナは西帝国にて
初代聖女のコリーアンナに出会い
運命を切り開いて
自分自身の幸せをみつけるのだった。
「魔道具の燃料でしかない」と言われた聖女が追い出されたので、結界は消えます
七辻ゆゆ
ファンタジー
聖女ミュゼの仕事は魔道具に力を注ぐだけだ。そうして国を覆う大結界が発動している。
「ルーチェは魔道具に力を注げる上、癒やしの力まで持っている、まさに聖女だ。燃料でしかない平民のおまえとは比べようもない」
そう言われて、ミュゼは城を追い出された。
しかし城から出たことのなかったミュゼが外の世界に恐怖した結果、自力で結界を張れるようになっていた。
そしてミュゼが力を注がなくなった大結界は力を失い……
防御力を下げる魔法しか使えなかった俺は勇者パーティから追放されたけど俺の魔法に強制脱衣の追加効果が発現したので世界中で畏怖の対象になりました
かにくくり
ファンタジー
魔法使いクサナギは国王の命により勇者パーティの一員として魔獣討伐の任務を続けていた。
しかし相手の防御力を下げる魔法しか使う事ができないクサナギは仲間達からお荷物扱いをされてパーティから追放されてしまう。
しかし勇者達は今までクサナギの魔法で魔物の防御力が下がっていたおかげで楽に戦えていたという事実に全く気付いていなかった。
勇者パーティが没落していく中、クサナギは追放された地で彼の本当の力を知る新たな仲間を加えて一大勢力を築いていく。
そして防御力を下げるだけだったクサナギの魔法はいつしか次のステップに進化していた。
相手の身に着けている物を強制的に剥ぎ取るという究極の魔法を習得したクサナギの前に立ち向かえる者は誰ひとりいなかった。
※小説家になろうにも掲載しています。
追放された私の代わりに入った女、三日で国を滅ぼしたらしいですよ?
タマ マコト
ファンタジー
王国直属の宮廷魔導師・セレス・アルトレイン。
白銀の髪に琥珀の瞳を持つ、稀代の天才。
しかし、その才能はあまりに“美しすぎた”。
王妃リディアの嫉妬。
王太子レオンの盲信。
そして、セレスを庇うはずだった上官の沈黙。
「あなたの魔法は冷たい。心がこもっていないわ」
そう言われ、セレスは**『無能』の烙印**を押され、王国から追放される。
彼女はただ一言だけ残した。
「――この国の炎は、三日で尽きるでしょう。」
誰もそれを脅しとは受け取らなかった。
だがそれは、彼女が未来を見通す“預言魔法”の言葉だったのだ。
聖女が降臨した日が、運命の分かれ目でした
猫乃真鶴
ファンタジー
女神に供物と祈りを捧げ、豊穣を願う祭事の最中、聖女が降臨した。
聖女とは女神の力が顕現した存在。居るだけで豊穣が約束されるのだとそう言われている。
思ってもみない奇跡に一同が驚愕する中、第一王子のロイドだけはただ一人、皆とは違った視線を聖女に向けていた。
彼の婚約者であるレイアだけがそれに気付いた。
それが良いことなのかどうなのか、レイアには分からない。
けれども、なにかが胸の内に燻っている。
聖女が降臨したその日、それが大きくなったのだった。
※このお話は、小説家になろう様にも掲載しています
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる