最強聖女は追放されたので冒険者になります。なおパーティーメンバーは全員同じような境遇の各国の元最強聖女となった模様。

山外大河

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二章 聖女さん、新しい日常を謳歌します。

ex 噂されている馬鹿、影のMVP

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「へぇはくしょぉーい!」

 同時刻、アンナ・ベルナールが聖女を務めていたドルドット王国の王、グラン・ドルドットは私室で凄い勢いでくしゃみを放った。

「グラン様、風邪引いたんですか?」

「いや、いたって健康だ。どっかで噂されてんじゃねえかな? なんたって俺は王だからな」

(だとしたらあんまりいい噂じゃなさそうだなぁ……)

 得意の占いで行動を選んでいた結果、王と友達になり大臣になってしまっている青年ロイは心中で溜息を吐く。
 このグランという王の行動は毎度毎度結果オーライでなんとか悪くない形で着地はしているものの、良くも悪くも悪くも悪くも勢いよく馬鹿なので、日常的に良くない噂が囁かれていてもおかしくない。

「もしかしてミーシャの奴が何か言ってるのか? 俺と仲直りしたい、とか」

「いやアレだけ馬鹿やらかしたんだから、何か言ってても良い噂じゃないと思いますよ」

 ミーシャという、アンナ・ベルナールの後釜として聖女となった女性は、この馬鹿が連れてきたとは思えないくらいまともで芯が強い人だ。
 この短期間で良い噂を口にするような事は無いだろう。
 そう考えた所で、自らの失言に気付く。

(あ、マズい……ッ!)

 今ごまかしがきかないレベルで、グランの取った行動を馬鹿と言ってしまった。
 この国の最も偉い相手に。しかも世界中の王の中で最も滅茶苦茶と言っても過言ではない馬鹿にだ。

「ん? ロイお前……俺の事馬鹿って言ったか?」

「あ、いや、その……」

(ま、まずいこれ一体どう誤魔化せば……い、今から占いとかしても絶対間に合わないし……くそ、詰んだかも……ごめん妹達……ッ)

 妹の学費の為に働いているロイは心中で妹達に謝りながらグランの言葉を待つ。
 そしてやがてグランは言う。

「なあロイ。俺とお前は友達だからその辺別に咎めたりしねえし、むしろ遠慮せずそういう事言ってくれるのは良いんだけどさ、絶対心の中で思っても他国のお偉いさんとかにはそういう事は言うなよ。お前立場上そういう連中と会う事多いんだし」

「……へ?」

「いや、まあ世界は俺が中心で回っているみてえなもんだからさ、大体の事は俺がごり押しでなんとかするけどよ、それでも万が一って場合があるだろ。ほら、お前妹さんの学費稼ぐために頑張ってんだろ? だったらせめてそれが一段落付く位までは何よりも自分の身の保身を第一で考えた方が良いぞ」

「き、肝に銘じておきます」

 言いながら考える。

(この人一国の王としてみたら色々と滅茶苦茶で支離滅裂で、なんであの絵にかいたように真面目な前王からこんな人がって感じだけど……友人としてみたら普通に悪い人じゃないんだよなぁ……)

 そして改めて思う。

(常々辞めたいと思ってたし能力が無いのも分かってるけど……これ俺が支えないと)

 やれる事なんて占い位しかないけれど。

「にしてもミーシャはアンナの奴に会えたと思うか?」

「多分まだ会えてないと思いますけど、その内会えると思いますよ」

「そういう占いか?」

「そういう占いです」

「すげえなお前。的中率どの位あんだっけ?」

「約八割程ですかね」

「すげえよ。お前しれっととんでもねえ事してね? もう完全にそれで食っていけるじゃん」

「まあそれを積み重ねて此処に立ってるんで」

「確かに……いや、でも今にして思えば、ミーシャのアンナの奴を追放したのは失敗だった訳でさ、多分お前は思った結果にならねえ事を知ってたんじゃねえのか? 止めてくれりゃ良かったのに」

 止められるならさっきの失言でビビり散らしてないと心中で溜息を吐くロイだがそもそもの話、止める理由も無かった。

「俺の占いじゃアンナさんを追放する事が色々な面でプラスになるって出てたんですよ」

 改めて占い直してもそうだ。
 この国の為にも。
 自分やグランに妹達といった周囲の人間にも。

 そしてアンナ・ベルナール自身にも。

 アンナ・ベルナールがこの国を出るという事が未来を良くしてくれるような、そんな占い結果が出た。

 ついでにいえば……この世界全体を条件として占った場合でもだ。

「いやでも結果的に俺若干嫌われた感じするからな。これ二割引いちまったか」

「まあまだその辺は分かりませんよ」

 ロイは色々と思い返しながら言う。

「俺だって妹達を満足に学校に通わせられるようになりたいって思いで占いに縋りましたけど、今の立ち位置になるまで良くも悪くも色々なプロセスを踏んでます。だから過程が最悪でも結果オーライって事も十分あるかと」

「そっかぁ! なら大丈夫だな!」

(いやあなたの場合普通に二割を引いてそうなんですけどね)

 ……逆に二割を引いていなければ、それこそ意味が分からなくなる。
 聖女を追放するなんてことは、普通に考えたら起きてはいけない事で。

 それで幸せになれるのは、一般的に見ればクソ職場であるこの場所から抜け出せたアンナ位で、この国やその住民の未来が良い方向に進むとは思えない。

 世界は……どうだろうか。

(……この国を飛び出したアンナさんが世界に大きな影響を与えて良い未来へと導くとかか。まああの人ならそれをできる力もあるか。あの実力で研究者としての実績も高いし……あの魔術の権威、ユアン・ベルナールさんの娘さんだし)

 だけど引っ掛かる事がある。

(世界、世界か……)

「ん? どうしたロイ」

「え、ああ……実は俺の占いでこの国とか世界を含めて、アンナさんを追放した事が良い方向に進むって事になってるんですけど……」

「けどなんだ」

「……この世界そのものの未来で占うと、具体的な事はまだ何も見えないんですけど、えげつない事になってるんですよね」

「……いや何度も言うが、お前の条件コロコロ変えて何でも占えるのマジで何なんだよ。そういう魔術か?」

「いや、ただの占いです。色々な奴組み合わせて作った自作の」

「俺の友達すげー」

 と、楽しそうにグランは笑った後、非常に珍しく真剣そうな表情を浮かべて言う。

「で、えげつない事になるってのはマジでか」

「俺の占いじゃ最終的には綺麗に事が纏まる様な感じになってるんですけど、その過程でえげつない事になってるって感じです」

「それは何。俺がアイツ追放したからえげつない過程になってんの?」

「いや、アンナさんを追放しなかったら丁度今頃からえげつない事が始まってましたし、その規模もより大きかった。それが先延ばしになったって感じですかね」

「……成程ね。その辺は一安心」

 そう言ってグランは少し考えるように間を空けてから言う。

「じゃあその八割が当たっている前提で手を打とう」

「……え?」

「多分だがお前の占いがなきゃ俺含め問題が起きる事を知っている奴自体ごく少数な筈だろ。だからその世界規模で起きている問題んお究明と対策と解決をこの段階で始めちまおうって訳だ」

「……ッ」

 ロイはここしばらくで一番驚いた。

(グ、グラン様が恐ろしくまともな事を言ってるぅ!?)

 友人としてはともかく王としては支離滅裂な馬鹿でしかないと思っていたのに、突然まともな事を言い出したのだから当然ビビる。

(ど、どういう風の吹き回しだ……)

 混乱するロイにグランは言う。

「これでうまくやればミーシャの奴も俺に惚れ直すだろ」

(あ、なるほど下心か)

 納得した。
 ……納得はしたが。

 そして妙な期待感が沸いて来る。

(この人は良くも悪くも行動力の塊だ。聖女追放なんて馬鹿な事を下心でやるけど、逆もまた然りだ……理由はともかくやると決めたらこの人は徹底的にやるぞ)

 そう言ってグランは言う。

「とりあえず情報収集だな。ロイ、今すぐ動ける外交官を各国の大使館に派遣しろ。何も無い状態から今日何かが起きる筈だったのに何の報告も無いっつー事は、俺らの国というか各国が置いている大使館の連中の頭がおかしい事になっている可能性がある。流れてくる情報も真偽不明だ。だから一応そういう魔術に対抗できる奴もセットでな」

「え、そんな急に……」

「もしかしたら急がねえとやべえかもしれねえだろ。やるなら早い方が良い」

「あの……一応言っときますけど、今までの話全部俺の占い結果の話ですよ? それでそこまで人と金を動かして大丈夫なんですか?」

「何も無けりゃそれでいいだろ。ああ、そうだ先に言っとくわ。今回の件で最終的に金めっちゃ掛かったとしても、俺の知らない所で変な増税とかはすんなよなって事を財務大臣に伝え解いてくれ。流石にそこは超えちゃならないラインだ」

(……聖女追放するのは超えて良いラインだったんですかねぇ)

 とにかく。

「分かりました。すぐ手配します。誰をどの組み合わせでどこの国に送るのが一番いいかを占って」

「お前やっぱすげえなぁ! マジ天才。最強じゃん」

「いえ、精々的中率八割なんで」

「こりゃ俺も頑張らねえとな。下手こいてお前の顔に泥は濡れねえ」

「泥位全然被りますよ」

「……まあそんときゃ俺も被るわ」

「ははは、無理なさらず。それじゃあ」

 そう言って人を集める為にロイは動き出す。
 そしてその最中考える。

(うわぁ、俺の占いなんかでえらい事になってしまった……これ外れてたらどうしよ……いや、外れてた方が良いのか。あの人も何も無ければそれでいいって言ってたし)

 そしてグランの言葉を思い返しながら思う。

(友人とはいえ王としては馬鹿だのアホだの支離滅裂だのやべぇ奴だの思ってきたけど……案外ああいう人が狙ってか偶然か世界を変えるのかもしれない。馬鹿と天才は紙一重って奴か?)

 実際の所、グラン・ドルドットという人間が世界を変えるかどうかは分からない。
 だがすでに確定していた世界の未来はもう既に捻じ曲げている。

 結果論だがとてもいい方向に。
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