275 / 280
四章《表》聖女さん、自分を追放した国に里帰りします
ex 知らぬが仏
しおりを挟む
(こりゃロイ君、何か隠したな)
占い結果を語るロイを見てカーチェスは内心そう判断する。
自惚れかもしれないが、人間観察は得意な方だ。
それが得意だったからこそ、憲兵庁公安部に所属し現場でそれなりの成果を上げる事ができてきたのだと思う。
流石に今の立場に収まるだけの器ではないと自覚はしているが。
とにかく、そんな自分から見てロイの声音や表情は明らかに何かを隠したものだった。
おそらくそれを伝える事自体が不利益になりかねないのだろう。
こちら側にではなく、アンナ・ベルナールにとって。
果たしてそれは一体何なのだろうか。
裏で問い詰めれば教えて貰えるかもしれないが、流石に此処で背中から撃つような真似は出来ない。
故に考える。
普通に考えてアンナ・ベルナールという人間が別の場所で行動している味方と合流する事が全体で見てマイナスに働くとは考えにくい。
例えば合流する相手が利害関係が一致しているだけで険悪な相手や、そうでなくとも顔も合わせた事のない不特定多数だとすれば話は変わって来るが、どうやらその様子もない。
ただ気の知れた仲間の所に戻るだけ。
そこに戻ってはいけない理由として考えられる事はなんだ。
……単純な危険なら踏み越える意思がありそうなこの女に情報を流さない理由があるとすれば一体なんだ。
考えられる可能性として挙げられるのが一つ。
アンナ・ベルナールの仲間が辿り着く情報が、アンナ・ベルナールにとって致命的な程に都合が悪い場合だ。
知らぬが仏という言葉がある通り、物理的な危険以上に回避すべき何かがある。
当然、都合の悪い情報が一体何なのかは分からないが……それでも仮説の一つも立てられない訳じゃない。
(……近しい人間が悪い意味で関わっているとか、か?)
職務上、アンナ・ベルナールの情報はある程度握っている。
彼女に関わり合いのある親戚筋はいない。
そして母親は随分昔に病に倒れて無くなっていて……残った肉親は父親のユアン・ベルナールのみ。
黒い噂がいくつもあり、公安の監視対象にもなっていた男が一人。
諸々の問題を言動、及び実力で実行しかねない男が一人。
そして上がってきた情報によると、魔正教の本部に優秀な魔術研究の権威が加わったのだそうだ。
……繋がる。
(だとしたら……俺でも止めるな)
当然、ロイが見たのがそうした結果だったのかは分からない。
分からないがもしそうなら。
そうでなくともそれに準ずるものだったとすれば。
(それはオブラートに包んでも伝え辛い)
その関係性が良かろうと悪かろうと、聞いていて気分のいい話ではない。
一体その相手にどんな感情を向けていようと、こればかりは知らぬが仏という事になる。
……願わくば自分の組んだ仮説が的外れであるようにと、カーチェスは考える。
本心として、アンナ・ベルナールに良くない事が起きて欲しくないと思っているのだから。
悪い事をしたと、まともな倫理観を持っていれば関わった全員が思っている筈だから。
☆★☆
「今日はあなたに素敵な出会いが、ね」
とあるカルト宗教が運営する施設の一室にて、新聞の占いコーナーに目を落としながらユアン・ベルナールはそう呟く。
別に占いなんてものを信じている訳ではない。
これまでかつて組んだ未来予知の魔術が示した通りの行動をしてきた彼にとって、結果的に的外れな事が分かっている占いを信じられる訳が無かった。
だけどそれでもこうして目を落としてしまっているのは、かつて組んだ未来予知のレールから外れてしまっているからだろうか。
「妻と娘と出会う事が出来た。それ以上に素敵な出会いなんてないよ」
自分の予知とはまるで違う何かに、全部を壊してもらいたいからなのか。
(……壊せるものなら壊して欲しいよ)
壊して欲しいからに決まっている。
都合の良い事が起きて、自分のプラン以外で全てがうまく行ってくれるならそれ以上の事は無い。
そうした上で、来月にある妻の命日に墓参りにもいけない自分の策略を壊してくれるなら。
娘とまともな会話を交わす事もできない今を壊してくれるなら。
それ以上の事は無い。
占い結果を語るロイを見てカーチェスは内心そう判断する。
自惚れかもしれないが、人間観察は得意な方だ。
それが得意だったからこそ、憲兵庁公安部に所属し現場でそれなりの成果を上げる事ができてきたのだと思う。
流石に今の立場に収まるだけの器ではないと自覚はしているが。
とにかく、そんな自分から見てロイの声音や表情は明らかに何かを隠したものだった。
おそらくそれを伝える事自体が不利益になりかねないのだろう。
こちら側にではなく、アンナ・ベルナールにとって。
果たしてそれは一体何なのだろうか。
裏で問い詰めれば教えて貰えるかもしれないが、流石に此処で背中から撃つような真似は出来ない。
故に考える。
普通に考えてアンナ・ベルナールという人間が別の場所で行動している味方と合流する事が全体で見てマイナスに働くとは考えにくい。
例えば合流する相手が利害関係が一致しているだけで険悪な相手や、そうでなくとも顔も合わせた事のない不特定多数だとすれば話は変わって来るが、どうやらその様子もない。
ただ気の知れた仲間の所に戻るだけ。
そこに戻ってはいけない理由として考えられる事はなんだ。
……単純な危険なら踏み越える意思がありそうなこの女に情報を流さない理由があるとすれば一体なんだ。
考えられる可能性として挙げられるのが一つ。
アンナ・ベルナールの仲間が辿り着く情報が、アンナ・ベルナールにとって致命的な程に都合が悪い場合だ。
知らぬが仏という言葉がある通り、物理的な危険以上に回避すべき何かがある。
当然、都合の悪い情報が一体何なのかは分からないが……それでも仮説の一つも立てられない訳じゃない。
(……近しい人間が悪い意味で関わっているとか、か?)
職務上、アンナ・ベルナールの情報はある程度握っている。
彼女に関わり合いのある親戚筋はいない。
そして母親は随分昔に病に倒れて無くなっていて……残った肉親は父親のユアン・ベルナールのみ。
黒い噂がいくつもあり、公安の監視対象にもなっていた男が一人。
諸々の問題を言動、及び実力で実行しかねない男が一人。
そして上がってきた情報によると、魔正教の本部に優秀な魔術研究の権威が加わったのだそうだ。
……繋がる。
(だとしたら……俺でも止めるな)
当然、ロイが見たのがそうした結果だったのかは分からない。
分からないがもしそうなら。
そうでなくともそれに準ずるものだったとすれば。
(それはオブラートに包んでも伝え辛い)
その関係性が良かろうと悪かろうと、聞いていて気分のいい話ではない。
一体その相手にどんな感情を向けていようと、こればかりは知らぬが仏という事になる。
……願わくば自分の組んだ仮説が的外れであるようにと、カーチェスは考える。
本心として、アンナ・ベルナールに良くない事が起きて欲しくないと思っているのだから。
悪い事をしたと、まともな倫理観を持っていれば関わった全員が思っている筈だから。
☆★☆
「今日はあなたに素敵な出会いが、ね」
とあるカルト宗教が運営する施設の一室にて、新聞の占いコーナーに目を落としながらユアン・ベルナールはそう呟く。
別に占いなんてものを信じている訳ではない。
これまでかつて組んだ未来予知の魔術が示した通りの行動をしてきた彼にとって、結果的に的外れな事が分かっている占いを信じられる訳が無かった。
だけどそれでもこうして目を落としてしまっているのは、かつて組んだ未来予知のレールから外れてしまっているからだろうか。
「妻と娘と出会う事が出来た。それ以上に素敵な出会いなんてないよ」
自分の予知とはまるで違う何かに、全部を壊してもらいたいからなのか。
(……壊せるものなら壊して欲しいよ)
壊して欲しいからに決まっている。
都合の良い事が起きて、自分のプラン以外で全てがうまく行ってくれるならそれ以上の事は無い。
そうした上で、来月にある妻の命日に墓参りにもいけない自分の策略を壊してくれるなら。
娘とまともな会話を交わす事もできない今を壊してくれるなら。
それ以上の事は無い。
2
あなたにおすすめの小説
タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。
渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。
しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。
「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」
※※※
虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。
※重複投稿作品※
表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。
召喚失敗!?いや、私聖女みたいなんですけど・・・まぁいっか。
SaToo
ファンタジー
聖女を召喚しておいてお前は聖女じゃないって、それはなくない?
その魔道具、私の力量りきれてないよ?まぁ聖女じゃないっていうならそれでもいいけど。
ってなんで地下牢に閉じ込められてるんだろ…。
せっかく異世界に来たんだから、世界中を旅したいよ。
こんなところさっさと抜け出して、旅に出ますか。
金貨増殖バグが止まらないので、そのまま快適なスローライフを送ります
桜井正宗
ファンタジー
無能の落ちこぼれと認定された『ギルド職員』兼『ぷちドラゴン』使いの『ぷちテイマー』のヘンリーは、職員をクビとなり、国さえも追放されてしまう。
突然、空から女の子が降ってくると、キャッチしきれず女の子を地面へ激突させてしまう。それが聖女との出会いだった。
銀髪の自称聖女から『ギフト』を貰い、ヘンリーは、両手に持てない程の金貨を大量に手に入れた。これで一生遊んで暮らせると思いきや、金貨はどんどん増えていく。増殖が止まらない金貨。どんどん増えていってしまった。
聖女によれば“金貨増殖バグ”だという。幸い、元ギルド職員の権限でアイテムボックス量は無駄に多く持っていたので、そこへ保管しまくった。
大金持ちになったヘンリーは、とりあえず念願だった屋敷を買い……スローライフを始めていく!?
存在感のない聖女が姿を消した後 [完]
風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは
永く仕えた国を捨てた。
何故って?
それは新たに現れた聖女が
ヒロインだったから。
ディアターナは
いつの日からか新聖女と比べられ
人々の心が離れていった事を悟った。
もう私の役目は終わったわ…
神託を受けたディアターナは
手紙を残して消えた。
残された国は天災に見舞われ
てしまった。
しかし聖女は戻る事はなかった。
ディアターナは西帝国にて
初代聖女のコリーアンナに出会い
運命を切り開いて
自分自身の幸せをみつけるのだった。
「魔道具の燃料でしかない」と言われた聖女が追い出されたので、結界は消えます
七辻ゆゆ
ファンタジー
聖女ミュゼの仕事は魔道具に力を注ぐだけだ。そうして国を覆う大結界が発動している。
「ルーチェは魔道具に力を注げる上、癒やしの力まで持っている、まさに聖女だ。燃料でしかない平民のおまえとは比べようもない」
そう言われて、ミュゼは城を追い出された。
しかし城から出たことのなかったミュゼが外の世界に恐怖した結果、自力で結界を張れるようになっていた。
そしてミュゼが力を注がなくなった大結界は力を失い……
防御力を下げる魔法しか使えなかった俺は勇者パーティから追放されたけど俺の魔法に強制脱衣の追加効果が発現したので世界中で畏怖の対象になりました
かにくくり
ファンタジー
魔法使いクサナギは国王の命により勇者パーティの一員として魔獣討伐の任務を続けていた。
しかし相手の防御力を下げる魔法しか使う事ができないクサナギは仲間達からお荷物扱いをされてパーティから追放されてしまう。
しかし勇者達は今までクサナギの魔法で魔物の防御力が下がっていたおかげで楽に戦えていたという事実に全く気付いていなかった。
勇者パーティが没落していく中、クサナギは追放された地で彼の本当の力を知る新たな仲間を加えて一大勢力を築いていく。
そして防御力を下げるだけだったクサナギの魔法はいつしか次のステップに進化していた。
相手の身に着けている物を強制的に剥ぎ取るという究極の魔法を習得したクサナギの前に立ち向かえる者は誰ひとりいなかった。
※小説家になろうにも掲載しています。
追放された私の代わりに入った女、三日で国を滅ぼしたらしいですよ?
タマ マコト
ファンタジー
王国直属の宮廷魔導師・セレス・アルトレイン。
白銀の髪に琥珀の瞳を持つ、稀代の天才。
しかし、その才能はあまりに“美しすぎた”。
王妃リディアの嫉妬。
王太子レオンの盲信。
そして、セレスを庇うはずだった上官の沈黙。
「あなたの魔法は冷たい。心がこもっていないわ」
そう言われ、セレスは**『無能』の烙印**を押され、王国から追放される。
彼女はただ一言だけ残した。
「――この国の炎は、三日で尽きるでしょう。」
誰もそれを脅しとは受け取らなかった。
だがそれは、彼女が未来を見通す“預言魔法”の言葉だったのだ。
聖女が降臨した日が、運命の分かれ目でした
猫乃真鶴
ファンタジー
女神に供物と祈りを捧げ、豊穣を願う祭事の最中、聖女が降臨した。
聖女とは女神の力が顕現した存在。居るだけで豊穣が約束されるのだとそう言われている。
思ってもみない奇跡に一同が驚愕する中、第一王子のロイドだけはただ一人、皆とは違った視線を聖女に向けていた。
彼の婚約者であるレイアだけがそれに気付いた。
それが良いことなのかどうなのか、レイアには分からない。
けれども、なにかが胸の内に燻っている。
聖女が降臨したその日、それが大きくなったのだった。
※このお話は、小説家になろう様にも掲載しています
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる