ただキミを幸せにする為の物語 SSランクの幸運スキルを持つ俺は、パーティーを追放されたのでSSランクの不幸少女と最強のパーティーを組みます

山外大河

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一章 幸運少年と不幸少女

2 SSランクの不幸少女との邂逅

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 そもそも俺が冒険者という職業になったのは、最悪人と関わらなくてもいい職業だからである。
 当然一人というのはデメリットは大きい。報酬こそ独り占めだが、アレックスに解雇通告をされて反論した時に思ったようにそもそも依頼を受けられない事が多いからだ。
 だけど当時の俺には一つだけ大きなメリットがあったのだ。

 だって一人なら、誰にも迷惑を掛けないですむから。
 俺は人を不幸にするから。

 嫌でも何度でも思い出す。

 以前、住んでいた村が山賊に襲われた。
 奇跡的に死者は出なかったが、皆散々な目に会って。その中で俺だけが何の被害も受けなかった。
 それからも厄災が起きる度に俺だけが何事もなく、もはや皆の運気を俺が吸いとり、結果皆に厄災が降りかかり、俺だけが無事という事になっているとしか思えなくなっていた。

 ……俺も、周りも。

 そして16才の誕生日の日、俺は村を出た。出ざるを得ない状況だった。
 そういう空気もあったし、俺もこれ以上周りに迷惑を掛けたくなかったんだ。

 そして俺は村には無かった冒険者ギルドがある王都にやってきたんだ。
 冒険者になるために。
 必要以上に誰とも関わらずに最低限食っていく仕事に付くために。

 そしてソロでしょうもない依頼をこなし続けて1ヶ月程が経過したある日の事だ。

「俺達とパーティーを組まないか?」

 アレックスが俺に声を掛けてきたのは。
 当然断るべきだった。
 断るべきだった筈なんだ。
 だけどそれでも俺がアレックスのパーティーに入ったのは、決してアレックスの押しが強かったからとかそういう訳ではない。

 一重に俺が一人で誰とも関わらない生活に、精神的な限界を迎えていたから。

 当然だ。
 一人で生きていける人間が誰もいないとは言わないが、それでも大多数の人間は人と関わらないと生きていけないのだから
 俺もまた、その大多数の一人なのだから。

 だから俺は自分の決意も、自分が持つ幸運スキルの真相を棚に上げてアレックス達のパーティーに入ったんだ。
 そういう道に逃げだしたんだ。

 だからアレックスのパーティーを抜けたのは精神的に堪えた。
 翌日待っていた現実も、流石に堪えた。

「……」

 翌日冒険者ギルドに足を運ぶと妙な視線を感じた。
 そして聞こえてくる噂話。

 どうやら広がっているのだ。悪評が。
 
 恐らくというか間違いなくアレックス達の仕業だろう。
 まあ当然の事だとは思う。
 それだけの事を俺はしたわけで。
 これから関わる人間にも同じ事をする事になるわけで。
 アレックス達の行動は俺への恨み云々よりも、他の冒険者への注意喚起という側面の方が強いのだろう。

 だから誰ともまともに会話が成立しなかった。
 これではパーティーを組めない。

 そうだ、俺はこの期に及んで誰かとパーティーを組もうとしていた。
 今度は誰かからではなく、自分から。

 最初はソロで依頼を受けに来たつもりだったが、それこそそう簡単には行かない。
 一度逃げることを知った人間は、どうしようもなく脆くなる。
 つまりはアレックス達との出会いが俺にとってのターニングポイントだったんだ。
 あそこでそれでも一人を貫いていれば、多分俺はあのまま一人で大丈夫な人間に変わっていき。
 貫けなかった俺は脆くなった。
 
 誰かと関わりたかったんだ。
 慣れ合いたかったんだ。
 一人になりたく無い。

 この仕事を選んだ理由などかなぐり捨てて、そんな事の為に行動する。
 何よりもまず、誰かとパーティーを組むために行動をしていたわけだ。
 それは昼まで失敗の連続で、どうしようもなかったのだけれど。

「……参ったな、クソ」

 本当に。本当に誰も相手にしてくれない。
 当然だ。こんなもの当然だ。

 関わったら危険なスキルを持つ男を。しかもそれがSSランクと来たら相手にするのはそれこそ自殺行為なのだ。
 俺も他の連中の立場なら声なんてそう簡単に掛けられない。
 まともに話なんてしようとは思わない。
 余程の要件があって、尚且つ何かが起きてもある程度対応できる様な対策を持った上で無ければ必要以上の接触は避けたい。

 だからまあ仕方がない……諦めはしないけれど。

「……ま、とりあえず先に昼飯だ」

 もう昼である。何も進展がないままに昼である。
 腹ごしらえをしなければ何も始まらない。した所で始まるかは分からないけど。
 そう考えながら、俺はギルド内にある飲食店へと足を運ぶ。

 ギルド内には冒険者として登録している者なら安く利用できる食堂がある。
 安くてうまい。最高である。良い場所だ。
 ……アレックス達に声を掛けてもらったのもこの場所だ。
 人の迷惑にならないよう隅の方で飯食ってたら、勝手に周りの席に座ってきて……楽しかったな、あの時。

 そんな事を考えながら俺はカレーを購入する。
 冒険者ギルド名物。ギルドカレー。
 うまい。とにかくうまい。無茶苦茶うまい。それ以外の感想はない。

 ……さて、席はどうするか。

 ……なんか俺が此処に来た瞬間、また嫌な視線を向けられてるし……アレックス達みたいに突然隣りに座ったりしたら、冒険者仲間が座ってきたというよりは死神が急に隣りに座ってきたみたいな感じに思うのだろうか。
 少なくとも俺なら絶対に嫌である。勘弁してほしいと思う。

 ……となれば、今は隅っこの方に座ろう。
 積極的に声は掛けてきたけれど、だからと言って他人の食事まで邪魔する気にはなれないから。

 と、そんな事を考えながら隅の方の席に視線を向けたその時だった。
 そこに既に先客がいる事に気付いた。

 セミロングの金髪の小柄な少女。
 話した事はない。だけど知らない顔でもない。何しろ彼女は有名人だから。

 名前は確かアリサだ。

 彼女の冒険者としての実力がどの程度なのかと言われれば、正直な話全く知らない。多分このギルドに出入りしている人間の大半は知らないと思う。
 何しろ誰も彼女と関わろうとしないから。

 それでも有名人なのは、それこそ彼女が誰も関わろうとしない様な存在だからである。

 『不運』SSランク。
 それが彼女の持つスキルらしい。

 自分のみならず関わった人間の運気を大幅に低下させる。目も当てられない程酷いマイナススキル。しかもSSランクという高ランクの。
 いわば関われば命に関わるレベルで不幸になる。そんな相手。
 だから誰も関わろうとしない。
 アレックスからも以前アイツとは関わるなって忠告された覚えがある。

 ……なんだ、同じじゃないか。

 俺も人を不幸にする。だから誰からも相手にして貰えないのだから。

「……」

 自然と勝手に親近感が沸いてきた。
 だけど……親近感が沸いたから、かもしれない。

 俺はアリサに声を掛けるのをやめる事にした。

 冷静に考えれば、少なくとも自分は幸運なんて奴が同類面で近寄ってもアリサには不快にしか映らないだろうから。
 そもそも人の運気を吸い取るスキルである事が明白になっている今、そんな俺がデフォルトから不幸な奴に接触するのはもはや嫌がらせな気もしなくはない。
 というよりもそれは明白な嫌がらせだ。

 似たような境遇な奴にはこれ以上不幸になってもらいたくはない。

 そんな考えを抱きながらアリサから視線を外そうとした時、それは起きた。

「……ぁ」

 アリサが小さな声を上げた。上げるような状況だった。
 アリサは俺と同じくカレーを食べていたみたいだが、それを口に運ぶまでの間に木製のスプーンがぽっきりと折れた。
 当然そうなれば彼女の衣服にベチャリとカレーがつく。
 なんというか不幸……不幸、だけど……そんな事ある?

「……」

 本人も本人でまたか、みたいな表情してるし。
 なに? これよくある事なの?
 ……だとすれば紛れもなく不幸なのだろう。

 そしてアリサの不幸はそれで終わらない。

 アリサは備え付けられていた紙ナプキンを手にし、とりあえず服に付着したカレーを取りにかかる。
 そしてその時、微妙に体勢が変わった事により、椅子に掛かる負荷の掛かり方が変わったのだろう。
 もっともだからどうしたんだと普通はなるだろうけど……突然スプーンがへし折れるような不運を持つアリサにそんな常識は通用しない。

 椅子の足が折れた。

「うわ……ッ!?」

 そしてそのままアリサは勢いよく倒れ……って大丈夫かアイツ! ヤベエ位思いっきり頭打ってるぞ!

「……ッ」

 俺は自然と周囲を見渡す。
 流石に椅子の足が折れ悲鳴が漏れ、人が倒れればそれなりに気付く人がいる。
 とりあえず一番近い奴でいいから誰か助けに――、

「……マジかよ」

 冗談の様な光景だった。
 分かってる。みんな彼女と関わりたくは無いのだろう。
 でも……それにしたって、一人くらい動いたっていい筈だ。
 アリサを心配するような人間がいたっていい筈だ。いなければならない筈だ。

 なのにどうして……誰一人として動かない。
 どうして皆、一瞬視線を向けただけで自分の世界に戻っていく?
 ……いや、どうしてじゃない。答えは分かってるだろ。

 皆、巻き込まれたくないから動かないんだ。

「……」

 アリサはなおも動かなかった。
 本当に打ち所が悪かったのかもしれない。

「……クソッ!」

 自然と体が動いていた。
 分かってる。俺が動くという事はそれだけ事態を深刻化させる可能性がある事は。
 だけど……放っておけなかった。

「おい、大丈夫か!?」

 近くのテーブルにカレーを置いて屈み込み、床に蹲ってるアリサに声を掛ける。
 返事がない。意識もない。
 ……多分これ、脳震盪だ。

「……ッ」

 ちょっと待て。ちょっと待て。こういう時ってどうすればいいんだっけ?
 とにかく誰かどうにかできる奴に助けを……って駄目だクソ。
 元より誰も動かなかったのに、呼びかけるのはよりにもよって俺だぞ?

 そんなもん、誰も助けてくれる訳がねえだろ。

「……しょうがねえ」

 とにかく頭打って意識を失う。それも数秒とかじゃなく長時間ってのは素人目でみてもマズい事は理解できる。
 ……とにかく早急にすべき事は一つだ。

 俺はアリサを背負って立ち上がる。

 このまま病院に連れて行く。
 こういう時は専門家に診せるのが一番だ。

 そして俺はアリサを背負って冒険者ギルドを跳び出す。

 ……その間、誰からも声を掛けられる事は無かった。
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