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一章 幸運少年と不幸少女
4 異常事態
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「……大変だな、お前」
「いや、クルージさんも中々大変な目にあってるじゃないですか」
飲食店……なんかちょっとお洒落なレストランに足を踏み入れた俺達は、端の席で店長のオススメらしいパスタを食いながら、お互いの事を少し話した。
アリサはそのスキルの事もあり、色々あって今は独り暮らしらしい。
その色々が具体的に何かをという事は言わなかったし、俺もあえては聞かなかったが、それでも本当に壮絶な半生を送ってきたのであろうという事は察せてしまう。
冒険者になった経緯は俺と変わらない。
一人でもなんとか生きていけるから。
誰にも迷惑を掛けずにすむから。
そして俺と同じように一人を貫いていた。
だけど俺と違うのは、アレックスの様な存在かいなかった事だろう。
現れようがなかった事だろう。
自分から声を掛ける事はなく。
声を掛けられる事もなく。
ずっと一人だった。
本当に……今日に至るまで。
「俺なんてお前と比べりゃたいした事ねえよ。一応幸運な訳だし」
「比べる物じゃないですよこんなの。幸せになれない幸運スキルを持っているあなたも十分すぎる位不幸です。不幸仲間です」
「……それなんか嫌だな」
「あーうん。言ったボクが言うのもなんですけど、嫌ですね……ハハハ」
そう言って二人して苦笑いを浮かべた。
だけどアリサは良い事を思いついたという風に言う。
「あ、じゃあ幸せになりたい仲間なんてどうですか?」
「語呂悪いな……でもそれならなんかいい気がする」
「ですよね。それでいきましょう」
そう言ってアリサは笑う。
楽しそうに。
……終始どこか楽しそうに。
いや、違うな。嬉しそうにだ。
話している事はお互いの身の上事情で、それは暗い事である筈なのに。
そもそも人とまともに会話が成立している事が、本当に嬉しい様に。
……一体アリサは人と接する事にどれだ飢えていたのだろう。
そんな事を考えていると、気が付けばこんな風に考える様になっていた。
何か俺に、この子にしてやれる事はないだろうか?
俺よりも遥かに辛い目にあっている目の前の女の子に。
その境遇に一応の共感ができる者として。
此処に居ても大丈夫な数少ない人間として。
幸せになりたい仲間として。
俺には一体何ができるのだろうか?
考えたけど、大それた事なんてのはすぐには思いつかなくて。
だけど今できるちっぽけな事位なら簡単に分かるよ。
「にしてもここの料理凄いおいしいな」
そう言って俺は笑みを浮かべる。
……もう、暗い話はいいだろう。
折角誰かと話すのだから。誰かと話す事ができたのだから。
それはきっと明るくて前向きな話の方が良い筈だ。
どこにでもある様な何気ない会話でも交わすのが、きっと一番良い筈なんだ。
俺にとっても。
アリサにとっても。
きっとその筈である。
「あ、そうですよね!」
「よくこんなうまい店知ってたな」
「昔、よくお父さんに連れてきてもらったんです」
そう言ってアリサは笑い、
「ああ、なるほどね。センスいいなお前のお父さん」
そう言って俺も笑う。
「えへへ、いいでしょ」
「だな」
思わず踏み込みそうだったけど、思わず踏みとどまる。
何も指摘はしなかった。
今は独り暮らし。昔よくお父さんが。
それは間違いなく、踏み込んではいけない話なんだと思うよ。
だからそれは聞き流した。
楽しい話をしよう。
「あ、そういえばさ……」
たわいもない、普通の楽しい話を。
「いや、ここマジでうまかったな」
「ですよね」
「あ、ここの会計俺が出すよ。昨日報酬入ってるし」
「いやいや、ボクが誘ったんだからボクが出しますよ」
「俺が出す」
「いやボクが」
「……」
「……」
「……割り勘にする?」
「……ですね」
そんな会話をしながらレジへと向かう。
とりあえず二人でそれぞれお金を出し、会計を済ませた所で店員が小さな箱を出してきた。
「今お会計の際にくじを引いて貰ってるんです。おひとつずつどうぞ」
「ボクこういうの当たり引いたこと無いんですよね」
苦笑いしながらアリサは言う。
だろうなとは言わなかった。流石に失礼だ。
「えい」
それでも一応そんなかわいい掛け声をだしてくじを引く。
「……ッ!?」
するとアリサが驚愕の表情を浮かべた。
「どうした?」
「あ、あああ……当たってます……」
「マジで?」
「ほ、ほら」
言われて見てみると五等の文字。
どうやら普通にハズレも入っているらしい事を考えれば、一応当たりは当たりである。
「……マジかよ」
流石にそんな言葉が漏れ出した。
普通ならば驚くこともない、なんて事ない光景の筈だ。
だけど引いたのは『不幸』SSランクのアリサだ。
それも俺の『幸運』スキルのせいで運気が更に落ちている筈なんだ。
それでも……それでも何かしらの当たりが引けた。
俺もアリサもそりゃ驚愕の表情のひとつやふたつ位浮かべる。
……いったい、何が起きてるんだ?
「あ、あの……お客様もどうぞ」
「あ、はい」
俺達の反応に動揺していた店員に促され、俺もクジを引く。
……結果はハズレ。
俺もこの手のクジではハズレなんて引いたことがなかったのだけれど、それでもアリサのスキルで運気が少しいい程度に落ちている事を考えれば納得はできる。
多少運気が良いくらいなら、ハズレ位は普通に引くだろう。
でも、アリサは。
一度も当たりを引いたことのないアリサが当たりを引いた。
それはどう考えたって異常な事態なんだって思うよ。
「いや、クルージさんも中々大変な目にあってるじゃないですか」
飲食店……なんかちょっとお洒落なレストランに足を踏み入れた俺達は、端の席で店長のオススメらしいパスタを食いながら、お互いの事を少し話した。
アリサはそのスキルの事もあり、色々あって今は独り暮らしらしい。
その色々が具体的に何かをという事は言わなかったし、俺もあえては聞かなかったが、それでも本当に壮絶な半生を送ってきたのであろうという事は察せてしまう。
冒険者になった経緯は俺と変わらない。
一人でもなんとか生きていけるから。
誰にも迷惑を掛けずにすむから。
そして俺と同じように一人を貫いていた。
だけど俺と違うのは、アレックスの様な存在かいなかった事だろう。
現れようがなかった事だろう。
自分から声を掛ける事はなく。
声を掛けられる事もなく。
ずっと一人だった。
本当に……今日に至るまで。
「俺なんてお前と比べりゃたいした事ねえよ。一応幸運な訳だし」
「比べる物じゃないですよこんなの。幸せになれない幸運スキルを持っているあなたも十分すぎる位不幸です。不幸仲間です」
「……それなんか嫌だな」
「あーうん。言ったボクが言うのもなんですけど、嫌ですね……ハハハ」
そう言って二人して苦笑いを浮かべた。
だけどアリサは良い事を思いついたという風に言う。
「あ、じゃあ幸せになりたい仲間なんてどうですか?」
「語呂悪いな……でもそれならなんかいい気がする」
「ですよね。それでいきましょう」
そう言ってアリサは笑う。
楽しそうに。
……終始どこか楽しそうに。
いや、違うな。嬉しそうにだ。
話している事はお互いの身の上事情で、それは暗い事である筈なのに。
そもそも人とまともに会話が成立している事が、本当に嬉しい様に。
……一体アリサは人と接する事にどれだ飢えていたのだろう。
そんな事を考えていると、気が付けばこんな風に考える様になっていた。
何か俺に、この子にしてやれる事はないだろうか?
俺よりも遥かに辛い目にあっている目の前の女の子に。
その境遇に一応の共感ができる者として。
此処に居ても大丈夫な数少ない人間として。
幸せになりたい仲間として。
俺には一体何ができるのだろうか?
考えたけど、大それた事なんてのはすぐには思いつかなくて。
だけど今できるちっぽけな事位なら簡単に分かるよ。
「にしてもここの料理凄いおいしいな」
そう言って俺は笑みを浮かべる。
……もう、暗い話はいいだろう。
折角誰かと話すのだから。誰かと話す事ができたのだから。
それはきっと明るくて前向きな話の方が良い筈だ。
どこにでもある様な何気ない会話でも交わすのが、きっと一番良い筈なんだ。
俺にとっても。
アリサにとっても。
きっとその筈である。
「あ、そうですよね!」
「よくこんなうまい店知ってたな」
「昔、よくお父さんに連れてきてもらったんです」
そう言ってアリサは笑い、
「ああ、なるほどね。センスいいなお前のお父さん」
そう言って俺も笑う。
「えへへ、いいでしょ」
「だな」
思わず踏み込みそうだったけど、思わず踏みとどまる。
何も指摘はしなかった。
今は独り暮らし。昔よくお父さんが。
それは間違いなく、踏み込んではいけない話なんだと思うよ。
だからそれは聞き流した。
楽しい話をしよう。
「あ、そういえばさ……」
たわいもない、普通の楽しい話を。
「いや、ここマジでうまかったな」
「ですよね」
「あ、ここの会計俺が出すよ。昨日報酬入ってるし」
「いやいや、ボクが誘ったんだからボクが出しますよ」
「俺が出す」
「いやボクが」
「……」
「……」
「……割り勘にする?」
「……ですね」
そんな会話をしながらレジへと向かう。
とりあえず二人でそれぞれお金を出し、会計を済ませた所で店員が小さな箱を出してきた。
「今お会計の際にくじを引いて貰ってるんです。おひとつずつどうぞ」
「ボクこういうの当たり引いたこと無いんですよね」
苦笑いしながらアリサは言う。
だろうなとは言わなかった。流石に失礼だ。
「えい」
それでも一応そんなかわいい掛け声をだしてくじを引く。
「……ッ!?」
するとアリサが驚愕の表情を浮かべた。
「どうした?」
「あ、あああ……当たってます……」
「マジで?」
「ほ、ほら」
言われて見てみると五等の文字。
どうやら普通にハズレも入っているらしい事を考えれば、一応当たりは当たりである。
「……マジかよ」
流石にそんな言葉が漏れ出した。
普通ならば驚くこともない、なんて事ない光景の筈だ。
だけど引いたのは『不幸』SSランクのアリサだ。
それも俺の『幸運』スキルのせいで運気が更に落ちている筈なんだ。
それでも……それでも何かしらの当たりが引けた。
俺もアリサもそりゃ驚愕の表情のひとつやふたつ位浮かべる。
……いったい、何が起きてるんだ?
「あ、あの……お客様もどうぞ」
「あ、はい」
俺達の反応に動揺していた店員に促され、俺もクジを引く。
……結果はハズレ。
俺もこの手のクジではハズレなんて引いたことがなかったのだけれど、それでもアリサのスキルで運気が少しいい程度に落ちている事を考えれば納得はできる。
多少運気が良いくらいなら、ハズレ位は普通に引くだろう。
でも、アリサは。
一度も当たりを引いたことのないアリサが当たりを引いた。
それはどう考えたって異常な事態なんだって思うよ。
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