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一章 幸運少年と不幸少女
5 パーティー結成
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「で、何当たったんだ」
「サービス券です。次回ドリンクが一杯無料になります」
「へー良かったじゃん」
「こんなの当てたの初めてです。記念に宝物にします」
「いや使えよ。飲もうぜドリンク」
そんなやり取りをしながら俺達は店を出た。
そして店を出てとりあえず歩き出した所で、アリサは不思議そうに言う。
「……しかし妙ですね」
「今のクジの事か?」
「あ、まあそれもそうなんですけと……それだけじゃないんですよ」
本当に不思議そうにアリサは言う。
「だってボクが目を覚ましてから今まで、あの一件以外に何も起きてないんですよ?」
「……え?」
「馬車に泥を跳ねられるような事もなかったですし、変な人に絡まれもしなかったですし、お店だって臨時休業じゃありませんでした」
「……」
「店員さんが躓いて料理が飛んで来る様な事もなかったですし、ああ、それにクジも当たりましたね……まるで運が良くなった見たいです」
「運が……よく、か」
確かにそんな風に思えるけど、それは違うだろう。違うはずだ。
元から悪い筈の運がもっと悪くなっている。本来はそうなる筈なんだ。
だからそんなアリサを守らないといけないと思っていた。
俺の所為でより酷い運気になっているアリサを守らないとって、そう思ってたんだ。
だけど結果的に、本当に何も起きなかったんだ。
警戒なんて必要ない程。ただ当たり前の様に時間は過ぎて今に至った。
まるで本当に、アリサの運気が上がったように。
そして事の異常性は。そんな幸せな異常性は、ずっと不幸と付き合ってきたアリサが一番不思議に思う。
思うからこそ、何か答えを見付けようと考える。
そして……何かしら思い当たる節があった様だった。
「あ、もしかして」
「なんか分かったのか?」
「クルージさんのおかげ、じゃないですか?」
「は? 俺?」
予想外の回答が返ってきた。
「俺ってどういう事だよ。俺は寧ろお前の運気を下げてる筈なんだって。吸い取るんだよ、運気を」
「……もしかしたらなんですけど、それ……勘違いなんじゃないですか?」
「……え?」
それこそ、あまりにも予想外の言葉だった。
「か、勘違い? いや、勘違いな訳ねえだろ!?」
さっきアリサには話の流れで軽くこちらの身の上事情も話してある。
だから知っている筈だ。
俺の住んでいた村で起きた事も。
どう考えたって勘違いではない筈だ。
それで済まされる事では無い筈だ。
だけどアリサは言う。
「……でも村が山賊に襲われた時、誰も亡くならなかったんですよね?」
「……え、いや……でも村は滅茶苦茶になったし、大怪我を負った人だって何人もいた!」
「普通死人がでますよ、そんなの」
アリサは当たり前の事を言う。
「ボクは王都に生まれて王都育ちですから。山賊に襲われた被害なんて話は新聞位でしかみません。だけど……多分誰も死なずに事が終わるなんてのは奇跡ですよ」
「……でも俺が。俺だけが無事だったんだぞ」
「スキルの効果が自分に一番色濃く出るなんて当たり前じゃないですか。ボクだって人の運気を凄く落としますけど、ボク自身が一番落ちるわけですし」
そして一拍空けてからアリサは言う。
「クルージさんが言ってたアレックスって人達も多分そうです。本当はもっと危険でどうしようもない状況に陥っていた所を、クルージさんのスキルで辛うじて皆無事に帰ってこれる程度で収まった。そういう風にも考えられませんか?」
「……」
考えられるかと言われれば、考えられる訳がない。
村で不幸な事は何度だってあった。
アレックス達と一緒にクエストをこなしたのも一回二回の話ではない。
何度も何度もこなして、結局全てにおいてアレックス達に不幸としか思えないような事が置き続けた。
その時全てにおいて、俺だけが何事もなかった。
「……いや、そんな都合のいい考え方、できないだろ」
だから思わずそんな言葉が漏れだした。
できる訳ないだろうって。
そんな都合のいい考え方なんてしちゃいけないだろうって。
そう思ったから。
だけどアリサは優し気な笑みを浮かべて言う。
「じゃあどうしてボクは今日幸せだったんですか?」
「……ッ!?」
「確かに今まであった事をクルージさんのおかげでその程度って思うのは難しいかもしれません。色々重なりすぎてますからね」
だけど、とアリサは言う。
「でもクルージさんの背中で目を覚ましてからのこの短い時間、ボクなんかが幸せだって思えたのだけは間違いじゃないんです」
そして……そして、言ってくれた。
「あなたは疫病神なんかじゃありません」
「……」
その言葉を、受け入れていいかどうかは分からない。
こんな事を受け入れたら。実際俺の周りで不幸な目にあっていた人に、俺は関係ないって無責任な事を言っている様で。背負わなければいけない何かから逃げだしている様な気がして。
自分がそんなどうしようもない人間に思えてしまって。
だけど……だけど。駄目だった。
「……ありがとな、アリサ」
俺はその言葉を受け入れたかった。
受け入れたくて仕方がなかった。
きっと俺はずっと、誰かに言ってほしかったんだ。
俺の周りで起きた不幸は全部俺の所為じゃなかったって。
だから俺は前を見て胸を張って歩いていいんだって。
そういう風に生きていいんだって。
幸せになろうとしてもいいんだって。
俺は……多分そんな風に、俺という人間を肯定してほしかったんだ。
「……ありがとう」
だったらもう、そんなのはもう受け入れるしかなくて。
気が付けば俺は、どこか救われた様な気分になっていたんだ。
いや、気分なんかじゃない。そんな不確かな物なんかじゃない。
ただ一言、そう言って貰えただけで……俺は救われていたんだ。
「どういたしまして」
そう言ってアリサは笑う。
……その笑顔を見ながら、改めて考えた。
先は碌な答えが出せなかった問い。
何か。なんでもいい。
目の前の女の子にしてやれる事はないのだろうか?
俺に前を向いて生きてもいいんだって肯定してくれた女の子に、一体俺は何をしてやれる?
「……なあ、アリサ」
考えた。
思いついた。
それが俺の取れる選択肢として正しいのかどうかは分からないけれど。
それでも、言ってみた。
「お前さえよければ、俺とパーティーを組まないか?」
俺なら。お前が肯定してくれた俺ならば。
少しはその不幸を和らげる事ができる筈だから。
きっとそのスキル故に苦難の連続だったであろう冒険者としての仕事も、少し位は楽にしてやれる筈だから。
「……」
それを聞いたアリサは少しの間呆然としていた。
そしてその後、俺に聞いてくる。
「……いいんですか?」
少し不安そうに、アリサは言う。
「ボクは……クルージさんを、不幸にしますよ?」
不幸になる。確かに単純な運気の話をすれば、それは間違いないだろう。
元より俺は運気のおかげで実力以上の仕事をこなせている。それはアレックス達と仕事をして理解している。
そんな俺の運気が人並みにまで落ち込めば……呆気なく命を落とす様なちっぽけな存在になり下がるだろう。
だけどそれが不幸なのかどうかは別の話だ。
「大丈夫だ。俺は不幸になんかならねえよ」
だってそうだ。
俺を肯定してくれたアリサが不幸から脱する事ができるのなら、それは俺にとっての幸運なのだから。
「で、どうだ?」
「……」
そして、長い長い長考の後で、アリサは答える。
「クルージさんさえよければ……お願いします! ずっと誰かとパーティーを組みたかったんです!」
「じゃ、交渉成立だな」
そう言って俺が笑うと、アリサもまた笑みを浮かべた。
「はい!」
こうしてSSランクの『幸運』である俺と、SSランクの『不運』のアリサはパーティーを結成したんだ。
「それで、どうしましょうか。ギルドに戻ります?」
「そうだな。まだ昼だし時間もある。二人で受けられる依頼を探そう」
そして俺達はギルドへ向けて歩きだした。
そして歩きだした段階で、ようやく気付いた。
……完全に当初の目的を忘れていた。
……午前中必死になって探していたパーティーメンバー、勢いで出来てんじゃねえか。
「サービス券です。次回ドリンクが一杯無料になります」
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そんなやり取りをしながら俺達は店を出た。
そして店を出てとりあえず歩き出した所で、アリサは不思議そうに言う。
「……しかし妙ですね」
「今のクジの事か?」
「あ、まあそれもそうなんですけと……それだけじゃないんですよ」
本当に不思議そうにアリサは言う。
「だってボクが目を覚ましてから今まで、あの一件以外に何も起きてないんですよ?」
「……え?」
「馬車に泥を跳ねられるような事もなかったですし、変な人に絡まれもしなかったですし、お店だって臨時休業じゃありませんでした」
「……」
「店員さんが躓いて料理が飛んで来る様な事もなかったですし、ああ、それにクジも当たりましたね……まるで運が良くなった見たいです」
「運が……よく、か」
確かにそんな風に思えるけど、それは違うだろう。違うはずだ。
元から悪い筈の運がもっと悪くなっている。本来はそうなる筈なんだ。
だからそんなアリサを守らないといけないと思っていた。
俺の所為でより酷い運気になっているアリサを守らないとって、そう思ってたんだ。
だけど結果的に、本当に何も起きなかったんだ。
警戒なんて必要ない程。ただ当たり前の様に時間は過ぎて今に至った。
まるで本当に、アリサの運気が上がったように。
そして事の異常性は。そんな幸せな異常性は、ずっと不幸と付き合ってきたアリサが一番不思議に思う。
思うからこそ、何か答えを見付けようと考える。
そして……何かしら思い当たる節があった様だった。
「あ、もしかして」
「なんか分かったのか?」
「クルージさんのおかげ、じゃないですか?」
「は? 俺?」
予想外の回答が返ってきた。
「俺ってどういう事だよ。俺は寧ろお前の運気を下げてる筈なんだって。吸い取るんだよ、運気を」
「……もしかしたらなんですけど、それ……勘違いなんじゃないですか?」
「……え?」
それこそ、あまりにも予想外の言葉だった。
「か、勘違い? いや、勘違いな訳ねえだろ!?」
さっきアリサには話の流れで軽くこちらの身の上事情も話してある。
だから知っている筈だ。
俺の住んでいた村で起きた事も。
どう考えたって勘違いではない筈だ。
それで済まされる事では無い筈だ。
だけどアリサは言う。
「……でも村が山賊に襲われた時、誰も亡くならなかったんですよね?」
「……え、いや……でも村は滅茶苦茶になったし、大怪我を負った人だって何人もいた!」
「普通死人がでますよ、そんなの」
アリサは当たり前の事を言う。
「ボクは王都に生まれて王都育ちですから。山賊に襲われた被害なんて話は新聞位でしかみません。だけど……多分誰も死なずに事が終わるなんてのは奇跡ですよ」
「……でも俺が。俺だけが無事だったんだぞ」
「スキルの効果が自分に一番色濃く出るなんて当たり前じゃないですか。ボクだって人の運気を凄く落としますけど、ボク自身が一番落ちるわけですし」
そして一拍空けてからアリサは言う。
「クルージさんが言ってたアレックスって人達も多分そうです。本当はもっと危険でどうしようもない状況に陥っていた所を、クルージさんのスキルで辛うじて皆無事に帰ってこれる程度で収まった。そういう風にも考えられませんか?」
「……」
考えられるかと言われれば、考えられる訳がない。
村で不幸な事は何度だってあった。
アレックス達と一緒にクエストをこなしたのも一回二回の話ではない。
何度も何度もこなして、結局全てにおいてアレックス達に不幸としか思えないような事が置き続けた。
その時全てにおいて、俺だけが何事もなかった。
「……いや、そんな都合のいい考え方、できないだろ」
だから思わずそんな言葉が漏れだした。
できる訳ないだろうって。
そんな都合のいい考え方なんてしちゃいけないだろうって。
そう思ったから。
だけどアリサは優し気な笑みを浮かべて言う。
「じゃあどうしてボクは今日幸せだったんですか?」
「……ッ!?」
「確かに今まであった事をクルージさんのおかげでその程度って思うのは難しいかもしれません。色々重なりすぎてますからね」
だけど、とアリサは言う。
「でもクルージさんの背中で目を覚ましてからのこの短い時間、ボクなんかが幸せだって思えたのだけは間違いじゃないんです」
そして……そして、言ってくれた。
「あなたは疫病神なんかじゃありません」
「……」
その言葉を、受け入れていいかどうかは分からない。
こんな事を受け入れたら。実際俺の周りで不幸な目にあっていた人に、俺は関係ないって無責任な事を言っている様で。背負わなければいけない何かから逃げだしている様な気がして。
自分がそんなどうしようもない人間に思えてしまって。
だけど……だけど。駄目だった。
「……ありがとな、アリサ」
俺はその言葉を受け入れたかった。
受け入れたくて仕方がなかった。
きっと俺はずっと、誰かに言ってほしかったんだ。
俺の周りで起きた不幸は全部俺の所為じゃなかったって。
だから俺は前を見て胸を張って歩いていいんだって。
そういう風に生きていいんだって。
幸せになろうとしてもいいんだって。
俺は……多分そんな風に、俺という人間を肯定してほしかったんだ。
「……ありがとう」
だったらもう、そんなのはもう受け入れるしかなくて。
気が付けば俺は、どこか救われた様な気分になっていたんだ。
いや、気分なんかじゃない。そんな不確かな物なんかじゃない。
ただ一言、そう言って貰えただけで……俺は救われていたんだ。
「どういたしまして」
そう言ってアリサは笑う。
……その笑顔を見ながら、改めて考えた。
先は碌な答えが出せなかった問い。
何か。なんでもいい。
目の前の女の子にしてやれる事はないのだろうか?
俺に前を向いて生きてもいいんだって肯定してくれた女の子に、一体俺は何をしてやれる?
「……なあ、アリサ」
考えた。
思いついた。
それが俺の取れる選択肢として正しいのかどうかは分からないけれど。
それでも、言ってみた。
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俺なら。お前が肯定してくれた俺ならば。
少しはその不幸を和らげる事ができる筈だから。
きっとそのスキル故に苦難の連続だったであろう冒険者としての仕事も、少し位は楽にしてやれる筈だから。
「……」
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そしてその後、俺に聞いてくる。
「……いいんですか?」
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「ボクは……クルージさんを、不幸にしますよ?」
不幸になる。確かに単純な運気の話をすれば、それは間違いないだろう。
元より俺は運気のおかげで実力以上の仕事をこなせている。それはアレックス達と仕事をして理解している。
そんな俺の運気が人並みにまで落ち込めば……呆気なく命を落とす様なちっぽけな存在になり下がるだろう。
だけどそれが不幸なのかどうかは別の話だ。
「大丈夫だ。俺は不幸になんかならねえよ」
だってそうだ。
俺を肯定してくれたアリサが不幸から脱する事ができるのなら、それは俺にとっての幸運なのだから。
「で、どうだ?」
「……」
そして、長い長い長考の後で、アリサは答える。
「クルージさんさえよければ……お願いします! ずっと誰かとパーティーを組みたかったんです!」
「じゃ、交渉成立だな」
そう言って俺が笑うと、アリサもまた笑みを浮かべた。
「はい!」
こうしてSSランクの『幸運』である俺と、SSランクの『不運』のアリサはパーティーを結成したんだ。
「それで、どうしましょうか。ギルドに戻ります?」
「そうだな。まだ昼だし時間もある。二人で受けられる依頼を探そう」
そして俺達はギルドへ向けて歩きだした。
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そして、このスキルを発動すれば神を自由に召喚出来るらしく、他の三大神も召喚するがうまく進むわけもなく......。
これは、雑魚と呼ばれ続けた勇者が、強き勇者へとなる物語である。
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