ただキミを幸せにする為の物語 SSランクの幸運スキルを持つ俺は、パーティーを追放されたのでSSランクの不幸少女と最強のパーティーを組みます

山外大河

文字の大きさ
5 / 228
一章 幸運少年と不幸少女

5 パーティー結成

しおりを挟む
「で、何当たったんだ」

「サービス券です。次回ドリンクが一杯無料になります」

「へー良かったじゃん」

「こんなの当てたの初めてです。記念に宝物にします」

「いや使えよ。飲もうぜドリンク」

 そんなやり取りをしながら俺達は店を出た。
 そして店を出てとりあえず歩き出した所で、アリサは不思議そうに言う。

「……しかし妙ですね」

「今のクジの事か?」

「あ、まあそれもそうなんですけと……それだけじゃないんですよ」

 本当に不思議そうにアリサは言う。

「だってボクが目を覚ましてから今まで、あの一件以外に何も起きてないんですよ?」

「……え?」

「馬車に泥を跳ねられるような事もなかったですし、変な人に絡まれもしなかったですし、お店だって臨時休業じゃありませんでした」

「……」

「店員さんが躓いて料理が飛んで来る様な事もなかったですし、ああ、それにクジも当たりましたね……まるで運が良くなった見たいです」

「運が……よく、か」

 確かにそんな風に思えるけど、それは違うだろう。違うはずだ。
 元から悪い筈の運がもっと悪くなっている。本来はそうなる筈なんだ。
 だからそんなアリサを守らないといけないと思っていた。
 俺の所為でより酷い運気になっているアリサを守らないとって、そう思ってたんだ。

 だけど結果的に、本当に何も起きなかったんだ。
 警戒なんて必要ない程。ただ当たり前の様に時間は過ぎて今に至った。

 まるで本当に、アリサの運気が上がったように。

 そして事の異常性は。そんな幸せな異常性は、ずっと不幸と付き合ってきたアリサが一番不思議に思う。
 思うからこそ、何か答えを見付けようと考える。
 そして……何かしら思い当たる節があった様だった。

「あ、もしかして」

「なんか分かったのか?」

「クルージさんのおかげ、じゃないですか?」

「は? 俺?」

 予想外の回答が返ってきた。

「俺ってどういう事だよ。俺は寧ろお前の運気を下げてる筈なんだって。吸い取るんだよ、運気を」

「……もしかしたらなんですけど、それ……勘違いなんじゃないですか?」

「……え?」

 それこそ、あまりにも予想外の言葉だった。

「か、勘違い? いや、勘違いな訳ねえだろ!?」

 さっきアリサには話の流れで軽くこちらの身の上事情も話してある。
 だから知っている筈だ。
 俺の住んでいた村で起きた事も。
 どう考えたって勘違いではない筈だ。
 それで済まされる事では無い筈だ。

 だけどアリサは言う。

「……でも村が山賊に襲われた時、誰も亡くならなかったんですよね?」

「……え、いや……でも村は滅茶苦茶になったし、大怪我を負った人だって何人もいた!」

「普通死人がでますよ、そんなの」

 アリサは当たり前の事を言う。

「ボクは王都に生まれて王都育ちですから。山賊に襲われた被害なんて話は新聞位でしかみません。だけど……多分誰も死なずに事が終わるなんてのは奇跡ですよ」

「……でも俺が。俺だけが無事だったんだぞ」

「スキルの効果が自分に一番色濃く出るなんて当たり前じゃないですか。ボクだって人の運気を凄く落としますけど、ボク自身が一番落ちるわけですし」

 そして一拍空けてからアリサは言う。

「クルージさんが言ってたアレックスって人達も多分そうです。本当はもっと危険でどうしようもない状況に陥っていた所を、クルージさんのスキルで辛うじて皆無事に帰ってこれる程度で収まった。そういう風にも考えられませんか?」

「……」

 考えられるかと言われれば、考えられる訳がない。
 村で不幸な事は何度だってあった。
 アレックス達と一緒にクエストをこなしたのも一回二回の話ではない。
 何度も何度もこなして、結局全てにおいてアレックス達に不幸としか思えないような事が置き続けた。

 その時全てにおいて、俺だけが何事もなかった。

「……いや、そんな都合のいい考え方、できないだろ」

 だから思わずそんな言葉が漏れだした。
 できる訳ないだろうって。
 そんな都合のいい考え方なんてしちゃいけないだろうって。
 そう思ったから。

 だけどアリサは優し気な笑みを浮かべて言う。

「じゃあどうしてボクは今日幸せだったんですか?」

「……ッ!?」 

「確かに今まであった事をクルージさんのおかげでその程度って思うのは難しいかもしれません。色々重なりすぎてますからね」

 だけど、とアリサは言う。

「でもクルージさんの背中で目を覚ましてからのこの短い時間、ボクなんかが幸せだって思えたのだけは間違いじゃないんです」

 そして……そして、言ってくれた。

「あなたは疫病神なんかじゃありません」

「……」

 その言葉を、受け入れていいかどうかは分からない。
 こんな事を受け入れたら。実際俺の周りで不幸な目にあっていた人に、俺は関係ないって無責任な事を言っている様で。背負わなければいけない何かから逃げだしている様な気がして。
 自分がそんなどうしようもない人間に思えてしまって。

 だけど……だけど。駄目だった。

「……ありがとな、アリサ」

 俺はその言葉を受け入れたかった。
 受け入れたくて仕方がなかった。

 きっと俺はずっと、誰かに言ってほしかったんだ。

 俺の周りで起きた不幸は全部俺の所為じゃなかったって。
 だから俺は前を見て胸を張って歩いていいんだって。

 そういう風に生きていいんだって。
 幸せになろうとしてもいいんだって。

 俺は……多分そんな風に、俺という人間を肯定してほしかったんだ。

「……ありがとう」

 だったらもう、そんなのはもう受け入れるしかなくて。
 気が付けば俺は、どこか救われた様な気分になっていたんだ。

 いや、気分なんかじゃない。そんな不確かな物なんかじゃない。

 ただ一言、そう言って貰えただけで……俺は救われていたんだ。

「どういたしまして」

 そう言ってアリサは笑う。

 ……その笑顔を見ながら、改めて考えた。
 先は碌な答えが出せなかった問い。

 何か。なんでもいい。
 目の前の女の子にしてやれる事はないのだろうか?

 俺に前を向いて生きてもいいんだって肯定してくれた女の子に、一体俺は何をしてやれる?

「……なあ、アリサ」

 考えた。
 思いついた。

 それが俺の取れる選択肢として正しいのかどうかは分からないけれど。
 それでも、言ってみた。

「お前さえよければ、俺とパーティーを組まないか?」

 俺なら。お前が肯定してくれた俺ならば。
 少しはその不幸を和らげる事ができる筈だから。

 きっとそのスキル故に苦難の連続だったであろう冒険者としての仕事も、少し位は楽にしてやれる筈だから。

「……」

 それを聞いたアリサは少しの間呆然としていた。
 そしてその後、俺に聞いてくる。

「……いいんですか?」

 少し不安そうに、アリサは言う。

「ボクは……クルージさんを、不幸にしますよ?」

 不幸になる。確かに単純な運気の話をすれば、それは間違いないだろう。
 元より俺は運気のおかげで実力以上の仕事をこなせている。それはアレックス達と仕事をして理解している。
 そんな俺の運気が人並みにまで落ち込めば……呆気なく命を落とす様なちっぽけな存在になり下がるだろう。
 だけどそれが不幸なのかどうかは別の話だ。

「大丈夫だ。俺は不幸になんかならねえよ」

 だってそうだ。
 俺を肯定してくれたアリサが不幸から脱する事ができるのなら、それは俺にとっての幸運なのだから。

「で、どうだ?」

「……」

 そして、長い長い長考の後で、アリサは答える。

「クルージさんさえよければ……お願いします! ずっと誰かとパーティーを組みたかったんです!」

「じゃ、交渉成立だな」

 そう言って俺が笑うと、アリサもまた笑みを浮かべた。

「はい!」

 こうしてSSランクの『幸運』である俺と、SSランクの『不運』のアリサはパーティーを結成したんだ。

「それで、どうしましょうか。ギルドに戻ります?」

「そうだな。まだ昼だし時間もある。二人で受けられる依頼を探そう」

 そして俺達はギルドへ向けて歩きだした。
 そして歩きだした段階で、ようやく気付いた。

 ……完全に当初の目的を忘れていた。
 ……午前中必死になって探していたパーティーメンバー、勢いで出来てんじゃねえか。
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

迷宮に捨てられた俺、魔導ガチャを駆使して世界最強の大賢者へと至る〜

サイダーボウイ
ファンタジー
アスター王国ハワード伯爵家の次男ルイス・ハワードは、10歳の【魔力固定の儀】において魔法適性ゼロを言い渡され、実家を追放されてしまう。 父親の命令により、生還率が恐ろしく低い迷宮へと廃棄されたルイスは、そこで魔獣に襲われて絶体絶命のピンチに陥る。 そんなルイスの危機を救ってくれたのが、400年の時を生きる魔女エメラルドであった。 彼女が操るのは、ルイスがこれまでに目にしたことのない未発見の魔法。 その煌めく魔法の数々を目撃したルイスは、深い感動を覚える。 「今の自分が悔しいなら、生まれ変わるしかないよ」 そう告げるエメラルドのもとで、ルイスは努力によって人生を劇的に変化させていくことになる。 これは、未発見魔法の列挙に挑んだ少年が、仲間たちとの出会いを通じて成長し、やがて世界の命運を動かす最強の大賢者へと至る物語である。

【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます

腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった! 私が死ぬまでには完結させます。 追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。 追記2:ひとまず完結しました!

《レベル∞》の万物創造スキルで追放された俺、辺境を開拓してたら気づけば神々の箱庭になっていた

夏見ナイ
ファンタジー
勇者パーティーの雑用係だったカイは、魔王討伐後「無能」の烙印を押され追放される。全てを失い、死を覚悟して流れ着いた「忘れられた辺境」。そこで彼のハズレスキルは真の姿《万物創造》へと覚醒した。 無から有を生み、世界の理すら書き換える神の如き力。カイはまず、生きるために快適な家を、豊かな畑を、そして清らかな川を創造する。荒れ果てた土地は、みるみるうちに楽園へと姿を変えていった。 やがて、彼の元には行き場を失った獣人の少女やエルフの賢者、ドワーフの鍛冶師など、心優しき仲間たちが集い始める。これは、追放された一人の青年が、大切な仲間たちと共に理想郷を築き、やがてその地が「神々の箱庭」と呼ばれるまでの物語。

無能と追放された俺の【システム解析】スキル、実は神々すら知らない世界のバグを修正できる唯一のチートでした

夏見ナイ
ファンタジー
ブラック企業SEの相馬海斗は、勇者として異世界に召喚された。だが、授かったのは地味な【システム解析】スキル。役立たずと罵られ、無一文でパーティーから追放されてしまう。 死の淵で覚醒したその能力は、世界の法則(システム)の欠陥(バグ)を読み解き、修正(デバッグ)できる唯一無二の神技だった! 呪われたエルフを救い、不遇な獣人剣士の才能を開花させ、心強い仲間と成り上がるカイト。そんな彼の元に、今さら「戻ってこい」と元パーティーが現れるが――。 「もう手遅れだ」 これは、理不尽に追放された男が、神の領域の力で全てを覆す、痛快無双の逆転譚!

無能扱いされ、パーティーを追放されたおっさん、実はチートスキル持ちでした。戻ってきてくれ、と言ってももう遅い。田舎でゆったりスローライフ。

さら
ファンタジー
かつて勇者パーティーに所属していたジル。 だが「無能」と嘲られ、役立たずと追放されてしまう。 行くあてもなく田舎の村へ流れ着いた彼は、鍬を振るい畑を耕し、のんびり暮らすつもりだった。 ――だが、誰も知らなかった。 ジルには“世界を覆すほどのチートスキル”が隠されていたのだ。 襲いかかる魔物を一撃で粉砕し、村を脅かす街の圧力をはねのけ、いつしか彼は「英雄」と呼ばれる存在に。 「戻ってきてくれ」と泣きつく元仲間? もう遅い。 俺はこの村で、仲間と共に、気ままにスローライフを楽しむ――そう決めたんだ。 無能扱いされたおっさんが、実は最強チートで世界を揺るがす!? のんびり田舎暮らし×無双ファンタジー、ここに開幕!

異世界転移「スキル無!」~授かったユニークスキルは「なし」ではなく触れたモノを「無」に帰す最強スキルだったようです~

夢・風魔
ファンタジー
林間学校の最中に召喚(誘拐?)された鈴村翔は「スキルが無い役立たずはいらない」と金髪縦ロール女に言われ、その場に取り残された。 しかしそのスキル鑑定は間違っていた。スキルが無いのではなく、転移特典で授かったのは『無』というスキルだったのだ。 とにかく生き残るために行動を起こした翔は、モンスターに襲われていた双子のエルフ姉妹を助ける。 エルフの里へと案内された翔は、林間学校で用意したキャンプ用品一式を使って彼らの食生活を改革することに。 スキル『無』で時々無双。双子の美少女エルフや木に宿る幼女精霊に囲まれ、翔の異世界生活冒険譚は始まった。 *小説家になろう・カクヨムでも投稿しております(完結済み

追放された俺のスキル【整理整頓】が覚醒!もふもふフェンリルと訳あり令嬢と辺境で最強ギルドはじめます

黒崎隼人
ファンタジー
「お前の【整理整頓】なんてゴミスキル、もういらない」――勇者パーティーの雑用係だったカイは、ダンジョンの最深部で無一文で追放された。死を覚悟したその時、彼のスキルは真の能力に覚醒する。鑑定、無限収納、状態異常回復、スキル強化……森羅万象を“整理”するその力は、まさに規格外の万能チートだった! 呪われたもふもふ聖獣と、没落寸前の騎士令嬢。心優しき仲間と出会ったカイは、辺境の街で小さなギルド『クローゼット』を立ち上げる。一方、カイという“本当の勇者”を失ったパーティーは崩壊寸前に。これは、地味なスキル一つで世界を“整理整頓”していく、一人の青年の爽快成り上がり英雄譚!

スキルで最強神を召喚して、無双してしまうんだが〜パーティーを追放された勇者は、召喚した神達と共に無双する。神達が強すぎて困ってます〜

東雲ハヤブサ
ファンタジー
勇者に選ばれたライ・サーベルズは、他にも選ばれた五人の勇者とパーティーを組んでいた。 ところが、勇者達の実略は凄まじく、ライでは到底敵う相手ではなかった。 「おい雑魚、これを持っていけ」 ライがそう言われるのは日常茶飯事であり、荷物持ちや雑用などをさせられる始末だ。 ある日、洞窟に六人でいると、ライがきっかけで他の勇者の怒りを買ってしまう。  怒りが頂点に達した他の勇者は、胸ぐらを掴まれた後壁に投げつけた。 いつものことだと、流して終わりにしようと思っていた。  だがなんと、邪魔なライを始末してしまおうと話が進んでしまい、次々に攻撃を仕掛けられることとなった。 ハーシュはライを守ろうとするが、他の勇者に気絶させられてしまう。 勇者達は、ただ痛ぶるように攻撃を加えていき、瀕死の状態で洞窟に置いていってしまった。 自分の弱さを呪い、本当に死を覚悟した瞬間、視界に突如文字が現れてスキル《神族召喚》と書かれていた。 今頃そんなスキル手を入れてどうするんだと、心の中でつぶやくライ。 だが、死ぬ記念に使ってやろうじゃないかと考え、スキルを発動した。 その時だった。 目の前が眩く光り出し、気付けば一人の女が立っていた。 その女は、瀕死状態のライを最も簡単に回復させ、ライの命を救って。 ライはそのあと、その女が神達を統一する三大神の一人であることを知った。 そして、このスキルを発動すれば神を自由に召喚出来るらしく、他の三大神も召喚するがうまく進むわけもなく......。 これは、雑魚と呼ばれ続けた勇者が、強き勇者へとなる物語である。 ※小説家になろうにて掲載中

処理中です...