ただキミを幸せにする為の物語 SSランクの幸運スキルを持つ俺は、パーティーを追放されたのでSSランクの不幸少女と最強のパーティーを組みます

山外大河

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二章 ごく当たり前の日常を掴む為に

19 そして彼女は踏み越える

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 アリサがリーナから逃げた。
 そうした原因は一つしかない。
 間違ってもリーナが何かしたというような、そんな事ではない筈だ。

 ほぼ間違いなく……リーナを自身の不幸スキルに巻き込みたくなかったからだろう。

 ……そしてこの結果がコレだ。
 酷く落ち込んだリーナが此処にいる。

「……」

 ……果たして、俺はどうするべきなのだろうか?
 アリサは……嘘が露見することを望んでいない。
 自らのスキルの事を知られたくない。

 そうする事で、リーナという存在が。
 きっとずっと欲しかったであろう、友達と呼べるような存在がいなくなって終わらぬように。

 だけどその嘘が原因で、今の状況が出来上がっている。

 だとしたら……もう、駄目だろ。

 今、俺が嘘に嘘を重ねて。適当な理由をでっち上げて。アリサと口裏を合わせて。そうすればひとまずは解決するかもしれない。

 ……ではその後は?

 同じような事は何度も通じない。
 どうやっても近い将来瓦解する。どうしようもなく壊れてしまう。
 ……それは駄目だ。

 ……ああそうだ。それじゃ駄目なんだ。

 アリサは、せめて自分の運気がまともな時だけでも。そんな限定的な時間だけでも仲良くできればって思ってる。
 だけどこのままだと、それも成立しなくなる。

 だから……勝手な判断かもしれない。どうしようもなく間違いかもしれない。
 俺が今から取る選択は、アリサに恨まれるかもしれない。
 
 それでも……きっとその限定的な時間を守る為にも。
 願わくば事態が好転して、それ以上の何かを得るに至る可能性を残すためにも。
 きっとアリサは……一歩踏み出さなければいけない。

「……別にお前は何もしてねえよ」

 そう前置きをすると、リーナは言う。

「じゃあ……一体なんだったんですかね」

「……実はな、昨日アリサが言ってた探知スキルって奴、完全に嘘なんだよ」

「……え?」

 リーナがそんな間の抜けた声を出す。

「え、ちょっと待ってください。嘘? アレ嘘だったんすか? というかなんでそんな嘘を……というか」

 リーナが少し察したように言う。

「それがさっきのアリサちゃんと関係あるんすか? 例えば……偽らないといけないスキルで……私から逃げないといけない様なスキルとか」

「……話が早くて助かるよ」

 まさしくその通りだ。
 ……意外に察しがいい。

「……じゃあアリサちゃんの本当のスキルってなんなんすか? 多分口裏合わせてた先輩がこういう話にしたんすから、教えてくれるっすよね」

「不運スキル。それもSSランクの超高ランク」

「……ッ!?」

 リーナが驚愕の表情を浮かべる。
 当然だ。アリサが抱えているのはそれだけ深刻な代物なんだ。
 そしてリーナは言う。

「で、でも昨日は何も――」

「昨日は俺のスキルと相殺して何も起きなかった。だけどな……そうじゃなきゃ自他共に不運な事態に巻き込む事になる。だからお前からも逃げたし……偽ったんだよ、アイツは」

 それを聞いたリーナは、複雑な表情を浮かべて俺に問いかけてくる。

「言ったら嫌われるから、っすか?」

「ああ」

 俺は小さく頷いて、それから問う。

「……実際どうだよ、コレ聞いて」

 その先の答えが、この先の未来の片鱗だ。
 ここの返答によっては、もうこれで終いだ。
 アリサが恐れていた現実を、一足早く俺が引き起こしたという形で終わる。
 だから正直、聞くのは怖かった。
 これが怖いからこそ、俺だってアリサの嘘に合わせたんだ。
 途中でその嘘を止められなかったんだ。

 そして、少しの間沈黙した後、リーナは答える。

「……先輩はそれで私がアリサちゃんを嫌うって思うっすか?」

「……」

 なんと言葉を返そうか迷ったけれど、それでもこんな会話には嘘を混ぜるべきじゃない。
 俺は素直に、思った通りにリーナに答えた。

「……正直、分からなかった」

「……」

「事が事だから。分かんねえだろそんなもん」

 分からないからこその、この状況だから。
 そして俺の言葉にリーナは答える。

「ま、正直そうっすよね。分かんなくて当然っす」

 リーナは俺の言葉に頷きながら立ち上がる。

「正直先輩と一緒に居れば相殺できると知っていたとしても、流石にSSランクの不運スキル。しかも自分の中で自己完結しない様なものだって言われたら、そりゃそんな条件下に限定したって離れてく人もいるっすよ。それは間違いないっす」

 そうやってリーナは否定的な言葉を口にするがその後、だけど、とリーナは言葉を続ける。

「勝手な助言っすけどね、そんな条件下ですら離れていったり嫌悪感出しまくったりしてる様な相手なら突き放しちゃえばいいんすよ。というか突き離さないと駄目っす。アリサちゃんができないなら先輩がやってあげて欲しいっすね。嫌な役割かもしんないっすけど……そんな奴とまともな関係性を築ける訳がないじゃないっすか」

「……お前」

 多分。というか間違いなく。嫌悪感を抱いている様な相手に対してそんな助言は出さない。
 つまりは……今回に関して言えば杞憂だったんだ。

「もし先輩でもそれが無理っていうなら、私が引き受けるっすよ。デリカシーのカケラもない言葉ぶつけまくってやります」

「……そっか」

「はい!」

 そう言ってリーナは笑う。

 それが答えだ。
 リーナが出したアリサへの向き合い方。
 そんな条件下であるならばアリサと友好な関係を築ける。
 限定的ではあるけれど、それでも仲良くやれる様な友達の様な存在。

 リーナはそういう風にアリサを見てくれたのだと……そう、思っていた。

 だけどそれが間違いである事は、すぐに分かった。

「……よし」

 リーナはどこか覚悟を決めた様にそう口にして、そして俺に対してこう言った。

「色々教えてくれてありがとうございました、先輩。私ちょっと……アリサちゃんと会って来るっす」

 そんな条件下であるならば。
 そんな小さな希望をリーナは軽々と踏み越えていく。

 そこに幸運スキルを宿している訳ではない。
 だとすれば何か良くない事が起きるのは分かっている筈なのに。

 リーナという女の子は、アリサと真っ向から向き合うつもりでいる様だった。
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