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三章 人間という生き物の本質

22 仮設四人パーティー

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「おっせえぞお前ら!」

「わりい。で、モンスターは?」

 見た所モンスターは見えない。一体どこにいるんだ……まさかこの僅かな遅れの間にアリサが倒してたり……してたら臨戦態勢解いてるよな。
 だから当然の事ながら終わっていない。

 そしてグレンは言う。

「まだ接近中だ。お前らを呼んだ段階じゃまだ特徴的な砂嵐みてえのしか見えなかったからな」

 そしてグレンは言う。

「おそらくは多分サンドベアー。目視できてねえから数は……あ、とりあえず今一体見えたぞ」

「ほんとだ……てかサンドベアーってまた面倒な奴が出てきやがったな……」

 少なくとも一体辺りの厄介さは魔獣の比ではない。そんな相手。

 ……サンドベアー。

 例えるならば土竜の様な性質を持つ熊とでも言うべきだろうか。
 土竜の如く地面の中を高速で動き回る。ただ地面の中で呼吸を満足にできないらしく、視界に映るその姿はどこかトビウオに近い様にも思える。
 そしてそうやって高速接近し、強襲する。
 スピードもパワーも図体も。一体当たりの強さで比較すれば、本当に魔獣なんか相手にならない様な、そんな相手。

「……いや、もう一体いますね」

 アリサが視界に捉えたのか静かにそう言う。

「二体……か。今の所目視できた数じゃ数で勝ってるんだけどな……三体とか四体とかいなきゃいいけど」

 そう言ってグレンが構えたのは長柄のハンマー。
 グレンはそのハンマーといくつかの魔術を巧みに操り、俊敏かつ繊細で。尚且つ破壊力のある戦いを見せる近、中距離アタッカーだ。

「で、どうするクルージ。正直俺はアリサとリーナの戦い方をよく知らない。戦闘に混じってもうまく連携できるかわからねえぞ? 単独で動くか?」

「いや、その辺りは俺達もそんなに変わらねえから気にすんな。まだパーティー組んで日が浅いから、連携できるか分からねえのは全員一緒だ」

 だからその都度相手の動きに呼吸を合わせて、俺とアリサがそうしてきた様に、アイコンタクトを交えつつやれるだけの連携を取る。
 その都度その都度の成り行きに任せて。
 そしてそういう事なら、グレンには高い洞察力がある。それは戦闘においても生かされる。
 多分コイツなら、ある程度誰とでも動きを合わせられる。
 だからもう、物事はシンプルに考えていけばいい。

「だから今は俺達四人でとにかく頑張ってぶっ潰す。それだけ頭に入れていこうぜ」

「うわーアバウトっすね。でもまあシンプルで嫌いじゃないっすよそう言うの」

 そうリーナが言った直後、俺達の足元に魔法陣が展開される。
 ……そして体が軽くなった様に感じた。

「……すげえな。こんな高等技術会得してんのかよ」

 グレンが驚いた様にそう言う。
 そして俺はリーナに言った。

「よし、じゃあ俺達三人でサンドベアー二体とかち合う。お前は最低限のフォロー頼む。あとはとにかく
ヤバくなったら逃げろ」

「はいっす」

「あとアリサは基本全力でアイツら叩いてくれ。俺達に無理に合わせようとすんな。俺達がお前に合わせられるだけ合わせる。多分お前はその方がいい」

「分かりました」

 そう言ったアリサは小さく笑って言う。

「なんだか仲間が増えると良い感じのリーダーみたいですね」

「……いや、そんな器じゃねえよ俺は」

 ……今自然とやってた指示だってほら、すげえ雑だしな。俺はそれがいいと思って言っちゃったけどそれでいいのかも理論も何もない直感でしかないし。
 ……まあとにかく。

「来るぞ、クルージ」

「ああ! とっとと片付けるぞ!」

「はい!」

「了解っす!」

 そして初陣の三人パーティー+一人。
 実質的に仮設の四人パーティーの初陣が始まった。
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