100 / 228
三章 人間という生き物の本質
47 要の有無 下
しおりを挟む
向こうの戦力はこちらとは違い、比較的精鋭揃いだと言える。
だけどそれでも確信を持って言える。向こうで一対一で戦えるのはグレンだけ。他の連中はやはり複数人で囲まなければ対処できない。そうなれば一人で四体も相手にできるアリサという要の有無はあまりにも大きい。
そしてそもそも俺達は魔獣を倒すという本来の目的を果たす時にも、あまりにも大きくアリサの恩恵を受けていて。向こうはそれもなくて。
故にこちらに黒い霧が現れた段階で残っていた、アリサ以外の戦力と同等の物を、その時まで向こう側が残せているかも定かではなくて。
つまり……つまり向こうは最悪な戦況になっている可能性が高くて。
だとすれば。
……最悪、グレンが死ぬ。
「……ッ」
何か……なんでもいい。
策を打たなければならない。
一分一秒でも早く……ッ!
そう考えながら、必死になって走った。
グレン達のいる東側に向けてではない。
真正面。今まさに四体の内の一人を消滅させたアリサの元へ。
そして黒い霧の背後から飛びかかり、一体に切り抜けるように一太刀を浴びせる。
それでは倒しきれなかったものの、ダメージは与えられた筈だ。
そしてアリサと合流する。
「クルージさん、怪我とかしてないですか!?」
「大丈夫だ! アリサお前は!?」
「ボクも大丈夫です!」
そう言ってアリサは俺と背中合わせになるようにして、そして言う。
「とにかくここからも怪我とか無しで切り抜けましょう! とりあえずボク達二人掛かりで-ー」
「いや、コイツらは俺一人でやる! お前は東側に行ってくれ!」
「……え?」
「東側も同じ状況になってたらグレンが死ぬかもしれねえ! それだけは絶対に駄目だ!」
「……ッ」
アリサも状況を把握したのか、声にならない声を出す。
だけどすぐには頷かない。
「……ちょ、ちょっと待ってください!」
そうアリサが何かを言い掛けた時、二体の黒い霧が俺達に向けて腕を振り下ろしてくる。
俺はそれをかわして反撃を叩き込みながら、アリサの方を向いて言う。
「……頼む。俺が行った所で多分何も変えられねえんだ」
その時、俺がどんな声音で。どんな表情を浮かべていたかは俺にはよく分からない。
分からないけれど、視界の先のアリサは何かを感じ取ったようにハッとした表情を浮かべていて。
連続して放たれる黒い霧の攻撃をかわして反撃を加えていたアリサは、最後に一撃ナイフで黒い霧を切りつけた後、踵を返す。
「すぐなんとかして戻ってきます!」
そう言ってアリサは勢いよく東側へと向かってくれた。
それでも間に合うか分からない。分からないけれどそれでも……これで大丈夫かもしれないと思う事はできる。アリサが間に合いさえすればどうにかなるだろうから。
……そうなれば後はこっちをどうにかする事を考えよう。
俺は黒い霧の攻撃を躱しながら改めて状況を再確認する。
目の前には黒い霧が三体。
いずれもある程度はアリサがダメージを蓄積させてくれている筈で。それでもあり、俺が合流した時に切り付けた奴はやや動きが鈍くなっている。
それでも強敵で。そんな奴らが三体もいて。そして他の連中は他の連中でそれぞれ黒い霧の対処に終われていて加勢は期待できない。
正真正銘、俺一人対、謎の化物三体だ。
だとすればこれは間違いなく死戦。圧倒的劣勢。
だけど死ぬわけにはいかない。
……俺が死ねばアリサがどうなるか分かっているから。
とにかく死ねない。
死んでたまるか。
「三対一、上等だ!」
そして俺は黒い霧の攻撃を躱し、全力で刀で切りかかった。
また無事四人で顔を合わせる為に。
だけどそれでも確信を持って言える。向こうで一対一で戦えるのはグレンだけ。他の連中はやはり複数人で囲まなければ対処できない。そうなれば一人で四体も相手にできるアリサという要の有無はあまりにも大きい。
そしてそもそも俺達は魔獣を倒すという本来の目的を果たす時にも、あまりにも大きくアリサの恩恵を受けていて。向こうはそれもなくて。
故にこちらに黒い霧が現れた段階で残っていた、アリサ以外の戦力と同等の物を、その時まで向こう側が残せているかも定かではなくて。
つまり……つまり向こうは最悪な戦況になっている可能性が高くて。
だとすれば。
……最悪、グレンが死ぬ。
「……ッ」
何か……なんでもいい。
策を打たなければならない。
一分一秒でも早く……ッ!
そう考えながら、必死になって走った。
グレン達のいる東側に向けてではない。
真正面。今まさに四体の内の一人を消滅させたアリサの元へ。
そして黒い霧の背後から飛びかかり、一体に切り抜けるように一太刀を浴びせる。
それでは倒しきれなかったものの、ダメージは与えられた筈だ。
そしてアリサと合流する。
「クルージさん、怪我とかしてないですか!?」
「大丈夫だ! アリサお前は!?」
「ボクも大丈夫です!」
そう言ってアリサは俺と背中合わせになるようにして、そして言う。
「とにかくここからも怪我とか無しで切り抜けましょう! とりあえずボク達二人掛かりで-ー」
「いや、コイツらは俺一人でやる! お前は東側に行ってくれ!」
「……え?」
「東側も同じ状況になってたらグレンが死ぬかもしれねえ! それだけは絶対に駄目だ!」
「……ッ」
アリサも状況を把握したのか、声にならない声を出す。
だけどすぐには頷かない。
「……ちょ、ちょっと待ってください!」
そうアリサが何かを言い掛けた時、二体の黒い霧が俺達に向けて腕を振り下ろしてくる。
俺はそれをかわして反撃を叩き込みながら、アリサの方を向いて言う。
「……頼む。俺が行った所で多分何も変えられねえんだ」
その時、俺がどんな声音で。どんな表情を浮かべていたかは俺にはよく分からない。
分からないけれど、視界の先のアリサは何かを感じ取ったようにハッとした表情を浮かべていて。
連続して放たれる黒い霧の攻撃をかわして反撃を加えていたアリサは、最後に一撃ナイフで黒い霧を切りつけた後、踵を返す。
「すぐなんとかして戻ってきます!」
そう言ってアリサは勢いよく東側へと向かってくれた。
それでも間に合うか分からない。分からないけれどそれでも……これで大丈夫かもしれないと思う事はできる。アリサが間に合いさえすればどうにかなるだろうから。
……そうなれば後はこっちをどうにかする事を考えよう。
俺は黒い霧の攻撃を躱しながら改めて状況を再確認する。
目の前には黒い霧が三体。
いずれもある程度はアリサがダメージを蓄積させてくれている筈で。それでもあり、俺が合流した時に切り付けた奴はやや動きが鈍くなっている。
それでも強敵で。そんな奴らが三体もいて。そして他の連中は他の連中でそれぞれ黒い霧の対処に終われていて加勢は期待できない。
正真正銘、俺一人対、謎の化物三体だ。
だとすればこれは間違いなく死戦。圧倒的劣勢。
だけど死ぬわけにはいかない。
……俺が死ねばアリサがどうなるか分かっているから。
とにかく死ねない。
死んでたまるか。
「三対一、上等だ!」
そして俺は黒い霧の攻撃を躱し、全力で刀で切りかかった。
また無事四人で顔を合わせる為に。
0
あなたにおすすめの小説
【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます
腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった!
私が死ぬまでには完結させます。
追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。
追記2:ひとまず完結しました!
地味な薬草師だった俺が、実は村の生命線でした
有賀冬馬
ファンタジー
恋人に裏切られ、村を追い出された青年エド。彼の地味な仕事は誰にも評価されず、ただの「役立たず」として切り捨てられた。だが、それは間違いだった。旅の魔術師エリーゼと出会った彼は、自分の能力が秘めていた真の価値を知る。魔術と薬草を組み合わせた彼の秘薬は、やがて王国を救うほどの力となり、エドは英雄として名を馳せていく。そして、彼が去った村は、彼がいた頃には気づかなかった「地味な薬」の恩恵を失い、静かに破滅へと向かっていくのだった。
異世界に召喚されたが「間違っちゃった」と身勝手な女神に追放されてしまったので、おまけで貰ったスキルで凡人の俺は頑張って生き残ります!
椿紅颯
ファンタジー
神乃勇人(こうのゆうと)はある日、女神ルミナによって異世界へと転移させられる。
しかしまさかのまさか、それは誤転移ということだった。
身勝手な女神により、たった一人だけ仲間外れにされた挙句の果てに粗雑に扱われ、ほぼ投げ捨てられるようなかたちで異世界の地へと下ろされてしまう。
そんな踏んだり蹴ったりな、凡人主人公がおりなす異世界ファンタジー!
【鑑定不能】と捨てられた俺、実は《概念創造》スキルで万物創成!辺境で最強領主に成り上がる。
夏見ナイ
ファンタジー
伯爵家の三男リアムは【鑑定不能】スキル故に「無能」と追放され、辺境に捨てられた。だが、彼が覚醒させたのは神すら解析不能なユニークスキル《概念創造》! 認識した「概念」を現実に創造できる規格外の力で、リアムは快適な拠点、豊かな食料、忠実なゴーレムを生み出す。傷ついたエルフの少女ルナを救い、彼女と共に未開の地を開拓。やがて獣人ミリア、元貴族令嬢セレスなど訳ありの仲間が集い、小さな村は驚異的に発展していく。一方、リアムを捨てた王国や実家は衰退し、彼の力を奪おうと画策するが…? 無能と蔑まれた少年が最強スキルで理想郷を築き、自分を陥れた者たちに鉄槌を下す、爽快成り上がりファンタジー!
異世界転移「スキル無!」~授かったユニークスキルは「なし」ではなく触れたモノを「無」に帰す最強スキルだったようです~
夢・風魔
ファンタジー
林間学校の最中に召喚(誘拐?)された鈴村翔は「スキルが無い役立たずはいらない」と金髪縦ロール女に言われ、その場に取り残された。
しかしそのスキル鑑定は間違っていた。スキルが無いのではなく、転移特典で授かったのは『無』というスキルだったのだ。
とにかく生き残るために行動を起こした翔は、モンスターに襲われていた双子のエルフ姉妹を助ける。
エルフの里へと案内された翔は、林間学校で用意したキャンプ用品一式を使って彼らの食生活を改革することに。
スキル『無』で時々無双。双子の美少女エルフや木に宿る幼女精霊に囲まれ、翔の異世界生活冒険譚は始まった。
*小説家になろう・カクヨムでも投稿しております(完結済み
白いもふもふ好きの僕が転生したらフェンリルになっていた!!
ろき
ファンタジー
ブラック企業で消耗する社畜・白瀬陸空(しらせりくう)の唯一の癒し。それは「白いもふもふ」だった。 ある日、白い子犬を助けて命を落とした彼は、異世界で目を覚ます。
ふと水面を覗き込むと、そこに映っていたのは―― 伝説の神獣【フェンリル】になった自分自身!?
「どうせ転生するなら、テイマーになって、もふもふパラダイスを作りたかった!」 「なんで俺自身がもふもふの神獣になってるんだよ!」
理想と真逆の姿に絶望する陸空。 だが、彼には規格外の魔力と、前世の異常なまでの「もふもふへの執着」が変化した、とある謎のスキルが備わっていた。
これは、最強の神獣になってしまった男が、ただひたすらに「もふもふ」を愛でようとした結果、周囲の人間(とくにエルフ)に崇拝され、勘違いが勘違いを呼んで国を動かしてしまう、予測不能な異世界もふもふライフ!
【本編完結済み/後日譚連載中】巻き込まれた事なかれ主義のパシリくんは争いを避けて生きていく ~生産系加護で今度こそ楽しく生きるのさ~
みやま たつむ
ファンタジー
【本編完結しました(812話)/後日譚を書くために連載中にしています。ご承知おきください】
事故死したところを別の世界に連れてかれた陽キャグループと、巻き込まれて事故死した事なかれ主義の静人。
神様から強力な加護をもらって魔物をちぎっては投げ~、ちぎっては投げ~―――なんて事をせずに、勢いで作ってしまったホムンクルスにお店を開かせて面倒な事を押し付けて自由に生きる事にした。
作った魔道具はどんな使われ方をしているのか知らないまま「のんびり気ままに好きなように生きるんだ」と魔物なんてほっといて好き勝手生きていきたい静人の物語。
「まあ、そんな平穏な生活は転移した時点で無理じゃけどな」と最高神は思うのだが―――。
※「小説家になろう」と「カクヨム」で同時掲載しております。
追放された無能鑑定士、実は世界最強の万物解析スキル持ち。パーティーと国が泣きついてももう遅い。辺境で美少女とスローライフ(?)を送る
夏見ナイ
ファンタジー
貴族の三男に転生したカイトは、【鑑定】スキルしか持てず家からも勇者パーティーからも無能扱いされ、ついには追放されてしまう。全てを失い辺境に流れ着いた彼だが、そこで自身のスキルが万物の情報を読み解く最強スキル【万物解析】だと覚醒する! 隠された才能を見抜いて助けた美少女エルフや獣人と共に、カイトは辺境の村を豊かにし、古代遺跡の謎を解き明かし、強力な魔物を従え、着実に力をつけていく。一方、カイトを切り捨てた元パーティーと王国は凋落の一途を辿り、彼の築いた豊かさに気づくが……もう遅い! 不遇から成り上がる、痛快な逆転劇と辺境スローライフ(?)が今、始まる!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる