ただキミを幸せにする為の物語 SSランクの幸運スキルを持つ俺は、パーティーを追放されたのでSSランクの不幸少女と最強のパーティーを組みます

山外大河

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三章 人間という生き物の本質

ex 想定されるべき最悪な状況

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 状況は最悪と言って過言では無かった。

(……これはちょっと、やべえかもしれねえ)

 突然現れた黒い霧の攻撃をかわしながら、グレンはこの場の戦況を把握してそう考える。
 魔獣から黒い霧が発生したかと思ったら、それが人体の形を形成して襲いかかって来た。完全にイレギュラーな戦い。

 それも……冗談の様に強い。

(まともにやりあえるの俺だけかよこの野郎!)

 黒い霧の腕をかわしながら、もう一体にハンマーを叩き付ける。
 なんとか戦えている。二体同時ならなんとか。三体なら辛うじて。
 とにかく自分は辛うじて戦えている。
 ……自分だけは。

(……不味いっ!)

 視界の端で、二対一で辛うじて黒い霧を相手にしている精鋭部隊の一人に向けて背後から接近していく黒い霧が見えた。
 誰かがカバーに回らなければならない。
 だけどそんな人材がいないから、そうしてフリーになっている黒い霧がいる。

「くそっ!」

 黒い霧の攻撃を掻い潜り、近くに落ちていた、精鋭部隊の誰かが落としたナイフを拾う。
 そして魔術を発動させてハンマーに魔方陣を展開。
 ナイフの柄尻にハンマーを打ち付けて弾き飛ばし、ナイフを黒い霧に貫かせる。

 そしてすぐさま体を捻って、自信の背後から腕を振り下ろしてきた黒い霧の攻撃をかわす。
 そしてそのまま走り出し、ナイフを貫かせて動きを止めた黒い霧に全力の一撃を振り下ろす。
 だが倒れない。

(……俺の全力で一撃で倒せねえとか、タフ過ぎんだろ)

 そしてその間に迫る先に相手にしていた二体。
 これで三対一。
 否……他のフォローを考えると、それだけでは済まない。
 つまりはあまりに手に余る。

(……情けねえが間違いねえ。加勢が必要だぞコレ)

 この状況は自分には。自分達には手があまる。自分一人でどうにかするには限度がある。
 だけどなんとか持ちこたえさえすれば加勢が訪れる可能性は十分にあった。
 こういう事態が起きているのがこちら側だけなのだとすれば言わずもがな。
 もし向こうでも起きていたとしても、向こうには自分と同じくこの状況で唯一黒い霧と単独で戦えるクルージと、トップクラスの戦闘能力を持つアリサ。そしてその二人の実力をさらに引き出せるリーナが居る。他の連中の一戦闘員としての質は向こうよりもこちらの方が高いだろうが、それでもお釣りが来る。
 あの三人がいればすぐは無理でも急速に戦いは終わる。
 だとしてももし同じ状況だった場合。そしてその可能性が高い事を考えると、流石に今この瞬間にそれを期待するのは早すぎで。最低でも後少しは自分が中心となって持ちこたえなければならない。
 そう思った次の瞬間だった。

「……ッ」

 視界の端からこちらに向かってくる四体目の姿が見えたのは。

(まずい……一度に四体は流石にまずい……ッ!)

 誰かがやられたのかそれとも新たに出現したのか。それは分からないが、とにかく四体はまずい。相手にしきれない。もしこれが防衛戦でなければ全力で逃亡を図る戦力差。
 だけど逃げられない。絶体絶命。

「クソ……ッ!」

 その時だった。

 電撃を纏ったナイフが視界を横切り、接近していた黒い霧に突き刺さり放電し始めたのは。

「……ッ!?」

 攻撃を躱し、ハンマーを叩き込みながらナイフが飛んできた方角に視線を向ける。

「……アリサ」

 そこに居たのは西側を担当していた筈のアリサだった。

(……助かった)

 少し情けなく感じながらもそう安堵した所で、ある疑問が脳裏を過った。

(まさか向こうはもう片付いたのか?)

 いくらクルージやアリサが強くてもいくら何でも早すぎる。向こうには魔獣しか現れなかったのだろうか?
 そして抱いたそんな疑問は、こちらに向かってくるアリサの姿を見て別の形に発展する。

(いや、ちょっと待て……なんでアリサしかいないんだ?)

 そこに居る筈の。いないほうが不思議な人間がいない。
 直接的な戦闘要員ではないリーナは分かるが……そこにクルージがいない理由が分からない。
 そしてその答えが出ないまま、こちらに接近してきたアリサがナイフで黒い霧を切り裂く。

「加勢に来ました!」

「すまん助かった! 助かったがアリサ……クルージはどうした!」

 アリサの登場で攻撃の隙が生まれた黒い霧にハンマーを叩き込みながら問いかけるが、アリサは一瞬言葉を詰まらせる。
 だけどやがて、ナイフを振るいながら答えた。

「こっちも同じ状況になっているかもしれないってクルージさんが。だからボクにこっちの加勢に行けって……」

「……あの野郎ッ」

 容易に想像できる。クルージという人間ならそう言う事は。
 多分アリサが拒んだとしても、クルージは曲げない。

「それでアイツに任せて大丈夫なのか!?」

「一応今のこっちよりはマシです! クルージさんが三対一! 他の人達が倒されなければ……きっと……きっと大丈夫です! 大丈夫な……大丈夫な筈です!」

 そうであってほしい。そんなどこか縋る様な祈りの言葉。
 だけどそんな言葉を聞いて。他の人という言葉を聞いて。血の気が引いた。
 とてつもなく、嫌な予感がした。

「一つだけ……一つだけ確認させろ!」

 せめて自分が思う最悪な事態になっていませんようにと、そう願いながらアリサに問いかける。

「その場に……向こうの戦いの場に、リーナはちゃんといるんだろうな!?」

「……ッ」

 アリサは苦しい表情を浮かべた後、言う。

「怪我をした人を連れて後ろに下がって――」

「ふざけんな、最悪な状況じゃねえか!」

「分かってますよそんな事! でも……あんな顔されたらもう、こうするしかなかったんですよ!」

「……ッ」

 多分アリサも今クルージがどういう状況に置かれているかはちゃんと理解している。
 それでも。それでも動かざるを得ない程に酷く追い詰められた表情を、クルージがしていただろう事を。してくれたのだろうという事を。
 だけどクルージがそういう奴だと正しく認識しているのは、自分とアリサとリーナの三人だけなのだ。

「アリサ! 悪い、無茶苦茶な事言ってんのは分かってる。だけど悪いが、アイツらのフォロー含めて、此処、全部任せてもいいか!」

「ボクもこっちに辿り着いたら言おうと思ってました! 行ってくださいグレンさん!」

「悪い!」

 そしてグレンはアリサにバトンタッチして西側の戦場へと向かう。
 クルージは強い。例え一対三でも十分に勝算はある。
 だけど……それでもだ。

 こんな状況でも。村が襲われている緊急事態でも。多分今回の黒い霧が出て来た原因をクルージだと考えてもおかしくない位には、村の連中にとってクルージは味方じゃない。

 三対一ではないのだ。
 どさくさに紛れて。事故を装って。黒い霧に全てをなすりつける形にして。

「間に合え……」

 クルージという人間がいつ殺されてもおかしくない様な、そんな状況になってしまっている。

「間に合ええええええええええええええええええッ!」

 叫びながらとにかく全力で走った。
 せめてこの最悪な状況で、最悪な事態が発生してないようにと祈りながら。
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