ただキミを幸せにする為の物語 SSランクの幸運スキルを持つ俺は、パーティーを追放されたのでSSランクの不幸少女と最強のパーティーを組みます

山外大河

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三章 人間という生き物の本質

ex きっと彼は望まない

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 グレンの家に辿りついてから、とにかくクルージをベッドに寝かせた。
 そうやってまじまじとクルージの容態を目にすると、あの場で起きたであろう目を背けたくなるような悲惨な光景が目に浮かんでしまう。
 ……本当に酷い怪我だ。
 初めて一緒に依頼を受けた時に負った傷とは比べものにならない位。
 本当に命を落とす一歩手前の、そんな怪我。

 そしてクルージを力無く見詰めるアリサにグレンが言う。

「本当にギリギリだった。多分リーナが来るのが後少しでも遅れていたら、完全に終わってた」

「……もう教えて貰っても良いですよね。あの場で何があったんですか」

 悲惨である事は分かっている。
 だけど中でも本当に碌でもない事があった気がして。多分そうでなければ再会した段階で事の詳細は簡素に説明されている筈で。
 今此処に至るまで何の説明も無かった時点で、考えられる可能性の内、普通は起こり得ない様な胸糞悪い物である事が半ば確定しているようなもので。
 それは何があったのかを知ろうとしたというよりは、答え合わせのような物に近かったのかもしれない。
 そしてアリサの問いに、リーナは静かに答える。

「私があの場に戻って来た時にはもうあの黒い霧は一体しか残って無かったっす。それももう後一発まともな攻撃を入れれば倒せるような、力もキレも何もない様な、そんな状態だったんすよ。先輩はそこまで追い詰めていたんすよ。あの場に居たのがまともな人達だったなら、少なくとも意識を失うような事は……失った後も殴られ続ける様な事は無かった筈なんす……黙って見てるなんて頭おかしいとしか思えない事をしてなければ」

「……ッ」

「あの人達からすれば、自分達の手を直接汚さずに先輩を殺せる良い機会だったんだと思うっす。まあ汚れてるっすけど。あんなの殺人未遂っす」

 リーナのそんな言葉を聞いている内に、気が付けば自然と拳を握り絞めていた。
 握り絞めて踵を返し、外に向かって歩き出す。
 だが数歩歩いた所で、そういう行動を取るかもしれないと察していたように、いつの間にか進路を塞ぐ様な位置に立っていたグレンに行く手を阻まれる。

「どこ行く気だ?」

「あの人達の所に行ってきます」

「行って何するつもりだ」

「何って……」

 言い返そうとしたが言葉が続かない。
 果たして自分は一体そこに向かって何をしようとしたのだろうか?
 とにかく今、頭の中は怒りに満ちているように思える。
 満ちない訳がない。

 今まで生きてきて、理不尽な目には数えきれない程あって来た。
 だけどこんなにも悪意しか感じない様な事は感じた事も無くて。見た事も無くて。聞いた事も無くて。
 自分にとって大切な誰かにそんな仕打ちをされて。
 だから今、そういう事をした頭のおかしい人達を前にしたとして、自分が何をするのか。自分でもよく理解できなかった。

 そしておそらくそれをアリサ以上に察していたのだろう。だからグレンは止めた。
 事此処に至るまで、何も説明しようとしなかった。

「座れ。気持ちは分かるが何もするな。例えお前自身がどう思っても。クルージ自身がアイツらに対してどう思っても。それでもクルージがお前やリーナに手を汚させる様な真似を絶対にして欲しくないって思ってる事位は分かるから。それだけは、させない」

「……」

「……とりあえず座るっすよ、アリサちゃん」

「……はい」

 グレンとリーナの言葉に頷いてゆっくり椅子に腰掛ける。
 止められなければ何をしていたか分からない。
 そして確かにグレンの言う通り、自分がやったかもしれない事をクルージという人間が望む事は無いだろう。
 だから……そう思えば、大人しくしていられた。

 そしてそんなアリサ達にグレンは言う。

「とにかく今は二人でクルージの事、見ててやってくれ。俺はちょっと出てくる」

「……多分クルージさんはボク達だけじゃなくて、グレンさんにもそういう事、やって欲しいって思わないと思いますよ」

「……だろうな。分かってる。分かってるし、やらない。ただ俺は普通にやらねえといけない事やりに行くだけだ。防衛作戦が終ったんだ。一応俺は連中の所に行かねえと駄目だから。それだけだから」

 そう言って、一拍空けてからグレンは言う。

「拳は抑える」

 そう言って、グレンは部屋から出て行った。
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