ただキミを幸せにする為の物語 SSランクの幸運スキルを持つ俺は、パーティーを追放されたのでSSランクの不幸少女と最強のパーティーを組みます

山外大河

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三章 人間という生き物の本質

49 ろくでもない話の裏側で

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 目を覚ました時、此処が一体どこなのか。自分が何故眠っているのかが分からなくなる程度には記憶が混濁していた。
 だけど意識が覚醒していくにつれてあの場で起きた事も、此処がグレンの部屋で、誰かが運んでくれたのだろうと把握する事は出来た。
 最も誰かと言ってもグレンかアリサかリーナの三人に絞られるのだけれど。
 絞られてしまうのだけれど。

「……誰もいねえのか」

 部屋の中には自分以外誰もいない。
 家の中に居るのか。それとも今回の黒い霧の一件でどこかに呼び出されているのか。
 それは分からないが……だけどそんな事よりも、分からなくて背筋が凍るような事が一つあった。

「……そうだ。グレンは……ッ」

 思わず勢いよく体を起こして、全身に激痛が走る。

「……ってえ」

 あれだけの事があった。生きているだけでも奇跡的だ。だけどそれが奇跡的だというのならそれ相応の怪我を負っていて、それ故に今まで眠っていた訳で。この位の激痛が走るのは当然だ。

 当然だから……そんな事よりもグレンだ。

 アリサは大丈夫だろう。アイツは本当に強いから、遅れを取ったりなんてしない。きっと無事今回の事を切り抜けてくれただろうという安心感に近い物を感じられる。
 リーナもきっと大丈夫だ。無事あの場から抜け出せた。それが大きな安堵を感じさせてくれる。
 だけどグレンは。
 グレンが危ないかもしれないからアリサにグレンの方へと向かってもらった。
 そして俺に入ってきている情報はそれっきりなんだ。
 だから……分からない。
 あの黒い霧と相対していたかもしれないグレンが、無事戦いを切り抜けられたかどうか。
 それが本当に、気になって仕方がなかった。

 だから半ば無理矢理ベットから下りて歩きだした。
 動くたびに激痛が走る。俺は入院確実の重症患者だ。だけどなんとか体を動かす。動かせる。壁に手を置きゆっくりと一歩一歩廊下を進んでいける。
 流石に家の外まで探しに行く事は難しそうだったが、それでも家の中の動ける範囲位は動いて、グレンがそこにいる事を。
 全員揃ってあの場を切り抜けられたという確信を得たかった。
 せめてそれ位の事は欲しかったんだ。

 やがてリビングの近くまで来ると、中から話し声が聞こえてきた。
 アリサとリーナと……そしてグレンだ。
 それが聞こえてきた事にまず安堵する。
 とにかく全員……全員欠ける事無く切り抜けて、みんな無事生きている。
 それがとにかく嬉しくて……だけど安堵する俺に聞こえてきたのは、耳を覆いたくなるような話で。

「……いくらなんでもあんまり過ぎるからさ……誰か一人位は苦言をていしてくれる奴がいるんじゃないかって。そう思ったんだ」

「誰も……いなかったんですか?」

「……それならまだ良かったよ……誰かが言いやがったんだ。そのまま死ねば良かったのにって」

 聞いていて、胸が張り裂けそうな気分になった。その場に崩れ落ちそうになった。
 だけどなんとか耐え抜いた。耐えないといけないと思った。
 なんとなく……実際の所はどうか分からないけれど、三人はあえて俺から離れてそんな話をしているような気がして。俺がいくらなんでもあんまりな話を聞かないように配慮してくれているような気がして。
 だから俺はどこか、聞かなかった事にした方が良いんじゃないかって思った。
 だけど理由はそれだけじゃなくて……俺の前でオブラートに包んだような話じゃなくてさ。
 ……俺が信じた三人が俺が眠っている間に感じた事を、そのまま聞きたかったんだ。
 アイツらは……きっと、今そうしているように配慮の一つや二つをしてくれるだろうから。
 だから……静かに会話を聞く事にしたんだ。

「よりにもよって……よりにもよって、そんな言葉に誰かが苦言を呈するどころか、賛同しやがったんだ。満場一致だぞ……ふざけんなよなんだよあれ……ッ」

 だけどその先に続いた言葉だけは、なんとか耐えたけど本当に辛くて……苦しくて。何かがへし折れていく感覚がずっとしていて。そのまま叫びたい気持ちになった。

「なんですか……それ……ッ」

 アリサがそう言ってくれるけど……ほんと、そうだよな。
 なんなんだよって、思うよ。
 そしてグレンが言う。

「だから思うんだよ……もう駄目だろうって。どんな理由であれ、クルージをこれ以上この村にいさせちゃ駄目だと思う」

 そんな言葉で。そして後に続いた言葉で、グレンが俺達を王都へ帰そうとしているのが分かった。この話の主題もきっとそれなのだろう。
 そしてそんな話をグレンがした後で、リーナが言った。

「グレンさん……その袋はなんなんすか」

 リビングの中は見えない。だから何の事かはさっぱり分からないが、今あえてそんな話を持ちだすという事は何か意味有り気に置かれていたのだろう。
 リーナの問いに対しグレンが言う。

「とりあえず持っていってくれ」

「え、これって……」

「慰謝料だと思ってくれ。今回の事に対するクルージへの……お前達への」

「慰謝料って……」

 アリサが困惑するような声を出すが、困惑しているのは俺も同じだ。
 なんでそんな話を始めてるんだって、そう困惑した。

「今回の事は多分、普通に考えれば最低でもそれだけの金額が支払われるべき事態だと思う。俺達はそれを出す必要があって、お前達はそれを受け取る権利がある。受け取ってくれ」

 だけどそれを聞いてどこか納得した。
 確かにグレンが言う通り、俺が今回経験した最悪な一件は、普通にそうした金銭が動いてもおかしくないような、洒落にならない出来事だった。
 だけど……だけどだ。

「ちょっと待つっすよ。こんなお金……どこから出て来たんすか」

 リーナの言う通りだった。
 俺の事を死ねばよかったなんて思ってる連中から、裁判とかを通さずに慰謝料なんてのが支払われる筈がなくて。そんな物を支払った方がいいなんて考えるのもきっとグレンだけで。
 そしてそれがグレンだけだとすればだ。
 ……グレン一人でそんな物を用意しようとしたのだとすればだ。

「それ……もしかしてさっき言ってた、開業資金じゃないんすか」

 それしか考えられない。
 そんなあってはならない事しか考えられない。

「……だったらなんだよ」

 グレンはそのあってはならない事を確定させるような事を言う。

「だったらって……」

「そんなの使っちゃ駄目に決まってるじゃないっすか……」

 二人はそんな事をグレンに言ってくれるが、それでもグレンが意思を曲げる様子は無い。

「だけど……これはきっと誰かが出さなきゃいけない金だ。その誰かが俺しかいないなら、俺が出すよ。なんの為の金なのかとかは別件でさ、今回の事とは関係ねえんだ」

 そしてグレンは第一、と深刻な声音で続ける。

「元々ギルドでお前らと会って、お前らに決めて此処に連れてきたのは他ならぬ俺なんだ。俺がもっと強く止めてればこんな事にはならなかった」

 ……もう、そんな話は聞いてられなかった。
 これを聞いてない振りなんてできない。

「俺には大きな責任が――」

「……ねえだろ、そんなのは」

 他ならぬ俺自身がグレンに言わないといけない。
 ゆっくりと体を動かし、リビングに足を踏み入れた。
 三人共、俺に対して驚きや、そして安堵が伝わってくるような表情を向けてくれる。

 そして俺はその一人であるグレンに対して伝える。

「だから受け取れねえ。そうでなくても……それだけは、絶対に受け取れねえ。ソイツは何よりも手を付けちゃいけねえ金だ」

 俺が伝えるべき大切な事を。 
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