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三章 人間という生き物の本質

56 新たに生まれた理由 上

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 それを考えていると自分自身に一つ、問いかけ直すべき事が生まれて来た。
 本当にこのまま帰ってしまって。終わってしまっていいのだろうか?
 もうこの村にいる理由が存在しないと思っていた。無理をする理由なんて何もなくて、早々と王都に戻るべきだと、そう思ったんだ。
 だけど……その理由が出来てしまった気がして。

 ユウがいる今、このままこの村の問題を放置してもいいのか?

 村の他の連中は本当にどうでもいい。グレンだっていずれ王都に来る。
 だけどユウはどうでも良くなくて、グレンの様にこの村を出る予定もなく村への被害がユウへ直結してしまう。
 ……それでいいのか?

 そんな自問自答を、少しの間だけした。
 そしてその答えを出すのには、殆ど時間が掛からなくて。
 ユウを見送った後、俺は思わず三人に聞いていた。

「……なあ三人共。ちょっと相談があるんだけど、いいか?」

 そして俺とユウとのやり取りを見て。そして俺の声音で。色々と察してくれたのかもしれない。
 アリサが言う。

「良いんですか?」

「俺まだ何も言ってねえだろ」

「でもなんとなく……まあ、言いたい事分かっちゃったんで」

 アリサが言う。

「……ユウちゃんを放っておけないんですよね?」

「……まあな」

 否定はしなかった。
 もう無茶をするだけの理由が出来てしまったんだ。

「心底他の連中はどうでもいい。アイツらの為に頑張る気なんて仕事でも起きねえよ……だけどさ、これだけはなんとかしねえと駄目なんじゃないかって思うんだ」

 俺は三人の方に向いて言う。

「だからユウの為にもうちょと頑張ってみたいと思うんだ……どうかな?」

 正直この村で何かをする事に対するモチベーションが、多分この場に居る全員が非常に低くて。
 あんな事があった今、それがトドメとなって撤退する話になっている今、それを止めるような声が上がるんじゃないかと思った。
 そう思う中で、まず最初に口を開いたのはグレンだ。

「……お前、その怪我でどう動くつもりだよ。入院コースじゃねえか」

 止めるのではなく、どうするのかという問い。

「今も辛うじて体動かせてる訳だからな。後は鎮痛剤で何とかするつもり……というか正直止められると思った」

「やる事自体は止めねえよ。それならもう止めるような話じゃねえ」

 グレンは言う。

「あの連中の為に戦うのはもう意味が分からねえ。絶対にやめとけって思う。だけどこれはそういうのじゃねえだろ。やりたい事に納得が行く。だとすりゃもう、それがやれるのかやれないのか。どうやってやるのかって話じゃねえのか?」
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