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三章 人間という生き物の本質
55 16年間で彼が得た物
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「……ユウ」
「……」
ユウは俺を見て、この村に帰って来てすぐの時に見せたように、何かを言いたげな表情を浮かべてそこにいる。
それでも中々言葉は出てこない。だけど変わらず、嫌悪感を向ける様子は見せなくて。そこから俺が死ねばよかったなんて感情が伝わってくる事もなくて。
ただ何も言えずにそこにいた。
だけどそもそも嫌悪感が向けられない。殺意を向けられない。そんな相手が今、態々そこにいる。
それだけで……それだけで。
あの時はユウが俺の事を悪く思っていないのかもしれないという考えが、願望から確信に変わっていて。
それが分かればさ、もう言葉を待つ必要なんてなくて。
俺はユウの前で屈み込んで視線を合わせて、そして笑顔を作って言う。
「俺の事心配して、態々来てくれたんだろ? ありがとな」
俺がそう言うと、ユウは静かに頷く。頷いてくれる。
そして俺から話しかけたからかもしれない。ユウが小さな声で言う。
「……お怪我、大丈夫?」
「全然大丈夫。包帯ぐるぐる巻きだけどさ、結構大袈裟な感じで実は全然大した事ないんだ」
応急処置をしてくれたリーナの前で大袈裟とか言うのは結構失礼な気がして、後で謝ろうと思うけど、それはともかく笑みを浮かべたまま、そんな事を言って見た。
本当は死ぬ程痛いのだけれど、無事に隠せているだろうか?
その辺は正直分からないけど、俺がそう言って少しだけ安堵の表情を浮かべてくれた所を見た感じ、うまく隠せているのかもしれない。
そして安堵の表情を浮かべたユウは、少し間を空けてから俺に頭を下げる。
「……ごめんなさい、お兄ちゃん」
「ん? ユウは別に何もしてないだろ?」
突然謝ってきたユウにそう問いかけると、ユウは本当に申し訳なさそうに言う。
「……お兄ちゃんを無視してた。お父さんやお母さんや皆がおかしい事言ってるのに……おかしいって言えなかった。頷いてた……合わせてた。私……私……」
そう言って涙ぐんで、ユウの言葉は止まる。
つまりは村に戻ってユウと会った時に、グレンが言った通りだったのだ。
グレンは面と向かって文句を言い続けていたけど、それはグレンがもう16才で。そして元々気が強くて。多分最悪村を出てもどうにかできて。だからそんな事ができたのかもしれないけど、ユウの場合はそうもいかなくて。
まだ10才の女の子で、ちょっと臆病で。そんなユウの周りの大人が、両親があんな状態なら、そこに歩調を合わせなければやっていけない。まだそこに合わせないと生きていけない。子供の世界はまだ広くなくて、10才という年齢はまだそういうものなんだ。
……だけどそんな中で、今ユウはそこにいる。
「大丈夫だよ。気にしてない。それより……今、心配して来てくれた事が嬉しいんだ。ありがとう」
今ユウが取った行動はどれだけの勇気がいるのだろう。
大人達はあんな状態で。だから多分再会した時も逃げだしていて。少なくとも村の連中に死ねばいいとまで思われている俺と顔合わせてこんな話をしているなんて知ったら、絶対に怒られる筈だ。
だけどそれなのにユウは、勇気を出して大人達の目を盗んで来てくれた。
それがさ……嬉しくない訳がない。
そして……ようやく気付いた。
欲しかった答えが此処にもあった事に。
こんな状況下でも俺を信頼してくれている奴が。俺がそれに足りる人間だと証明してくれる奴がいる事に。
だけど喜んでばかりではいられない。
こんな所を村の連中に見せる訳にはいかない。
グレンがあまり時間が無いと言ったのはこの為だろう。
「……そろそろ戻った方がいいんじゃないか? あんまり見られたくないだろ?」
俺がそう言うと、ユウは申し訳なさそうに静かに頷く。
だけどその後、俺に言ってくれる。
「元気でね、クルージお兄ちゃん」
「ああ」
と、そう返した後、俺は一つだけ伝えたい事が浮かんで来て、最後にそれを伝える事にする。
「なあ、ユウ。俺さ、今王都で頑張ってるからさ。もしこの先王都に来る様な事があって、困った事があったら頼ってくれ。やれる事ならやるからさ」
他の連中とはもう関わりたくはないけれど、ユウは別だ。
もしもこの先、そんな事があったなら手を貸してあげたい。
「うん……ありがと」
そう言って、最後にユウはアリサ達に視線を向ける。
「おねーちゃん達も、グレンお兄ちゃんも、ありがと……じゃあね!」
そう言ってユウは走り去っていく。
周囲に大人は居ない。多分うまくやれていただろう。
「良い子っすね」
「ああ。ほんと昔から優しい奴なんだ」
だから多分この村で、グレンを除けば唯一関わりたい相手だと。
何かあったら助けたい相手だと、そう思う。
……もう関わりたくないと。
抱えた問題を放置して帰ろうと思っていた村の中で唯一だ。
「……」
ユウは俺を見て、この村に帰って来てすぐの時に見せたように、何かを言いたげな表情を浮かべてそこにいる。
それでも中々言葉は出てこない。だけど変わらず、嫌悪感を向ける様子は見せなくて。そこから俺が死ねばよかったなんて感情が伝わってくる事もなくて。
ただ何も言えずにそこにいた。
だけどそもそも嫌悪感が向けられない。殺意を向けられない。そんな相手が今、態々そこにいる。
それだけで……それだけで。
あの時はユウが俺の事を悪く思っていないのかもしれないという考えが、願望から確信に変わっていて。
それが分かればさ、もう言葉を待つ必要なんてなくて。
俺はユウの前で屈み込んで視線を合わせて、そして笑顔を作って言う。
「俺の事心配して、態々来てくれたんだろ? ありがとな」
俺がそう言うと、ユウは静かに頷く。頷いてくれる。
そして俺から話しかけたからかもしれない。ユウが小さな声で言う。
「……お怪我、大丈夫?」
「全然大丈夫。包帯ぐるぐる巻きだけどさ、結構大袈裟な感じで実は全然大した事ないんだ」
応急処置をしてくれたリーナの前で大袈裟とか言うのは結構失礼な気がして、後で謝ろうと思うけど、それはともかく笑みを浮かべたまま、そんな事を言って見た。
本当は死ぬ程痛いのだけれど、無事に隠せているだろうか?
その辺は正直分からないけど、俺がそう言って少しだけ安堵の表情を浮かべてくれた所を見た感じ、うまく隠せているのかもしれない。
そして安堵の表情を浮かべたユウは、少し間を空けてから俺に頭を下げる。
「……ごめんなさい、お兄ちゃん」
「ん? ユウは別に何もしてないだろ?」
突然謝ってきたユウにそう問いかけると、ユウは本当に申し訳なさそうに言う。
「……お兄ちゃんを無視してた。お父さんやお母さんや皆がおかしい事言ってるのに……おかしいって言えなかった。頷いてた……合わせてた。私……私……」
そう言って涙ぐんで、ユウの言葉は止まる。
つまりは村に戻ってユウと会った時に、グレンが言った通りだったのだ。
グレンは面と向かって文句を言い続けていたけど、それはグレンがもう16才で。そして元々気が強くて。多分最悪村を出てもどうにかできて。だからそんな事ができたのかもしれないけど、ユウの場合はそうもいかなくて。
まだ10才の女の子で、ちょっと臆病で。そんなユウの周りの大人が、両親があんな状態なら、そこに歩調を合わせなければやっていけない。まだそこに合わせないと生きていけない。子供の世界はまだ広くなくて、10才という年齢はまだそういうものなんだ。
……だけどそんな中で、今ユウはそこにいる。
「大丈夫だよ。気にしてない。それより……今、心配して来てくれた事が嬉しいんだ。ありがとう」
今ユウが取った行動はどれだけの勇気がいるのだろう。
大人達はあんな状態で。だから多分再会した時も逃げだしていて。少なくとも村の連中に死ねばいいとまで思われている俺と顔合わせてこんな話をしているなんて知ったら、絶対に怒られる筈だ。
だけどそれなのにユウは、勇気を出して大人達の目を盗んで来てくれた。
それがさ……嬉しくない訳がない。
そして……ようやく気付いた。
欲しかった答えが此処にもあった事に。
こんな状況下でも俺を信頼してくれている奴が。俺がそれに足りる人間だと証明してくれる奴がいる事に。
だけど喜んでばかりではいられない。
こんな所を村の連中に見せる訳にはいかない。
グレンがあまり時間が無いと言ったのはこの為だろう。
「……そろそろ戻った方がいいんじゃないか? あんまり見られたくないだろ?」
俺がそう言うと、ユウは申し訳なさそうに静かに頷く。
だけどその後、俺に言ってくれる。
「元気でね、クルージお兄ちゃん」
「ああ」
と、そう返した後、俺は一つだけ伝えたい事が浮かんで来て、最後にそれを伝える事にする。
「なあ、ユウ。俺さ、今王都で頑張ってるからさ。もしこの先王都に来る様な事があって、困った事があったら頼ってくれ。やれる事ならやるからさ」
他の連中とはもう関わりたくはないけれど、ユウは別だ。
もしもこの先、そんな事があったなら手を貸してあげたい。
「うん……ありがと」
そう言って、最後にユウはアリサ達に視線を向ける。
「おねーちゃん達も、グレンお兄ちゃんも、ありがと……じゃあね!」
そう言ってユウは走り去っていく。
周囲に大人は居ない。多分うまくやれていただろう。
「良い子っすね」
「ああ。ほんと昔から優しい奴なんだ」
だから多分この村で、グレンを除けば唯一関わりたい相手だと。
何かあったら助けたい相手だと、そう思う。
……もう関わりたくないと。
抱えた問題を放置して帰ろうと思っていた村の中で唯一だ。
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