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三章 人間という生き物の本質
ex 君臨
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視界の端でクルージが爆風で弾き飛ばされたのを見て、一気に状況が最悪な物へと逆戻りした事を。これまでで一番最悪な状況を更新した事をグレンは察した。
今この一人を相手にするだけでも辛うじて勝てるかどうかの瀬戸際だった。そんな状況下で新手が攻撃を放ってきた。それも明らかに高威力の一撃を。
そして向こうにとって仲間がいるこちら側には爆風が飛んでこないという、あまりにも高度な調整が加えられた一撃を。
そんな物を放つ相手が新たに接近してきている。それだけでも最悪にも程がある。
そして何より、その高威力の一撃をクルージが喰らった。
弾き飛ばされ、受け身も取らずに川で行う投げ石のように地面を跳ねた。
血の気が引く。だってそうだ。
もうこの時点でクルージという人間の命が失われていてもおかしくないから。
「……ッ」
声にならない声を出した後、グレンは突然の状況の変化に半ば硬直状態にあったリーナにそう叫ぶ。
「リーナ! クルージを!」
爆風で弾き飛ばされたクルージは立ち上がってこない。生きているのか死んでいるのかすらも分からなくて、そして仮に生きていても本当に危険な状態になっているであろう事は簡単に察する事ができた。
だとすればとにかく優先して逃がさなければならない。
クルージという人間の命には二人分と言っても間違っていない程の重さがあるのだから。
そしてリーナもまた大切な仲間なのだから。
……だから。
国が動くだけの社会問題になっている魔獣問題に人間が絡んでいると推測しながら、それだけの規模の事を起こしている連中の大きさを察する事ができなかった。その推測を三人に話した。此処に至るまでの流れを作ってしまった自分が、とにかくこの場から二人を逃がさなければならない。
その為にも……まずは目の前の男に二人を攻撃する隙を与えさせる訳には行かない。
「ちょ、グレンさんは!?」
「いいから行――」
言いかけたその時だった。
「……ッ」
再び姿を現す。
先に自分達で捕えた空間転移の魔術を扱う仮面が……グレンと男の間に。
そして新たな仮面はこちらに向けて手の平を向け……手の平に魔法陣が刻まれる。
(……クソッ!)
察した。
今の自分では満足に足止めすらできない。
次の瞬間、先の爆風を思い起こさせるような衝撃波がグレン目掛けて放たれる。
「グア……ッ!?」
全身に激痛が走った。
そう思った瞬間には自身の体は推進力を得て弾き飛ばされていて、激痛と共に二回程地面をバウンドしてようやく止まる。
「ぐ……ッ」
おそらく運が良かった。これだけの攻撃を受けながらも何とか耐えきれた。二度の地面の衝突も当たり所が良かった。故に意識はそこにある。
……体は殆ど動かないけれど。
そして。
「……ッ」
グレンが飛ばされたのはクルージが倒れているすぐ近くだった。
その場に血の海を作り出しているクルージの姿だった。
(嘘……だろ?)
元より生きているのか死んでいるのか。それすらも判断が付かないような、そんな状況だというのは理解していた筈だ。
だけどそれでも、実際の状態を目にすれば脳を直接殴られるような衝撃が伝わってくる。
「……ッ」
クルージからそんな声が微かに聞こえて来て、指先が僅かに動いたのが見えた。
だけどそれだけだ。
村の連中に見殺しにされた時よりもより明確に、確実に。クルージという人間が死に向かっている。
(……とにかく止血だ。止血して……でもそれだけじゃどうにも……というか誰がやるんだそれを! できんのかこの状況で――)
と、そこで目の前の衝撃から、ようやくもう一人。
この状況でそれが可能かもしれない、もう一人の死なせる訳に行かない相手へと意識が移った。
最悪一人だけでも逃がさないといけない相手へと意識が移った。
「先輩! グレンさん!」
リーナは仮面の男と新手の前から逃げるように、Sランクの逃避スキルによって強化された脚力でこちらに向かって来ていて。
グレンが意識を向けてからすぐに、二人の元へと辿り着いた。
辿り着いて、震えた声で言った。
「先……輩……?」
多分きっと、リーナにとってもあの村での一件を超越するような状態だったのだろう。
表情から、声音から。絶望感に近い様な感情が強く感じ取れる。
そしてそこに追い打ちを掛けるように、自分が倒し損ねた男の周囲に再び魔術の球体が出現している事に気付いた。
数は精々7、8発。逆にここまで削ってもまだそれだけの事をやってくる。
そして当然、狙いはこちらの筈だ。
「リーナ、後ろだ!」
「……ッ」
大きな隙を見せていたリーナに向けて。そして倒れる自分達に向けて、それらが勢いよく射出され、思わずグレンは目を瞑る。
直後に響いた轟音。
……だけど、届いたのはそれだけだった。
(……なんで生きてる。一体何が……)
半ば混乱しながら閉じた目を開いた。
「……リーナ?」
そこには結界を張って立つリーナの姿が居た。
今の攻撃を受けてもリーナの結界には、ある程度のヒビしか入っておらず、それが今の攻撃を防ぎきった事を意味していて、そうした異様な光景が連想させるのは村での一件だ。
(まさか……あの時の奴か……ッ)
村の連中に見殺しにされたクルージを救い出した、『クルージが死ぬ未来』からの逃避する為に逃避スキルを発動させた状態。
本来であればあの黒い霧を倒せるだけの力を持っている筈なんてなかった筈のリーナが、それだけの力を得る。本人すらも覚えていないその状態。
そんな力がこの絶体絶命の状況で君臨していた。
今この一人を相手にするだけでも辛うじて勝てるかどうかの瀬戸際だった。そんな状況下で新手が攻撃を放ってきた。それも明らかに高威力の一撃を。
そして向こうにとって仲間がいるこちら側には爆風が飛んでこないという、あまりにも高度な調整が加えられた一撃を。
そんな物を放つ相手が新たに接近してきている。それだけでも最悪にも程がある。
そして何より、その高威力の一撃をクルージが喰らった。
弾き飛ばされ、受け身も取らずに川で行う投げ石のように地面を跳ねた。
血の気が引く。だってそうだ。
もうこの時点でクルージという人間の命が失われていてもおかしくないから。
「……ッ」
声にならない声を出した後、グレンは突然の状況の変化に半ば硬直状態にあったリーナにそう叫ぶ。
「リーナ! クルージを!」
爆風で弾き飛ばされたクルージは立ち上がってこない。生きているのか死んでいるのかすらも分からなくて、そして仮に生きていても本当に危険な状態になっているであろう事は簡単に察する事ができた。
だとすればとにかく優先して逃がさなければならない。
クルージという人間の命には二人分と言っても間違っていない程の重さがあるのだから。
そしてリーナもまた大切な仲間なのだから。
……だから。
国が動くだけの社会問題になっている魔獣問題に人間が絡んでいると推測しながら、それだけの規模の事を起こしている連中の大きさを察する事ができなかった。その推測を三人に話した。此処に至るまでの流れを作ってしまった自分が、とにかくこの場から二人を逃がさなければならない。
その為にも……まずは目の前の男に二人を攻撃する隙を与えさせる訳には行かない。
「ちょ、グレンさんは!?」
「いいから行――」
言いかけたその時だった。
「……ッ」
再び姿を現す。
先に自分達で捕えた空間転移の魔術を扱う仮面が……グレンと男の間に。
そして新たな仮面はこちらに向けて手の平を向け……手の平に魔法陣が刻まれる。
(……クソッ!)
察した。
今の自分では満足に足止めすらできない。
次の瞬間、先の爆風を思い起こさせるような衝撃波がグレン目掛けて放たれる。
「グア……ッ!?」
全身に激痛が走った。
そう思った瞬間には自身の体は推進力を得て弾き飛ばされていて、激痛と共に二回程地面をバウンドしてようやく止まる。
「ぐ……ッ」
おそらく運が良かった。これだけの攻撃を受けながらも何とか耐えきれた。二度の地面の衝突も当たり所が良かった。故に意識はそこにある。
……体は殆ど動かないけれど。
そして。
「……ッ」
グレンが飛ばされたのはクルージが倒れているすぐ近くだった。
その場に血の海を作り出しているクルージの姿だった。
(嘘……だろ?)
元より生きているのか死んでいるのか。それすらも判断が付かないような、そんな状況だというのは理解していた筈だ。
だけどそれでも、実際の状態を目にすれば脳を直接殴られるような衝撃が伝わってくる。
「……ッ」
クルージからそんな声が微かに聞こえて来て、指先が僅かに動いたのが見えた。
だけどそれだけだ。
村の連中に見殺しにされた時よりもより明確に、確実に。クルージという人間が死に向かっている。
(……とにかく止血だ。止血して……でもそれだけじゃどうにも……というか誰がやるんだそれを! できんのかこの状況で――)
と、そこで目の前の衝撃から、ようやくもう一人。
この状況でそれが可能かもしれない、もう一人の死なせる訳に行かない相手へと意識が移った。
最悪一人だけでも逃がさないといけない相手へと意識が移った。
「先輩! グレンさん!」
リーナは仮面の男と新手の前から逃げるように、Sランクの逃避スキルによって強化された脚力でこちらに向かって来ていて。
グレンが意識を向けてからすぐに、二人の元へと辿り着いた。
辿り着いて、震えた声で言った。
「先……輩……?」
多分きっと、リーナにとってもあの村での一件を超越するような状態だったのだろう。
表情から、声音から。絶望感に近い様な感情が強く感じ取れる。
そしてそこに追い打ちを掛けるように、自分が倒し損ねた男の周囲に再び魔術の球体が出現している事に気付いた。
数は精々7、8発。逆にここまで削ってもまだそれだけの事をやってくる。
そして当然、狙いはこちらの筈だ。
「リーナ、後ろだ!」
「……ッ」
大きな隙を見せていたリーナに向けて。そして倒れる自分達に向けて、それらが勢いよく射出され、思わずグレンは目を瞑る。
直後に響いた轟音。
……だけど、届いたのはそれだけだった。
(……なんで生きてる。一体何が……)
半ば混乱しながら閉じた目を開いた。
「……リーナ?」
そこには結界を張って立つリーナの姿が居た。
今の攻撃を受けてもリーナの結界には、ある程度のヒビしか入っておらず、それが今の攻撃を防ぎきった事を意味していて、そうした異様な光景が連想させるのは村での一件だ。
(まさか……あの時の奴か……ッ)
村の連中に見殺しにされたクルージを救い出した、『クルージが死ぬ未来』からの逃避する為に逃避スキルを発動させた状態。
本来であればあの黒い霧を倒せるだけの力を持っている筈なんてなかった筈のリーナが、それだけの力を得る。本人すらも覚えていないその状態。
そんな力がこの絶体絶命の状況で君臨していた。
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