ただキミを幸せにする為の物語 SSランクの幸運スキルを持つ俺は、パーティーを追放されたのでSSランクの不幸少女と最強のパーティーを組みます

山外大河

文字の大きさ
200 / 228
四章 冒険者達の休日

ex とある少女の追憶 上

しおりを挟む
 少女に一般的な刀鍛冶の才は無かった。
 だとしてもそれで納得して立ち止まれるような人間でもなかった。

「誰がなんと言おうと刀鍛冶になる。そう決めたんだよ私は」

 少女の実家はエデンブルグでそれなりに名の知れた鍛冶屋を営んでおり、そこで作られる物の中には異国の武器である刀の姿もあった。
 そんな鍛冶師の父にとってただの武器。商品の一つでしかなかった刀の魅力に少女は胸を打たれ……やがて志した。
 刀鍛冶という専門の鍛冶師に。
 それもただのではない。
 志したのは最高の刀鍛冶だ。

 だけど現実的にそれは実現の難しい夢で。
 専門的なスキルを持たない人間にはある程度。そう高くない領域で限界が来る。
 ……それはスキルを持っている事が前提とされる鍛冶師という職業において致命的な事で。
 故にこの職業の多くの場合後継者に子を選ぶ事は無い。
 それを行うのも、スキルを持たない者が継いで経営が成り立つのも、精々が他に競合のいない片田舎位の特殊なケースのみだから。
 だから彼女の親も周囲の人間も、その背を押す事は出来なかった。

 故に彼女は最終的に黙って家を飛び出した。

 基礎的な事は父親の仕事を手伝っている内に。それと隠れてコソコソと学んで。吸収できる技能は吸収したつもりだ。
 そこから先を自分の様な鍛冶に使えるスキルを持たない人間に教えてくれる暇人はいないのだろうけど、だとすれば自力でどうにかする。
 してみせると。
 親の手の届かない王都で夢の実現に一歩踏み出す事にした。

 まずやったのは開業資金の調達だ。
 冒険者をやりつつ空いた時間もアルバイトを行い、とにかく死に物狂いで働いて。
 結果幸いにも冒険者として効率良くお金を稼ぐ事ができるようなスキルを持っていた事もあり、優秀なトレジャーハンター染みた活躍の末、一年という短期間で。十六歳の誕生日の頃には自身の工房を手にするに至った。
 ここまでは順調。
 これで形だけは鍛冶職人になれたのだから。
 形だけは。

「……ッ」

 現実が見えた。
 スキル至上主義のこの業界に、才能の無い人間が飛び込む事の難しさを、あらゆる角度から心臓を刺されるように実感した。

 評価されない評価されない評価されない評価されない。
 自信を持って打った刀も、優秀なスキル持ちの鍛冶師と取引をしているような武器商人には鼻で笑われ貶される。最近鍛冶師の見習いになったような人間に追い抜かれていく。
 着々と地道に前へと進めている筈なのに、自分ですらも評価できなくなってくる。
 これなら仮に品評会のような場所に出す資格があった所で、きっと自分ではどうにもならないだろう。

 スキルが無い自分は鍛冶師として大成しない。
 どうにもできない。
 それだけこの世界で生きていく上でスキルは重要なのだ。
 なまじ自分程度の人間が、持ち得たスキルだけを頼りに冒険者としては大成しているという事実がその考えに拍車を掛ける。

 そうして、折れかかっていた頃だった。

 少女は自身の工房内で、刃物で刺されて殺害された。

 その時具体的に誰に何の目的で殺されたのかは分からない。
 身に覚えもなく、死に至る前後の記憶が割と曖昧だったから。

 そう、曖昧。
 その記憶をたどる魂はまだそこに居る。
 空き物件となった彼女の工房に留まっている。

 だけどそこに居たからと言って何かをする訳でもない。
 未練がある。折れかかっていても折れてはいなかったのだから。
 そこに強い未練はあったのだろう。
 だけどだからといって、その未練はどうにもならない物だから。
 気力も無く、何もなく。
 ただ、そこに居るだけの霊となった。

 そしてそれからどの位の時間が経過したのだろうか?
 そんな彼女の工房に足を踏み入れた少年が現れた。

「此処が事故物件って奴か……」

「えーっと、グレンさん。一応我々の立場でこういう事を言うのは違うのではないかと思いますが……やっぱりここはお止めになった方がいいのではないでしょうか?」

「いや、別に幽霊とかいる訳ないだろ? それにほら……仮に出てきても大丈夫だと思うし。俺は少しでも早く刀鍛冶として活動できるようにしたいから。中見たら寧ろ迷う理由無くなってきた位だよ」

 グレンという名の、刀鍛冶らしい少年が。
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

無能扱いされ、パーティーを追放されたおっさん、実はチートスキル持ちでした。戻ってきてくれ、と言ってももう遅い。田舎でゆったりスローライフ。

さら
ファンタジー
かつて勇者パーティーに所属していたジル。 だが「無能」と嘲られ、役立たずと追放されてしまう。 行くあてもなく田舎の村へ流れ着いた彼は、鍬を振るい畑を耕し、のんびり暮らすつもりだった。 ――だが、誰も知らなかった。 ジルには“世界を覆すほどのチートスキル”が隠されていたのだ。 襲いかかる魔物を一撃で粉砕し、村を脅かす街の圧力をはねのけ、いつしか彼は「英雄」と呼ばれる存在に。 「戻ってきてくれ」と泣きつく元仲間? もう遅い。 俺はこの村で、仲間と共に、気ままにスローライフを楽しむ――そう決めたんだ。 無能扱いされたおっさんが、実は最強チートで世界を揺るがす!? のんびり田舎暮らし×無双ファンタジー、ここに開幕!

地味な薬草師だった俺が、実は村の生命線でした

有賀冬馬
ファンタジー
恋人に裏切られ、村を追い出された青年エド。彼の地味な仕事は誰にも評価されず、ただの「役立たず」として切り捨てられた。だが、それは間違いだった。旅の魔術師エリーゼと出会った彼は、自分の能力が秘めていた真の価値を知る。魔術と薬草を組み合わせた彼の秘薬は、やがて王国を救うほどの力となり、エドは英雄として名を馳せていく。そして、彼が去った村は、彼がいた頃には気づかなかった「地味な薬」の恩恵を失い、静かに破滅へと向かっていくのだった。

【鑑定不能】と捨てられた俺、実は《概念創造》スキルで万物創成!辺境で最強領主に成り上がる。

夏見ナイ
ファンタジー
伯爵家の三男リアムは【鑑定不能】スキル故に「無能」と追放され、辺境に捨てられた。だが、彼が覚醒させたのは神すら解析不能なユニークスキル《概念創造》! 認識した「概念」を現実に創造できる規格外の力で、リアムは快適な拠点、豊かな食料、忠実なゴーレムを生み出す。傷ついたエルフの少女ルナを救い、彼女と共に未開の地を開拓。やがて獣人ミリア、元貴族令嬢セレスなど訳ありの仲間が集い、小さな村は驚異的に発展していく。一方、リアムを捨てた王国や実家は衰退し、彼の力を奪おうと画策するが…? 無能と蔑まれた少年が最強スキルで理想郷を築き、自分を陥れた者たちに鉄槌を下す、爽快成り上がりファンタジー!

異世界転移「スキル無!」~授かったユニークスキルは「なし」ではなく触れたモノを「無」に帰す最強スキルだったようです~

夢・風魔
ファンタジー
林間学校の最中に召喚(誘拐?)された鈴村翔は「スキルが無い役立たずはいらない」と金髪縦ロール女に言われ、その場に取り残された。 しかしそのスキル鑑定は間違っていた。スキルが無いのではなく、転移特典で授かったのは『無』というスキルだったのだ。 とにかく生き残るために行動を起こした翔は、モンスターに襲われていた双子のエルフ姉妹を助ける。 エルフの里へと案内された翔は、林間学校で用意したキャンプ用品一式を使って彼らの食生活を改革することに。 スキル『無』で時々無双。双子の美少女エルフや木に宿る幼女精霊に囲まれ、翔の異世界生活冒険譚は始まった。 *小説家になろう・カクヨムでも投稿しております(完結済み

白いもふもふ好きの僕が転生したらフェンリルになっていた!!

ろき
ファンタジー
ブラック企業で消耗する社畜・白瀬陸空(しらせりくう)の唯一の癒し。それは「白いもふもふ」だった。 ある日、白い子犬を助けて命を落とした彼は、異世界で目を覚ます。 ふと水面を覗き込むと、そこに映っていたのは―― 伝説の神獣【フェンリル】になった自分自身!? 「どうせ転生するなら、テイマーになって、もふもふパラダイスを作りたかった!」 「なんで俺自身がもふもふの神獣になってるんだよ!」 理想と真逆の姿に絶望する陸空。 だが、彼には規格外の魔力と、前世の異常なまでの「もふもふへの執着」が変化した、とある謎のスキルが備わっていた。 これは、最強の神獣になってしまった男が、ただひたすらに「もふもふ」を愛でようとした結果、周囲の人間(とくにエルフ)に崇拝され、勘違いが勘違いを呼んで国を動かしてしまう、予測不能な異世界もふもふライフ!

【本編完結済み/後日譚連載中】巻き込まれた事なかれ主義のパシリくんは争いを避けて生きていく ~生産系加護で今度こそ楽しく生きるのさ~

みやま たつむ
ファンタジー
【本編完結しました(812話)/後日譚を書くために連載中にしています。ご承知おきください】 事故死したところを別の世界に連れてかれた陽キャグループと、巻き込まれて事故死した事なかれ主義の静人。 神様から強力な加護をもらって魔物をちぎっては投げ~、ちぎっては投げ~―――なんて事をせずに、勢いで作ってしまったホムンクルスにお店を開かせて面倒な事を押し付けて自由に生きる事にした。 作った魔道具はどんな使われ方をしているのか知らないまま「のんびり気ままに好きなように生きるんだ」と魔物なんてほっといて好き勝手生きていきたい静人の物語。 「まあ、そんな平穏な生活は転移した時点で無理じゃけどな」と最高神は思うのだが―――。 ※「小説家になろう」と「カクヨム」で同時掲載しております。

異世界あるある 転生物語  たった一つのスキルで無双する!え?【土魔法】じゃなくって【土】スキル?

よっしぃ
ファンタジー
農民が土魔法を使って何が悪い?異世界あるある?前世の謎知識で無双する! 土砂 剛史(どしゃ つよし)24歳、独身。自宅のパソコンでネットをしていた所、突然轟音がしたと思うと窓が破壊され何かがぶつかってきた。 自宅付近で高所作業車が電線付近を作業中、トラックが高所作業車に突っ込み運悪く剛史の部屋に高所作業車のアームの先端がぶつかり、そのまま窓から剛史に一直線。 『あ、やべ!』 そして・・・・ 【あれ?ここは何処だ?】 気が付けば真っ白な世界。 気を失ったのか?だがなんか聞こえた気がしたんだが何だったんだ? ・・・・ ・・・ ・・ ・ 【ふう・・・・何とか間に合ったか。たった一つのスキルか・・・・しかもあ奴の元の名からすれば土関連になりそうじゃが。済まぬが異世界あるあるのチートはない。】 こうして剛史は新た生を異世界で受けた。 そして何も思い出す事なく10歳に。 そしてこの世界は10歳でスキルを確認する。 スキルによって一生が決まるからだ。 最低1、最高でも10。平均すると概ね5。 そんな中剛史はたった1しかスキルがなかった。 しかも土木魔法と揶揄される【土魔法】のみ、と思い込んでいたが【土魔法】ですらない【土】スキルと言う謎スキルだった。 そんな中頑張って開拓を手伝っていたらどうやら領主の意に添わなかったようで ゴウツク領主によって領地を追放されてしまう。 追放先でも土魔法は土木魔法とバカにされる。 だがここで剛史は前世の記憶を徐々に取り戻す。 『土魔法を土木魔法ってバカにすんなよ?異世界あるあるな前世の謎知識で無双する!』 不屈の精神で土魔法を極めていく剛史。 そしてそんな剛史に同じような境遇の人々が集い、やがて大きなうねりとなってこの世界を席巻していく。 その中には同じく一つスキルしか得られず、公爵家や侯爵家を追放された令嬢も。 前世の記憶を活用しつつ、やがて土木魔法と揶揄されていた土魔法を世界一のスキルに押し上げていく。 但し剛史のスキルは【土魔法】ですらない【土】スキル。 転生時にチートはなかったと思われたが、努力の末にチートと言われるほどスキルを活用していく事になる。 これは所持スキルの少なさから世間から見放された人々が集い、ギルド『ワンチャンス』を結成、努力の末に世界一と言われる事となる物語・・・・だよな? 何故か追放された公爵令嬢や他の貴族の令嬢が集まってくるんだが? 俺は農家の4男だぞ?

お前には才能が無いと言われて公爵家から追放された俺は、前世が最強職【奪盗術師】だったことを思い出す ~今さら謝られても、もう遅い~

志鷹 志紀
ファンタジー
「お前には才能がない」 この俺アルカは、父にそう言われて、公爵家から追放された。 父からは無能と蔑まれ、兄からは酷いいじめを受ける日々。 ようやくそんな日々と別れられ、少しばかり嬉しいが……これからどうしようか。 今後の不安に悩んでいると、突如として俺の脳内に記憶が流れた。 その時、前世が最強の【奪盗術師】だったことを思い出したのだ。

処理中です...