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二章 隻腕の精霊使い
ex そして彼らも進みだす
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その光景はまさに異質だったのかもしれない。
実際その渦中に居る彼も、自分の行為を異質だと思った。思ったけども止められなかった。
止まらないし、止めたくないと思えた。
「……これは中々おいしいな。うん、機会があればまた食べたい」
グルメリポーターでも何でもない彼は、屋台で購入したクレープに対しそんな普通なコメントを残す。
「キミはどう思う?」
そして一見普通で異質な言葉を、彼は隣を歩く少女に投げかける。
「……」
返事は無い。
瞳の輝きを失った金髪の少女は、ただ促すといったニュアンスで放たれた命令に従ってクレープを口にするだけだ。
まるで人形に語りかけている様な虚しさが、銀髪の少年を包み込む。
そうなる事は分かっていた。
やっている事は人形に語りかける事と同義で、下手すればそれよりも滑稽で異質な行為だ。少なくとも不思議そうに視線を向ける通行人はそう思っているのだろう。
ドール化した精霊に語りかけるなんて行為はそういう事だ。
だけどそれでも、彼の言葉は止まらない。
「街を出る前にまだこの屋台が残ってたら、また食べに来ようか」
返事が返ってこないと知りつつも、それでも彼は語り掛け続ける。
その声に、その表情に。その精霊と接する彼に一切の迷いは無い。
もしかすると、昨日まではそういった物が残っていたのかもしれないが、少なくとも今の彼はそれらを払拭した。
『えーっと、その……まあ……色々あったんだよ』
昨日とある問いに彼、シオン・クロウリーはそういう回答をした。
露骨すぎるほどに何かを隠したその言葉。実際に彼はそうやって誤魔化した。
その問いを放った瀬戸栄治にその答えを聞かせれば、それが原因で彼が暴走してしまう可能性があったからだ。だから、あえて言わなかったし、簡単な隠蔽工作も行った。
実際の所は言いたかった、彼の迷いを断ち切らせたその一件を、包み隠さず教えたかった。
(……本当に、想定外だったよ)
シオンはクレープを頬張る名前も知らない精霊に、心の中で問う。
(どうしてキミは……あの時、あの場所にいたんだい?)
命令も何もしていなかった。彼女は安全な所でただ座っている筈だった。
それでも彼女は現れた。地面を血の海にして、意識を失いかけていた彼の前に現れたのは、彼女だった。
相変わらずの無表情で、そこに感情など何も見えなくて。
それでも彼女は何も言わずに助けてくれたのだ。
まるでそれが自分の意思だと言わんばかりに。
だけどそうした考えもシオンの主観でしかない。本当にそれが彼女の意思だったかは分からないし、現実的に考えればそれは一蹴される様な考えで、もっと違う何かがあったと考える方がまだ現実的だ。
それでも……ほんの少しだけ、光が見えた。
それは微かな光で。だけど確かにそこにある、幻では無く現実的な光。差し込ませたのは彼の行動か、はたまた偶然かそれは分からないけれど。分からなくても、彼は笑う。
いつか彼女に笑ってもらうために。彼は心の底から道化を演じる。
いや、演じるというのはおかしいのかもしれない。
だってそれは、決して演技ではないのだから。
「ほら、口元にクリーム付いてるよ」
彼は持っていたハンカチでクリームを拭う。
そんな頭のおかしい正しい事を、心の赴くままにやり続けよう。
その日、祭が行われているアルダリアスの一角で、一人の少年が周囲から注目を集めていた。
集めていたといっても、それはおかしな事をしている人間に思わず目を向けてしまったと言う様な、そんな感じ。注目を集める者のほぼ全てがそういう類の物だった。
だけどそうでない者も少なからずいた。
その内の一人は、視界に映った金髪の精霊を見て、首を傾げる。
一瞬。気のせいで無ければ、表情が微かに緩んでいた気がした。
だがしかし、気がしただけだと視線を逸らす。
その答えを知る物は誰もいない。知りたい彼も見逃した。
だけど答えはいずれ知る。
その位には、世界は優しくできている。
実際その渦中に居る彼も、自分の行為を異質だと思った。思ったけども止められなかった。
止まらないし、止めたくないと思えた。
「……これは中々おいしいな。うん、機会があればまた食べたい」
グルメリポーターでも何でもない彼は、屋台で購入したクレープに対しそんな普通なコメントを残す。
「キミはどう思う?」
そして一見普通で異質な言葉を、彼は隣を歩く少女に投げかける。
「……」
返事は無い。
瞳の輝きを失った金髪の少女は、ただ促すといったニュアンスで放たれた命令に従ってクレープを口にするだけだ。
まるで人形に語りかけている様な虚しさが、銀髪の少年を包み込む。
そうなる事は分かっていた。
やっている事は人形に語りかける事と同義で、下手すればそれよりも滑稽で異質な行為だ。少なくとも不思議そうに視線を向ける通行人はそう思っているのだろう。
ドール化した精霊に語りかけるなんて行為はそういう事だ。
だけどそれでも、彼の言葉は止まらない。
「街を出る前にまだこの屋台が残ってたら、また食べに来ようか」
返事が返ってこないと知りつつも、それでも彼は語り掛け続ける。
その声に、その表情に。その精霊と接する彼に一切の迷いは無い。
もしかすると、昨日まではそういった物が残っていたのかもしれないが、少なくとも今の彼はそれらを払拭した。
『えーっと、その……まあ……色々あったんだよ』
昨日とある問いに彼、シオン・クロウリーはそういう回答をした。
露骨すぎるほどに何かを隠したその言葉。実際に彼はそうやって誤魔化した。
その問いを放った瀬戸栄治にその答えを聞かせれば、それが原因で彼が暴走してしまう可能性があったからだ。だから、あえて言わなかったし、簡単な隠蔽工作も行った。
実際の所は言いたかった、彼の迷いを断ち切らせたその一件を、包み隠さず教えたかった。
(……本当に、想定外だったよ)
シオンはクレープを頬張る名前も知らない精霊に、心の中で問う。
(どうしてキミは……あの時、あの場所にいたんだい?)
命令も何もしていなかった。彼女は安全な所でただ座っている筈だった。
それでも彼女は現れた。地面を血の海にして、意識を失いかけていた彼の前に現れたのは、彼女だった。
相変わらずの無表情で、そこに感情など何も見えなくて。
それでも彼女は何も言わずに助けてくれたのだ。
まるでそれが自分の意思だと言わんばかりに。
だけどそうした考えもシオンの主観でしかない。本当にそれが彼女の意思だったかは分からないし、現実的に考えればそれは一蹴される様な考えで、もっと違う何かがあったと考える方がまだ現実的だ。
それでも……ほんの少しだけ、光が見えた。
それは微かな光で。だけど確かにそこにある、幻では無く現実的な光。差し込ませたのは彼の行動か、はたまた偶然かそれは分からないけれど。分からなくても、彼は笑う。
いつか彼女に笑ってもらうために。彼は心の底から道化を演じる。
いや、演じるというのはおかしいのかもしれない。
だってそれは、決して演技ではないのだから。
「ほら、口元にクリーム付いてるよ」
彼は持っていたハンカチでクリームを拭う。
そんな頭のおかしい正しい事を、心の赴くままにやり続けよう。
その日、祭が行われているアルダリアスの一角で、一人の少年が周囲から注目を集めていた。
集めていたといっても、それはおかしな事をしている人間に思わず目を向けてしまったと言う様な、そんな感じ。注目を集める者のほぼ全てがそういう類の物だった。
だけどそうでない者も少なからずいた。
その内の一人は、視界に映った金髪の精霊を見て、首を傾げる。
一瞬。気のせいで無ければ、表情が微かに緩んでいた気がした。
だがしかし、気がしただけだと視線を逸らす。
その答えを知る物は誰もいない。知りたい彼も見逃した。
だけど答えはいずれ知る。
その位には、世界は優しくできている。
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