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六章 君ガ為のカタストロフィ
27 硝煙
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「……まあそうだな。この戦力を相手にしたくはない。仮に俺が動いたとしても止められてたか」
天野は誠一の兄貴の言葉をそう言って認めた後、軽くため息を付いて、愚痴を言うように言う。
「しかしそこまで念を入れるか。まるで悪者相手だな」
「いや、お前が正義の味方だからこそだよ。お前が悪人なら世の中みんな悪人だ」
「……そう思ってくれているなら少しは気が楽だ」
そう言った天野にはもう張りつめた空気などなく、あの時映画を進めてきた感じに戻っていた。
そしてそんな天野は、まだ足にしがみ付いていた俺に視線を落として手を差し伸べてくる。
「立てるか?」
そこに悪意など一かけらも感じない、きっと素から出た助け船。
だけどその手を取る事は流石にできなかった。
「……立てる」
俺はなんとか一人でゆっくりと立ち上がる。
天野が悪人出はない事は理解してる。きっとコイツは俺が今まで知り合った人間の中でも相当な善人なのだろう。
だけど結果的にエルをああいう目に合わせたその手を取るわけにはいかない。
……そうだ。エルはまだ大怪我をしている。実際まだ応急処置も満足に終わってはいないんだ。だから早く治さないと。
振りかかる火の粉は払えなくても。エルの暴走を止める事も出来なくても。
対策局の魔術に直接的な回復魔術は存在しない以上、エルを治す事は俺だけができる事なのだから。
だから極力急いでエルの元へと向かって歩いた。
足取りはふらつくが、それでも。一歩一歩確かに。
「……エル」
視界の先のエルはまだ自力では動けない程に。命を繋ぎ止めるのがやっとという風に衰弱しきっている。
はやく。はやく何とかしないと。
そして視界の先では、誠一の兄貴が隣りにまで歩いてきていた金髪の青年。五番隊副隊長、神崎さんに声を掛ける。
「神崎、肩貸してやれ」
「気を使うなら命令しないでキミが貸してあげなよ……って普段なら言うけど分かったよ。その位は僕がやる」
そんなやり取りを交わした後、神崎さんがこちらに駆け寄ってくる。
「とりあえず肩貸すよ。正直歩くだけで相当キツいでしょ」
「……すんません」
天野の手は借りたくはなかったが、それ以外なら別に抵抗はない。
実際歩くだけでも相当辛いわけだし、此処はご厚意に甘えようと思う。
「いいよ。本来ならば僕達がキミやあの子を守らないと行けなかったんだ。実際陽介が言った通り、僕や陽介はこの場に初めからいた。戦おうと思えばいつだって戦えたんだ。だけどそれをしなかった。キミがこうして満身創痍なのは僕達の責任だよ」
「……そんな事ないですよ。結果的に俺達は神崎さんや誠一の兄貴に……いや、陽介さん達に救われてる。そうでなければ今頃エルは天野に殺されてる。だから責任とかそういうのはアンタ達に向けたくない。寧ろ恩しかないんです。だからこの恩はいずれ返します」
「別にそんな事はしなくていいよ。人間持ちつ持たれつ。仲良くやっていこう」
そんな事を言った後、でも、と神崎さんは続ける。
「それでももし一つだけお願いを聞いてくれるんなら……頼むからアイツを。陽介の奴を恨まないでやってほしい」
その頼みの意味が分からなかった。
「……恨むって。だから俺は恩しか感じないって言ってるじゃないですか。日頃結構世話になって、こうして助けてまでくれた。そんな相手を何で恨まないといけないんですか」
「……頼むよ」
それ以上、神崎さんは何も言わなかった。
聞き詰めようとも思ったがそれも空気的に聞きにくい事ではあったし、なによりそんなやり取りをしている間に俺達はエルと誠一の兄貴の前まで辿り着いていた。
ここまで辿り着けば、疑問を解消するよりもやるべき事がある。
「ありがとうございます。もういいです」
そう言って俺は神崎さんから離れ、エルの前に膝を付く。
「……ごめん、エル。待たせた」
そして力を振り絞って回復術を発動した。
そんな俺に誠一の兄貴は声を掛けて来る。
「エルは何とかなりそうか?」
「……なんとかします」
「答えになってねえよ……まあそうする気があるなら結構だ。そうでないと困る」
そう言った誠一の兄貴は、短く深呼吸をしてから一拍空けて俺に言う。
「まあとにかく、こうして無駄口叩いてる時間があとどれだけあるか分からねえ。さっさとエルをどうにかしよう」
「お、お願いします! 俺にできる事なら何でもしますんで、頼むからエルを助けてやってください!」
「何でも……ねえ。じゃあ一応二つお前に頼みがある」
「何ですか!?」
そして誠一の兄はロングコートの内ポケットに手を入れながら言う。
「まず一つ。とにかくエルを全力で治療してくれ。エルには治療が必要だ」
そんな事は分かっているし、現に今こうしている。何で今更そんな頼みをするのだろうか。
傷の方は俺が頑張って直せという念押しというか、背中を押してくれているのだろうか?
その真意は分からない。
だけどまだ、そういう憶測が付いただけマシだったのだろう。
「そしてもう一つ」
そこから先の事はまるで理解できなかった。
「事が終わるまで黙ってみてろ」
言葉の意味も。その先の行動も。
「……ッ!?」
誠一の兄貴が懐から取りだしたのは拳銃だった。
黒塗りの回転式拳銃。
天野との戦いは終わった。誠一の兄貴達にとっては戦いそのものが始まる前に終わったんだ。
だからそんな物は出てくるはずの無い物の筈で。もうこの場で武器など出てきたらおかしい筈なんだ。
だけどそれがこのタイミングで出てきた。
出てきて……銃口が向けられる。
その矛先は天野宗也では無い。
足元のエルに向けられていた。
「……?」
その状況を脳がまるで飲み込まず、全ての事に理解が追いつかず。
まるで一瞬時間が止まったようなそんな感覚の中で引き金は引かれれ、発砲音が鳴り響いた。
……発砲音が鳴り響いた?
天野は誠一の兄貴の言葉をそう言って認めた後、軽くため息を付いて、愚痴を言うように言う。
「しかしそこまで念を入れるか。まるで悪者相手だな」
「いや、お前が正義の味方だからこそだよ。お前が悪人なら世の中みんな悪人だ」
「……そう思ってくれているなら少しは気が楽だ」
そう言った天野にはもう張りつめた空気などなく、あの時映画を進めてきた感じに戻っていた。
そしてそんな天野は、まだ足にしがみ付いていた俺に視線を落として手を差し伸べてくる。
「立てるか?」
そこに悪意など一かけらも感じない、きっと素から出た助け船。
だけどその手を取る事は流石にできなかった。
「……立てる」
俺はなんとか一人でゆっくりと立ち上がる。
天野が悪人出はない事は理解してる。きっとコイツは俺が今まで知り合った人間の中でも相当な善人なのだろう。
だけど結果的にエルをああいう目に合わせたその手を取るわけにはいかない。
……そうだ。エルはまだ大怪我をしている。実際まだ応急処置も満足に終わってはいないんだ。だから早く治さないと。
振りかかる火の粉は払えなくても。エルの暴走を止める事も出来なくても。
対策局の魔術に直接的な回復魔術は存在しない以上、エルを治す事は俺だけができる事なのだから。
だから極力急いでエルの元へと向かって歩いた。
足取りはふらつくが、それでも。一歩一歩確かに。
「……エル」
視界の先のエルはまだ自力では動けない程に。命を繋ぎ止めるのがやっとという風に衰弱しきっている。
はやく。はやく何とかしないと。
そして視界の先では、誠一の兄貴が隣りにまで歩いてきていた金髪の青年。五番隊副隊長、神崎さんに声を掛ける。
「神崎、肩貸してやれ」
「気を使うなら命令しないでキミが貸してあげなよ……って普段なら言うけど分かったよ。その位は僕がやる」
そんなやり取りを交わした後、神崎さんがこちらに駆け寄ってくる。
「とりあえず肩貸すよ。正直歩くだけで相当キツいでしょ」
「……すんません」
天野の手は借りたくはなかったが、それ以外なら別に抵抗はない。
実際歩くだけでも相当辛いわけだし、此処はご厚意に甘えようと思う。
「いいよ。本来ならば僕達がキミやあの子を守らないと行けなかったんだ。実際陽介が言った通り、僕や陽介はこの場に初めからいた。戦おうと思えばいつだって戦えたんだ。だけどそれをしなかった。キミがこうして満身創痍なのは僕達の責任だよ」
「……そんな事ないですよ。結果的に俺達は神崎さんや誠一の兄貴に……いや、陽介さん達に救われてる。そうでなければ今頃エルは天野に殺されてる。だから責任とかそういうのはアンタ達に向けたくない。寧ろ恩しかないんです。だからこの恩はいずれ返します」
「別にそんな事はしなくていいよ。人間持ちつ持たれつ。仲良くやっていこう」
そんな事を言った後、でも、と神崎さんは続ける。
「それでももし一つだけお願いを聞いてくれるんなら……頼むからアイツを。陽介の奴を恨まないでやってほしい」
その頼みの意味が分からなかった。
「……恨むって。だから俺は恩しか感じないって言ってるじゃないですか。日頃結構世話になって、こうして助けてまでくれた。そんな相手を何で恨まないといけないんですか」
「……頼むよ」
それ以上、神崎さんは何も言わなかった。
聞き詰めようとも思ったがそれも空気的に聞きにくい事ではあったし、なによりそんなやり取りをしている間に俺達はエルと誠一の兄貴の前まで辿り着いていた。
ここまで辿り着けば、疑問を解消するよりもやるべき事がある。
「ありがとうございます。もういいです」
そう言って俺は神崎さんから離れ、エルの前に膝を付く。
「……ごめん、エル。待たせた」
そして力を振り絞って回復術を発動した。
そんな俺に誠一の兄貴は声を掛けて来る。
「エルは何とかなりそうか?」
「……なんとかします」
「答えになってねえよ……まあそうする気があるなら結構だ。そうでないと困る」
そう言った誠一の兄貴は、短く深呼吸をしてから一拍空けて俺に言う。
「まあとにかく、こうして無駄口叩いてる時間があとどれだけあるか分からねえ。さっさとエルをどうにかしよう」
「お、お願いします! 俺にできる事なら何でもしますんで、頼むからエルを助けてやってください!」
「何でも……ねえ。じゃあ一応二つお前に頼みがある」
「何ですか!?」
そして誠一の兄はロングコートの内ポケットに手を入れながら言う。
「まず一つ。とにかくエルを全力で治療してくれ。エルには治療が必要だ」
そんな事は分かっているし、現に今こうしている。何で今更そんな頼みをするのだろうか。
傷の方は俺が頑張って直せという念押しというか、背中を押してくれているのだろうか?
その真意は分からない。
だけどまだ、そういう憶測が付いただけマシだったのだろう。
「そしてもう一つ」
そこから先の事はまるで理解できなかった。
「事が終わるまで黙ってみてろ」
言葉の意味も。その先の行動も。
「……ッ!?」
誠一の兄貴が懐から取りだしたのは拳銃だった。
黒塗りの回転式拳銃。
天野との戦いは終わった。誠一の兄貴達にとっては戦いそのものが始まる前に終わったんだ。
だからそんな物は出てくるはずの無い物の筈で。もうこの場で武器など出てきたらおかしい筈なんだ。
だけどそれがこのタイミングで出てきた。
出てきて……銃口が向けられる。
その矛先は天野宗也では無い。
足元のエルに向けられていた。
「……?」
その状況を脳がまるで飲み込まず、全ての事に理解が追いつかず。
まるで一瞬時間が止まったようなそんな感覚の中で引き金は引かれれ、発砲音が鳴り響いた。
……発砲音が鳴り響いた?
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