人の身にして精霊王

山外大河

文字の大きさ
308 / 431
七章 白と黒の追跡者

ex バーストモード

しおりを挟む
「……それにしてもよく躱しましたね。最後の攻撃、距離的に防御はされても避けられないと思ったんですけど」

「冷静に考えればあの攻撃、当たってたらウチも大怪我か……うわぁ、躱せてよかったぁ」

 ハスカから回復術を受けながら、改めて先程の戦いの事をエルが言うと、そう言ってレベッカは胸を撫で下ろす。

「……なんかほんと、すみません」

 確かに言われてみればレベッカの言う通りだ。
 自分の肉体強化が特異なだけで、大怪我というのは本来致命傷に直結する。そういう意味でも必至だったとはいえ打ってはいけなかった攻撃だったのかもしれない。
 もっともそこまで考えてしまうと、出力全開で戦いをする事そのものが大きな間違いなのではないかとも思うけれど。
 そう考えると、仮想空間であるが故にどれだけ力を出しても、極端な話特訓中体の部位が欠損するような事があっても何の問題もないらしい対策局のトレーニングルームがいかに便利なものなのか実感する。

「いいよいいよ。なんかこう……切断攻撃使用禁止以外にもっと安全面を考慮したルール決めないといけないのを怠ったウチも悪い。というかウチが危なかった事に関しては全面的にウチが悪い。だから謝らなくていよ」

 そう笑って言うレベッカ。
 そんなレベッカは、一拍明けてからエルに問う。

「ところでエルはああいうの躱せない?」

「……ちょっと難しいですかね。あの距離で不意をつかれると」

「ま、ウチも普通にしてたらあんなの躱せないよ」

「……でも、精霊術のリミッターを外せば躱せる。そういう事ですか?」

「まあざっくり言えばね。だけど本質的にはちょっと違うかな」

「……? 違うんですか」

「まあちょっとね。大体あってるといえばあってるけど」

「あってるんですか……どっちなんですか」

「精霊術のリミッターを外す。これはステップで言えば二段階目。言ったよね? この力は精霊術のリミッターを外せるようになる力って」

「……言ってましたけど、それが結局リミッターを外して反応速度を上げてるって事じゃないんですか?」

「まあそれもそうだけど、大事なのはそこじゃない。肉体強化の出力を上げて反応速度を上げてもまだアレを躱すのには足りないかな」

 そしてレベッカは一拍明けてから答える。

「この力は戦いの感覚を呼び覚ます。精霊術のリミッターを感覚的に外す事が出来る様になるし……反応速度を上乗せできる位には、反射神経みたいな感覚も研ぎ澄まされるわ」

「……なるほど」

 ……だとすれば躱されたのも納得だ。
 純粋な肉体強化に更にそういった反応速度が上乗せされれば、あの攻撃をあの至近距離で躱す事も十分可能なのだろう。
 その点は納得いった。答えが出た。
 故にこの戦いの中で得た解を出すべき疑問はあと一つだ。

「……で、多分あの攻撃を躱せた事もそうだけど……というより多分それ以上に聞きたい事、あるよね?」

「……はい」

 レベッカの言葉に頷き、エルは問いかける。

「あの状態になってからレベッカさんの能力の性質が大きく変わりましたよね。アレは一体何がどうなってるんですか? リミッターを外す云々の話か……それとも今の反射神経の話みたいに別の所か。その辺り、教えてもらっていいですか?」

「いいよ。で、とりあえず言えるのは後者。これもまたリミッター云々の話じゃないんだ」

 レベッカは改めてリミッターのついての説明を始める。

「とりあえずリミッターを外すって行為……まあ具体的に言えば出力形式を変えてるって感じなんだけどね、これは単純に精霊術の出力が上がるだけ。ほんと説明は難しいんだけどさ、こう、大元の力は同じなんだけど、普通に使っていると負担少なめで普通の力で使えるって回路から負担は大きいけど力も強い回路に切り替えって感じかな。だからそれで力の性質は変わらないよ。だから後者」

「ああいう全く別物みたいな力の使い方が出来る程に、精神が研ぎ澄まされる……って事ですか?」

「正解。察しが良くて助かるよ」

 そう言ってレベッカは一拍明けてから言う。

「だからエルが今身につけようとしているのは、戦闘の感覚を異常な程に引き上げる。そんな状態って訳」

 そしてレベッカは満を持してという風に告げる。

「ウチはこの状態の事を、バーストモードって言ってる」

「……」

「……」

「……」

「……えーっと、ちょっと待って。これ誰にも言った事なかったんだけど、カッコ悪かった? もしかしてウチ凄く変な名前付けたりしてない?」

「あ、いや、別にそんな事ないですよ。結構それっぽいなーって思いますし、漫画とかでもなんかありそうですし」

 でも一つだけ気になる事があって。

「でも考えてみれば自分の力に技名付けてる人、というか精霊始めてみたなーって思って」

「……え?」

 エルの素朴な疑問に、割と真剣に驚いているレベッカは隣りのハスカに問いかける。

「……え? 普通技名付けるよね? 考えるよね?」

「……いや、私は特に」

「……えぇ。じゃあ何。ウチ少数派なの? 一つ一つにグラヴィティキャノンとかつけてんのウチだけなの?」

「……一つ一つ付けてるんですか?」

「じゃ、じゃあ聞くけど。風の塊とかアレなんて読んでんの?」

「風の塊ですけど?」

「まあ大体そんな感じだよね」

 エルの言葉にハスカも頷き、結果レベッカは頭を抱える。

「うわあああああああッツ! うっそでしょ!? なんか急に恥ずかしくなってきたんだけどおおおおおッ!?」

 そう言って悶えるレベッカを見て思わず笑みを浮かべた後、改めて考える。
 バーストモード。自分が今身につけるべき強力な力。
 結局この戦いの中で得たのはその力がどれほどの物かという実体験と、その力に関する知識。そこから先には進めていない。
 ……果たしてどうすればこの力を手にする事が出来るのだろうか?
 ……それはまだ分からない。

 分からないままこの日の戦いは終わりを迎えた。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

勇者パーティーを追放されました。国から莫大な契約違反金を請求されると思いますが、払えますよね?

猿喰 森繁
ファンタジー
「パーティーを抜けてほしい」 「え?なんて?」 私がパーティーメンバーにいることが国の条件のはず。 彼らは、そんなことも忘れてしまったようだ。 私が聖女であることが、どれほど重要なことか。 聖女という存在が、どれほど多くの国にとって貴重なものか。 ―まぁ、賠償金を支払う羽目になっても、私には関係ないんだけど…。 前の話はテンポが悪かったので、全文書き直しました。

ボンクラ王子の側近を任されました

里見知美
ファンタジー
「任されてくれるな?」  王宮にある宰相の執務室で、俺は頭を下げたまま脂汗を流していた。  人の良い弟である現国王を煽てあげ国の頂点へと導き出し、王国騎士団も魔術師団も視線一つで操ると噂の恐ろしい影の実力者。  そんな人に呼び出され開口一番、シンファエル殿下の側近になれと言われた。  義妹が婚約破棄を叩きつけた相手である。  王子16歳、俺26歳。側近てのは、年の近い家格のしっかりしたヤツがなるんじゃねえの?

封印されていたおじさん、500年後の世界で無双する

鶴井こう
ファンタジー
「魔王を押さえつけている今のうちに、俺ごとやれ!」と自ら犠牲になり、自分ごと魔王を封印した英雄ゼノン・ウェンライト。 突然目が覚めたと思ったら五百年後の世界だった。 しかもそこには弱体化して少女になっていた魔王もいた。 魔王を監視しつつ、とりあえず生活の金を稼ごうと、冒険者協会の門を叩くゼノン。 英雄ゼノンこと冒険者トントンは、おじさんだと馬鹿にされても気にせず、時代が変わってもその強さで無双し伝説を次々と作っていく。

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

国外追放だ!と言われたので従ってみた

れぷ
ファンタジー
 良いの?君達死ぬよ?

転生ヒロインは不倫が嫌いなので地道な道を選らぶ

karon
ファンタジー
デビュタントドレスを見た瞬間アメリアはかつて好きだった乙女ゲーム「薔薇の言の葉」の世界に転生したことを悟った。 しかし、攻略対象に張り付いた自分より身分の高い悪役令嬢と戦う危険性を考え、攻略対象完全無視でモブとくっつくことを決心、しかし、アメリアの思惑は思わぬ方向に横滑りし。

断罪まであと10分、私は処刑台の上で「ライブ配信」を開始した〜前世インフルエンサーの悪役令嬢、支持率100%でクズ王子を逆処刑する〜

深渡 ケイ
ファンタジー
断罪まで、あと10分。 処刑台の上で跪く悪役令嬢スカーレットは、笑っていた。 なぜなら彼女は―― 前世で“トップインフルエンサー”だったから。 処刑の瞬間、彼女が起動したのは禁忌の精霊石。 空に展開された巨大モニターが、全世界同時ライブ配信を開始する。 タイトルは―― 『断罪なう』。 王子の不貞、聖女の偽善、王家の腐敗。 すべてを“証拠付き・リアルタイム”で暴露する配信に、 国民の「いいね(=精霊力)」が集まり始める。 そして宣言される、前代未聞のルール。 支持率が上がるほど、処刑は不可能になる。 処刑台は舞台へ。 断罪はエンタメへ。 悪役令嬢は、世界をひっくり返す配信者となった。 これは、 処刑されるはずだった悪役令嬢が、 “ライブ配信”で王子と王国を公開処刑する物語。 支持率100%の先に待つのは、復讐か、革命か、 それとも――自由か。

裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね

魚夢ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。 元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、 王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。 代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。 父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。 カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。 その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。 ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。 「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」 そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。 もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。 

処理中です...