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七章 白と黒の追跡者
ex バーストモード
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「……それにしてもよく躱しましたね。最後の攻撃、距離的に防御はされても避けられないと思ったんですけど」
「冷静に考えればあの攻撃、当たってたらウチも大怪我か……うわぁ、躱せてよかったぁ」
ハスカから回復術を受けながら、改めて先程の戦いの事をエルが言うと、そう言ってレベッカは胸を撫で下ろす。
「……なんかほんと、すみません」
確かに言われてみればレベッカの言う通りだ。
自分の肉体強化が特異なだけで、大怪我というのは本来致命傷に直結する。そういう意味でも必至だったとはいえ打ってはいけなかった攻撃だったのかもしれない。
もっともそこまで考えてしまうと、出力全開で戦いをする事そのものが大きな間違いなのではないかとも思うけれど。
そう考えると、仮想空間であるが故にどれだけ力を出しても、極端な話特訓中体の部位が欠損するような事があっても何の問題もないらしい対策局のトレーニングルームがいかに便利なものなのか実感する。
「いいよいいよ。なんかこう……切断攻撃使用禁止以外にもっと安全面を考慮したルール決めないといけないのを怠ったウチも悪い。というかウチが危なかった事に関しては全面的にウチが悪い。だから謝らなくていよ」
そう笑って言うレベッカ。
そんなレベッカは、一拍明けてからエルに問う。
「ところでエルはああいうの躱せない?」
「……ちょっと難しいですかね。あの距離で不意をつかれると」
「ま、ウチも普通にしてたらあんなの躱せないよ」
「……でも、精霊術のリミッターを外せば躱せる。そういう事ですか?」
「まあざっくり言えばね。だけど本質的にはちょっと違うかな」
「……? 違うんですか」
「まあちょっとね。大体あってるといえばあってるけど」
「あってるんですか……どっちなんですか」
「精霊術のリミッターを外す。これはステップで言えば二段階目。言ったよね? この力は精霊術のリミッターを外せるようになる力って」
「……言ってましたけど、それが結局リミッターを外して反応速度を上げてるって事じゃないんですか?」
「まあそれもそうだけど、大事なのはそこじゃない。肉体強化の出力を上げて反応速度を上げてもまだアレを躱すのには足りないかな」
そしてレベッカは一拍明けてから答える。
「この力は戦いの感覚を呼び覚ます。精霊術のリミッターを感覚的に外す事が出来る様になるし……反応速度を上乗せできる位には、反射神経みたいな感覚も研ぎ澄まされるわ」
「……なるほど」
……だとすれば躱されたのも納得だ。
純粋な肉体強化に更にそういった反応速度が上乗せされれば、あの攻撃をあの至近距離で躱す事も十分可能なのだろう。
その点は納得いった。答えが出た。
故にこの戦いの中で得た解を出すべき疑問はあと一つだ。
「……で、多分あの攻撃を躱せた事もそうだけど……というより多分それ以上に聞きたい事、あるよね?」
「……はい」
レベッカの言葉に頷き、エルは問いかける。
「あの状態になってからレベッカさんの能力の性質が大きく変わりましたよね。アレは一体何がどうなってるんですか? リミッターを外す云々の話か……それとも今の反射神経の話みたいに別の所か。その辺り、教えてもらっていいですか?」
「いいよ。で、とりあえず言えるのは後者。これもまたリミッター云々の話じゃないんだ」
レベッカは改めてリミッターのついての説明を始める。
「とりあえずリミッターを外すって行為……まあ具体的に言えば出力形式を変えてるって感じなんだけどね、これは単純に精霊術の出力が上がるだけ。ほんと説明は難しいんだけどさ、こう、大元の力は同じなんだけど、普通に使っていると負担少なめで普通の力で使えるって回路から負担は大きいけど力も強い回路に切り替えって感じかな。だからそれで力の性質は変わらないよ。だから後者」
「ああいう全く別物みたいな力の使い方が出来る程に、精神が研ぎ澄まされる……って事ですか?」
「正解。察しが良くて助かるよ」
そう言ってレベッカは一拍明けてから言う。
「だからエルが今身につけようとしているのは、戦闘の感覚を異常な程に引き上げる。そんな状態って訳」
そしてレベッカは満を持してという風に告げる。
「ウチはこの状態の事を、バーストモードって言ってる」
「……」
「……」
「……」
「……えーっと、ちょっと待って。これ誰にも言った事なかったんだけど、カッコ悪かった? もしかしてウチ凄く変な名前付けたりしてない?」
「あ、いや、別にそんな事ないですよ。結構それっぽいなーって思いますし、漫画とかでもなんかありそうですし」
でも一つだけ気になる事があって。
「でも考えてみれば自分の力に技名付けてる人、というか精霊始めてみたなーって思って」
「……え?」
エルの素朴な疑問に、割と真剣に驚いているレベッカは隣りのハスカに問いかける。
「……え? 普通技名付けるよね? 考えるよね?」
「……いや、私は特に」
「……えぇ。じゃあ何。ウチ少数派なの? 一つ一つにグラヴィティキャノンとかつけてんのウチだけなの?」
「……一つ一つ付けてるんですか?」
「じゃ、じゃあ聞くけど。風の塊とかアレなんて読んでんの?」
「風の塊ですけど?」
「まあ大体そんな感じだよね」
エルの言葉にハスカも頷き、結果レベッカは頭を抱える。
「うわあああああああッツ! うっそでしょ!? なんか急に恥ずかしくなってきたんだけどおおおおおッ!?」
そう言って悶えるレベッカを見て思わず笑みを浮かべた後、改めて考える。
バーストモード。自分が今身につけるべき強力な力。
結局この戦いの中で得たのはその力がどれほどの物かという実体験と、その力に関する知識。そこから先には進めていない。
……果たしてどうすればこの力を手にする事が出来るのだろうか?
……それはまだ分からない。
分からないままこの日の戦いは終わりを迎えた。
「冷静に考えればあの攻撃、当たってたらウチも大怪我か……うわぁ、躱せてよかったぁ」
ハスカから回復術を受けながら、改めて先程の戦いの事をエルが言うと、そう言ってレベッカは胸を撫で下ろす。
「……なんかほんと、すみません」
確かに言われてみればレベッカの言う通りだ。
自分の肉体強化が特異なだけで、大怪我というのは本来致命傷に直結する。そういう意味でも必至だったとはいえ打ってはいけなかった攻撃だったのかもしれない。
もっともそこまで考えてしまうと、出力全開で戦いをする事そのものが大きな間違いなのではないかとも思うけれど。
そう考えると、仮想空間であるが故にどれだけ力を出しても、極端な話特訓中体の部位が欠損するような事があっても何の問題もないらしい対策局のトレーニングルームがいかに便利なものなのか実感する。
「いいよいいよ。なんかこう……切断攻撃使用禁止以外にもっと安全面を考慮したルール決めないといけないのを怠ったウチも悪い。というかウチが危なかった事に関しては全面的にウチが悪い。だから謝らなくていよ」
そう笑って言うレベッカ。
そんなレベッカは、一拍明けてからエルに問う。
「ところでエルはああいうの躱せない?」
「……ちょっと難しいですかね。あの距離で不意をつかれると」
「ま、ウチも普通にしてたらあんなの躱せないよ」
「……でも、精霊術のリミッターを外せば躱せる。そういう事ですか?」
「まあざっくり言えばね。だけど本質的にはちょっと違うかな」
「……? 違うんですか」
「まあちょっとね。大体あってるといえばあってるけど」
「あってるんですか……どっちなんですか」
「精霊術のリミッターを外す。これはステップで言えば二段階目。言ったよね? この力は精霊術のリミッターを外せるようになる力って」
「……言ってましたけど、それが結局リミッターを外して反応速度を上げてるって事じゃないんですか?」
「まあそれもそうだけど、大事なのはそこじゃない。肉体強化の出力を上げて反応速度を上げてもまだアレを躱すのには足りないかな」
そしてレベッカは一拍明けてから答える。
「この力は戦いの感覚を呼び覚ます。精霊術のリミッターを感覚的に外す事が出来る様になるし……反応速度を上乗せできる位には、反射神経みたいな感覚も研ぎ澄まされるわ」
「……なるほど」
……だとすれば躱されたのも納得だ。
純粋な肉体強化に更にそういった反応速度が上乗せされれば、あの攻撃をあの至近距離で躱す事も十分可能なのだろう。
その点は納得いった。答えが出た。
故にこの戦いの中で得た解を出すべき疑問はあと一つだ。
「……で、多分あの攻撃を躱せた事もそうだけど……というより多分それ以上に聞きたい事、あるよね?」
「……はい」
レベッカの言葉に頷き、エルは問いかける。
「あの状態になってからレベッカさんの能力の性質が大きく変わりましたよね。アレは一体何がどうなってるんですか? リミッターを外す云々の話か……それとも今の反射神経の話みたいに別の所か。その辺り、教えてもらっていいですか?」
「いいよ。で、とりあえず言えるのは後者。これもまたリミッター云々の話じゃないんだ」
レベッカは改めてリミッターのついての説明を始める。
「とりあえずリミッターを外すって行為……まあ具体的に言えば出力形式を変えてるって感じなんだけどね、これは単純に精霊術の出力が上がるだけ。ほんと説明は難しいんだけどさ、こう、大元の力は同じなんだけど、普通に使っていると負担少なめで普通の力で使えるって回路から負担は大きいけど力も強い回路に切り替えって感じかな。だからそれで力の性質は変わらないよ。だから後者」
「ああいう全く別物みたいな力の使い方が出来る程に、精神が研ぎ澄まされる……って事ですか?」
「正解。察しが良くて助かるよ」
そう言ってレベッカは一拍明けてから言う。
「だからエルが今身につけようとしているのは、戦闘の感覚を異常な程に引き上げる。そんな状態って訳」
そしてレベッカは満を持してという風に告げる。
「ウチはこの状態の事を、バーストモードって言ってる」
「……」
「……」
「……」
「……えーっと、ちょっと待って。これ誰にも言った事なかったんだけど、カッコ悪かった? もしかしてウチ凄く変な名前付けたりしてない?」
「あ、いや、別にそんな事ないですよ。結構それっぽいなーって思いますし、漫画とかでもなんかありそうですし」
でも一つだけ気になる事があって。
「でも考えてみれば自分の力に技名付けてる人、というか精霊始めてみたなーって思って」
「……え?」
エルの素朴な疑問に、割と真剣に驚いているレベッカは隣りのハスカに問いかける。
「……え? 普通技名付けるよね? 考えるよね?」
「……いや、私は特に」
「……えぇ。じゃあ何。ウチ少数派なの? 一つ一つにグラヴィティキャノンとかつけてんのウチだけなの?」
「……一つ一つ付けてるんですか?」
「じゃ、じゃあ聞くけど。風の塊とかアレなんて読んでんの?」
「風の塊ですけど?」
「まあ大体そんな感じだよね」
エルの言葉にハスカも頷き、結果レベッカは頭を抱える。
「うわあああああああッツ! うっそでしょ!? なんか急に恥ずかしくなってきたんだけどおおおおおッ!?」
そう言って悶えるレベッカを見て思わず笑みを浮かべた後、改めて考える。
バーストモード。自分が今身につけるべき強力な力。
結局この戦いの中で得たのはその力がどれほどの物かという実体験と、その力に関する知識。そこから先には進めていない。
……果たしてどうすればこの力を手にする事が出来るのだろうか?
……それはまだ分からない。
分からないままこの日の戦いは終わりを迎えた。
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