326 / 431
七章 白と黒の追跡者
ex 暴風の刃
しおりを挟む
目の前の男を倒せるかどうかは分からない。そして倒した時には肝心な事が手遅れになる。
男を掻い潜り殺すべき相手の所に到達はできるかもしれない。だけど確実に殺しきる前に目の前の男に追いつかれ妨害を喰らうかもしれない。
だとすれば今最も有効な手段はこれだ。
神経を集中させて風を走らせ殺すべき相手の正確な位置情報を掴み……そのポイントに竜巻を発生させて空へと打ち上げる。
その間目の前の男にそれを悟られないよう、残った僅かな集中力を使って相対する。
当然向こうの方に神経を割いている状態では碌な事は出来ず、それでは目の前の男に押しきられるであろう事は分かっていた。
それでも。それでも今までの自分よりも強い今なら、時間を稼ぐ位の事はできるから。
そしてそれは成功した。
視界の先で、空高くに殺すべき相手が撃ち上がる。
後はやる事はとてもシンプルだ。
全身全霊の一撃をぶつけて殺す。そしてエイジを救う。
ただ、それだけだ。
その為にエルは跳んだ。
否、飛んだ。
風を纏って空を舞った。
自らも空中に上がってしまえば、結界を使う男からの妨害も受けない。
真正面から全力で視界の先の男を潰す事ができる。
そう……全力で。
そしてそうする為の手段は自然と浮かんできて、自然と体がそれを実行する。
周囲の風を操作して特定のポイントに叩き付ける様な風を発生させる乱気流を作りだす。
その特定ポイントは目の前の男だ。
そして次の瞬間、抵抗しようと何かの精霊術を使おうとしていた男を完全に無力化する。
次の一撃を。最後の一撃を放つなら今だ。
そして畳みかけるように殺す為の一撃を放とうとする。
人体を貫くための風の槍。
かつて瀬戸栄治を死の淵にまで追い込んだ強力な一撃。
……だが。
(……違う)
本能的に導き出されたそれよりも強力な一撃を知っている。
エルという精霊の力を使って放たれる最強の一撃を彼女は知っている。
だからやり方を理性で切り替えた。
理性によってより良い解を導き出し、そして本能がそうする為のやり方を自然と導き出し形にする。
かつてのただ人を殺そうとする暴走状態とは違う。
自我があるからこそエルは一歩先へ進む。
「……」
瞬時に右手を中心に結界を作りだした。
発動した手の動きに合わせて共に動く移動式の結界。その脆さから時間稼ぎなどにしか使われなかった最弱の盾。
その結界を刀の様形状に変化させ、そして今までやり方もまるで分からなかった手から少し離れた所を手の動きに合わせて動くという特性を強制的に捻じ曲げ、その結界の剣を握りしめる。
そしてその脆き剣に風を纏わせた。
イメージするのは瀬戸栄治の戦い。
大剣や日本刀から放たれる風の斬撃。
エイジはあの技に複雑な工程を行わない。
曰く出そうと思えば出せ、切断能力を付与するかどうかも思いのまま。それは即ち大剣や刀となったエルの力。即ちそれを出す為にエイジが特別な何かをしている訳ではない。
エルという精霊の中でそれは完結している。
だとすれば斬撃も。風の防壁も。
エル自身ができない筈がない。
そして瀬戸栄治の一歩先を行く。
彼の斬撃は人を薙ぎ払い薙ぎ倒す。だけどそれでもそこに切断能力は付与されない。
相手が誰であろうと。彼は戦いに剣や刀本来の切断能力を持ちだす事はしなかった。
持ちださなくても人は殺せる。だけどそれでも切り伏せるよりは死なない。殺さないで済む。
敵を殺すのではなく敵を倒す。人を殺したくなかったエイジはその道を貫いてきた。
だけどエルには関係ない。
これまでも殺してきて、これからも殺す。
少なくとも目の前の敵だけは絶対に。
だから放たれるのは倒す為の一撃ではない。
殺す為の一撃。
その一撃に思いを乗せて。
「いっけえええええええええええええええええええええええええッ!」
そして結界の刀が全力で振るわれ、その一撃は放たれた。
放たれたのはエイジが大剣で放った時は勿論、刀で放った斬撃よりも劣る。
それでも風の槍よりは。
無抵抗の相手一人を屠るのには十分すぎる、あまりにも激しい暴風の様な一撃。
それが轟音と共に打ち放たれる。
そこから先は一瞬の出来事だったと思う。
視界の先の男は風のプレスにより意識を失いかけている様にも見えたが、それでも自身の正面に精霊術による結界を張り巡らせる。
それをガラスの様に打ち砕き、そして。
次の瞬間、轟音と共に呪いは消えた。
視界の先の惨状を目にしただけても確信は持てたが、その呪いが消えた事をまだ消えていない刻印が教えてくれた。
……つまりは、勝ったのだ。
勝算の薄い賭けだった。この戦場を駆け抜けて殺すべき相手を殺す。とてもとても成功率が低い絶望的な賭け。
それにエルは一人で打ち勝った。
(……良かった)
視界を消えない刻印に落としながら、エルは泣きそうになりながらエイジの事を思い浮かべる。
(これで……エイジさんは死なない)
守った。守り抜いた。助けられた。
だから……だから。
(これでまた、エイジさんと……)
そう思った次の瞬間だった。
「ぐ……ぁ?」
眩い光の銃弾が、エルの腹部を貫いたのは。
男を掻い潜り殺すべき相手の所に到達はできるかもしれない。だけど確実に殺しきる前に目の前の男に追いつかれ妨害を喰らうかもしれない。
だとすれば今最も有効な手段はこれだ。
神経を集中させて風を走らせ殺すべき相手の正確な位置情報を掴み……そのポイントに竜巻を発生させて空へと打ち上げる。
その間目の前の男にそれを悟られないよう、残った僅かな集中力を使って相対する。
当然向こうの方に神経を割いている状態では碌な事は出来ず、それでは目の前の男に押しきられるであろう事は分かっていた。
それでも。それでも今までの自分よりも強い今なら、時間を稼ぐ位の事はできるから。
そしてそれは成功した。
視界の先で、空高くに殺すべき相手が撃ち上がる。
後はやる事はとてもシンプルだ。
全身全霊の一撃をぶつけて殺す。そしてエイジを救う。
ただ、それだけだ。
その為にエルは跳んだ。
否、飛んだ。
風を纏って空を舞った。
自らも空中に上がってしまえば、結界を使う男からの妨害も受けない。
真正面から全力で視界の先の男を潰す事ができる。
そう……全力で。
そしてそうする為の手段は自然と浮かんできて、自然と体がそれを実行する。
周囲の風を操作して特定のポイントに叩き付ける様な風を発生させる乱気流を作りだす。
その特定ポイントは目の前の男だ。
そして次の瞬間、抵抗しようと何かの精霊術を使おうとしていた男を完全に無力化する。
次の一撃を。最後の一撃を放つなら今だ。
そして畳みかけるように殺す為の一撃を放とうとする。
人体を貫くための風の槍。
かつて瀬戸栄治を死の淵にまで追い込んだ強力な一撃。
……だが。
(……違う)
本能的に導き出されたそれよりも強力な一撃を知っている。
エルという精霊の力を使って放たれる最強の一撃を彼女は知っている。
だからやり方を理性で切り替えた。
理性によってより良い解を導き出し、そして本能がそうする為のやり方を自然と導き出し形にする。
かつてのただ人を殺そうとする暴走状態とは違う。
自我があるからこそエルは一歩先へ進む。
「……」
瞬時に右手を中心に結界を作りだした。
発動した手の動きに合わせて共に動く移動式の結界。その脆さから時間稼ぎなどにしか使われなかった最弱の盾。
その結界を刀の様形状に変化させ、そして今までやり方もまるで分からなかった手から少し離れた所を手の動きに合わせて動くという特性を強制的に捻じ曲げ、その結界の剣を握りしめる。
そしてその脆き剣に風を纏わせた。
イメージするのは瀬戸栄治の戦い。
大剣や日本刀から放たれる風の斬撃。
エイジはあの技に複雑な工程を行わない。
曰く出そうと思えば出せ、切断能力を付与するかどうかも思いのまま。それは即ち大剣や刀となったエルの力。即ちそれを出す為にエイジが特別な何かをしている訳ではない。
エルという精霊の中でそれは完結している。
だとすれば斬撃も。風の防壁も。
エル自身ができない筈がない。
そして瀬戸栄治の一歩先を行く。
彼の斬撃は人を薙ぎ払い薙ぎ倒す。だけどそれでもそこに切断能力は付与されない。
相手が誰であろうと。彼は戦いに剣や刀本来の切断能力を持ちだす事はしなかった。
持ちださなくても人は殺せる。だけどそれでも切り伏せるよりは死なない。殺さないで済む。
敵を殺すのではなく敵を倒す。人を殺したくなかったエイジはその道を貫いてきた。
だけどエルには関係ない。
これまでも殺してきて、これからも殺す。
少なくとも目の前の敵だけは絶対に。
だから放たれるのは倒す為の一撃ではない。
殺す為の一撃。
その一撃に思いを乗せて。
「いっけえええええええええええええええええええええええええッ!」
そして結界の刀が全力で振るわれ、その一撃は放たれた。
放たれたのはエイジが大剣で放った時は勿論、刀で放った斬撃よりも劣る。
それでも風の槍よりは。
無抵抗の相手一人を屠るのには十分すぎる、あまりにも激しい暴風の様な一撃。
それが轟音と共に打ち放たれる。
そこから先は一瞬の出来事だったと思う。
視界の先の男は風のプレスにより意識を失いかけている様にも見えたが、それでも自身の正面に精霊術による結界を張り巡らせる。
それをガラスの様に打ち砕き、そして。
次の瞬間、轟音と共に呪いは消えた。
視界の先の惨状を目にしただけても確信は持てたが、その呪いが消えた事をまだ消えていない刻印が教えてくれた。
……つまりは、勝ったのだ。
勝算の薄い賭けだった。この戦場を駆け抜けて殺すべき相手を殺す。とてもとても成功率が低い絶望的な賭け。
それにエルは一人で打ち勝った。
(……良かった)
視界を消えない刻印に落としながら、エルは泣きそうになりながらエイジの事を思い浮かべる。
(これで……エイジさんは死なない)
守った。守り抜いた。助けられた。
だから……だから。
(これでまた、エイジさんと……)
そう思った次の瞬間だった。
「ぐ……ぁ?」
眩い光の銃弾が、エルの腹部を貫いたのは。
0
あなたにおすすめの小説
勇者パーティーを追放されました。国から莫大な契約違反金を請求されると思いますが、払えますよね?
猿喰 森繁
ファンタジー
「パーティーを抜けてほしい」
「え?なんて?」
私がパーティーメンバーにいることが国の条件のはず。
彼らは、そんなことも忘れてしまったようだ。
私が聖女であることが、どれほど重要なことか。
聖女という存在が、どれほど多くの国にとって貴重なものか。
―まぁ、賠償金を支払う羽目になっても、私には関係ないんだけど…。
前の話はテンポが悪かったので、全文書き直しました。
ボンクラ王子の側近を任されました
里見知美
ファンタジー
「任されてくれるな?」
王宮にある宰相の執務室で、俺は頭を下げたまま脂汗を流していた。
人の良い弟である現国王を煽てあげ国の頂点へと導き出し、王国騎士団も魔術師団も視線一つで操ると噂の恐ろしい影の実力者。
そんな人に呼び出され開口一番、シンファエル殿下の側近になれと言われた。
義妹が婚約破棄を叩きつけた相手である。
王子16歳、俺26歳。側近てのは、年の近い家格のしっかりしたヤツがなるんじゃねえの?
封印されていたおじさん、500年後の世界で無双する
鶴井こう
ファンタジー
「魔王を押さえつけている今のうちに、俺ごとやれ!」と自ら犠牲になり、自分ごと魔王を封印した英雄ゼノン・ウェンライト。
突然目が覚めたと思ったら五百年後の世界だった。
しかもそこには弱体化して少女になっていた魔王もいた。
魔王を監視しつつ、とりあえず生活の金を稼ごうと、冒険者協会の門を叩くゼノン。
英雄ゼノンこと冒険者トントンは、おじさんだと馬鹿にされても気にせず、時代が変わってもその強さで無双し伝説を次々と作っていく。
バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します
namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。
マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。
その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。
「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。
しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。
「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」
公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。
前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。
これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。
転生ヒロインは不倫が嫌いなので地道な道を選らぶ
karon
ファンタジー
デビュタントドレスを見た瞬間アメリアはかつて好きだった乙女ゲーム「薔薇の言の葉」の世界に転生したことを悟った。
しかし、攻略対象に張り付いた自分より身分の高い悪役令嬢と戦う危険性を考え、攻略対象完全無視でモブとくっつくことを決心、しかし、アメリアの思惑は思わぬ方向に横滑りし。
断罪まであと10分、私は処刑台の上で「ライブ配信」を開始した〜前世インフルエンサーの悪役令嬢、支持率100%でクズ王子を逆処刑する〜
深渡 ケイ
ファンタジー
断罪まで、あと10分。
処刑台の上で跪く悪役令嬢スカーレットは、笑っていた。
なぜなら彼女は――
前世で“トップインフルエンサー”だったから。
処刑の瞬間、彼女が起動したのは禁忌の精霊石。
空に展開された巨大モニターが、全世界同時ライブ配信を開始する。
タイトルは――
『断罪なう』。
王子の不貞、聖女の偽善、王家の腐敗。
すべてを“証拠付き・リアルタイム”で暴露する配信に、
国民の「いいね(=精霊力)」が集まり始める。
そして宣言される、前代未聞のルール。
支持率が上がるほど、処刑は不可能になる。
処刑台は舞台へ。
断罪はエンタメへ。
悪役令嬢は、世界をひっくり返す配信者となった。
これは、
処刑されるはずだった悪役令嬢が、
“ライブ配信”で王子と王国を公開処刑する物語。
支持率100%の先に待つのは、復讐か、革命か、
それとも――自由か。
悪役皇子、ざまぁされたので反省する ~ 馬鹿は死ななきゃ治らないって… 一度、死んだからな、同じ轍(てつ)は踏まんよ ~
shiba
ファンタジー
魂だけの存在となり、邯鄲(かんたん)の夢にて
無名の英雄
愛を知らぬ商人
気狂いの賢者など
様々な英霊達の人生を追体験した凡愚な皇子は自身の無能さを痛感する。
それゆえに悪徳貴族の嫡男に生まれ変わった後、謎の強迫観念に背中を押されるまま
幼い頃から努力を積み上げていた彼は、図らずも超越者への道を歩み出す。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる