人の身にして精霊王

山外大河

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七章 白と黒の追跡者

ex 形勢逆転 上

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「シオン君の術中には嵌りたくないし、今日の所は単調でなしょーもない精霊術を使っていく感じでやらせてもらうね」

 そう言ってルミアは精霊術を構築する。
 予め効果の決まった融通の利かない精霊術を。
 融通を利かせない精霊術を。

 予め一定地点で一定方向に弾道が変化する衝撃波を放つ精霊術。
 その軌道パターンを全57種、即興で。

 それを無数に的確に放つ。
 衝撃波の雨。

(……ま、無理でしょこの程度じゃ)

 分かっている。
 この程度の攻撃で今のシオン・クロウリーは殺せない。

 それどころか風で動きを察知し超人的な反応を見せるエルにも当たらないだろうし、風による弾道の捕捉というアドバンテージが無いレベッカと呼ばれた精霊も精々五分。
 この出力での戦いでまともにダメージを与えられるのは精々先程戦った、ただ出力があるだけの無能なテロリスト位のものだろう。

 そして実際シオンに向けて放たれた一撃は全て躱される。

(……弾道の変化を察知するとかそういうのじゃない。撃たれた精霊術がどういう速度、威力でどういう軌道を取るのか。精霊術の構造全てを解析されてる)

 それを全て解析し、回避までに取るべき行動を演算し実行に移す。

「……それだけかい?」

 結果、無傷のシオン・クロウリーがそこに立つ。
 そしてそれだけでは終わらない。

「じゃあ次は僕の方から行く」

 次の瞬間、シオンの右手が激しく発光する。
 そうして放たれるのは光の矢。
 ……その効力は不明。

(……ここは確実に防ぐ)

 躱せない速度ではない。
 だが躱した瞬間爆破する類いの精霊術のように、直接攻撃が可能なだけではなく、近くに精霊術を届かせれば一定の効果を期待できる術式だった場合、躱すという行動を取る事自体がリスキーだ。
 もっとも大きく躱せばその影響を受けにくいかもしれないが、その行動に大きな隙が生まれる。

 ……今こちらの行動が大きく制限されている以上、取るべきなのは確実な一手。

(座標指定……ここ!)

 ルミアは焦る事無く冷静に床に手を叩きつける。
 すると自信とシオンの間に強固な板状の結界が出現する。
 そして着弾。
 次の瞬間、その衝撃を受け止めた代償に結界に大きな亀裂が入る。
 攻撃は防いだ……だが。

(さ……どう出るシオン君)

 その攻撃がただの直接的な攻撃を行う為の精霊術だとは思えない。
 ……一体此処から何が起きる?

 その答えは次の瞬間現れた。

(……やばッ!)

 精霊術が着弾した結界に、魔法陣が刻み込まれている。
 そこから具体的に何が放たれるのかは分からないが……それでも。

「……」

 攻撃を止められる事を想定していたとでも言わんばかりのその表情が、この場に留まる事の危険性を示唆している。
 そう判断したルミアは床を蹴りシオンの方に突っ込むように加速。そしてシオンの魔方陣が刻まれた結界の横を通過したタイミングで、結界に刻まれた何かが発動する。

 ……その結界の周囲だけど対象とした小爆発。

「……ッ!?」

 それをルミアは結界を張って防ぎながら、今起きた事を考察する。

(端から私が此処に来る事を前提に今のを使ったのか……いや、違う。私の動きに会わせて最適な攻撃を放てるように構成されてる筈)

 あの場に立ち続けていればその状態のルミアに向けて何かしらの攻撃が放たれ、迂回して進めばそれに順応した攻撃が放たれていたのだろう。
 今の小爆発は、そこにルミアが居たから起きた現象だ。

(……ま、過ぎた事を考えるのは此処までにしないとね。結果防げた訳だし。そんな事よりも)

 ……そんな事よりも。

(今は今から来るであろう危険に対処する方が先かな)

 シオンの方に向かって飛び出した。
 シオンとの距離が狭まった。
 だとすればそこには……シオンが構えを取って立っている。

 こうなれば高いリスクを考慮して避けていた近接戦闘に望まざるを得ない。

(まぁやれるだけやってみますか)

 それでもそこまで焦る事無く礼霊装の槍を構えてシオンに対し近接戦闘に望む。
 そして槍の攻撃範囲に入った瞬間にまずは一発、凪ぎ払うように槍を振るった。

 だがそれなりの高出力で放たれている筈のその一閃を、シオンは表情ひとつ変える事無く回避する。
 何度も。何度も。何度も。何度も。
 ルミアが放つ攻撃を全て回避、もしくは精霊術で相殺して防いでくる。
 そして防ぐだけでは終わらない。

 ルミアの隙を付くように、シオンの右手が伸びてくる。

「ちょ、シオン君ストップ!」

「うるさい」

 そしてシオンの手が掌底の形でルミアに触れ……精霊術が発動する。

「……ッ!」

 次の瞬間、ルミアの体は勢いよく弾き飛ばされる。

「が……ッ」

 ルミアの口から声にならない声が漏れた。
 此処に来て、初めて明確な激痛がルミアの肉体に届いた。

 そしてもう一撃。

 今の掌底でルミアの衣服に刻まれた魔方陣が悪さをする。

「がは……ッ!」

 同じような激痛がもう一撃。
 その衝撃と共にルミアの口から血液が溢れ出す。

 そしてその勢いのまま床を何度かバウンドし、壁に叩きつけられた。

(……あーヤバイわこれ。これこのまま長引くと一方的にボコボコにされるな)

 懐かしい感覚がする。
 今この瞬間、かつて自分がどこかで感じていたシオン・クロウリーとの明確な差を再認識させられた。
 もっとも……この瞬間だけだが。

(さて……じゃあこのままが長引かないように、一気に形勢逆転させてもらおうかな)

 そしてシオンは再び何かしらの精霊術をこちらに打ち込もうとしてくる。
 そんなシオンに対し……ルミアも同じように精霊術の構築を始めた。
 極めて繊細なコントロールが必要となる術式を。

 そしてその精霊術が発動する前に、もう一つ同時に別の精霊術を発動させる。

「解析完了。マウント取りは楽しめた?」

 そして次の瞬間……シオンがこの空間に張り巡らせていた何かをルミアは破壊した。
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