人の身にして精霊王

山外大河

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七章 白と黒の追跡者

ex 形勢逆転 下

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 この瞬間まで、シオン・クロウリーは今の自分の戦い方が表面上うまく行っていると。
 この戦いには勝機が確かに存在するのだと。
 手を伸ばせば届くかもしれないと……そう考えていた。

(……流石ルミアだ。この位の事は当然のようにやってくる)

 ルミアはシオンの秘策の要を……この空間に張り巡らせた魔術を破壊した。

 張り巡らせた魔術は一定空間を自分にとって都合の良い空間に変える物。
 具体的な効果は相手の動きや精霊術の軌道などを術式を介して脳に送り込み、同時に演算処理の補助を行う物。
 これにより相手の動きを読む事が可能になる。

 そしてその術式の最大の特徴は、そうする為に張り巡らせた術式が常時相手に触れているという点。
 それを利用して動きを読んでいるのだから当然の事。

 その現象を更に利用する。

 触れた精霊術のコントロールを奪う精霊術を、術式を介して相手に実質的に触れている事で発動させる。

 当然制約はある。
 このやり方では術者が自らコントロールする類いの精霊術しかコントロールを奪えない。
 だけどそれさえできれば十分である。

 十分だった。

 それを壊された。
 術式に触れているのはシオンだけではなく、ルミアもなのだから。

「解析完了。マウント取りは楽しめた?」

 次の瞬間、ルミアの周囲に無数の光の球体が出現する。
 一つ一つが高い殺傷能力を持ち、恐らくそれぞれに別々の何かしらの効力が付与されている。
 軌道制御も容易く行われ、射出先のあらゆる抵抗を無に帰す、そういう術式。

「さあて反撃開始! 全力でぶっ放すよ!」

 ルミアがそう言った瞬間、球体全てがシオンに向けて射出される。

 突然吐血したシオンの元へ。

「……ッ」

 ルミアが何かに気付いたように表情を歪ませる。
 だが彼女に既に、術式のコントロールは残っていない。

「これまで散々やられてきたんだ……僕の反撃はまだ終わっていない」

 そしてコントロールを手にしたシオンの周囲で球体は止まり、その周囲をゆらゆらと揺れる。

「……まさか空間に張り巡らされていたアレを、もう一回張り直したの……?」

「まさか。同じものを張った所で二度目は一瞬で破壊されるだろう」

 そしてシオンは一拍空けてから言う。

「同一の効力を持つ全く構成の違う術式をいつでも発動できるように構築していた。言っておくけど急いで解析しても無駄だよ。既にこの術式の後釜を複数個組み上げ終わっている。後は力を流し込めばいつでも発動可能だ」

「うへーマジか……」

 そしてそれを構築しながら待っていた。
 ルミアがこちらに強い攻撃を放ってくるのを。

「さあ反撃再開だ。全力でぶっ放そう」

 次の瞬間、シオンの正面に半透明の円が出現する。
 この研究所に突入する前にエイジと共に研究所へ威嚇射撃を行った際に使った、精霊術が存在する事を前提として組まれた魔術。

 精霊術の変換。他者の出力で自身の精霊術を放つ為の変換器。
 これで放たれる精霊術なら、レベッカを助けに入った時の様に防がれない。
 自分の術式を跳ね返されるのと比較すれば、対処の難易度は比べ物にならない。

 だからその円に向けてルミアの精霊術の全てを打ち込んだ。

 そして、変換される。

「死んでくれ、ルミア・マルティネス」

 そうして放たれるのは、より強力な威力となった光の散弾。
 今度は威嚇射撃では無く当てる為にそれを放つ。

 ルミアはそれに対し自身の正面に結界を張った。
 逆に言えばその程度の対処しかされていない。

 それが勝利への確信を強めていく。

 そう、確信だ。

 今まで自分の戦いが表面上うまく行っていると。
 この戦いには勝機が確かに存在するのだと。
 手を伸ばせば届くかもしれないと……そう考えていた。

 それらはもう既に過去形だ。
 その考えは、ルミアがこちらにコントロールを有する魔術を放ってきた時点で覆った。

 あそこでそれを放つ。
 そこが精霊術の使い手としての彼女の底だと察した。

 故に表面上なんていう曖昧な表現に頼らずとも自分はうまく戦えていて。
 勝利は手を伸ばさなくても既に手元に転がってきている。

「僕の勝ちだ」

 そうしてシオンの放った光の散弾がルミアの結界に着弾した。
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