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第一巻:追放と再始動編
第一話:鑑定眼(ギフト)の無駄遣い。婚約破棄の翌日に、伝説の「氷像」を拾う。
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「リセット・クォーツ! 貴様のような、愛想もなければ可愛げもない、その上『石ころを眺める』しか能のない地味な女との婚約など、今この瞬間をもって破棄する!」
王宮の大広間。きらびやかなシャンデリアの光が、第一王子ジークフリートの傲慢な顔を照らし出していた。 彼の腕には、今にも折れそうなほど弱々しいフリをして、上目遣いで周囲の同情を誘う男爵令嬢マリアがしがみついている。
集まった貴族たちは、一斉に私を嘲笑の眼差しで見つめた。 クォーツ公爵家の長女でありながら、社交界の花形である「癒やし」や「魅了」の魔法を持たず、ただ物の本質を読み取るだけの『鑑定眼(ギフト)』。それを彼らは「古臭い学者のような地味な力」と蔑んでいたのだ。
しかし、私は手元のシャンパングラスに映る、濁った琥珀色の液体を冷めた目で見つめていた。
(((……ああ、やっぱり。このシャンパン、ラベルは一級品だけど中身は昨日の残りに安い炭酸を混ぜただけの代物ね。王宮の財政も、いよいよ鑑定する価値もないゴミ溜めになってきたかしら)))
私は、長い演説を終えてドヤ顔をしている王子に向かって、優雅に、かつ一滴の感情もこもっていない声で応えた。
「承知いたしました、殿下。婚約破棄の件、謹んで、かつ狂喜乱舞してお受けいたしますわ」
「な……!? き、狂喜だと!?」
「ええ。殿下のその、宝石のカットさえ理解していない稚拙な演説を、立ったまま聞かされる苦行から解放されるのですもの。これからの睡眠の質が劇的に向上しそうですわ。……ああ、それから殿下。お別れの挨拶代わりに、一つ慈悲を差し上げます」
私はゆっくりと王子に歩み寄った。彼は私の迫力に押されたのか、わずかに後退りする。私は彼の胸元で誇らしげに輝く、王家の象徴『夜の星(ナイト・スター)』と呼ばるサファイアのブローチを指差した。
「そのブローチ。……ただの着色された『ガラス玉』ですわよ」
「な、何を馬鹿な……! これは我が王家に代々伝わる……!」
「いいえ。本物はもっと内部に細かな針状の結晶(シルク・インクルージョン)が含まれ、光を当てれば六条の星が浮かび上がるはず。それは表面を薬品で腐食させて光らせているだけの、銀貨三枚にも満たない安物。……おそらく、あなたがマリア様に貢ぐための金を捻出するために、こっそり売り払ってすり替えたのでしょう? 私の鑑定眼によれば、価値はゼロ。……あなたの愛と同じくらい、薄っぺらでゴミのようですわね」
「貴様ぁぁぁ!! 衛兵、衛兵だ! この無礼な女を今すぐ叩き出せ!」
真っ赤になって怒鳴り散らす元婚約者を尻目に、私はドレスの裾を翻した。
「お呼び立てにならなくても、自分で行きますわ。……偽物のワインに、偽物の家宝。そして、偽物の王子様。……こんな不純物だらけの場所に一秒でも長くいたら、私の眼が腐ってしまいますもの。皆様、さようなら。……一生、その偽物の楽園で泥を啜って生きていらして?」
会場の凍り付いた静寂を背に、私は迷いなく王宮の門を潜り抜けた。
翌日。 私は、王国と隣国シュタルク帝国を隔てる「死の荒野」にいた。 極寒の風が吹き荒れるこの場所は、普通の人間なら数分で凍死すると言われている。だが、私は前世で社畜として培った「効率的な生存本能」と、今の『鑑定眼』をフル活用していた。
「……ふぅ。空気中の魔力の密度を鑑定して、最も熱が溜まっている『陽だまりルート』を選べば、意外と快適ね」
私は厚手のマントを羽織り、悠々と歩を進める。 目指すは、この先の帝国。年中氷に閉ざされたその国は、他国との交流を拒む「閉ざされた聖域」だ。そこで適当な古城でも見つけ、鑑定眼で金目のものを掘り当てて、一生寝て過ごす――それが私の、血を吐くような社畜生活を経て手に入れたい究極の夢だった。
その時。 道の真ん中に、巨大な「氷の結晶」が転がっているのが見えた。 近づいてみると、それはただの氷ではない。人間が、膝をついた形のまま、内側からカチコチに凍りついているのだ。
「あら、趣味の悪い彫刻ね。……いえ、これは」
私は、その氷の像の前に膝をつき、瞳の奥に魔力を凝集させた。
【鑑定対象:凍りついた男】 【真名:エドワルド・フォン・シュタルク】 【状態:魔力暴走による自己結晶化(末期)。現在、体内の魔力が極限まで圧縮され、核(コア)が崩壊寸前。】 【評価:世界で最も価値のある『至高のダイヤモンド』。磨けば神をも凌駕するが、放置すれば爆発して周辺数キロを消し去る危険物。】
「……拾った石が『帝国の皇帝』だったなんて。ツイているのか、それとも私の安眠を妨げる厄災なのかしら」
氷の向こうに見える男の顔は、驚くほど美しかった。鋭い眉、氷の結晶のように長い睫毛、そして固く結ばれた薄い唇。その肌は透明感を通り越し、冷たい光を放っている。
「……死ぬぞ、触れれば。……お前も……凍りつく……」
氷の奥から、掠れた声が聞こえた。まだ意識があるらしい。 私は溜息をついた。
「いいですか、皇帝陛下。私は妥協が嫌いなんです。こんな美しい原石を、ただの『爆弾』として放置しておくなんて、鑑定士としての美学が許さないわ。……それに、あなたのその膨大な熱量を私の『全自動床暖房』の動力源にできれば、帝国での冬越しも安泰ですもの」
「な……何を、言って……」
「黙ってなさい。……今、磨いてあげますから」
私は、氷の表面で最も「魔力のひずみ」が集中している一点を見抜いた。 普通の魔導師なら熱で溶かそうとするだろう。だが、それは素人のやり方だ。私は、自分の繊細な魔力を「彫刻刀」のように尖らせ、その一点にピンポイントで叩き込んだ。
「――【研磨(カット)・開始】」
パキィィィィィィィン!!
宝石が砕けるような、清らかな音が荒野に響き渡った。 次の瞬間、皇帝を閉じ込めていた絶望の氷が、まばゆい光の破片となって四散した。
「……あ、……ぁぁ……」
解き放たれたエドワルドが、私の腕の中に倒れ込んできた。 冷たい。……けれど、その内側からは、鑑定眼が示した通り、世界を焼き尽くすほどの強烈な「熱」が溢れ出していた。
「……助かったのか? 私を……救ったのか……」
「勘違いしないでください。私は、自分の寝室の快適さを確保するために、あなたという『熱源』を整備しただけですから。……さあ、陛下。契約成立ですわ。私はあなたを磨き上げる。その代わり、あなたは私に『一生動かなくていい楽園』を提供しなさい」
エドワルドは、驚愕に揺れる青い瞳で私を見上げた。そして、氷のように冷たい……はずの唇を、わずかに、艶かしく歪めた。
「……面白い女だ。……いいだろう。貴様を、私の心臓さえも鑑定できる『唯一の宝石師(パートナー)』として迎えてやろう」
(((……え、ちょっと待って。その『宝石師』って、一生拘束されるブラック職種じゃないわよね……?)))
こうして、私の「究極の手抜きぐうたら生活」への計画は、図らずも帝国の最高権力者を拾うという、大誤算から幕を開けたのである。
王宮の大広間。きらびやかなシャンデリアの光が、第一王子ジークフリートの傲慢な顔を照らし出していた。 彼の腕には、今にも折れそうなほど弱々しいフリをして、上目遣いで周囲の同情を誘う男爵令嬢マリアがしがみついている。
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しかし、私は手元のシャンパングラスに映る、濁った琥珀色の液体を冷めた目で見つめていた。
(((……ああ、やっぱり。このシャンパン、ラベルは一級品だけど中身は昨日の残りに安い炭酸を混ぜただけの代物ね。王宮の財政も、いよいよ鑑定する価値もないゴミ溜めになってきたかしら)))
私は、長い演説を終えてドヤ顔をしている王子に向かって、優雅に、かつ一滴の感情もこもっていない声で応えた。
「承知いたしました、殿下。婚約破棄の件、謹んで、かつ狂喜乱舞してお受けいたしますわ」
「な……!? き、狂喜だと!?」
「ええ。殿下のその、宝石のカットさえ理解していない稚拙な演説を、立ったまま聞かされる苦行から解放されるのですもの。これからの睡眠の質が劇的に向上しそうですわ。……ああ、それから殿下。お別れの挨拶代わりに、一つ慈悲を差し上げます」
私はゆっくりと王子に歩み寄った。彼は私の迫力に押されたのか、わずかに後退りする。私は彼の胸元で誇らしげに輝く、王家の象徴『夜の星(ナイト・スター)』と呼ばるサファイアのブローチを指差した。
「そのブローチ。……ただの着色された『ガラス玉』ですわよ」
「な、何を馬鹿な……! これは我が王家に代々伝わる……!」
「いいえ。本物はもっと内部に細かな針状の結晶(シルク・インクルージョン)が含まれ、光を当てれば六条の星が浮かび上がるはず。それは表面を薬品で腐食させて光らせているだけの、銀貨三枚にも満たない安物。……おそらく、あなたがマリア様に貢ぐための金を捻出するために、こっそり売り払ってすり替えたのでしょう? 私の鑑定眼によれば、価値はゼロ。……あなたの愛と同じくらい、薄っぺらでゴミのようですわね」
「貴様ぁぁぁ!! 衛兵、衛兵だ! この無礼な女を今すぐ叩き出せ!」
真っ赤になって怒鳴り散らす元婚約者を尻目に、私はドレスの裾を翻した。
「お呼び立てにならなくても、自分で行きますわ。……偽物のワインに、偽物の家宝。そして、偽物の王子様。……こんな不純物だらけの場所に一秒でも長くいたら、私の眼が腐ってしまいますもの。皆様、さようなら。……一生、その偽物の楽園で泥を啜って生きていらして?」
会場の凍り付いた静寂を背に、私は迷いなく王宮の門を潜り抜けた。
翌日。 私は、王国と隣国シュタルク帝国を隔てる「死の荒野」にいた。 極寒の風が吹き荒れるこの場所は、普通の人間なら数分で凍死すると言われている。だが、私は前世で社畜として培った「効率的な生存本能」と、今の『鑑定眼』をフル活用していた。
「……ふぅ。空気中の魔力の密度を鑑定して、最も熱が溜まっている『陽だまりルート』を選べば、意外と快適ね」
私は厚手のマントを羽織り、悠々と歩を進める。 目指すは、この先の帝国。年中氷に閉ざされたその国は、他国との交流を拒む「閉ざされた聖域」だ。そこで適当な古城でも見つけ、鑑定眼で金目のものを掘り当てて、一生寝て過ごす――それが私の、血を吐くような社畜生活を経て手に入れたい究極の夢だった。
その時。 道の真ん中に、巨大な「氷の結晶」が転がっているのが見えた。 近づいてみると、それはただの氷ではない。人間が、膝をついた形のまま、内側からカチコチに凍りついているのだ。
「あら、趣味の悪い彫刻ね。……いえ、これは」
私は、その氷の像の前に膝をつき、瞳の奥に魔力を凝集させた。
【鑑定対象:凍りついた男】 【真名:エドワルド・フォン・シュタルク】 【状態:魔力暴走による自己結晶化(末期)。現在、体内の魔力が極限まで圧縮され、核(コア)が崩壊寸前。】 【評価:世界で最も価値のある『至高のダイヤモンド』。磨けば神をも凌駕するが、放置すれば爆発して周辺数キロを消し去る危険物。】
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氷の奥から、掠れた声が聞こえた。まだ意識があるらしい。 私は溜息をついた。
「いいですか、皇帝陛下。私は妥協が嫌いなんです。こんな美しい原石を、ただの『爆弾』として放置しておくなんて、鑑定士としての美学が許さないわ。……それに、あなたのその膨大な熱量を私の『全自動床暖房』の動力源にできれば、帝国での冬越しも安泰ですもの」
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「黙ってなさい。……今、磨いてあげますから」
私は、氷の表面で最も「魔力のひずみ」が集中している一点を見抜いた。 普通の魔導師なら熱で溶かそうとするだろう。だが、それは素人のやり方だ。私は、自分の繊細な魔力を「彫刻刀」のように尖らせ、その一点にピンポイントで叩き込んだ。
「――【研磨(カット)・開始】」
パキィィィィィィィン!!
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