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第一巻:追放と再始動編
第二話:【入国】「ゴミ溜めは寝室に不向きだわ」。後宮の不純物を一括消去。
「……陛下、正気ですか? そのような行き倒れの女を、皇帝専用の馬車に乗せるなど」
帝国の境界線を越えた直後。迎えに来た近衛騎士団が、目を剥いて絶句していた。 それもそのはずだ。数年もの間、誰にも触れさせず、触れるものすべてを氷漬けにしてきた「氷の皇帝」エドワルドが、見知らぬ女を横に座らせ、あまつさえ自分の防寒用マントで包み込んでいるのだから。
「不敬だぞ、アルノルト。彼女は私の命の恩人であり、この国の『淀み』を浄化する唯一の宝石師だ」
エドワルドは、まだ少し青白い顔をしながらも、威厳に満ちた声で告げた。 一方の私は、豪華な馬車のふかふかのシートに身を沈め、窓の外を流れる雪景色を眺めていた。
(((……いいわね、この馬車。スプリングの効きが最高だわ。帝国、案外快適じゃない?)))
だが、その期待は帝都の中心にそびえ立つ後宮――通称「氷晶宮(ひょうしょうきゅう)」へ足を踏み入れた瞬間に、音を立てて崩れ去った。
「……何よ、これ。冗談でしょう?」
エドワルドに案内された私の寝室となるはずの離宮は、まさに「魔窟」だった。 廊下には氷の棘が突き出し、隅には数年分の埃が魔力と混ざり合って「魔力煤(まりきすす)」となり、ドロドロとした黒い塊となってこびりついている。調度品は豪華だが、どれも呪いの影響で色がくすみ、負のエネルギーを撒き散らしていた。
「すまない、リセット。私の呪いのせいで、侍女たちもこの離宮には近づけなくてな。清掃魔法も、私の魔力と反発して霧散してしまうのだ」
エドワルドが申し訳なさそうに眉を落とす。 だが、私の怒りは別のところにあった。
「……ふざけないで。私は『一生寝て過ごす楽園』を求めてここに来たのよ。こんなアレルギー源の展示場みたいな部屋で寝たら、三日で肺がクリスタル化して死んでしまうわ!」
私は、腰に下げた旅用カバンから、一振りの地味なナイフを取り出した。それは王国で「ゴミ」として捨てられていた、折れた聖銀のナイフだ。
「おい、何を……」
「黙って見てなさい。掃除機がないなら、作るしかないんだから」
私は【鑑定眼】を最大出力で発動した。 視界が切り替わる。部屋全体が構造線(グリッド)で覆われ、汚染物質の「核」が赤くハイライトされる。
【鑑定対象:離宮の汚染状況】 【不純物:呪氷の残滓、魔力煤、カビ、数年分の死んだ空気】 【最適解:北東の壁にある魔力循環路の『目詰まり』を破壊し、大気洗浄魔法を同期(シンクロ)させること】
「……見つけた。そこね」
私はナイフを逆手に持ち、迷いなく壁の一点――見た目には何の変化もない、ただの装飾の継ぎ目に向かって突き立てた。
「――【研磨(カット):汚純分解】!」
パリンッ! と、空間が割れるような乾いた音が響く。 次の瞬間、私のナイフを起点に、青白い衝撃波が部屋中に広がった。 それは破壊の波ではない。物質の結合を鑑定し、不純物だけを選択して「剥離」させる精密な波動だ。
壁にこびりついていた黒い魔力煤が、一瞬で乾燥した灰となって剥がれ落ち、窓から吹き込んだ冷たい風に流されて消えていく。凍りついていた窓枠は滑らかさを取り戻し、くすんでいたシャンデリアのクリスタルが、本来の輝きを放って虹色の光を床に落とした。
わずか十秒。 死の離宮は、王国の最上級貴族の寝室をも凌ぐ「至高の清潔空間」へと変貌を遂げた。
「……なっ……!? 信じられん、宮廷魔導師たちが束になっても解除できなかった呪いの残滓を、こうも容易く……」
エドワルドが驚愕に目を見開く。 私はナイフをカバンに仕舞うと、一番大きなベッドにダイブした。
「……あ、これよ。シーツの綿の密度、鑑定結果は『最高級』。……やっと、二度寝の準備が整ったわ」
私は皇帝の存在さえ無視して、枕に顔を埋めた。 だが、背後から近づいてくる気配がある。エドワルドがベッドの端に腰掛け、私の髪をそっとなでたのだ。
「……リセット。君は本当に、私の想像を絶する宝石だ。……この部屋が気に入ったのなら、好きなだけ眠るがいい。だが忘れるな。君をここに入れたのは、私の『研磨担当』としてだ」
彼の指先が、私の耳たぶをなぞる。氷のように冷たかったはずの指が、今は私の体温を吸い上げるように熱を帯びているのが分かった。
「……陛下、……。今、おやすみ三秒前なんですけど……」
「その鑑定眼で、次は私の何を暴いてくれる? ……楽しみだよ、リセット」
彼の青い瞳に宿る、異常なまでの期待と執着。 私の鑑定眼が、今度は私自身の「平穏な未来」に不穏な警告を出し始めていた。
【鑑定結果:皇帝エドワルドの執着度】 【評価:不純物ゼロの『純愛(狂気)』。リセットを独占するためなら、世界を凍らせる準備がある。】
(((……まずいわ。この皇帝、私の二度寝を邪魔する最大の『障害』になるタイプよ……!)))
理想のニート生活を手に入れたはずのリセット。しかし、彼女を待っていたのは、磨きがいがありすぎる皇帝からの、逃げ場のない溺愛だった。
帝国の境界線を越えた直後。迎えに来た近衛騎士団が、目を剥いて絶句していた。 それもそのはずだ。数年もの間、誰にも触れさせず、触れるものすべてを氷漬けにしてきた「氷の皇帝」エドワルドが、見知らぬ女を横に座らせ、あまつさえ自分の防寒用マントで包み込んでいるのだから。
「不敬だぞ、アルノルト。彼女は私の命の恩人であり、この国の『淀み』を浄化する唯一の宝石師だ」
エドワルドは、まだ少し青白い顔をしながらも、威厳に満ちた声で告げた。 一方の私は、豪華な馬車のふかふかのシートに身を沈め、窓の外を流れる雪景色を眺めていた。
(((……いいわね、この馬車。スプリングの効きが最高だわ。帝国、案外快適じゃない?)))
だが、その期待は帝都の中心にそびえ立つ後宮――通称「氷晶宮(ひょうしょうきゅう)」へ足を踏み入れた瞬間に、音を立てて崩れ去った。
「……何よ、これ。冗談でしょう?」
エドワルドに案内された私の寝室となるはずの離宮は、まさに「魔窟」だった。 廊下には氷の棘が突き出し、隅には数年分の埃が魔力と混ざり合って「魔力煤(まりきすす)」となり、ドロドロとした黒い塊となってこびりついている。調度品は豪華だが、どれも呪いの影響で色がくすみ、負のエネルギーを撒き散らしていた。
「すまない、リセット。私の呪いのせいで、侍女たちもこの離宮には近づけなくてな。清掃魔法も、私の魔力と反発して霧散してしまうのだ」
エドワルドが申し訳なさそうに眉を落とす。 だが、私の怒りは別のところにあった。
「……ふざけないで。私は『一生寝て過ごす楽園』を求めてここに来たのよ。こんなアレルギー源の展示場みたいな部屋で寝たら、三日で肺がクリスタル化して死んでしまうわ!」
私は、腰に下げた旅用カバンから、一振りの地味なナイフを取り出した。それは王国で「ゴミ」として捨てられていた、折れた聖銀のナイフだ。
「おい、何を……」
「黙って見てなさい。掃除機がないなら、作るしかないんだから」
私は【鑑定眼】を最大出力で発動した。 視界が切り替わる。部屋全体が構造線(グリッド)で覆われ、汚染物質の「核」が赤くハイライトされる。
【鑑定対象:離宮の汚染状況】 【不純物:呪氷の残滓、魔力煤、カビ、数年分の死んだ空気】 【最適解:北東の壁にある魔力循環路の『目詰まり』を破壊し、大気洗浄魔法を同期(シンクロ)させること】
「……見つけた。そこね」
私はナイフを逆手に持ち、迷いなく壁の一点――見た目には何の変化もない、ただの装飾の継ぎ目に向かって突き立てた。
「――【研磨(カット):汚純分解】!」
パリンッ! と、空間が割れるような乾いた音が響く。 次の瞬間、私のナイフを起点に、青白い衝撃波が部屋中に広がった。 それは破壊の波ではない。物質の結合を鑑定し、不純物だけを選択して「剥離」させる精密な波動だ。
壁にこびりついていた黒い魔力煤が、一瞬で乾燥した灰となって剥がれ落ち、窓から吹き込んだ冷たい風に流されて消えていく。凍りついていた窓枠は滑らかさを取り戻し、くすんでいたシャンデリアのクリスタルが、本来の輝きを放って虹色の光を床に落とした。
わずか十秒。 死の離宮は、王国の最上級貴族の寝室をも凌ぐ「至高の清潔空間」へと変貌を遂げた。
「……なっ……!? 信じられん、宮廷魔導師たちが束になっても解除できなかった呪いの残滓を、こうも容易く……」
エドワルドが驚愕に目を見開く。 私はナイフをカバンに仕舞うと、一番大きなベッドにダイブした。
「……あ、これよ。シーツの綿の密度、鑑定結果は『最高級』。……やっと、二度寝の準備が整ったわ」
私は皇帝の存在さえ無視して、枕に顔を埋めた。 だが、背後から近づいてくる気配がある。エドワルドがベッドの端に腰掛け、私の髪をそっとなでたのだ。
「……リセット。君は本当に、私の想像を絶する宝石だ。……この部屋が気に入ったのなら、好きなだけ眠るがいい。だが忘れるな。君をここに入れたのは、私の『研磨担当』としてだ」
彼の指先が、私の耳たぶをなぞる。氷のように冷たかったはずの指が、今は私の体温を吸い上げるように熱を帯びているのが分かった。
「……陛下、……。今、おやすみ三秒前なんですけど……」
「その鑑定眼で、次は私の何を暴いてくれる? ……楽しみだよ、リセット」
彼の青い瞳に宿る、異常なまでの期待と執着。 私の鑑定眼が、今度は私自身の「平穏な未来」に不穏な警告を出し始めていた。
【鑑定結果:皇帝エドワルドの執着度】 【評価:不純物ゼロの『純愛(狂気)』。リセットを独占するためなら、世界を凍らせる準備がある。】
(((……まずいわ。この皇帝、私の二度寝を邪魔する最大の『障害』になるタイプよ……!)))
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