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第八章:聖女の絶望と、咸魚(しおづけうお)の魔道具
~「働きたくない」という情熱が、文明を破壊し始めました~
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ディストブルグの迎賓館。そこは今や、世界で最も「重力が重い」場所と化していた。
(((……あぁ、幸せ。この『水に浮かぶベッド』、魔力で温度が一定に保たれていて、まるで羊水の中にいるみたい……)))
私が隣国の技術者に開発させた「ウォーター魔導ベッド」でぷかぷかと浮いていると、隣のデスク(という名のサイドテーブル)で、アルベルト公爵が猛烈な勢いで書類を捌いていた。
「……信じられん。君が考案した『自動文字書き込みペン』と『要約魔法陣』のおかげで、一週間かかるはずの軍事報告が数時間で終わった。……ユーラリア殿、やはり君は天才か?」
アルベルトは眼鏡を光らせ、感嘆の吐息をついた。
(((……いや、ただペンを握るのが面倒だったから、魔力で勝手に書かせてるだけよ。あと、長い文章を読むと眠くなるから、勝手に三行にまとめさせてるだけ)))
「公爵様、それが『サボり……いえ、効率化』の極意ですわ。浮いた時間で、さあ、あなたもそのベッドの隣にある『人をダメにするソファ・マークⅡ』に座りなさい」
「……あ、ああ。君がそこまで言うのなら……」
鉄の自律心を持つはずの「氷の公爵」が、今や私の甘い誘惑(お昼寝の誘い)に抗えなくなっている。彼がソファに沈み込み、「ふぅ……」と毒気が抜けたような顔をしたその時。
迎賓館の重厚な扉が、凄まじい勢いで蹴破られた。
「ユーラリア・フォン・ベルシュタイン!! 貴女がいなくなってからというもの、王宮は大混乱よ! 今すぐ戻ってこの書類の山を片付けなさい!!」
現れたのは、かつての宿敵、聖女リリアーヌだった。 後ろには、すっかりやつれ果てたジークフリート殿下が、大量の書類ケースを抱えて立っている。
「リリアーヌ様……。不法侵入は、聖女のすることではなくてよ」
私はベッドから顔だけを出して、冷ややかに告げた。リリアーヌの目は血走り、髪はボサボサだ。どうやら王妃教育と公務の洗礼を受け、完全にキャパオーバーしているらしい。
「うるさいわよ! 貴女、わざと教えなかったでしょう!? 王宮の予算管理がこんなに複雑だなんて! 殿下も殿下よ、『ユーラリアならもっと早くやった』なんて比較ばかりして!」
「ユーラリア……頼む。君がいないと、コーヒーを淹れる侍女の配置すら決まらないんだ。……帰ってきてくれ、リリアーヌはもう限界なんだ!」
ジークフリートが泣きついてくるが、私は冷たく言い放った。
「お断りします。私は今、隣国の公爵様を『真の休息』に導くという重要な公務(二度寝)の最中ですの。……アルベルト様、出番ですわ」
ソファからゆっくりと立ち上がったアルベルトは、かつてないほど「リラックスした、ゆえに隙のない」威圧感を放っていた。
「……私の教官(マスター)に、これ以上無礼な口を利くことは許さん。……おい、騎士たち。この『騒音の塊』を外へ連れ出せ」
「なっ……なによ、そのソファは!? 私も、私もそれに座らせなさいよ! 休みが欲しいのは、私の方よ!!」
リリアーヌが半狂乱で私のソファに飛びつこうとしたが、騎士たちに両脇を抱えられ、ドナドナと連れて行かれた。
「ユーラリアぁぁぁ! せめて、そのペンだけでも貸してくれぇぇ!!」
ジークフリートの絶叫が響く中、私はアニーに命じて、そっと耳栓(魔導具)を装着した。
(((……ふぅ。これでようやく静かになったわ。さあ、公爵様。さっきの書類の続きは、明日……いえ、来週に回しましょう?)))
「……ああ、そうだな。君の言う通りだ、ユーラリア」
こうして、私の「怠惰の帝国」は、かつての敵さえも羨望するほどの聖域へと進化を遂げたのである。
(((……あぁ、幸せ。この『水に浮かぶベッド』、魔力で温度が一定に保たれていて、まるで羊水の中にいるみたい……)))
私が隣国の技術者に開発させた「ウォーター魔導ベッド」でぷかぷかと浮いていると、隣のデスク(という名のサイドテーブル)で、アルベルト公爵が猛烈な勢いで書類を捌いていた。
「……信じられん。君が考案した『自動文字書き込みペン』と『要約魔法陣』のおかげで、一週間かかるはずの軍事報告が数時間で終わった。……ユーラリア殿、やはり君は天才か?」
アルベルトは眼鏡を光らせ、感嘆の吐息をついた。
(((……いや、ただペンを握るのが面倒だったから、魔力で勝手に書かせてるだけよ。あと、長い文章を読むと眠くなるから、勝手に三行にまとめさせてるだけ)))
「公爵様、それが『サボり……いえ、効率化』の極意ですわ。浮いた時間で、さあ、あなたもそのベッドの隣にある『人をダメにするソファ・マークⅡ』に座りなさい」
「……あ、ああ。君がそこまで言うのなら……」
鉄の自律心を持つはずの「氷の公爵」が、今や私の甘い誘惑(お昼寝の誘い)に抗えなくなっている。彼がソファに沈み込み、「ふぅ……」と毒気が抜けたような顔をしたその時。
迎賓館の重厚な扉が、凄まじい勢いで蹴破られた。
「ユーラリア・フォン・ベルシュタイン!! 貴女がいなくなってからというもの、王宮は大混乱よ! 今すぐ戻ってこの書類の山を片付けなさい!!」
現れたのは、かつての宿敵、聖女リリアーヌだった。 後ろには、すっかりやつれ果てたジークフリート殿下が、大量の書類ケースを抱えて立っている。
「リリアーヌ様……。不法侵入は、聖女のすることではなくてよ」
私はベッドから顔だけを出して、冷ややかに告げた。リリアーヌの目は血走り、髪はボサボサだ。どうやら王妃教育と公務の洗礼を受け、完全にキャパオーバーしているらしい。
「うるさいわよ! 貴女、わざと教えなかったでしょう!? 王宮の予算管理がこんなに複雑だなんて! 殿下も殿下よ、『ユーラリアならもっと早くやった』なんて比較ばかりして!」
「ユーラリア……頼む。君がいないと、コーヒーを淹れる侍女の配置すら決まらないんだ。……帰ってきてくれ、リリアーヌはもう限界なんだ!」
ジークフリートが泣きついてくるが、私は冷たく言い放った。
「お断りします。私は今、隣国の公爵様を『真の休息』に導くという重要な公務(二度寝)の最中ですの。……アルベルト様、出番ですわ」
ソファからゆっくりと立ち上がったアルベルトは、かつてないほど「リラックスした、ゆえに隙のない」威圧感を放っていた。
「……私の教官(マスター)に、これ以上無礼な口を利くことは許さん。……おい、騎士たち。この『騒音の塊』を外へ連れ出せ」
「なっ……なによ、そのソファは!? 私も、私もそれに座らせなさいよ! 休みが欲しいのは、私の方よ!!」
リリアーヌが半狂乱で私のソファに飛びつこうとしたが、騎士たちに両脇を抱えられ、ドナドナと連れて行かれた。
「ユーラリアぁぁぁ! せめて、そのペンだけでも貸してくれぇぇ!!」
ジークフリートの絶叫が響く中、私はアニーに命じて、そっと耳栓(魔導具)を装着した。
(((……ふぅ。これでようやく静かになったわ。さあ、公爵様。さっきの書類の続きは、明日……いえ、来週に回しましょう?)))
「……ああ、そうだな。君の言う通りだ、ユーラリア」
こうして、私の「怠惰の帝国」は、かつての敵さえも羨望するほどの聖域へと進化を遂げたのである。
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