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第九章:咸魚(しおづけうお)、ついに伝説の「眠れる森」へ
~働きたくない令嬢の最終防衛ライン~
しおりを挟むリリアーヌと王太子を追い返したものの、私の「有能すぎる咸魚」っぷりは、もはや隠しきれなくなっていた。
「ユーラリア殿。皇帝陛下が、君のその『自動文字書きペン』を全官庁に導入したいと仰っている。……君を、我が国の『休息省・初代大臣』に任命したいそうだ」
アルベルトが、とんでもないことを言い出した。
(((……大臣!? また働く場所を増やそうとしてるじゃない!!)))
私は察した。このままでは、どこへ行っても「怠けるための努力」が「文明の進化」として評価され、結局忙しくなってしまう。
「……公爵様。私は決めました。私は……『眠れる森』を買い取りますわ。そこを永久の中立地帯とし、いかなる公務も届かない『不働領域』を建設します」
「……不働領域……?(なるほど、世界中の過労死を防ぐための聖域を創ろうというのだな。なんという慈悲深さだ!)」
「そこに、世界最高峰の寝具と、美味しいお菓子と、静寂だけを集めますの。……公爵様、もしあなたが本当に疲れたら、そこへ来てもよろしくてよ。もちろん、手土産(新作スイーツ)は必須ですが」
アルベルトの瞳が、熱く潤んだ。 「……ああ。その時が来るのを、私は心待ちにしている」
こうして、かつての悪役令嬢は、歴史上類を見ない「世界を救わない、ただ眠るだけの聖女」として、伝説の森の奥深くへと消えていった――はずなのだが。
数年後、その森の入り口には、彼女の「咸魚教」に入信を希望する、疲れ果てた王侯貴族たちの行列が絶えなかったという。
(((……ねぇ、アニー。なんでこんなに人が多いの? 私はただ、静かに寝たいだけなんだけど……)))
「諦めてください、お嬢様。……あなたの『怠惰』は、世界を癒やす光になってしまったんですよ」
【完】
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