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第11話『その声は、どこから』
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優しさの裏にあるものを、私はまだ知らなかった。
――それが“別れ”の形だなんて。
《別れと新たな旅路》
【天空の宿り木】のロビーで、晴歌はリュゼルを見送っていた。
「騎士団の任務があるから、しばらく王都にも戻れそうにない」
リュゼルは少し申し訳なさそうに言った。昨夜の共闘を経て、二人の間には確かな信頼関係が生まれていた。
「そっか…私も王都に向かう予定だったから、また会えると思ったのに」
「王都に?」
「うん。ギルドの登録をしたいって話してたでしょ?」
リュゼルは少し考えるような表情を見せた後、うなずいた。
「気をつけて。また、会えるよね?」
「ああ。必ず」
握手を交わし、リュゼルは同僚の騎士たちと共に馬車に乗り込んだ。その後ろ姿を見送りながら、晴歌は胸の奥に少しの寂しさを感じていた。
(一人に戻るのって、やっぱり寂しいな…)
部屋の鍵を返し、オーナーのエベルに丁寧に挨拶をした後、晴歌は再び旅路についた。
「王都でギルド登録しなくちゃ」
ティオのメモ帳に書かれていた情報を思い出しながら王都近郊に向かって歩いていると、いつの間にか木が一つもない草原に立っていた。
「……あれ? ここって……」
そこは、不気味なほど静かな場所だった。
風も、水音も、足音さえも吸い込まれていくような感覚。まるで世界ごと、音という概念が欠落してしまったかのような沈黙。
後に《無音の祭壇》と呼ばれることになる、その不思議な場所。
---
《無音の世界》
中に一歩踏み入れた瞬間、空気が変わった。
(……耳が、きこえない?)
自分の呼吸音さえも消えた。声を出しても音にはならず、口を動かしているという感覚だけが残る。
それでも、晴歌は静かに奥へと歩みを進める。
(怖い……でも、進まなきゃ)
不意に、誰かの視線を感じた。見られている。気配の正体はわからない。でも確かに、この空間には"誰か"がいる。
---
《黒い神との遭遇》
やがて、祭壇の間へとたどり着く。祭壇の間に入ると、不思議なことに音が戻ってきた。だが、そこに座っていたのは——晴歌が出会った白い神とは正反対の感じだった。
黒ずくめの男。髪も瞳も服も靴も黒。ただ、肌の白さと唇の赤だけが際立っていた。
彼の手元には、あの白い神と同じ金の腕輪が光っていた。
そのとき、彼が口を開いた。
「その手に宿る三つの力。壊し、癒し、戻す……君は、それらを何のために使う?」
「……誰?」
何か答えたかったが、言葉が出てこない。どう答えて良いのか分からなくて、ただ立ち尽くすことしかできなかった。
声を出しても音にならない。けれど、彼の言葉だけは、なぜか明確に聞こえてくる。
「器にしては、深すぎる。触れてはならぬものに、すでに触れたか」
(あの白い神とは違う……でも、同じような存在?)
白が"凍った光"なら、この存在は"沈黙の闇"。同じ神の仲間なのかもしれないけれど、なぜか大人びて見える。
「言葉は交わせる。だが、この場所でのみ」
その声は、柔らかく、深く、どこか重くのしかかるような響きだった。彼の声だけが、この静寂を破って聞こえてくる。
---
《力への問いかけ》
「壊す者には、責任が伴う。望まずとも、影は生まれる」
胸の奥がざわついた。
壊すことで誰かを助けていると信じていた。でも──
「壊した後を、誰が守るのか」
その問いに、晴歌は何も返せなかった。
「この出会いは、偶然ではない。だが、それを知る者は、今はまだ少ない方が良い」
(……偶然じゃない?)
ふと、彼の瞳に一瞬だけ、何かへの不満のような影がよぎった気がした。まるで、誰かに対する怒りを抑えているような──。
---
《残された疑問》
「いつか、その力が君を壊す」
その言葉が胸に刺さった瞬間、空間全体がざわめき出す。足元から光が走り、世界が反転するように白が弾けた。
(……壊すだけじゃ、だめなの?)
(でも、帰るためには……)
その葛藤を胸に抱えたまま、晴歌の体は外の世界へと押し戻される。
次の瞬間、草原に立ち尽くす自分に気づく。周りを見渡すと、そこにあったはずの祭壇などは、静かに消えていた。
「このダンジョンは…最初から私のためにあったの?」
誰かに問いかけるように呟いたが、答えは返ってこない。
このダンジョンは…壊していない。カウントにも含まれない。一体何だったんだろう?
「……神って、なに? 私の力って、なんなんだろう」
問いかけだけが残された。答えのない、重い問いが。
ダンジョンを壊せば帰れる——そう言われて、壊してきた。
でも——本当にそれでよかったのだろうか。
遠くで鳥が鳴く。風が草を揺らす。世界は何もなかったように続いている。
けれど晴歌の心の中に、新たな疑問が根を下ろし始めていた。
――それが“別れ”の形だなんて。
《別れと新たな旅路》
【天空の宿り木】のロビーで、晴歌はリュゼルを見送っていた。
「騎士団の任務があるから、しばらく王都にも戻れそうにない」
リュゼルは少し申し訳なさそうに言った。昨夜の共闘を経て、二人の間には確かな信頼関係が生まれていた。
「そっか…私も王都に向かう予定だったから、また会えると思ったのに」
「王都に?」
「うん。ギルドの登録をしたいって話してたでしょ?」
リュゼルは少し考えるような表情を見せた後、うなずいた。
「気をつけて。また、会えるよね?」
「ああ。必ず」
握手を交わし、リュゼルは同僚の騎士たちと共に馬車に乗り込んだ。その後ろ姿を見送りながら、晴歌は胸の奥に少しの寂しさを感じていた。
(一人に戻るのって、やっぱり寂しいな…)
部屋の鍵を返し、オーナーのエベルに丁寧に挨拶をした後、晴歌は再び旅路についた。
「王都でギルド登録しなくちゃ」
ティオのメモ帳に書かれていた情報を思い出しながら王都近郊に向かって歩いていると、いつの間にか木が一つもない草原に立っていた。
「……あれ? ここって……」
そこは、不気味なほど静かな場所だった。
風も、水音も、足音さえも吸い込まれていくような感覚。まるで世界ごと、音という概念が欠落してしまったかのような沈黙。
後に《無音の祭壇》と呼ばれることになる、その不思議な場所。
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《無音の世界》
中に一歩踏み入れた瞬間、空気が変わった。
(……耳が、きこえない?)
自分の呼吸音さえも消えた。声を出しても音にはならず、口を動かしているという感覚だけが残る。
それでも、晴歌は静かに奥へと歩みを進める。
(怖い……でも、進まなきゃ)
不意に、誰かの視線を感じた。見られている。気配の正体はわからない。でも確かに、この空間には"誰か"がいる。
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《黒い神との遭遇》
やがて、祭壇の間へとたどり着く。祭壇の間に入ると、不思議なことに音が戻ってきた。だが、そこに座っていたのは——晴歌が出会った白い神とは正反対の感じだった。
黒ずくめの男。髪も瞳も服も靴も黒。ただ、肌の白さと唇の赤だけが際立っていた。
彼の手元には、あの白い神と同じ金の腕輪が光っていた。
そのとき、彼が口を開いた。
「その手に宿る三つの力。壊し、癒し、戻す……君は、それらを何のために使う?」
「……誰?」
何か答えたかったが、言葉が出てこない。どう答えて良いのか分からなくて、ただ立ち尽くすことしかできなかった。
声を出しても音にならない。けれど、彼の言葉だけは、なぜか明確に聞こえてくる。
「器にしては、深すぎる。触れてはならぬものに、すでに触れたか」
(あの白い神とは違う……でも、同じような存在?)
白が"凍った光"なら、この存在は"沈黙の闇"。同じ神の仲間なのかもしれないけれど、なぜか大人びて見える。
「言葉は交わせる。だが、この場所でのみ」
その声は、柔らかく、深く、どこか重くのしかかるような響きだった。彼の声だけが、この静寂を破って聞こえてくる。
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《力への問いかけ》
「壊す者には、責任が伴う。望まずとも、影は生まれる」
胸の奥がざわついた。
壊すことで誰かを助けていると信じていた。でも──
「壊した後を、誰が守るのか」
その問いに、晴歌は何も返せなかった。
「この出会いは、偶然ではない。だが、それを知る者は、今はまだ少ない方が良い」
(……偶然じゃない?)
ふと、彼の瞳に一瞬だけ、何かへの不満のような影がよぎった気がした。まるで、誰かに対する怒りを抑えているような──。
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《残された疑問》
「いつか、その力が君を壊す」
その言葉が胸に刺さった瞬間、空間全体がざわめき出す。足元から光が走り、世界が反転するように白が弾けた。
(……壊すだけじゃ、だめなの?)
(でも、帰るためには……)
その葛藤を胸に抱えたまま、晴歌の体は外の世界へと押し戻される。
次の瞬間、草原に立ち尽くす自分に気づく。周りを見渡すと、そこにあったはずの祭壇などは、静かに消えていた。
「このダンジョンは…最初から私のためにあったの?」
誰かに問いかけるように呟いたが、答えは返ってこない。
このダンジョンは…壊していない。カウントにも含まれない。一体何だったんだろう?
「……神って、なに? 私の力って、なんなんだろう」
問いかけだけが残された。答えのない、重い問いが。
ダンジョンを壊せば帰れる——そう言われて、壊してきた。
でも——本当にそれでよかったのだろうか。
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