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35.現れる敵
しおりを挟む剣地:城内の廊下
翌日。成瀬たちは昨日と同じように姫のメイドとして護衛に、俺は騎士団の人と一緒に城内の見回りを行っていた。
ピレプのことは成瀬たちに話をしておいた。リーナ姫もあの男は邪心を持っているように見えると言っていたため、あいつが黒幕の可能性は大きい。たかが大臣がどうやって王になるのやら、俺には分からないことがあるけど。
これといった異変は今のところはなかった。今のところは。裏ギルドの連中のことだ、どこかに忍び込んで襲ってくる可能性がある。しばらくすると、別の班と合流し、俺の班の体長が別の隊長に声をかけた。
「二班、異常はあったか?」
「いいや、侵入形跡はなかった」
「今は大丈夫のようだ。だが、油断はするなよ」
「分かっている。そっちも油断するなよ」
二班は会話を終えると、別の所へ去って行った。
「では我々も先へ進むぞ」
「はい!」
団員の声が廊下内に響いた。
俺は心の中でこう思っている。これだけでかくて重役が大勢いる城なら、ちゃんとしたセキュリティーがあるはずだ。
それがあるから少しは大丈夫じゃないのかと。まぁ機械任せより、自分の目で確認した方がいいか。
成瀬:リーナ姫の部屋
私はリーナ姫の髪を整えていた。しばらくすると、リーナ姫が話しかけてきた。
「ナルセは髪の整えが上手ですね」
「え? いや~、それほどでも~」
リーナ姫に褒められ、ちょっと嬉しかった。その横では、ルハラが辺りをキョロキョロしていた。
「どうかしたの?」
ヴァリエーレさんがルハラにこう聞くと、ルハラは体をヴァリエーレさんに向けて返事をした。
「敵さんが天井裏にいるかなーって」
「大丈夫です。この城には優秀な兵士がたくさんいますので」
「そうかな? 昨日ケンジが言っていたピレプっておっさんが裏ギルドの連中にこの城の地図とか渡していたら? それか、強い武器を貰ったかもしれないじゃん」
「ルハラの奴、意外と考えているな」
「エッチなことしか頭にないと思っていたよ」
ルハラの返事を聞いたティーアとヴィルソルがこう言った。まぁ、確かにルハラはいつも発情しているイメージしかないけど、ここぞという時に確信を突いたようなことを言う。
「確かにそうですね……ケンジさんにこのことを伝えましょうか?」
「じゃあ私が伝えてくる」
ティーアはそう言うと、部屋から出て行った。
セントラー王国の外れにある林の中にて。二人の男が木の上に登り、小さな望遠鏡で城の様子を見ていた。
「どうだ様子は?」
「警戒はしているだろう。姫が狙われていると向こうは知っているからな」
「警告のつもりで騎士団の連中を皆殺しにしたのに、あんまり意味なかったなー」
「連中を皆殺しにしたビートを口封じで始末したお前が言うな」
男の一人が木から降り、もう一人に降りるように手で合図をした。
「もう行くのか? 何か作戦でも思いついたか?」
「あのおっさんから城の地図を渡されただろ? それを頼りにして城に潜入し、姫をぶっ殺す」
「つまり、潜入以外何も考えてないのか」
「そうだ。考えたって無駄だよ。様子は分かったし、そろそろ仕事を始めよう。こんな所で道草食っていたらレッジさんに叱られるぞ」
「そうだな。あの人、超真面目な仕事人間だからな」
二人の男は会話を交わすと、王国へ向かって歩き始めた。
剣地:城内の廊下
見回りを始めて数時間が経過した。何度も何度も同じところを行ったりきたり。警備がしっかりしたこの状況の中で姫を殺そうとする奴がいるのかなって俺は思った。
重装備をした騎士団が見回りをし、城の外には魔道兵器がずらりと並んでいる。下手な動きをすれば確実に騒ぎになるだろう。
「異変なし! よし、次行くぞ!」
隊長が声を高く上げてこう言った。そんな時、ティーアが俺の名前を呼びながら走ってきた。
「いやー、探したよ」
「どうしたティーア?」
「ルハラからの警告。裏ギルドの連中がピレプっておっさんの手引きで侵入してくる可能性があるって」
「確かにそうだな。その方法で奴らが侵入してくる可能性があるな」
「だとしたら、いつ戦闘になってもおかしくないよ」
「ああ。だけど、あっという間に奴らを倒してやるぜ」
俺が腕を回しながらこう言った時だった。突如城内にサイレンが流れた。
「外部から侵入者が忍び込みました! 城内の兵士たちは至急警戒態勢に入れ! 入り口付近の兵士は、侵入者の奇襲に注意せよ!」
おいおい、マジかよ。このタイミングで入ってきやがった!
「総員、武器を手にしろ!」
「いつでも戦える準備をしろ!」
「身を構えておけ!」
兵士の声が辺りに響いた。周囲にいた兵士以外の人たちは、皆慌てて部屋の中へ隠れて行った。
「ティーア、姫様の方はどうだ?」
「ナルセたちがいるから大丈夫だと思う。こんな状況だし、私も戦うよ」
「勇者様がいるなら、ありがたい」
ティーアの言葉を聞いた兵士が、一斉に歓声を上げた。まだ戦いに勝利したわけじゃないのに、勝った気でいるな。そんなことを思っていると、ティーアは突如叫んだ。
「皆! ここから離れて!」
ティーアの叫びの直後、天井から何かが降ってきた。それは鋭い棘だった。しかも、周りには電気みたいなのが発していた。
「あらま。攻撃がかわされちゃった」
「バカ野郎。避けられるような動きをするからだ」
天井から男の会話声が聞こえた。こいつらが侵入者か!
「ティーア、俺に任せろ」
俺は銃を持ち、天井に向けて数発撃った。銃弾が天井を貫くたび、天井から男の慌てる声が聞こえた。
「うわっ! 銃を持っている奴がいるのかよ!」
「厄介な兵士だな。仕方ない、直接叩くとしますか」
その後、天井裏から二人の男が降りてきた。どうやら、こいつらがクァレバの連中か!
「お前らがクァレバって裏ギルドの人間だな?」
「その通り。それよりさ、姫さんはどこよ? 仕事しなくちゃいけないからさー」
男の一人がのんきにあくびをしながらこう言ったが、騎士団が男を取り囲んだ。
「お仕事ご苦労様でーす」
男は軽く笑いながらこう言った。おかしい、こんな状況でよく笑っていられるな。こいつ、かなり強いのか。
「取調室へきてもらおう」
「あー、それ無理。だって……お前らは今から死ぬからなぁ!」
男は隠し持っていた鞭を手にし、勢い良く振り回した。その鞭は周りにいた騎士団の人を倒してしまった。
一瞬のうちに、取り囲んでいた騎士団は全滅してしまったのだ。
「あーあ。無駄死に、無駄死に。ケケケケケ」
「遊びはこれまでだ。とっとと姫を殺して金を貰うぞ」
「いーや、まだお遊びは終わってないようだぜ」
俺は男の一人に向けて銃を撃った。だが、俺が放った銃弾は急に氷漬けになり、砕け散った。
「なっ!」
「そんなことしたって無駄だよ。じゃあ死んで」
その時だった。ティーアが俺の前に立ち、男に向かって光の魔力を放ったのだ。
「うおっ!」
「ありゃりゃ。光の魔力の使い手がいるのか。こりゃ厄介だな」
「私の旦那に手を出したら、許せない」
このティーアの言葉を聞き、男の一人が笑いながらこう言った。
「幼い顔して人妻か。何かエロいわ。ムラムラしてきた。お前の旦那をぶち殺してお前を襲ってやるよ。ケケケ……ベッドの上で」
「悪いけど、また死ぬわけにはいかない」
俺は男の近くに接近し、手にした剣を振り上げた。男は油断していたのか、俺の一閃を受けた。
「うぎゃぁッ!」
「バーカ。油断しているからだ」
「てめー、やるじゃねーか」
「敵さんの方にも、意外と腕利きの兵士がいるようだね」
「いや違うね、俺はギルドの戦士だ」
俺は剣を構え、こう言った。男も態勢を整え、こちらと交戦をする姿勢を見せている。ティーアもやる気のようで、剣を手にしていた。さーて、このまま戦いと行きましょうか!
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