虐げられた無能の姉は、あやかし統領に溺愛されています

木村 真理

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本編こぼれ話 2(3巻書籍化御礼の小話)

【3巻御礼】現パロ4-2: 階段で大ピンチ。いじわるな妹の襲来編

 高雄とともに過ごしたのは、まだたった一週間だ。
それなのに、初音はどんどん高雄のことが好きになっていく。

 先ほど特別教室の入り口で別れたばかりの高雄の顔を思い出すだけで、顔が熱くなる。
けれども、幸せで……。

 初音は、軽やかな足取りで、教室を目指した。
朝の登校時間なので、廊下を行きかう学生は多い。

 そして、あやかしの統領と婚約した初音は注目の的だった。
けれど高雄たちが騒がないようにと全校生徒に通達してくれたので、直接初音に声をかけてくる人はいなかった。

 樹莉や雪姫は、それでは初音に友達ができないのではないかと気にかけてくれたが、これまでも西園寺の「無能」の娘として距離をおかれてきたので、友達ができたことはなかった。
どうせ遠巻きにされるのなら、蔑まれて遠巻きにされ、ひそひそと悪口を言われてきたこれまでよりずっと、今のほうがいい。

 そう初音が伝えると、ふたりはなんとも言えない顔をしていたけれど、それが初音の本心だった。

 それに、いろいろなことが変わりすぎて、まだ毎日ふわふわと落ち着かない心地なのだ。
友達は、できるならほしい。
けれど、それはもう少し落ち着いた後に考えたい。
なんて、初音は考える。

 この学校には、入学早々、高雄と婚約した初音に、表立って悪意ある言動をとるものはいなかった。
学校でも、寮でも優しくされ、これまでになく初音は穏やかにすごしていた。

 だから、油断していたのだ。

 教室に向かう途中、あまり学生が使わない小階段。
そこを降りていた時。

 後ろから、力いっぱい背中を押された。

「い、った……っ」

 とっさに手すりをつかんだものの、数段は段を踏み外し、ひざのあたりがこすれた。
手すりをつかんだ右手も、少し痛い。

 けれど、のんきに痛がってはいられなかった。
すばやくたちあがり、初音は背中を押した相手を見る。

「華代……」

 やっぱり、と思った。

 ここは高等部の校舎で、同じ学校の学生とはいえ、中等部に通う華代がいてはいけない場所だ。
けれど華代は臆することのない堂々とした態度で、初音の前に立っていた。
その後ろには、高校の制服を着た男子と女子が四人、気まずそうな顔で立っている。

(顔に、見覚えがある……。確か、子会社の社員さんの子ども、だよね……)

 西園寺で経営している「西園寺グループ」は、それなりに大きな規模のグループ会社だ。
代々持つ土地の運用と侯爵家の信用を基盤に安定した経営を行っている本社のほかに、いくつかの子会社も有している。
経営は家族経営で、株式を公開もしておらず、融資もほとんど受けていないので、父である西園寺侯爵の完全なワンマン経営だ。

 そして父は、お気に入りをひいきにすることを恥じる人ではない。
それなりの地位にいる社員たちは、みんな父の意向でその地位にいるものたちで、優秀ではあるものの、父の機嫌を損ねれば、すぐに閑職に追いやられることはまちがいない。

 だから、その社員の子どもである彼らは、決して父の機嫌を損ねるなと両親に言い聞かされているのだろう。
 父の最愛で、おそらく西園寺グループを継ぐだろう華代に逆らえず、年齢の近さもあって、こうしていいように使われている。
 今も、こんなことに関わりたくないという表情をしつつも、華代を止めようとはしなかった。

 華代はぐいと前に出ると、初音の胸をつよく突き飛ばした。

「気軽に名前を呼ばないでって言ったでしょ!」

「は、華代様……。あんまり大声をだされると、人に見つかります……」

 おずおずと、華代の後ろにいた女生徒が言う。
華代はふりかえりもせず、鼻をならした。

「そうね。ここではすぐに誰かに気づかれちゃうわよね。あんたたち、この女をそこの倉庫に連れて行きなさい」

 華代は、階段下の荷物置き場をあごで示した。
 もとからその計画だったのか、ふだんは南京錠がかかっている倉庫は、鍵もあけられている。

 それを見て、初音はぞっとした。

(なにをするつもりなの……? ふだんなら、家の外では暴力はあんまりなかったし、他の人を巻き込むのは、せいぜい一緒に悪口を言ったりするくらいだったのに……)

 華代は、ずっと初音を嫌っていた。
けれど、別に初音に執着していたわけではない。

 友達も多く、パーティに招かれたり、SNSにあげる写真を撮るためにあちこちにでかけたりと忙しくしている華代にとって、初音は取るに足りない存在だった。
自分の気分が悪い時に初音をいびったり暴力をふるったりして気を晴らすことはあっても、家の外でまではほとんど関わってこなかった。
せいぜい家の都合で一緒のパーティにでなくてはいけない時に、足をふんだり、腕をつねったりされるくらいだった。
 社員の子どもたちに対しても、初音の悪口を言うよう命じたりはしても、自分が初音に暴力をふるっていることは隠そうとしていたはずだった。
誰かにSNSでバラされるかもしれないでしょ、と言って。

 それなのに、華代はこれまでは保身のために避けていたことをしようとしている。
初音を見る華代の顔は、冷酷そのもので、目は憎しみにらんらんと燃えていた。
これまでのように気晴らしに初音を使おうというのではなく、初音自身を憎んでいる目だ。

(怖い……。でも、どうして……?)

 そう思いながら、けれど初音は気づいていた。
高雄だ。

 これまで華代にとって、初音は家族にも、周囲にも見捨てられたサンドバックだった。
手ごろないじめの対象であっても、初音自身には興味もなかった。
けれど、そんな初音が高雄と婚約した。

(高雄様は、素敵な人だから……)

 初音にとって、高雄は優しく、初音を尊重し、初音を愛してくれる相手だ。
かけがえのない存在になりつつある、と思う。

 けれどそれを抜きにしても、外見はすさまじく整っており、人間とはくらべものにならない力を持ち、あやかしの世界の次期統領で、たぶんすごくお金持ちだ。
そんな相手と、初音が婚約したことが、華代は気に入らないのだろう。

 おまけに初音は早々に家を出たから、これまでのように暴力をふるって憂さ晴らしすることもできない。
それが、華代には腹立たしいのだろう。

「すみません……、ほんと悪いんですけど、でも、俺ら、華代様には逆らえなくて」

 小声で初音に謝罪しながら、華代の後ろにいた男子生徒たちが、初音の腕をとった。

「はなして……!」

 初音が叫び、体をよじった。

 階段下の荷物置き場は、さっきまで華代の後ろにいた女子が、扉を開けて待っていた。
真っ暗な中が見える。

(あの中に連れ込まれたら、絶対にダメだ……!)

 初音は、叫びながら暴れる。
こういったことに慣れていないのだろう男子生徒たちは、初音の腕をますます強くつかみ、ひとりが初音の口を押えようとした。
けれど、初音の手があたって、彼ら自身がバランスを崩して階段から落ちそうになり、初音から手を離した。

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