虐げられた無能の姉は、あやかし統領に溺愛されています

木村 真理

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本編こぼれ話 2(3巻書籍化御礼の小話)

【3巻御礼】現パロ4-11: 頭の痛いあやかしたち編

 まだ学校が始まる2時間も前なのに、みんなが特別教室に集まっていた。
高雄、火焔、湖苑、雪姫、樹莉、そして昨夜樹莉といっしょに寝ていた初音だ。

 初音は、昨夜、樹莉が部屋を訪ねてきてくれたところで記憶が終わっていた。
樹莉に訊くと、初音は樹莉と話している途中で寝てしまったらしい。
それで、樹莉はそのまま初音の部屋に泊まってくれたそうだ。

 朝起きたら、部屋に樹莉がいたので、初音は驚いた。
樹莉は、初音を起こしてしまったことを詫びつつ、今から学校に行く、と言った。
急用ができたので、自分たちはすぐに学校に行くが、初音が登校する時間には迎えに戻るので、普段通りに過ごしてほしいと。

 樹莉は、いつものようににこやかに笑って、そう言ってくれた。
 けれど初音は、樹莉の態度がおかしいと気づいた。
そして自分も連れて行ってほしいと頼むと、樹莉は高雄たちに相談し、一緒にこの特別教室に連れてきてくれた。

「おはよう、初音」

 みんなどこか疲れたような顔をしているのに、初音を見ると高雄は微笑んで挨拶をしてくれた。

「おはようございます、高雄様」

 うん、と高雄は初音にうなずき、初音と樹莉にもソファに座るよう勧めた。
初音たちが座ると、湖苑が大きなマグカップを手渡してくれる。

「おはようございます、初音様、樹莉。朝ごはんも食べてないよね。とりあえず、これでも飲んで」

 マグカップの中身は、あたたかいカフェオレだった。
すこしあまめで、牛乳がたっぷり入っている。
ひとくち飲むと、優しい味がした。

 湖苑は、ふたりの前にお皿も置く。
特別教室にストックしてあったらしいクッキーやカステラが、きれいに盛り付けられていた。

「こんなものしかないけど、食べて」

「ありがとうございます」

 初音は、湖苑にお礼を言って、まわりを見た。
同じように湖苑にお礼を言った樹莉が、クッキーをつまんで食べる。
雪姫と火焔はカステラを流れるようにたくさん食べていて、高雄もクッキーをひとつ手に取っていた。

「食べながら、現状を整理していこう。まずは、湖苑。先ほどこの国のあちこちで小鬼が実体化したな。これにあの華代が関わっているというのは確かか?」

 クッキーをかじっていた初音は、その言葉にぎょっとした。

(華代が? 小鬼を?)

 湖苑は、自分のマグカップをテーブルに置いて、うなずいた。

「はい、可能性はかなり高いと思います。彼女の霊力は昨日目にしたばかりで、はっきりと覚えています。人間のわりには強く、特徴的な霊力でした。小鬼の実体化に、華代が関わっていることはまちがいないでしょう。けれど、彼女が直接小鬼を実体化させたと考えるには、小鬼たちの霊力が弱い。それにこの国のあちこちで一斉に術がなされたというのも、妙だと思うのです」

「華代は、昨夜は警察にいるはずだ。警察は建物に、術を使えなくする霊布を使用しているはずだが」

「昨日、俺が警察に同行した時は、ちゃんと霊布は作動してたぜ。俺にはあんなもの効かねぇけど、あの妹くらいなら、霊力のほとんどが使えなくなってるだろうな。ちょっとくらいなら使えるかもしれねぇけど、あちこちで小鬼を実体化させるなんてのは、無理だろうよ」

「小鬼を実体化とはのぉ。近頃のうつしよで、小鬼程度の霊力しかないあやかしに実体を与えるのは容易ではないじゃろうに……」

「華代なら……、いえ、西園寺の本家の人間なら、小鬼を実体化させる術は使えます。……私以外は」

 高雄たちが首をひねっているので、初音は自分の知る情報を口にした。
みんなの視線が、こちらへ向くのを感じる。

 初音はうつむいて、続けた。

「西園寺は、むかしから小鬼を使役することをいちばんの得意としているのです。自然界にとけるようにひっそりと生きている小鬼を実体化させ、力を誇示して、言うことを聞かせ、使役する。そのための術は多種多様に、西園寺の家に受け継がれてきました。華代は特に、それが得意です」

「ふうむ」

 いつもはほがらかな雪姫が、低い声でうなる。
 初音は、自分の手をぎゅっと握り、言った。

「西園寺は、私の実家は、そういう家です。そして私も、華代たちがしていることを止めませんでした」

 華代は、家で小鬼を実体化させ、暴力をふるっていた。
華代の性質は、人をいじめることを好むのだろう。
初音だけでなく、家で働く者たちや、その子どもたちも支配し、虐げてきた。

 小鬼も、その対象だった。
ただ人間ではないこと、華代が実体化の術を使うまで誰の目にも見えないことから、初音も小鬼のことはそんなに意識していなかった。
華代に暴力を振るわれているのを見れば憐れには思ったが、華代を止めたこともない。
もちろんそんなことをすれば、霊力をもたない初音のひがみだと、いつも以上に暴力を振るわれただろう。
それが予想できて、初音は見て見ぬふりをしてきたのだ。

 雪姫は、初音の傍まで来ると、はげますように背中を撫でてくれた。

「では、やはり華代殿が関わっておるようじゃの」

 雪姫は、話を切り替えるように言った。

「そうだな。この国のあちこちで一斉に小鬼が実体化する術かぁ。……初音様、なにか心当たりとかあるか?」

 火焔は、気づかわし気に初音を見ながら尋ねる。
初音は、懺悔の気持ちはいったん自分の胸に戻し、考える。

「よりましのようなものがあれば、できるかもしれません。華代が術をかけたよりましに、誰かがなにかをすれば小鬼が実体化するというような術はあったと思います」

「あるのか!」

 火焔は目を丸くして、カステラをもうひとつ手に取った。

「では、華代様がたくさんの方によりましを配られたということでしょうか。でも、華代様が警察に捕らえられたことは、華代様自身、予想外の出来事だったと思うのです。前もって準備していたわけではないでしょう。なのにそんな手間のかかることをされていたのでしょうか」

「小鬼を実体化させる術のよりましなら、準備も大変じゃろうしな。渡されたほうも大切にするかはわらかぬし。これだけの数を実体化させるとなると、相当な数のよりましをつくったのかの。あのおなごは、そんなにまめなようには見えんかったが」

 樹莉と雪姫が、揃って首をかしげる。
初音は、それにも答えを持っていた。

「華代は自分の霊力を糸にしみこませることができます。その糸で術布に刺繍すると、威力は弱いものの霊布になります」

「なんと……」

「ですから、おそらく華代は、自分の術をしみこませた糸で、家の者たちに刺繍をさせ、よりましを量産したんだと思います」

 初音が言うと、雪姫は頭を抱えた。

「なんともやっかいな娘じゃの……。性悪が霊力や権力を持つと、ろくなことにならぬ」
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