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本編こぼれ話 2(3巻書籍化御礼の小話)
【3巻御礼】現パロ4-12: 初音の頭がぐるぐるしている話編
雪姫の言葉に、初音はふかぶかとうなずいてしまった。
華代が、西園寺の娘でなければ。
霊力が、あんなに強くければ。
きっと華代は、今のようではなかったはずだと思う。
けれどそれを聞いた湖苑は、首をかしげて言った。
「どうでしょうか。ああいった性質の者は、どんな立場にあっても、性格が大きく変わることはない気がしますが……。ところで、来客のようです」
「客? この特別教室にか?」
うつしよ学院のこの特別教室は、かくりよのあやかしたちが遊学するための、霊力を抑える結界がある。
強すぎる霊力を持つあやかしたちのための場所であって、ふつうの人間がふつうに過ごせる場所ではない。
怪訝そうに尋ねる高雄に、湖苑ははっきりと首肯した。
「はい、高雄様。昨日の校長と、成人男性、それに初音様のクラスメイトの女性がひとり。話があるのでこちらに伺いたいと申し出がありました。どうしますか?」
湖苑が、スマホの画面を高雄に見せる。
高雄は軽くうなずいた。
「こちらは構わぬ。警察内部の情報は、湖苑でも探りにくいだろう。校長なら、なんらかの情報を持っているだろうし、華代がどうしているか確認もしたいからな」
高雄は、初音を気づかわし気に見ながら、言う。
初音は、しっかりと高雄の目を見てうなずいた。
「かしこまりました。では、そのように伝えます」
湖苑は、すぐに返事を送った。
そして、あちらからの返事もすぐに帰って来たようだった。
「すぐに、こちらに来るそうです。もう全員、学校には来ていたようですね」
小さく、初音は息を吐いた。
(華代。あの子は今、どうしているのかしら。生まれて初めて、他人に怒られて。警察に連れていかれて、さぞ怒っているか落ち込んでいるかだと思っていたのに……。華代の術で、あちこちで小鬼が実体化しているのなんて。いったい、なにをかんがえているの? なんのために、小鬼を実体化させたの?)
頭の中が、ぐるぐると回る。
小鬼を操るのは、西園寺家の独占技術と言っていいほど、西園寺家の人間が突出して得意とする術だ。
けれどその力は、国のため、みんなのために使うからこそ、西園寺家は侯爵位をいただき、さまざまな優遇を受けている。
小鬼を実体化させ、自分たちの思い通りに操ることは、西園寺家の人間なら許されていることではある。
けれど、それはあくまでも術者の身の回りのことに使うレベルの話だけだ。
術者の目の届かないほど広範囲にわたり、大量の小鬼を実体化させるなら、政府の要請か認可が必要な案件だ。
それを私情で勝手に行うなんて、いくら華代が西園寺家の娘でも許されないはずだと、初音は思う。
小鬼を実体化させる術には、だいたい術者の命令を聞かせる術が不随している。
難しい命令や複雑な命令を実行させるには、そのうえでさらに小鬼を躾ける必要があるけれど、簡単な命令なら、実体化した瞬間から実行させることだってできる。
そんなものを一貴族が好き勝手に実体化させるなんて、国が許すはずはない。
「無能」だからと、貴族令嬢の特権と義務についての講義を受けたことがない初音にだって、それくらいは想像がつく。
(でも、華代はそんなこと気にしないかもしれない)
昨日まで、悪いことをしても許され、守られてきた娘だ。
自分のすることを、誰かにとがめられるなんて考えもせず、警察署で不自由をしたからと怒りのままに「ちょっとした嫌がらせ」のつもりで実行しただけかもしれない。
(ありえる……)
自分なら、ぜったいにしない。
けれどあの妹なら、ありえると思う。
(私も、華代のように霊力が強かったら、華代みたいになっていたのかなぁ……)
初音も西園寺の娘だ。
霊力さえ強ければ、あの父は初音のことも華代と同様に甘やかしたかもしれない。
そうすれば、初音もあんなふうになっていただろうか。
そう考えて、初音は背筋を震わせた。
(いや、ないな。どんなにあまやかされても、華代みたいにはならないと思う)
先ほどの湖苑の言葉を思い出す。
(『ああいった性質の者は、どんな立場にあっても、大きく性格が変わることはない気がする』、かぁ。逆に、私はどうやっても、華代みたいにはならないよね)
小さい頃は、父に愛されている華代がうらやましかった。
でも、今はそうは思わない。
初音は、ちらりと高雄のほうへ視線を向けた。
難しい顔で火焔と話し合っていた高雄は、初音が視線を向けると、すぐに気づいてこちらに小さく手を振る。
(私は、私でよかった……)
高雄に手を振り返しながら、初音は心からそう思った。
華代が、西園寺の娘でなければ。
霊力が、あんなに強くければ。
きっと華代は、今のようではなかったはずだと思う。
けれどそれを聞いた湖苑は、首をかしげて言った。
「どうでしょうか。ああいった性質の者は、どんな立場にあっても、性格が大きく変わることはない気がしますが……。ところで、来客のようです」
「客? この特別教室にか?」
うつしよ学院のこの特別教室は、かくりよのあやかしたちが遊学するための、霊力を抑える結界がある。
強すぎる霊力を持つあやかしたちのための場所であって、ふつうの人間がふつうに過ごせる場所ではない。
怪訝そうに尋ねる高雄に、湖苑ははっきりと首肯した。
「はい、高雄様。昨日の校長と、成人男性、それに初音様のクラスメイトの女性がひとり。話があるのでこちらに伺いたいと申し出がありました。どうしますか?」
湖苑が、スマホの画面を高雄に見せる。
高雄は軽くうなずいた。
「こちらは構わぬ。警察内部の情報は、湖苑でも探りにくいだろう。校長なら、なんらかの情報を持っているだろうし、華代がどうしているか確認もしたいからな」
高雄は、初音を気づかわし気に見ながら、言う。
初音は、しっかりと高雄の目を見てうなずいた。
「かしこまりました。では、そのように伝えます」
湖苑は、すぐに返事を送った。
そして、あちらからの返事もすぐに帰って来たようだった。
「すぐに、こちらに来るそうです。もう全員、学校には来ていたようですね」
小さく、初音は息を吐いた。
(華代。あの子は今、どうしているのかしら。生まれて初めて、他人に怒られて。警察に連れていかれて、さぞ怒っているか落ち込んでいるかだと思っていたのに……。華代の術で、あちこちで小鬼が実体化しているのなんて。いったい、なにをかんがえているの? なんのために、小鬼を実体化させたの?)
頭の中が、ぐるぐると回る。
小鬼を操るのは、西園寺家の独占技術と言っていいほど、西園寺家の人間が突出して得意とする術だ。
けれどその力は、国のため、みんなのために使うからこそ、西園寺家は侯爵位をいただき、さまざまな優遇を受けている。
小鬼を実体化させ、自分たちの思い通りに操ることは、西園寺家の人間なら許されていることではある。
けれど、それはあくまでも術者の身の回りのことに使うレベルの話だけだ。
術者の目の届かないほど広範囲にわたり、大量の小鬼を実体化させるなら、政府の要請か認可が必要な案件だ。
それを私情で勝手に行うなんて、いくら華代が西園寺家の娘でも許されないはずだと、初音は思う。
小鬼を実体化させる術には、だいたい術者の命令を聞かせる術が不随している。
難しい命令や複雑な命令を実行させるには、そのうえでさらに小鬼を躾ける必要があるけれど、簡単な命令なら、実体化した瞬間から実行させることだってできる。
そんなものを一貴族が好き勝手に実体化させるなんて、国が許すはずはない。
「無能」だからと、貴族令嬢の特権と義務についての講義を受けたことがない初音にだって、それくらいは想像がつく。
(でも、華代はそんなこと気にしないかもしれない)
昨日まで、悪いことをしても許され、守られてきた娘だ。
自分のすることを、誰かにとがめられるなんて考えもせず、警察署で不自由をしたからと怒りのままに「ちょっとした嫌がらせ」のつもりで実行しただけかもしれない。
(ありえる……)
自分なら、ぜったいにしない。
けれどあの妹なら、ありえると思う。
(私も、華代のように霊力が強かったら、華代みたいになっていたのかなぁ……)
初音も西園寺の娘だ。
霊力さえ強ければ、あの父は初音のことも華代と同様に甘やかしたかもしれない。
そうすれば、初音もあんなふうになっていただろうか。
そう考えて、初音は背筋を震わせた。
(いや、ないな。どんなにあまやかされても、華代みたいにはならないと思う)
先ほどの湖苑の言葉を思い出す。
(『ああいった性質の者は、どんな立場にあっても、大きく性格が変わることはない気がする』、かぁ。逆に、私はどうやっても、華代みたいにはならないよね)
小さい頃は、父に愛されている華代がうらやましかった。
でも、今はそうは思わない。
初音は、ちらりと高雄のほうへ視線を向けた。
難しい顔で火焔と話し合っていた高雄は、初音が視線を向けると、すぐに気づいてこちらに小さく手を振る。
(私は、私でよかった……)
高雄に手を振り返しながら、初音は心からそう思った。
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