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本編こぼれ話 2(3巻書籍化御礼の小話)
【3巻御礼】現パロ4-13: 思いがけない来客編
高雄は初音にもう一度手を振ると、火焔との話に戻る。
初音は、そんな高雄の横顔にこっそりと微笑んだ。
たったすこしのやりとりだ。
けれどそれだけで、胸のあたりがほこほこと温かくなる。
その時、とんとんと扉を叩く音がした。
「ああ、いらしたようですね」
湖苑が立ち上がり、扉のほうへ向かう。
初音は樹莉に促され、執務机の椅子に座る高雄の傍に立った。
初音たちが高雄の傍に移動したのを確認すると、湖苑が特別教室の扉を開ける。
「お待ちしておりました。どうぞ」
扉が開くと、そこには初音の見知った顔があった。
「百合子様......?」
初音は、思わず立ち上がる。
百合子は、そんな初音に少し困ったように、無言で微笑んだ。
困ったような表情をしても、百合子の毅然とした美しさは損なわれることなく、名前の通り白百合のごとき美しさだった。
初音は一瞬、ほぅと見とれて、けれどすぐに、百合子の表情の意味を悟る。
百合子の隣には、校長と見知らぬ男性が数人、立っていた。
(あ......。校長先生たちもご一緒だったんだ……! 百合子様しか、目に入ってなかった……!)
しまった、と初音は顔を赤くした。
そもそもこの部屋の主は、高雄だ。
初音が真っ先に来客に声をかけたこと自体がよくないことだったかもしれない、と初音は口を押さえ、頭を下げた。
「申し訳ございません……!」
顔が、燃えるように熱い。
自分のいたらなさが恥ずかしかった。
高雄は、そんな初音を愛おしげに見つめ、ふっと笑う。
そして湖苑に視線で合図を送った。
湖苑はうなずいて、校長先生たちに椅子をすすめた。
「どうぞおかけください」
そういって湖苑がすすめたのは、先ほどまで初音たちが軽食を食べていたソファだ。
いつの間にか机の上は綺麗に片付けられ、ソファはよそよそしいまでに整えられていた。
「い、いや、ですが……。我々だけ、こちらに座るというのは……」
校長は、奥にある執務机のところに座っている高雄と、その傍に立つ側近たちにに視線を向けた。
けれど、高雄は校長に軽くうなずいて、そのまま座るよう促した。
「ははっ。ではありがたく、座らせてもらおう」
困惑する校長を差し置いて応えたのは、百合子たちと一緒に来ていた男性のひとりだった。
初音は、その男性に目を向けた。
年頃は、初音たちよりも少し年上の二十台半ばくらいだろうか。
すらりと背が高く、優雅に整った細面の顔で、妙に楽し気に笑っている。
オーダーメイドらしい体のラインに沿ったスーツも、少し茶色がかった髪のセットも、軽佻浮薄な雰囲気なのに、どこか上品に見えた。
その男性は、けれどソファには座らず、芝居がかった仕草で高雄に頭を下げた。
「初めまして。かくりよの次期統領、高雄様。私はうつしよのこの国の帝の弟で、有栖山仁弥と申します。以後、お見知りおきを」
(皇族……!)
初音は、有栖山の自己紹介を聞いて息をのんだ。
侯爵家の令嬢とはいえ、無能と虐げられてきた初音は、皇族にお目にかかったことはほとんどない。
園遊会などで、遠目に見たことがあるくらいだ。
もちろん、こんなふうに間近で挨拶を受けるのは初めてのことだった。
初音の身体が、思わず小さく震えてしまう。
自国の皇族は、初音にとってそれくらい尊いものだった。
でも。
初音は、震える指先を抑えながら、考える。
(その皇族の方が、高雄様には敬語で話しかけられている……)
有栖山の高雄への態度は、決して高雄を上に置いたものではない。
うつしよのこの国の帝の弟と、かくりよのあやかしの次期統領。
互いに国の代表に近しい者として、へりくだることはない。
同時に、軽んじることもない。
(高雄様は、そういうお立場の方なんだ……)
高雄の立場については、わかっているつもりだった。
けれど高雄たちはあやかしで、うつしよの人間よりも礼儀などは緩く、なにより初音のことをみんなが大切に扱ってくれるので、忘れていた。
本来なら、初音なんて、高雄に気軽に話しかけられる立場ではないということを。
(でも……)
ひるみそうになる気持ちを、初音は閉じ込める。
そっと隣に立つ高雄に視線を向けると、高雄は先ほどと同じように、初音に微笑んでくれた。
初音は、それに勇気を得て、ぴんと姿勢を正した。
(私はもう、高雄様の婚約者なんだから。例え皇族の方にでも、ひるんじゃだめだ……!)
礼儀正しくすることと、相手に委縮してへりくだることはべつものだ。
初音は、もう、うつしよの一貴族の令嬢ではない。
かくりよの次期統領の婚約者なのだから、自国の皇族にだって、あまりへりくだった態度をとるのはよくないのかもしれない。
(あれ、でも。高雄様は、有栖山様にも厳しい態度、のような……?)
高雄は、初音には優しく、自分の側近たちにも親し気に振舞う。
けれど、昨日、校長先生たちに華代がしたことを追及する時の舌鋒は鋭かった。
校長先生も、初音の父も、その時同席していた警察の偉い人たちも、初音にとっては逆らうなんて考えたこともない「立場が上」の相手だ。
そもそも自分たちの倍以上は生きている、世間的にも立場のある男性というのは、それだけで威圧感がある。
初音ひとりなら、だれかひとりが目の前にいるだけで、委縮してしまう。
そんな相手に、高雄は昨日も、華代の厳罰を求めて、一方的なまでに厳しく要求をつきつけていた。
最終的には譲歩したところもあるものの、傍で聞いていた初音は、ただただ高雄の迫力に圧倒されるばかりだった。
とはいえ、高雄の彼らへの対応は、初音の危機で気が立っていたからかと思ったのだが……。
有栖山と校長先生、それに百合子がソファに座る。
一緒に来ていた男性たちは、その後ろに立った。
「さて」
高雄は、有栖山たちがソファに腰掛けたのを見て、鋭い目つきで尋ねる。
「用件を伺おうか」
初音は、そんな高雄の横顔にこっそりと微笑んだ。
たったすこしのやりとりだ。
けれどそれだけで、胸のあたりがほこほこと温かくなる。
その時、とんとんと扉を叩く音がした。
「ああ、いらしたようですね」
湖苑が立ち上がり、扉のほうへ向かう。
初音は樹莉に促され、執務机の椅子に座る高雄の傍に立った。
初音たちが高雄の傍に移動したのを確認すると、湖苑が特別教室の扉を開ける。
「お待ちしておりました。どうぞ」
扉が開くと、そこには初音の見知った顔があった。
「百合子様......?」
初音は、思わず立ち上がる。
百合子は、そんな初音に少し困ったように、無言で微笑んだ。
困ったような表情をしても、百合子の毅然とした美しさは損なわれることなく、名前の通り白百合のごとき美しさだった。
初音は一瞬、ほぅと見とれて、けれどすぐに、百合子の表情の意味を悟る。
百合子の隣には、校長と見知らぬ男性が数人、立っていた。
(あ......。校長先生たちもご一緒だったんだ……! 百合子様しか、目に入ってなかった……!)
しまった、と初音は顔を赤くした。
そもそもこの部屋の主は、高雄だ。
初音が真っ先に来客に声をかけたこと自体がよくないことだったかもしれない、と初音は口を押さえ、頭を下げた。
「申し訳ございません……!」
顔が、燃えるように熱い。
自分のいたらなさが恥ずかしかった。
高雄は、そんな初音を愛おしげに見つめ、ふっと笑う。
そして湖苑に視線で合図を送った。
湖苑はうなずいて、校長先生たちに椅子をすすめた。
「どうぞおかけください」
そういって湖苑がすすめたのは、先ほどまで初音たちが軽食を食べていたソファだ。
いつの間にか机の上は綺麗に片付けられ、ソファはよそよそしいまでに整えられていた。
「い、いや、ですが……。我々だけ、こちらに座るというのは……」
校長は、奥にある執務机のところに座っている高雄と、その傍に立つ側近たちにに視線を向けた。
けれど、高雄は校長に軽くうなずいて、そのまま座るよう促した。
「ははっ。ではありがたく、座らせてもらおう」
困惑する校長を差し置いて応えたのは、百合子たちと一緒に来ていた男性のひとりだった。
初音は、その男性に目を向けた。
年頃は、初音たちよりも少し年上の二十台半ばくらいだろうか。
すらりと背が高く、優雅に整った細面の顔で、妙に楽し気に笑っている。
オーダーメイドらしい体のラインに沿ったスーツも、少し茶色がかった髪のセットも、軽佻浮薄な雰囲気なのに、どこか上品に見えた。
その男性は、けれどソファには座らず、芝居がかった仕草で高雄に頭を下げた。
「初めまして。かくりよの次期統領、高雄様。私はうつしよのこの国の帝の弟で、有栖山仁弥と申します。以後、お見知りおきを」
(皇族……!)
初音は、有栖山の自己紹介を聞いて息をのんだ。
侯爵家の令嬢とはいえ、無能と虐げられてきた初音は、皇族にお目にかかったことはほとんどない。
園遊会などで、遠目に見たことがあるくらいだ。
もちろん、こんなふうに間近で挨拶を受けるのは初めてのことだった。
初音の身体が、思わず小さく震えてしまう。
自国の皇族は、初音にとってそれくらい尊いものだった。
でも。
初音は、震える指先を抑えながら、考える。
(その皇族の方が、高雄様には敬語で話しかけられている……)
有栖山の高雄への態度は、決して高雄を上に置いたものではない。
うつしよのこの国の帝の弟と、かくりよのあやかしの次期統領。
互いに国の代表に近しい者として、へりくだることはない。
同時に、軽んじることもない。
(高雄様は、そういうお立場の方なんだ……)
高雄の立場については、わかっているつもりだった。
けれど高雄たちはあやかしで、うつしよの人間よりも礼儀などは緩く、なにより初音のことをみんなが大切に扱ってくれるので、忘れていた。
本来なら、初音なんて、高雄に気軽に話しかけられる立場ではないということを。
(でも……)
ひるみそうになる気持ちを、初音は閉じ込める。
そっと隣に立つ高雄に視線を向けると、高雄は先ほどと同じように、初音に微笑んでくれた。
初音は、それに勇気を得て、ぴんと姿勢を正した。
(私はもう、高雄様の婚約者なんだから。例え皇族の方にでも、ひるんじゃだめだ……!)
礼儀正しくすることと、相手に委縮してへりくだることはべつものだ。
初音は、もう、うつしよの一貴族の令嬢ではない。
かくりよの次期統領の婚約者なのだから、自国の皇族にだって、あまりへりくだった態度をとるのはよくないのかもしれない。
(あれ、でも。高雄様は、有栖山様にも厳しい態度、のような……?)
高雄は、初音には優しく、自分の側近たちにも親し気に振舞う。
けれど、昨日、校長先生たちに華代がしたことを追及する時の舌鋒は鋭かった。
校長先生も、初音の父も、その時同席していた警察の偉い人たちも、初音にとっては逆らうなんて考えたこともない「立場が上」の相手だ。
そもそも自分たちの倍以上は生きている、世間的にも立場のある男性というのは、それだけで威圧感がある。
初音ひとりなら、だれかひとりが目の前にいるだけで、委縮してしまう。
そんな相手に、高雄は昨日も、華代の厳罰を求めて、一方的なまでに厳しく要求をつきつけていた。
最終的には譲歩したところもあるものの、傍で聞いていた初音は、ただただ高雄の迫力に圧倒されるばかりだった。
とはいえ、高雄の彼らへの対応は、初音の危機で気が立っていたからかと思ったのだが……。
有栖山と校長先生、それに百合子がソファに座る。
一緒に来ていた男性たちは、その後ろに立った。
「さて」
高雄は、有栖山たちがソファに腰掛けたのを見て、鋭い目つきで尋ねる。
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