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本編こぼれ話 2(3巻書籍化御礼の小話)
【3巻御礼】現パロ4-14: 次から次に妹がやらかしてます……?編
高雄が端的に促すと、有栖山は苦笑いをうかべ、ひらりと手を振った。
「挨拶ぐらいさせてくださってもよいのでは?」
「ふん。そのような余裕が、そなたらにあるのならば好きにするがいい」
高雄は、尊大な態度を崩さず、有栖山に言う。
(あれ……? 高雄様は、警察内部の様子はわかりにくいから、校長先生から情報をもらうために会うっておっしゃっていたよね。こんな態度でだいじょうぶなのかしら)
一行の様子を見ていると、この場での中心人物は校長ではなく、この有栖山だということは、初音にも察せられた。
その有栖山の機嫌を損ねるようなことをしてもよいのだろうか。
心配になって、初音は高雄の顔をうかがった。
高雄はちらりと初音を見て、微笑む。
それを見た有栖山は、ふーーっと深いため息をついた。
「まいったな。もう知っているのか?」
高雄はなにも答えず、ただ眉をあげて、有栖山を見る。
(知ってるって、華代が小鬼をあちこちで実体化したことを、かしら。警察では、あれが華代の仕業だと、もう特定しているのね)
初音は、ぎゅっと両手を握りしめた。
小鬼の実体化をわたくしごとで行った華代は、咎められるだろう。
その咎は、華代の姉である初音にもふりかかるのかもしれない。
「無能」で、あやかしをあやつる術など使えないとはいえ、初音も西園寺の人間なのだから。
初音は恐ろしい気持ちで、有栖山を見た。
(いつかは、こんなことになるのかもしれないと思っていた。華代が許されないことをして、そのせいで私まで世間から咎められることになるのかもって。でも、警察沙汰なるとまでは思っていなかった。それに、私と婚約したせいで、高雄様まで責められることになるのかも……)
初音はともかく、高雄は刑罰の対象になることはあるまい。
けれど世間には、白い目で見られるかもしれない、と初音は思う。
かくりよのあやかしたちは、人間とは比べ物にならないほど強い。
それゆえに、人間は彼らを敬い畏れている。
けれどすこしバランスが崩れれば、その敬意や恐れは、憎悪に変わってしまうかもしれない。
(華代の行いが悪いせいで、高雄様達が責められることになったらどうしよう……!)
初音は泣きそうになりながら、覚悟を決めた。
いざとなれば自分が表に出て、泥をかぶろう、と。
そしてどうにかして、高雄たちには迷惑がかからないようにしよう、と。
けれど、初音の悲壮な決意をよそに、有栖山はソファから立ち上がり、高雄たちに向けて深々と頭を下げた。
「……申し訳ない。警察で身柄をあずかっていた西園寺華代が、逃亡した」
(えっ……!!)
初音は、驚きすぎて声も出なかった。
(逃亡って、どういうことなの? 華代が? 警察から?)
有栖山にならってか、校長と百合子も立ち上がって頭を下げていた。
初音は、ただおろおろとして、高雄たちの顔を伺った。
華代が、小鬼たちを実体化させたことを身内として……、西園寺というあやかしに関する術を使う一族の娘として、責められるのだと思った。
なのに有栖山は、逆に頭を下げている。
華代が、警察から逃亡した、と言って。
(ほ、ほんとうに、どういうことなの……?)
高雄も、雪姫たちも、驚いているようだった。
ただ高雄たちは、ある程度予想していたようでもあった。
わずかに表情を動かしただけで驚きを殺し、無言で視線を交わす。
「顔をあげよ」
高雄は、有栖山たちに声をかけた。
有栖山は顔をあげるが、その表情は先ほどとは異なり、神妙なものだった。
「さて、では話を聞かせてもらおうか」
高雄は、有栖山たちに座るよう促すと、厳しい表情のまま尋ねた。
「有栖山。そなたの後ろの者たちは、警察官だな。この件についての説明をしてもらおうか」
「いえ。説明は、私が。この件の責任者に任じられましたので、いちばん詳しく説明できます」
「なるほど?」
高雄はすこし首をかしげ、有栖山を見降ろした。
その瞬間、有栖山の態勢が崩れ、有栖山はソファに腰を下ろしたまま、腰を曲げ、頭を膝の間までめりこませた。
まるで上から強い力で押されたみたいだ、と初音は思った。
有栖山は「ぐっ」と苦し気な声でうめき、後ろの警察官は驚いたように表情を変えるが、ぴくりとも身動きをしない。
警察官たちは、一瞬の間の後、高雄のほうを恐ろしそうに見た。
高雄は、その視線をゆっくりと受け止め、愉快そうに唇を笑みの形に変えた。
「ああ、すまない。そなたらが立っていられるよう、霊気を抑えていたのだが、少しゆるんでしまったようだ」
そう言って、高雄は片手を振った。
すると有栖山は上から抑えていた力がなくなったのか、ゆっくりと身を起こした。
その顔には、恐怖が映し出されていた。
「……で。話だったか。有栖山、そなたが話したいというのなら、構わぬ。ただし、話は正確にしてもらおうか。でなければ俺も苛立ちが抑えられず、また霊気を抑えにくくなってしまうかもしれぬ」
「高雄様、お気をつけください。高雄様の霊気をそのまま浴びれば、人間ならば正気を失うかもしれません」
いつもは気のよさそうな笑みをうかべている火焔が、しかつめらしい表情で言う。
背も高く、がっしりとした体形の火焔は、霊気などなくとも威圧的な存在感があった。
有栖山は平静な表情を取り戻し、うなずいた。
だが、その顔には汗がうかんでいた。
初音は、百合子が心配になって、そちらに視線を向けた。
けれど百合子は、すこしこわばった表情をしているものの、ぴんとした姿勢も崩さず、初音たちのほうを見ていた。
初音と百合子の視線が合った。
百合子は、初音が見ていることに気づくと、沈痛な表情で、ゆっくりと頭を下げる。
(どうして、百合子様が……?)
昨日だって、百合子は初音を助けてくれただけだ。
クラスメイトというだけの繋がりしかない初音が、妹やその取り巻きたちにいじめられているのに気づいて、割って入ってくれた。
ありがたいと思ってはいても、咎めることなんてない。
華代が警察から逃亡したことだって、百合子には責任などないだろう。
(百合子様に、声をかけてもいいかしら)
初音は、そっと高雄たちの顔を見回した。
「挨拶ぐらいさせてくださってもよいのでは?」
「ふん。そのような余裕が、そなたらにあるのならば好きにするがいい」
高雄は、尊大な態度を崩さず、有栖山に言う。
(あれ……? 高雄様は、警察内部の様子はわかりにくいから、校長先生から情報をもらうために会うっておっしゃっていたよね。こんな態度でだいじょうぶなのかしら)
一行の様子を見ていると、この場での中心人物は校長ではなく、この有栖山だということは、初音にも察せられた。
その有栖山の機嫌を損ねるようなことをしてもよいのだろうか。
心配になって、初音は高雄の顔をうかがった。
高雄はちらりと初音を見て、微笑む。
それを見た有栖山は、ふーーっと深いため息をついた。
「まいったな。もう知っているのか?」
高雄はなにも答えず、ただ眉をあげて、有栖山を見る。
(知ってるって、華代が小鬼をあちこちで実体化したことを、かしら。警察では、あれが華代の仕業だと、もう特定しているのね)
初音は、ぎゅっと両手を握りしめた。
小鬼の実体化をわたくしごとで行った華代は、咎められるだろう。
その咎は、華代の姉である初音にもふりかかるのかもしれない。
「無能」で、あやかしをあやつる術など使えないとはいえ、初音も西園寺の人間なのだから。
初音は恐ろしい気持ちで、有栖山を見た。
(いつかは、こんなことになるのかもしれないと思っていた。華代が許されないことをして、そのせいで私まで世間から咎められることになるのかもって。でも、警察沙汰なるとまでは思っていなかった。それに、私と婚約したせいで、高雄様まで責められることになるのかも……)
初音はともかく、高雄は刑罰の対象になることはあるまい。
けれど世間には、白い目で見られるかもしれない、と初音は思う。
かくりよのあやかしたちは、人間とは比べ物にならないほど強い。
それゆえに、人間は彼らを敬い畏れている。
けれどすこしバランスが崩れれば、その敬意や恐れは、憎悪に変わってしまうかもしれない。
(華代の行いが悪いせいで、高雄様達が責められることになったらどうしよう……!)
初音は泣きそうになりながら、覚悟を決めた。
いざとなれば自分が表に出て、泥をかぶろう、と。
そしてどうにかして、高雄たちには迷惑がかからないようにしよう、と。
けれど、初音の悲壮な決意をよそに、有栖山はソファから立ち上がり、高雄たちに向けて深々と頭を下げた。
「……申し訳ない。警察で身柄をあずかっていた西園寺華代が、逃亡した」
(えっ……!!)
初音は、驚きすぎて声も出なかった。
(逃亡って、どういうことなの? 華代が? 警察から?)
有栖山にならってか、校長と百合子も立ち上がって頭を下げていた。
初音は、ただおろおろとして、高雄たちの顔を伺った。
華代が、小鬼たちを実体化させたことを身内として……、西園寺というあやかしに関する術を使う一族の娘として、責められるのだと思った。
なのに有栖山は、逆に頭を下げている。
華代が、警察から逃亡した、と言って。
(ほ、ほんとうに、どういうことなの……?)
高雄も、雪姫たちも、驚いているようだった。
ただ高雄たちは、ある程度予想していたようでもあった。
わずかに表情を動かしただけで驚きを殺し、無言で視線を交わす。
「顔をあげよ」
高雄は、有栖山たちに声をかけた。
有栖山は顔をあげるが、その表情は先ほどとは異なり、神妙なものだった。
「さて、では話を聞かせてもらおうか」
高雄は、有栖山たちに座るよう促すと、厳しい表情のまま尋ねた。
「有栖山。そなたの後ろの者たちは、警察官だな。この件についての説明をしてもらおうか」
「いえ。説明は、私が。この件の責任者に任じられましたので、いちばん詳しく説明できます」
「なるほど?」
高雄はすこし首をかしげ、有栖山を見降ろした。
その瞬間、有栖山の態勢が崩れ、有栖山はソファに腰を下ろしたまま、腰を曲げ、頭を膝の間までめりこませた。
まるで上から強い力で押されたみたいだ、と初音は思った。
有栖山は「ぐっ」と苦し気な声でうめき、後ろの警察官は驚いたように表情を変えるが、ぴくりとも身動きをしない。
警察官たちは、一瞬の間の後、高雄のほうを恐ろしそうに見た。
高雄は、その視線をゆっくりと受け止め、愉快そうに唇を笑みの形に変えた。
「ああ、すまない。そなたらが立っていられるよう、霊気を抑えていたのだが、少しゆるんでしまったようだ」
そう言って、高雄は片手を振った。
すると有栖山は上から抑えていた力がなくなったのか、ゆっくりと身を起こした。
その顔には、恐怖が映し出されていた。
「……で。話だったか。有栖山、そなたが話したいというのなら、構わぬ。ただし、話は正確にしてもらおうか。でなければ俺も苛立ちが抑えられず、また霊気を抑えにくくなってしまうかもしれぬ」
「高雄様、お気をつけください。高雄様の霊気をそのまま浴びれば、人間ならば正気を失うかもしれません」
いつもは気のよさそうな笑みをうかべている火焔が、しかつめらしい表情で言う。
背も高く、がっしりとした体形の火焔は、霊気などなくとも威圧的な存在感があった。
有栖山は平静な表情を取り戻し、うなずいた。
だが、その顔には汗がうかんでいた。
初音は、百合子が心配になって、そちらに視線を向けた。
けれど百合子は、すこしこわばった表情をしているものの、ぴんとした姿勢も崩さず、初音たちのほうを見ていた。
初音と百合子の視線が合った。
百合子は、初音が見ていることに気づくと、沈痛な表情で、ゆっくりと頭を下げる。
(どうして、百合子様が……?)
昨日だって、百合子は初音を助けてくれただけだ。
クラスメイトというだけの繋がりしかない初音が、妹やその取り巻きたちにいじめられているのに気づいて、割って入ってくれた。
ありがたいと思ってはいても、咎めることなんてない。
華代が警察から逃亡したことだって、百合子には責任などないだろう。
(百合子様に、声をかけてもいいかしら)
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