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番外編(高田の話)
「貴女を愛することはない」という年上の次期番頭に玉砕覚悟で告白したら、溺愛されています……? -2
「万智子。お前、怜二をおとす自信はないかい?」
女学校から帰って、まったりと緑茶を飲んでいた高田は、とつぜん父にそう言われて、あやうくお茶を口から噴き出してしまいそうになった。
「くふ……っ」
居間にはのほほんと本を読んでいた父と高田のふたりきりだったが、さすがに父の前でも、お茶を口からこぼすようなはしたない真似はしたくない。
高田は動揺する心を抑えて、口にふくんだお茶を必死で飲み干す。
そして、口元をハンカチで押さえて、首をかしげた。
「お父様、いま、なんとおっしゃいましたの?」
聞き間違いであってほしいと思いながら、高田は尋ねた。
そんな高田の様子を、父はおもしろそうに観察していた。
そして、へろりと笑って、言う。
「うん? だからね、万智子。うちの手代の柏木怜二とお前が、恋仲になればいいなぁと思うんだが。万智子は、怜二が好きだろう?」
あたりまえのように父親に片想いを言い当てられて、高田は「ひぅっ」と悲鳴をあげた。
「な、な、な、なぜ! お父様が、そのことをご存知ですの……っ?」
「う、うん……? 万智子は、怜二が好きだということを隠すつもりがあったのかい? 何年も前から、お前、怜二が店にいると、ぼーっと怜二ばかり目で追っているじゃないか。ふだんは商品の着物ばっかり見ているくせにさぁ。一人娘のお前を愛してやまないお父様からすると、怜二は恋敵みたいなものだからね。すぐ気づいたとも」
「お、お父様が気づいていらっしゃるなんて……。お仕事以外ではにぶいって、お母様にいつも怒られているお父様にまで、明らかだなんて……。ま、まさか、怜二さんも、お気づきなのですか? わたくしが、その、怜二さんをお慕いしているということを……」
高田はすっかり慌てて、ハンカチを胸の前で握りしめ、頬を真っ赤にして、父に問う。
そんな娘のかわいらしい姿に、高田の父ははやくも花嫁の父のような複雑な気持ちになる。
「うーん、万智子。その質問には、ほんとうのことを答えていいのかい? それとも、お前が望む答えを言うべきかな……?」
とぼけた表情で尋ねる父に、高田はうるうると瞳をうるませた。
「お父様、いじわるをおっしゃらないでくださいませ……! ほんとうのことを教えてください……」
できれば、否と答えてほしい。
けれど父がどう答えようと、真実は変わらないわけで。
高田は、泣きそうになりながら、父に答えた。
すると父は、困ったように眉を八の字にして答える。
「だったら言うけど……。まぁ、怜二も気づいているよね。だからあいつ、万智子の前では口が悪いだろう? まぁ、もともとあいつは口は悪いけど、女性には親切で愛想がいいのに、万智子の前でだけ口が悪いのは、お前の気持ちを自分から遠ざけようとしてのことだと思うよ」
「つ、つまり……。怜二さんは、わたくしのことを……」
高田は、父の言葉を咀嚼するのを拒否したかった。
自分の恋が、父だけでなく、ひそかに想っているつもりだった相手にまで気づかれていたこと。
そして相手は、自分に嫌われようとしていたこと。
知りたくなかった事実が、つぎつぎに明らかになる。
いつも自分にそっけない怜二に好かれているとは思っていなかったが、まさか積極的に距離をとろうとされていたとも思っていなかった。
自分の前では口が悪いのも、男性の仕事仲間に対する態度に似ていたので、気を許してくれているのだとばかり思っていたのだ。
けれど、父の話を聞くと、怜二は高田のことを嫌い、みたいで……。
高田は、続きを口にすることができなかった。
つぅっと涙が目からこぼれる。
父は、そんな高田を困ったように見る。
そして、言った。
「お前のことをというより、女性と深い仲になることを拒んでいるんだろう。お前も、怜二の事情は知っているな? だから、まぁ、お前とは特に恋仲になろうとは思わないだろうが……。あれは、いい男だ。経営者としても、娘の夫としても有望だと思う。お前もあいつのことをずっと好きなようだし、もしお前にやる気があるのなら、怜二にお前との結婚を了承させなさい。もし怜二が諾といえば、お前と結婚させて、怜二をこの店の跡継ぎにしようと思うんだよ」
女学校から帰って、まったりと緑茶を飲んでいた高田は、とつぜん父にそう言われて、あやうくお茶を口から噴き出してしまいそうになった。
「くふ……っ」
居間にはのほほんと本を読んでいた父と高田のふたりきりだったが、さすがに父の前でも、お茶を口からこぼすようなはしたない真似はしたくない。
高田は動揺する心を抑えて、口にふくんだお茶を必死で飲み干す。
そして、口元をハンカチで押さえて、首をかしげた。
「お父様、いま、なんとおっしゃいましたの?」
聞き間違いであってほしいと思いながら、高田は尋ねた。
そんな高田の様子を、父はおもしろそうに観察していた。
そして、へろりと笑って、言う。
「うん? だからね、万智子。うちの手代の柏木怜二とお前が、恋仲になればいいなぁと思うんだが。万智子は、怜二が好きだろう?」
あたりまえのように父親に片想いを言い当てられて、高田は「ひぅっ」と悲鳴をあげた。
「な、な、な、なぜ! お父様が、そのことをご存知ですの……っ?」
「う、うん……? 万智子は、怜二が好きだということを隠すつもりがあったのかい? 何年も前から、お前、怜二が店にいると、ぼーっと怜二ばかり目で追っているじゃないか。ふだんは商品の着物ばっかり見ているくせにさぁ。一人娘のお前を愛してやまないお父様からすると、怜二は恋敵みたいなものだからね。すぐ気づいたとも」
「お、お父様が気づいていらっしゃるなんて……。お仕事以外ではにぶいって、お母様にいつも怒られているお父様にまで、明らかだなんて……。ま、まさか、怜二さんも、お気づきなのですか? わたくしが、その、怜二さんをお慕いしているということを……」
高田はすっかり慌てて、ハンカチを胸の前で握りしめ、頬を真っ赤にして、父に問う。
そんな娘のかわいらしい姿に、高田の父ははやくも花嫁の父のような複雑な気持ちになる。
「うーん、万智子。その質問には、ほんとうのことを答えていいのかい? それとも、お前が望む答えを言うべきかな……?」
とぼけた表情で尋ねる父に、高田はうるうると瞳をうるませた。
「お父様、いじわるをおっしゃらないでくださいませ……! ほんとうのことを教えてください……」
できれば、否と答えてほしい。
けれど父がどう答えようと、真実は変わらないわけで。
高田は、泣きそうになりながら、父に答えた。
すると父は、困ったように眉を八の字にして答える。
「だったら言うけど……。まぁ、怜二も気づいているよね。だからあいつ、万智子の前では口が悪いだろう? まぁ、もともとあいつは口は悪いけど、女性には親切で愛想がいいのに、万智子の前でだけ口が悪いのは、お前の気持ちを自分から遠ざけようとしてのことだと思うよ」
「つ、つまり……。怜二さんは、わたくしのことを……」
高田は、父の言葉を咀嚼するのを拒否したかった。
自分の恋が、父だけでなく、ひそかに想っているつもりだった相手にまで気づかれていたこと。
そして相手は、自分に嫌われようとしていたこと。
知りたくなかった事実が、つぎつぎに明らかになる。
いつも自分にそっけない怜二に好かれているとは思っていなかったが、まさか積極的に距離をとろうとされていたとも思っていなかった。
自分の前では口が悪いのも、男性の仕事仲間に対する態度に似ていたので、気を許してくれているのだとばかり思っていたのだ。
けれど、父の話を聞くと、怜二は高田のことを嫌い、みたいで……。
高田は、続きを口にすることができなかった。
つぅっと涙が目からこぼれる。
父は、そんな高田を困ったように見る。
そして、言った。
「お前のことをというより、女性と深い仲になることを拒んでいるんだろう。お前も、怜二の事情は知っているな? だから、まぁ、お前とは特に恋仲になろうとは思わないだろうが……。あれは、いい男だ。経営者としても、娘の夫としても有望だと思う。お前もあいつのことをずっと好きなようだし、もしお前にやる気があるのなら、怜二にお前との結婚を了承させなさい。もし怜二が諾といえば、お前と結婚させて、怜二をこの店の跡継ぎにしようと思うんだよ」
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