虐げられた無能の姉は、あやかし統領に溺愛されています

木村 真理

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番外編(高田の話)

「貴女を愛することはない」という年上の次期番頭に玉砕覚悟で告白したら、溺愛されています……? -8

 高田の胸は、ぎゅっと痛んだ。
「貴女のことを愛することはない」、そうはっきりと言われることは、何度も予想していた。
それは、罵倒されたり嫌悪されたりするよりは比較的良い予想だった。

 けれども、実際に好きな人に「愛することはない」と言われれば、心は悲鳴をあげる。

(わたくしでは、怜二に愛されることはない……)

 わかっていた、はずだった。
怜二にはもっと美人だったり、才知あふれる女性がお似合いだとも思っていた。 
けれどすこしだけ、期待もあった。

 怜二は、高田には他の女性には見せない辛辣な顔もみせてくれるし、乱暴な言葉も、怜二の親しい相手と同じ扱いだったから、そのぶん自分は他の女性より怜二と親しいのだと思っていた。
 だから、すこしは、怜二も高田のことを好きでいてくれるのではないか、と。
そういうほのかな期待もあったのだと、高田は怜二の言葉で期待を打ち砕かれながら、自覚した。

 目に涙があふれるのを、高田は感じた。
そっと袖でぬぐい、なにげない顔でそれをなかったことにする。

 まだ勝負の舞台からおりるわけにはいかない。
いま、ここで引くわけにはいかない。

「怜二は、わたくしのことを愛さずともかまいません」

 高田は痛む心にふたをして、きっぱりと言った。
怜二の顔が、驚きに染まる。
その目に、高田はどれほど無様に見えているのだろうと思う。
それでも。

「怜二がわたくしを愛せない分も、わたくしが怜二を愛します。けっして貴方に迷惑はかけません」

「迷惑……」

「はい。怜二がお仕事に打ち込みたいときは邪魔しません。会食などでお帰りが遅くなっても、泣き言を言ったりしません。一緒に出席すべき会合には一緒に出席いたしますし、家でパーティや茶会、会合を開く準備をするのも慣れたものです。友人にも恵まれておりますから根回しや調べものもできますし、この家で過ごされれば食事や生活に困ることがなくなるだけでなく、日々価値の高いものに囲まれて暮らせますので、美意識も磨かれます」

 高田は、父があげてくれた自分との結婚で得られるはずのものをつぎつぎに列挙する。

「それから……」

「待った」

 高田がなおも続けようとすると、怜二は高田を制止した。

「なんでだ? お嬢様ほどの女なら、いいとこの坊ちゃんとだって結婚できるはずです。この家の商売も込みでなら、お貴族様の次男坊、三男坊だってよりどりみどりじゃないですか。それなのに、どうして俺に求婚? 俺はただのこの店の手代で、財産も後ろ盾になるような家もないんですよ? まさかこの顔の皮いちまいに、そこまでの高値をつけたわけじゃないんでしょう?」

 怜二の言葉遣いが、ところどころ常よりも荒い。
それは、怜二の動揺をしめしているようで、高田はいまが好機だと感じた。

 どきどきと大きな音をたてる心臓。
でも言うべき言葉に、迷いはない。

「なぜって。先ほどもお伝えしたではありませんか。わたくしは貴方をお慕いしています、と」

「だから、それがなんでだよって言ってるんだよ!」

「ひとつひとつ、挙げていかなくては納得できないのですか? でしたら、お話いたします。そうですね、まずは先ほど指摘されていたお顔からがいいでしょうか。そのお顔に高値をつけた、なるほどそれもひとつの理由です。わたくしは怜二のそのお顔が好きです。すっきりと整って、冷たくさえ見えるお顔。鼻筋がすっと通って、唇がうすいところも、賢そうですけれど酷薄そうでもあって。貴方に熱を上げているお客様が、貴方のことを今人気の小説『氷の貴公子様』の貴公子様そっくりだとおっしゃっていたのも全面的に同意ですわ。怜悧な美形は、全人類の宝です。それに、目じりの黒子も、色気があって素敵だと思います」

「……は?」

 怜二は、高田がひるみもせず怜二の好きなところを挙げるとは思いもしなかったのだろう。
滔々と話し始めた高田に、驚いて目を見張る。

「そして、そのお顔! ふだんは冷たい雰囲気のくせに、時折お見せになる素の表情のかわいらしさ。絵に描いて残しておきたい尊さです。あとはもちろん、商売の腕や、仕事への情熱も、とても素敵だと思っています。お客様のお買い物やなにげない言葉から、お客様自身がお気づきでなかった必要なものや欲しいものをご用意できる観察眼。それを可能にする知識量。商品だけでなく、世界の政治や経済、風土や風習などまで貪欲に学び、じゅうぶんに知識の準備をしているところも素敵ですし、それを周囲の手代や丁稚にも教えるという寛容さも素敵です。それから」

「待て。いや、ほんと待て。なんでそんな急に饒舌……? いや、万智子お嬢様は、好きな着物の話をしている時はだいたいいつもそんな感じだ、が……」

 息継ぎもせず、怜二の好きなところを話し続ける高田に、怜二は混乱しているようだ。
高田を見る目つきは、じゃっかん引いているようだが、目元がほんのりと赤い。

(いける……! かも、しれない)

 高田は、このわずかな好機を失ってたまるものかと、気合をいれて、口を開こうとした。
だが。

 怜二は、自分で言いかけた言葉で、ようやく高田が自分のことを、好きなのだと実感した。
お嬢様が顔のいい年上の男にふらっときたという、一種の通過儀礼のような幼い恋ではなく、わりと重々しく自分を慕ってくれているのだと、気づいた。

「嘘だろ……」

 裕福で伝統と格式のある店つきの一人娘が、自分のことを心から慕っている?

 そんな都合のいい夢は、怜二は以前の婚約者と出会ってそうそうにおとぎ話だと諦めていた。
自分の人生に、そんなあまいことはないのだと、胆に銘じたはずだった。

 だが。
目の前には、恥ずかしさに目をうるませながらも、一途に自分への想いを告げる娘がいる。
そしてわずかにくちびるをとがらせて、怜二に言う。

「あの、怜二の好きなところの続きをお話してもよいでしょうか」


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